懐かしの西部劇=「リオ・ブラボーRIO BRAVO」VS.「真昼の決闘HIGH NOON」 -私の映画史(22)-
「真昼の決闘 High Noon」(1952年)のアンチテーゼ作品として作られた
「リオ・ブラボーRIO BRAVO」(1959年)
~相対する西部の町の保安官ものの二作品~
「リオ・ブラボー」 (RIO BRAVO)1959
U.S.A. ワーナー・ブラザーズ
監督 Howard Hawks
脚本 Jules Furthman, Leigh Brackett
原作 B.H.McCampbell
音楽 Dimitri Tiomkin
出演 John Wayne
Dean Martin
Ricky Nelson
Walter Brennan
Ward Bond
名匠ハワード・ホークスと偉大なるスター・ジョン・ウェインが、あの名作と言われる「真昼の決闘」のゲイリー・クーパー演ずる保安官に不満を抱き、7年後に作成した西部劇「リオ・ブラボー」、これには本物の保安官の姿と本物の娯楽西部劇を描ききった。
そもそも、歴史的に西部の町においての保安官というのは、無法者に相対する事が多い為に、拳銃使いがその任に選ばれた。つまり拳銃使いというのは、所謂無宿者に近い、まあヤクザといっていいものに近いタイプで一般町民とは異なる。それが治安を維持するために銃を使って統治する役を町の人達から任命され雇われたのだ。
「真昼の決闘」 (HIGH NOON)1952=U.S.A. ユナイテッド・アーティスツ 監督 Fred Zinnemann、出演 Gary Cooper, Grace Kelly
人気のゲイリー・クーパー主演で、緊迫感があって評判の映画だったが・・・・。(主題歌”ハイヌーン”もヒット)
ところが、この映画のクーパー扮する保安官は、出獄して来たならず者と相対するに当たって、かたぎの町民に助っ人を頼むことから始まる。しかし銃による闘いが起きる可能性がある場合は、常識的には保安官というのは、一般のかたぎの町人に助けを求めると言うことはしない。つまりかたぎの者を巻き添えにすることは論外あるのだ。にも関わらずこの映画では、町民全てに断られ孤立する保安官を描くのだが、実はそれは当然のことであるのだ。そして助っ人役を断った町民の姿をネガティブな人間の姿として描くこの映画は、とにかく非常に暗く人間不信を植え付ける。決闘後、町を去る保安官は、厳しく不信の目を町民に向ける。
こんな姿には、特にハワード・ホークスは全く納得出来ないものであったのだ。
つまりそれは映画を観る者が主人公の保安官に同情させる為の手法であったのかも知れないが、西部の純朴な開拓民を知るものにとっては、更にそれを描く西部劇を愛する人達とっては、とても容認出来るものでなかっのだった。又この映画は人間のネガティブな姿を描くことに終始している。これも又西部劇を描いてきたハワード・ホークスとジョン・ウェインから言わせると否定的なのである (映画「赤い河」参照http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/red-river-2c35.html )。
■さてここで「リオ・ブラボー」の話に戻るが・・・・・・・
ウェイン扮する保安官は、 ならず者と相対する時に、助けが一人でも欲しいのだが、助っ人を申し出た町民やかたぎの者にはそれを断り、事件に関係を持たないように指導する。一方、こうした拳銃による闘いが行われようとしている時には、拳銃使いの無宿者やヤクザ者ならば助っ人として採用する。そこに両映画に描かれる保安官の姿は、基本的に全く姿勢が違うのである。
つまりかたぎの町民は関係させない。拳銃による闘いというのはそうしたヤクザ者の世界であるのだ。そしてその闘いが多勢に無勢で不利そのものであって、その任務には恐れや不安があるのだが、そのそ振りを見せないように努める。そして実際には町民は無知ではなく、そのような保安官の姿を見た人達が自然に助ける方向に向いてくる。ハワード・ホークスはそんな人間を信じてのつまり”ポジティブの姿”を重要視しているのだ(映画「赤い河」も同じ)。
それから「真昼の決闘」では究極は”男女の関係”のみが頼みとして描かれ、男同士の人間関係に実るものが描かれていない。それに対する「リオ・ブラボー」は、男女の関係以上に難しい”男と男がどのようにして結びついて行くか”を描くところにその価値観を持つのである。
ジョン・ウェインの演ずる保安官と片足不自由な老兵スタンピー(ウォルター・ブレナン)、アル中の保安官助手デュード(ディーン・マーチン)、早撃ちの若者コロラド(リッキー・ネルソン)のこの4人の男の次第に強まる結びつきが、実に人間的なのである。西部劇であるから当然”銃による闘いの見せ場”はちゃんと盛り込んではいるが、実はこの映画はそこにみる男同士の繋がりの美しさに感動が生まれるところが傑作と言われるところなのだ。
3人のならず者に銃を向けられ、銃を持っていないジョン・ウェインにリッキー・ネルソンは左手でライフルを投げ渡し右手で発砲、両者で3人に撃ち勝つこのシーンは、西部劇の醍醐味だった(このシーンはスローで見ても、ライフルを受け取ったと同時に発砲しているジョン・ウェインはお見事)
又ウォルター・ブレナン演ずるじいさん(これが良い味を出している)が、ジョン・ウェインの尻を箒で打つシーンは、過去に無かった男同士の心の繋がりが見事に描かれている。
この映画に盛り込まれた「男の関係」は、ユーモアを交えながら人間味の豊かさを描ききって見事と言わざるを得ない。又西部劇というものの娯楽性にも十分配慮され、男女の話も交えて、その楽しさもしっかりと描く。
Dimitri Tiomkinの音楽が又素晴らしい。”ライフルと愛馬”、”皆殺しの歌”、”リオ・ブラボー”と当時ヒットを飛ばした(「真昼の決闘」の主題曲”ハイヌーン”もDimitri Tiomkin)。
究極は”人間とは信じられるもの”として描き、それを尊重した西部劇に十分なる娯楽性を盛り込んで、見せ場も豊富に描き込んでの映画として、傑作西部劇として今も愛されている(参考:ジョン・フォード監督、ジョン・ウェイン主演の「駅馬車」も、西部の純朴な人間像を描いている)。
<ハワード・ホークスHoward Hawks (1896-1977)>
アメリカ・インディアナ州生まれ、生家はセレブ。大学は機械工学を学ぶ。夏休みのバイトで映画会社に関係、舞台装置や助監督、美術部門に。第一次世界大戦・空軍入隊。22年映画の脚本家契約。26年フォックス社で「栄光の道」で監督デビュー。男の友情や闘いのテーマの作品が多い。34年初の西部劇「奇傑パンチョ」。戦後の「赤い河」(48)がヒット。その後ジョン・ウェインとのコンビで「リオ・ブラボー」など。
(映画「リオ・ブラボー」)
* *
(映画「真昼の決闘」)
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コメント
中学生の頃観たときには、ディーンマーチンが歌手だとは知りませんでした。大人になって再度観たときに知りました。「ライフルと愛馬」の曲を聞きたくて、ディーンマーチンのCDを買いました。いまでも、時々聴いています。今年一年、楽しませていただき、ありがとうございました。どうぞ良いお年をお迎え下さい。
投稿: 水戸老公 | 2015年12月30日 (水) 13時34分
親愛なる風呂井戸様
今年1年興味深い記事を拝見させていただき、誠にありがとうございました。貴方の幅広く、造詣の深い音楽や演劇、写真等の芸術に関する数々の内容については、教えられることが多くて大変勉強になりました。
来年もご活躍されることを願っております。それでは、良いお年をお迎えください。
〔追伸〕西部劇は子どもの頃よく見ましたが、フランコ・ネロやジュリアーノ・ジェンマよりは、なぜかリー・ヴァン・クリーフに憧れていました。
投稿: プロフェッサー・ケイ | 2015年12月30日 (水) 17時12分
水戸老公 様
「ライフルと愛馬」よかったですね。当時はまだ映画音楽が最盛期で、ポピュラー・ミュージックのヒットものは、殆ど映画音楽でした。ディーン・マーチンは歌手であると同時にコメディー映画も得意でした。
当時は私はまだ夢の多い世代で、映画というのはその中の1幕でもありましたね。
今年もあっという一年でしたが、なんとか無事過ごしてきました。来年もよろしくお願いします。最後に、水戸老公様にとって来る年もご多幸の年でありますよう祈念申し上げます。
投稿: 風呂井戸 | 2015年12月30日 (水) 21時02分
プロフェッサー・ケイ様
こちらこそ、いろいろと教えて頂いて有り難うございました。来年はどのように発展していくか楽しみにしております。
私は若い頃は、映画は西部劇と時代劇ばっかりの中心の鑑賞歴で、その他は時に評判ものを見た程度です。
リー・ヴァン・クリーフですか、彼はこの「真昼の決闘」でデビューです。65年以降はイタリアのマカロニ・ウェスタンに「夕陽のガンマン」から活躍でしたね。
又来年もよろしくお願いします。ケイさんのご活躍とご多幸を祈念いたします。
投稿: 風呂井戸 | 2015年12月30日 (水) 21時15分