ロジャー・ウォーターズRoger Waters 映像盤 : 「ROGER WATERS THE WALL」
映画として仕上げたロック・ライブ・ショー「THE WALL」
~やはりここにも反戦の姿が~
<Progressive Rock>
Roger Waters 「ROGER WATERS THE WALL」
UNIVERSAL / 61174998 / 2015
製作 Roger Waters
監督 Roger Waters & Sesan Evans
脚本 Roger Waters & Sesan Evans
Director of photography Brett Turbull
United Kungdom / 133 minutes
いよいよ出ましたね、先般世界規模で一斉公開した映画版”ロジャー・ウォーターズの「THE WALL-LIVE」”ここにきてBlu-Ray盤での登場。「THE WALL」の映画としては1982年アラン・パーカー監督ものが懐かしいところ。(参照:「Pin Floyd THE WALL」 http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2010/06/pink-floyd-the-.html )
とにかく舞台装置が大きすぎてのライブであったため、なんと1年間かけてじっくり世界のポイントを回る予定のツアーが、その成功が思った以上で、2010-2013年の足かけ4年間に渡る過去に例のない大ツアーとなってしまったもの。その結果、4大陸にわたって3年間で219公演450万人以上のファンを動員し、ソロ・アーティストとしては歴代最高の興行収益を記録した。しかしとにかくステージ作りの資材・機器と、その運搬費用、更に技術スタッフの費用が莫大で、収益という点ではウォーターズは大きくは期待していなかったようだ。
音楽史上最も成功したツアーのひとつでもあると言われているが、これはむしろウォーターズが資材を投げ打って世界に彼の存在をアッピールした生涯をここに賭けての彼自身の最大の行事であった(残念ながら日本公演なし)。
(メンバー)
ボーカル・ギター・ベース: ロジャー・ウォーターズ
ギター: デイブ・キルミンスター
ギター: スノーウィ・ホワイト
ギター: G.E.スミス
キーボード: ジョン・カーリン
ハモンドオルガン・ピアノ: ハリー・ウォーターズ
ドラム: グラハム・ブロード
ボーカル: ロビー・ワイコフ
バックボーカル: ジョン・ジョイス、パット・レノン、マーク・レノン、キップ・レノン
これは映画版の『ロジャー・ウォーターズ ザ・ウォール』であって、史上最大のスケールの「The Wall Live ツアー」の様子を収録しての制作ではあるが、ウォーターズの父親が1944年にイタリアで戦死して眠る墓地の場所へ、さらにはなんと祖父もその父親が2歳の時にやはり戦死していることが明かされ、その為その埋葬地をも訪れ、そこにウォーターズは息子Harry Watersと娘India Waters等と訪れるシーンも描かれる。そんなロードムービー的な映像を盛り込んでいる。
それは彼の人生の中でも最もネガティブな因子、それは戦争というモノによって及ぼされた父親の存在を失った事。そして幼少期から若きロッカーとしての活動期の精神的負担をによっての不安定な人間の側面を吐露し、それを歌い上げたピンク・フロイド時代のアルバム『THE WALL』(1979年リリース)を全曲演じて、これを通じて自己の人生の負の根幹に一つのけじめを付ける旅を描いているのだ。
特に父Eric Flecher Watersと母に抱かれている赤子のロジャーの一緒に撮られた写真は印象深く、その直後に父は出征し第二次世界大戦の激戦地イタリアのアンツィオで戦死し、激戦地で有名なMonteCassinoにある墓地に埋葬されている。
この作品のコンセプトとして、”戦争や紛争というものによる多くの犠牲を被る人間の悲惨さ”を描いた反戦の要素を描こうと試みているところが重要だ。
さてこの映画は、2014年トロント映画祭でプレミア公開され話題を呼んだものであり、それに加え今年2015年9月に一夜限りの企画として全世界中の映画館で統一してプレミア上映され、結果的に何十万人ものファンを動員することとなったものである。
そもそもこのアルバム『THE WALL』の占める位置は・・・・・・・・、
1977年、ロックというミュージックの転換期に、ピンク・フロイド時代のロジャー・ウォーターズは、社会批判とミュージック・パターンのよりアグレッシブな方向への転換を試みたアルバム『アニマルズANIMALS』を作成した。しかしそのツアーでは圧倒的な支持を得ながらも、そこに集まった観衆の騒ぎとも言える状況を見るに付け、自己の精神性との隔たりに嫌気がさし、次回はステージに”壁”を築き上げ観衆と隔離した状況で演奏しようというなんとも前代未聞の大胆な発想を持って、それから生まれたアルバムであり、そこに彼は自己の人生の父親不在の悲惨な部分、幼少期の社会からの逃避、疎外感、教育のマイナス部分、そして成人した後の負の部分を背負った自己の生活の破綻を暴露し歌い上げ、社会に訴えたものである。
(参照)「アニマルズ」http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/pink-floyd-1729.html
アルバム『THE WALL』リリース後、1980年から1981年に行われたツアーは、圧倒的支持を得ながらも壮大な仕掛けを用いた過去に無い大がかりのツアーであったことと、スケールが大きすぎたため、その費用が莫大となり収支マイナス、多大な借金を背負うことになり4都市31公演にとどまった。
しかしロジャー・ウォーターズの『ザ・ウォール』の再演は常に秘めたる”志”であって、2回目は、1990年7月21日、有名ミュージシャン達が集結し、西ドイツと東ドイツを隔てていたベルリンの壁の崩壊直後の跡地ポツダム広場で、災害救済記念基金チャリティー・コンサートとして開催。20万人を集めて世界的話題になった(Roger Waters 「THE WALL-Live in Berlin」)。
そして最初のツアーから30年後(2010年~2013年)に、3回目としてウォーターズにより企画されたのが今回の世界ツアーだ。
(参照)第一回「ウォール・ツアー」http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/the-wall-359e.html
「ベルリン・ウォール・ライブ」http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/the-wall-12cc.html
さて、この映画『ROGER WATERS THE WALL』のBlu-ray発売で、かってのピンク・フロイドやロジャー・ウォーターズのファン以外の世界中の者にも、この「THE WALL」というものの凄さを見せることが可能になったのではないか?。一方、評論家たちが「目を見張るばかり」「素晴らしい映像」と形容したと言っているが、この映画は、やはり4K技術での撮影という最新技術を投入していて確かに美しく圧巻。更にロード・ムービーに描かれる自然の風景もその詩情性に惹かれるところであった。
又ライブ会場のスケールの大きさと、舞台の構成、投影される映像とサウンドの高技術と精度の高さ、見事な総合芸術であった。私から見るとロック・ライブと言うよりは、ジャンルを超えたミュージック・ショーと行った方が良いと思う。
そしてそこにあるウォーターズ独特の圧倒的ロック・サウンド、人間性に迫る内容と反戦的物語が観る者をして圧倒する(左の”A THEFT”が印象的)。特にウォーターズ自身の内面的に傷ついている人間像を露呈しているところに更に感動を呼ぶ因子を抱えているのである。
残るはやや残念なところは、ミュージシャンの演奏姿に十分な時間が割かれていないところだ。つまりステージ・ロック・ライブ映像を目的にしていないところのマイナス部分である。まあそこまで要求も酷かも知れないが、私的には三人のギター演奏、ジョン・カーリン、ハリー・ウォーターズの演奏姿など、もう少しじっくり観たいという欲求もあるのだが・・・・、しかしそれは過去の多くのブートで観てきたところで、今回のこれにはあまり要求しないことにする。
(視聴)
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コメント
やはり来ましたね♪
さすがに読み応えのある内容で思いの深さが感じられる記事で楽しませてもらいました。
この一大スペクタルはホント、一般への門戸を開いた感じですね。ただ、皆ホントにこれ全部聴けるの?ってやっぱり思っちゃうんですが…(笑)
いずれにせよ、当分この迫力を楽しみます。
投稿: フレ | 2015年12月 5日 (土) 22時03分
風呂井戸さんこんにちは.
国内版は2月発売のようですね、ボクは英語に疎いので国内版を予約しておきました.
それにしてもアルバム発売から30年以上も経っているというのに ・・・・・
そしてそれを拍手して迎える超ディープなファンがたくさんいるというのが・・・・・・・
Pink Floyd たる所以なのでしょうか.
投稿: la_belle_epoque | 2015年12月 6日 (日) 08時40分
フレさん、コメントどうも有り難うございます(TBもどうも)。
おっしゃるように、このステージにせよ、ロードムービー映像が、どこまで”ウォーターズの思い”として受け入れられていくかは、過去の彼のピンク・フロイドそしてソロ時代のものの世界を知っていての結果が大きく影響するだろうと思います。それでもウォーターズは、彼に流れている”思い”は何時の時代にも通ずることを更に確信したというところでしょうね。
それにしても、このステージは圧巻でした。ただそれだけでも良いのかも・・・・と、ステージでの彼の姿は全て記憶されていても又見れることを喜び、そして又見てしまうと言う私のような人間は、それ以上言うことも無いのです(笑)。
投稿: 風呂井戸 | 2015年12月 6日 (日) 10時19分
la_belle_epoque さん、コメントどうも有り難うございます。
こうゆうのを観ると、ジャズとは違った”社会への訴え”のロック魂に圧倒されます。イッヤー、ロックは良いですね。これもミュージックなんですね。そして観衆は高齢者が多いかと思いきや、若いのが多いのにも驚きます。ほんとにウォーターズのロックは時代を超えています。更に内容も緩急、静と動、音量の多彩さ、曲の多彩さ(まさに最後はオペラですね)は飽きさせません(ジャズでは、やや似た意味でのジョヴァンニ・ミラバッシの抵抗の美学「AVANTI!」は、私の最愛のモノですが)。
おっしゃるように国内盤は2月なんですね、この輸入盤も日本語を選択出来ますが、かなり粗雑な添え物程度ですので、待つのも意味があるかも知れません。とにかく映像も見事で、Blu-Ray盤の50BGに迫る記録量で凄いです。大スクリーンに投影して観る価値があります。
投稿: 風呂井戸 | 2015年12月 6日 (日) 10時40分