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2016年2月13日 (土)

トルド・グスタフセンTord Gustavsen 変則トリオの最新作品「What was said」

スーフィズムとキリスト教の出逢いなのか
~今作はジャズ・ファン万人向けでないことは事実、しかしグスタフセン・ファンは必聴盤

<Jazz  Traditional>
    Tord Gustavsen, Simin Tander, Jarle Vespestad
             「What was said」
       ECM Records /  Jermany / ECM 2465 4758697 / 2016

Whatwassaid
Tord Gustavsen ( piano, electronics,synth bass) Simin Tander (voice) Jarle Vespestad (drums)
Recorded April 13-15, 2015 at Rainbow Studio, Oslo

(Tracklist)
1. Your Grief *
2. I See You
3. Imagine The Fog Disappearing
4. A Castle In Heaven
5. Journey Of Life
6. I Refuse *
7. What Was Said To the Rose * - O Sacred Head
8. The Way You Play My Heart *
9. Rull *
10. The Source Of Now *
11. Sweet Melting
12. Longing To Praise Thee
13. Sweet Melting Afterglow *
           (*印 Music : Tord Gustavsen)

A_2 期待のノルウェーのジャズ・ピアニストであるトルド・グスタフセンTord Gustavsenのニュー・アルバム。今作もECM盤だ。ノルウェーのトラッド音楽を、彼の世界で描いた作品と言われているが、上のリストにも記したように、彼の曲が半分以上を占めている。しかしその他の曲は主としてノルウェーのトラッド(賛美歌)が中心だが、彼が子供の頃から歌ってきたものだという。

 変則トリオと言ってはみたが、それはまさにその通りで、ドイツで活躍している女性ヴォーカリストのアフガンでありジャーマンのシミン・タンデルSimin Tander が見事に歌い上げるが、これはヴォーカル・アルバムではない。ヤーレ・ヴェスペスタJarle Vespestad のドラムスと、彼女のヴォーカルとそしてグスタフセンのピアノが演ずるトリオ演奏といってよいものだ。

B しかし、ここで歌われる言語はパシュトー語と英語、このパシュトー語というのは、アフガニスタンやパキスタンの主要言語でペルシャ語と同じ系列らしい。ヴォーカルのシミンとの関係か?、ペルシャという異国文化への神秘性への一つの演出か?ノルウェーの言葉をパシュトー語で歌うのである。アフガン詩人の力を借りての作業であったようだが、これが又一種独特の世界を構築するに貢献していて、いやはや異国情緒とその神秘性とはたまた現実から超越した世界を描くのである。
 それには彼女の技量と個性の声の質(ややハスキーで高音になるにつれ澄んでくる)がそれを更に盛り上げているのだが、これには彼女はグスタフセンの招請によったものであったのだろうか。

 もともと心理学を学んだグスタフセンらしく、そのピアノ演奏も今までのものに輪をかけて深層心理の探求の道に誘いこむ。全編そんな曲の出来なのである。

C グスタフセン自身に言わせると「スーフィズムとキリスト教が実際に出会ったような境地にまで達した」とのことだ。スーフィズムとはイスラーム教の神秘主義哲学の事だが、このあたりは日本人の宗教感覚ではなかなか理解も難しい。聴いていてなんとなくそうゆう世界なのかと、あらためて知るのである。
 これをジャズと言って良いのか?・・・でもジャズなんでしょうね。往年のトリオ・メンバーのヴェスペスタは心得たもので、グスタフセンのピアノ、シミンのヴォーカルを手玉に取ったようにドラムスを曲の深まりにひっぱり込むが如く叩くのである。

 しかしこのアルバムは、私の待ちに待った期待のグスタフセンの新作とは異なったものであった。それはそろそろ本来のピアノ・ベース・ドラムスのトリオ作品を望んでいたのであったが、まだまだ彼の挑戦的探究心は続いているようだ。しかしこの異色トリオ作品は、意外中の意外であったにしては、お見事な作品で、心が洗われるが如く聴き入ってしまうのである。

 しかしこれはジャズ・ファン万人向きでは無い。しかしグスタフセンのファンなら多分持っていたい一枚になるであろうことは想像に難くない。
 おそらく、Manfred Eicher自身も会心作と思っているに相違ない。

(参考)スーフィズム Sufism
 イスラーム教の広がりとともに生まれた神との一体感を求める民衆的な信仰。
 イスラーム教の拡張とともに8世紀の中頃にはじまり、9世紀に流行した、踊りや神への賛美を唱えることで神との一体感を求める信仰形態および思想を神秘主義またはスーフィズムという。スーフィズムは、修行者が贖罪と懺悔の徴として羊毛の粗衣(スーフ)を身にまとって禁欲と苦行の中に生きていたスーフィーから来た言葉であると考えられている。その思想は、自我の意識を脱却して神と一体となることを説き、形式的なイスラーム法の遵守を主張するウラマーの律法主義を批判することとなり、より感覚的で分かりやすいその教えは都市の職人層や農民にも受け容れられていった。(「世界史の窓」より)

(視聴) 「What was said」

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コメント

早速、ブログアップですね!
私も、普通のピアノトリオを望んでいたのですが、これはすっごく良い意味で裏切られました。本当に良かったです。

鬼門と思われたSimin Tander がすばらしすぎで、しかも仰るようにヴォーカルアルバムとも違って三位一体な部分もありましたよね。
すんごく素敵な世界です。わたしも知らないとソンだとおもいます!

投稿: Suzuck | 2016年2月13日 (土) 12時28分

風呂井戸さん,こんにちは。TBありがとうございました。

このアルバム,風呂井戸のおっしゃる通り,「意外中の意外であったにしては、お見事な作品で、心が洗われるが如く聴き入ってしまう」ものだったと思います。まさに見事な美学の発露。私も通常のピアノ・トリオ編成を期待していましたが,いい意味で「裏切られました」。そして見事にその世界に引きずり込まれた私です。

ということで,こちらからもTBさせて頂きます。

投稿: 中年音楽狂 | 2016年2月13日 (土) 15時23分

Suzuckさん、コメントどうも有り難うございます。
 やっぱりそうでしたか、そうですよね・・・そろそろ所謂普通のピアノ・ベース・ドラムスのピアノ・トリオが聴きたいですよね。
 今回のアルバムは聴く前は若干がっかりしていたんですが、Suzuckさんのブログで刺激を受けて、それによって早速聴きました。トルド・グスタフセン・ファンとしてはやっぱり感動の世界でした。
 しかしグスタフセンは、まだまだ何かを求めて試行錯誤しながも頑張っているようですね。

投稿: 風呂井戸 | 2016年2月13日 (土) 19時39分

 中年音楽狂さん、コメント、TB有り難うございます。
 グスタフセンは、今回は、所謂一般的ピアノ・トリオもので無かったため、すぐ飛びつかなかったんですが、Suzuckさんや中年音楽狂さんに刺激されての結果で、やはり手に入れて良かったです。彼の作品は何時も思いますが奥が深いですね。Manfred Eicherの感想も聞きたいです。
 そうそう、それとそろそろ来日を期待したいですね。

投稿: 風呂井戸 | 2016年2月13日 (土) 19時47分

実際のところちょと躊躇しています。

投稿: 爵士 | 2016年2月13日 (土) 23時19分

爵士さん、このトリオですからね。
 ちょっと躊躇されるのは解ります。私もそうでした。しかしグスタフセン・ファンならやっぱり聴くべきでしょうね。・・・と、思います。

投稿: 風呂井戸 | 2016年2月14日 (日) 00時03分

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