イタリアン・ロックの軌跡(8) カテリーナ・カセッリ「PRIMAVERA組曲"春"」
まさに音の洪水の世界~夢と美しさと限りなく響く哀愁と・・・・
<Progressive Rock, Italian Love Rock>
CATERINA CASELLI「PRIMAVERA 組曲「春」」
CGD / 69071 / 1974
King Records (CRIME) / JPN / 292E 2029 / 1989
とにかくイタリアン・プログレ・ロック・ファンを唸らせた名作、このジャケを見てお解りの通り、サンドロ・ボッティチェッリ(Sandro Botticelli)の名画『プリマヴェーラ (春)』(↓)から来てますね(ポッティチェッリと言えば、ルネッサンス期のイタリアの画家、我々の知るところはその他に『ヴィーナス(ウェヌス)の誕生』という有名な名画がある(参照:末尾))。
なんと大それた事に、この名画の世界に挑戦したイタリアの若きポップス女性歌手カテリーナ・カセッリCATERINA CASELLIの渾身の作なのである。
(Sandro Botticelli「プリマベーラ」)
今でも私にとっては不思議なのは、このアルバムが"プログレ"なのか?と言うことなのだが、しかし日本の多くのイタリアン・プログレ・ロック・ファンは、このアルバムに虜になったのである。そして今でもその範疇で語り継がれているものであるから、つまり歴史的にはそうだということになるのだろう。
しかし"イタリアン・ラヴ・ロック Italian Love Rock"という範疇として、つまり”限りなく哀愁を奏でる音楽”として捉えるのが正しいと思うのである。
いずれにせよ、このアルバムは1960年代のイタリアの”ポップ・ファン”にとっては、当時期待外れという感覚で不評であっとも言われている。それはこの作品が、あまりにもポップファンの期待したそれまでのカテリーナの乗りのビートでなく、全く異なったところに展開したところにあった。つまりメロディーとイタリア独特の歌心を大切にしたオーケストラをバックに哀愁漂よいながら壮大に歌い上げる世界であった事だ。しかしそれは逆に一方の”プログレ・ファン”の心を捉えてしまったのであった。
『PRIMAVERA』 (邦題 『組曲「春」』)
1. Primavera (春・序曲)
2. Momenti Si, Momenti No (ひとときの夢)
3. Desiderare (憧れ)
4. Il Magazzino Dei Ricordi (思い出の店)
5. Una Grande Emozione (溜息)
6. Prima Non Sapevo (愛の遍歴)
7. Io Delusa (失したもの)
8. Piano Per Non Svegliarti (静かな眠り)
9. Buio In Paradiso (天国の秘密)
10. Noi Lontani, Noi Vicini (あなたを想って)
11. Primavera (春)
Arranged by Danilo Vaona (ダニーロ・ヴァオーナ)
Produced by Giancarlo Lucariello (ジャンカルロ・ルカリエッロ)
オープニングは透明感ある深遠な合唱からスタートし、全編ギターの美旋律と、大編成オーケストラ、メロトロン、合唱隊と音の限りを尽くした名盤。それにはアレンジのダニーロ・ヴァオーナの成せる技・功績が大きいのだと思う。スタートと締めの曲”Primavera春”は彼の作である。
そしてヴォーカルはショート・カットで人気のカテリーナ・カセッリ(→)の個性に負うところが大きい。彼女のややハスキーな低音に幅があり、素直に伸びる繊細感のある高音が、イタリアの歌心と美感覚を盛り上げるのだ。
丁度このオイル・ショック経済不況時代に、春の陽光のように営々とした光を投げくれてくれた事は想像に難くない。そしてまあこれは70年代ロック・ファンにはこれほどの慰みは無かったのだろう。
とにかく”このアルバム1枚がある限り、ユーロ・ロック・ファンから彼女は消えることはないであろう”と言われるくらいの感動作。
カテーリナ・カセッリ (・・カゼッリ、・・カセルリ)
(Caterina Caselli、1946年10月25日生まれ 、今年70歳)はイタリアの歌手、後に音楽プロデューサーとして活躍。1963年のカストロカーロ新人コンクールに入賞しデビュー。1966年にサンレモ音楽に初出場し、「Nessuno mi può giudicare 青春に生きる」を歌って入賞(パートナーはジーン・ピットニー)、魅力的なスタイルとファッション、そこにハスキーな声で一躍スターとなる。1967年には「Il cammino di ogni speranza 風に消えた恋」でサンレモ音楽祭に連続出場。1969年にCGDレコード副社長のピエロ・シュガーと結婚し、1975年には引退。その後はCGDのプロデューサーとしてアンドレア・ボチェッリ(テノール歌手、ヒット曲”コン・テ・パルティロ”、この英語版はサラ・ブライトマンとの”タイム・トウ・セイ・グッバイ”で世界的ヒット)らを世に出している。
サンドロ・ボッティチェッリ
(Sandro Botticelli, 1445年3月1日- 1510年5月17日)は、ルネサンス期のイタリアのフィレンツェ生まれの画家で、本名はアレッサンドロ・ディ・マリアーノ・フィリペーピ (Alessandro di Mariano Filipepi) という。
なんと言っても『プリマヴェーラ』と『ヴィーナス(ウェヌス)の誕生』(↓これは誰でも知っている絵ですね)の作者として日本でも当然有名である。異教的、官能的なテーマの絵画と言われ、フィレンツェ・ルネサンスの最盛期を飾る。
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