ピンク・フロイドPINK FLOYD ボックス・セット 「THE EARLY YEARS 1965-1972」~その3
宇宙空間から人間社会へ
(「おせっかい」・「雲の影」から「狂気」へ)
PINK FLOYD ボックス・セット
「THE EARLY YEARS 1965-1972」
Columbia/Legacy / U.S.A. / 88985361952 / 2016
1969年から1972年の4年間でピンク・フロイドは作られたと言っても過言で無い。この4年間こそピンク・フロイドの全てが試みられ、そして形作られ、彼らの頂点の「狂気」に繋がるのだ。その過程を多くの資料を収載してくれたこの「THE EARLY YEARS 1965-1972」の企画はみるに充実感がある。
■ ”Atom Heart Mother ”は、ブラス・オーケストラ・合唱付きのものと彼ら4人によるモノの2タイプがあるが、それを紹介すべく数多く納められている。しかし残念なことにこの当時から彼らのライブはオフィシャルな完璧な良質映像録画モノがない。これがピンク・フロイドの体質であったのだ。おそらく彼らは自身で納得した状況でのもの以外は収録拒否していたのであろう。
取り敢えず、映像なしでは、CDにはこの両タイプを楽しめるべく良質録音ものが収められている。
そんな訳で、当時のライブ映像としては、「ポンペイ・ライブ」は貴重なのだ。
(注目経過)
▲1969年「The Man & The Journey 」(ライブ全曲)
映画「ZABRISKIE POINT」サウンドトラック収録(全16曲CD収納)
▲1970年『原子心母Atom Heart Mother 』(Original 4.0 Quad Mix盤+ライブ録音もの)
▲1971年4月「Ehoes」 完成 (Original 4.0 Quad Mix盤 +ライブ録音もの)
▲1971年8月「Hakone Aphrodite Open Air Festival」(テレビ放映Video)
▲1971年10月「Live at POMPEII」撮影
▲1971年11月『おせっかいMEDDLE』リリース
▲1972年2-3月映画「LA VALLEE」サウンドトラックをレコーディング(映画収録、CDに全曲)
▲1972年6月『雲の影Obscured by Clouds』リリース(2016 remix 盤+アルバム未収録曲)
▲1972年9月「Live at POMPEII」公開(映像5.1 surround Mix 版)
▲1972年11月-1973年1月「Roland Petit-Pink Floyd Ballet」公演 (放映Video)
()内、当ボックス・セット内容
この4年間の注目経過はこんなところだが、1971年に「Echoes」を完成させ(Original 4.0 Quad Mix を納めたのは歓迎)、彼らの宇宙空間的ミュージックの完成を見た。そして彼らの評価は既にヨーロッパ諸国ではProgressive Rockとして右に出る物なしの感覚すら生まれていた。しかし一方ロック界は多様で、ロックの精神であるメッセージ性のなさに”Echoes”のネガティブ評価も生まれたのである。
■ 「Hakone Aphrodite Open Air Festival」 6-7,Augast 1971映像
実は完全に近いアフロディーテ映像に期待していたのだが、残念ながら、過去に何度か見てきたブート映像と比べるとこちらはカラーであるが同じものであった。テレビ放映用に組まれたもので、これは私の期待を裏切った一つ。もう少し別物でマシなものがないのであろうか。
これに関しては、今回この企画の製作スタッフが、オリジナル映像をかなり探したようだが発見できず、現存しないと判断したらしい。ほんとは完璧な映像を見たいところであるのだが。
■映画「LA VALLEE」、アルバム「雲の影Obscured by Clouds」
映画「LA VALLEE」:全編改良映像で収録
アルバム「雲の影Obscured by Clouds」: 2016年Remix盤(CD)
72年には”Careful with that axe, Eugene”、”Set the controls for the heart of the sun”、”Atom heart mother”、” Ecoes” を中心に世界でのライブは圧倒的支持を得る中で、彼らの当時の関心事である映画サウンドトラックにも着手した。そこでは彼らの持つもう一つの世界である牧歌的な大地に足を付けたミュージックにも目を向けアルバム『雲の影Obscured by Clouds』の完成となったのである。
しかしこの「雲の影」は、ピンク・フロイドとしては一般にあまり評価が高く無い。それは彼らの築いたコスミックなスペーシーなサウンドでないためだと思うが、実はこれも彼らの持っている貴重な一面であって、牧歌的にして簡素なフォーク調の曲を中心に納められ、”Wot's...Uh The Deal”(Waters,Gilmour)、”Free Four”(Waters)など良く聴くと実に味があるのだ。(アコースティックな演奏→)
彼らのそれまでの凝ったサウンドでなく、ストレートなギターの音、そしてヴォーカルなど”素材そのまま”であるだけに、ファンとしては彼らと現実に接している感覚となるだけでなく、彼らを知ることのために意味あるアルバムだった。
そして今回このアルバムは2016年リミックス盤として、音質の改良も加えられ全編第6巻に納められてお目見えしたのである。実はこれを歓迎しているファンも多い。
■ 「Roland Petit-Pink Floyd Ballet」
フランス・ツアーにおけるローラン・プティのマルセイユ・バレエ団との共演。過去に無い一つの実験であったと思うが、この映像モノは結構多数収められている。これに関しては、私はその意義について特にコメントは無い。
■ 1972年までの結論
こんな映画サントラ作業の一方では、ロジャー・ウォーターズの心には、”Echoes”のメッセージのなさに対しての批判を受けた事のショックは大きく、ここに彼にはもともと持っている”現代人の生活に疑問を抱いていた心”に大きな刺激を受けたのである。
そして人間の持つ”狂気・我が儘、生と死、人間社会の矛盾の意味”に的を絞って、全ての曲にウォーターズが詩を付けてメッセージを込めた作品作りに着手。それが世界的作品となる『狂気The Dark Side of The Moon』である。
この多忙極めた1972年に「狂気」構想は練られ、曲作りされ収録を開始した。そしてロジャー・ウォーターズの得意とするコンセプトの確立が行われたのだ。そして翌年1973年3月にリリースされた。
この1972年の「狂気」作成の過程においては、それぞれ異なったメンバーの個性が、ライブを重ねながら有機的に絡んでエネルギーを増していったことは事実である。つまり彼らの意識は別として、ピンク・フロイドとしての4人バンドの頂点に到達すべくそれぞれが挑戦的な作品作りに邁進したのであった。
つまりこの『狂気』作成への1972年までが、ピンク・フロイドの”Early Years” としての大きな意味ある時であり、それに関する資料を纏め上げたのがこの企画である。その後の彼らの姿は誰もが知っているところに落ち着くわけで、ここまでの”Early Years” が最もピンク・フロイドとして私にとっては面白いところなのだ。
( 「THE EARLY YEARS 1965-1972」考察その4 に続く)
(参考視聴:Grantchester Meadow)
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コメント
相変わらず拝見しています。自分の場合は、「狂気」から始まり、「雲の影」、「おせっかい」、「モア」とさかのぼって聞き始めました。「ウマグマ」を聞いたときは理解不能で、一時、フロイドから撤退しようと思ったこともありました。
風呂井戸氏のおっしゃるように、確かに「狂気」までの彼らの姿が、その後の彼ら自身のみならず、プログレッシヴ・ロックの世界観までも確立していったと思います。
彼らがまだ発表前の曲を、ライヴで重ねながら曲としての完成度を高めていったというのは、有名な話ですが、その過程を知ることができるというのもまた、ファンとしては垂涎ものと思います。
次回のNo.4も期待しています。よろしくお願いします。
投稿: プロフェッサー・ケイ | 2016年11月24日 (木) 23時08分
プロフェッサー・ケイ様、コメント有り難うございます。
このところ、このボックス・セットを好きなところからアットランダムに聴いたり観たりしてますが、懐かしさの方が先になって評価が系統的で無く混乱しています。
1970年頃は、とてもとても彼らのライブものをブートで聴くと言うことはなかなか困難でしたので、1980年以降に不思議なLPを手に入れただけで興奮したモノです。彼らはアルバム作りの為の曲は確かにライブを通じて熟成させていったことは事実ですね。その経過も楽しいところです。
ただ、今回アフロディーテは良いモノが無いと言うことでガッカリしました。
いずれにしても「狂気」誕生までの流れは是非このようなものでフロイド・ファンには感じ取って欲しいと私は思います。そしてその後がありますので・・・・・。
投稿: 風呂井戸(photofloyd) | 2016年11月25日 (金) 17時29分