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2018年1月29日 (月)

ボボ・ステンソンBobo Stenson Trio 「Contra la indecisión」

久しぶりに巨匠のピアノの世界に浮遊

<Jazz>
Bobo Stenson Trio 「Contra la indecisión」

ECM / Germ / ECM2582 5786976 / 2018

Contralaindw

Bobo Stenson (piano)
Anders Jormin (double bass)
Jon Fält (drums)

Bstriow

  しばらく聴いていなかったため、なにか懐かしい気持ちになって聴いているスウェーデンのピアニストの巨匠ボボ・ステンソンのトリオ最新作。過去のアルバムにみせた耽美で叙情詩的な世界を落ち着いた中に構築し、しかしフリー・ジャズのニュアンスのある彼ら独自のインプロをハイレベルで三位一体で展開してみせることも忘れていないアルバムとなっている。この浮ついたところのない静かな世界は、新年の新たな出発にぴったりのアルバムだ。

Bobo_stensonw2(Tracklist)
1. Canción Contra La Indecisión (Silvio Rodriguez)
2. Doubt Thou The Stars (Anders Jormin )
3. Wedding Song From Poniky (Béla Bartók)
4. Three Shades Of A House (Anders Jormin )
5. Élégie (Erik Satie)
6. Canción Y Danza VI (Frederic Mompou)
7. Alice (Bobo Stenson )
8. Oktoberhavet (Anders Jormin )
9. Kalimba Impressions (Bobo Stenson, Anders Jormin, Jon Fält)
10. Stilla(Anders Jormin )
11. Hemingway Intonations(Anders Jormin )

 さて収録曲は上のようなところ。7曲は彼らのオリジナル(ベーシストのアンデルス・ヨルミンAnders Jormin はなんと5曲、ボボ・ステンソンBobo Stenson は1曲、トリオ3人での1曲)で、その他はサティ、バルトークのほかモンポウなどの曲がお目見えするが、意外やキューバのシルヴィオ・ロドリゲスの曲(アルパム・タイトル曲)が冒頭に登場する。
 とにかく、全てを知り尽くしたと言えるベテランのボボ・ステンソンのピアノには、静謐な美しさと共に乱れのない彼の築く空間の世界が厳然とこのアルバムにも構築されている。しかし今回も私は過去のアルバムから感じているところだが、ベーシストのヨルミンの果たしている役割が意外に大きいと思っているのだが・・・。

 M1. "Canción Contra La Indecisión"、ボボ・ステンソンの美しく思いの外明るいピアノのメロディーが展開。 
 M3. "Wedding Song From Poniky"は、 Béla Bartókの曲で、特にピアノの調べは、このアルバムでもピカイチの美しさにしばし我を忘れる。
 M2. "Doubt Thou The Stars"、 M8. "Oktoberhavet"などヨルミンによる曲では、彼のアルコ奏法に織り交ぜてのシンバルの繊細な響きも加わった美しい世界で、なかになか深遠で聴き応えある。
 M7. "Alice"は、ステンソンの曲だが、彼の特徴の一つでもあるECM的空間にフリー・ジャズとも言える世界を展開している。繊細なシンバルの響き、メロディというよりは静寂な空間を描くピアノの音、こうした味付けは過去にも見られた手法である。そしてこの曲と同時に、その後の3者によるM9. "Kalimba Impressions"も、そこにはトリオのインプロヴィゼーションによる静かな中に描くスリリングなインタープレイの味が聴き所だ。
 M10. "Stilla"は、彼らのジャズ心をトリオのそれぞれの味を交錯させての見事なアンサンブルを演じた1曲。

Reflectionsw_2 私は思い起こせば、ボボ・ステンソンを最初に聴いたのは、1996年のECM盤アルバム『Reflections』(ECM/ECM1516)(右上)であったかも知れない。あのアルバムは、美しさの漂う曲と共に、決して軟弱でない彼らの凜々しさを感じたアルバムであった事を思い出す。
 その後ニューヨークに進出してのドラマーにポール・モチアンを迎えてのこれもECM盤『Goodbye』(2005年リリース、2016年再発ECM/UCCU-5753)(右下)あたりは、その取り合わせに驚きつつもGoodbyew
キース・ジャレットとは又違った北欧の臭いのするフリー・ジャズの流れに感動して聴いたのだった。

 この今回のアルバムは、過去のものとの比較では、フリージャズの実験性の色合いは減少していて、ボボ・ステンソンの野心性は後退してはいるが、やはり美しさの中に描くハイレベルの空間の美はお見事と言わざるを得ない。

(参考)Bobo Stenson
 1944 年、スウェーデン出身。音楽一家に育つ。 10 代の時から演奏活動を始め、ソニー・ロリンズ、スタン・ゲッツ、ドン・チェリーなどとセッションを重ねたようだ。 1970 年代には盟友ヤン・ガルバレクと共にカルテットで活動を開始、この頃は私はあまりマークして居らず、当時の作品は歴史的名盤と言われているが実のところ聴いていない。1971 年にはアリルド・アンデルセンとヨン・クリステンセンを迎え、自己のトリオを結成。 その後、トーマス・スタンコ、チャールズ・ロイドなどのグループにも参加。現在は、トリオとしてアンデルス・ヨルミンとヨン・フェルトと活動を続けている。このトリオは、北欧の自然をイメージする音楽的空間を描きつつ、音楽をプログレッシブな感覚で構築する現代最高のアンサンブルとして尊敬を集めていると言うのだ。ステンソンは既に70歳を越えており、キース・ジャレットと双璧をなす北欧の巨匠とされている。 

<Bobo Stenson Discography>
Underwear (ECM, 1971)
Reflections (ECM, 1993)
War Orphans (ECM, 1997)
Serenity (ECM, 1999)
Goodbye (ECM, 2005)
Cantando (ECM, 2007)
Indicum (ECM, 2012)
Contra la indecisión(2018)

The Sounds around the House, Piano Solo (Caprice Records, 1983)
Very Early (Dragon Records, 1987)
Solo Piano (La Sensazione, 1999)

(視聴)

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コメント

風呂井戸さん,続けてこんにちは。

このアルバムはECM的な美学が横溢していると思いますが,Bobo Stensonのアルバムの中でも,私の中では最も評価の高い1枚と言えるかもしれません。ただ,旧作も久しく聞いていないので,まとめて振り返るチャンスかもしれませんね。

ということで,こちらもTBさせて頂きます。

投稿: 中年音楽狂 | 2018年2月11日 (日) 17時24分

中年音楽狂さん、コメント、TB有り難うございます。
 Bobo Stensonは、哲学的美学と同時に前進的実験性の試みにも長けているピアニストと思ってます。その両者の兼ね合いのバランスが良いところが、私のような素人を楽しませてくれます。そんな意味で期待のプレイヤーです。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2018年2月11日 (日) 19時06分

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» これはいい!Bobo Stensonのトリオ作がECM的美学炸裂。 [中年音楽狂日記:Toshiya's Music Bar]
Contra la Indecisión Bobo Stenson Trio (ECM) Bobo Stensonがトリオでアルバムをリリースするのは6年ぶりのことだそうである。そんなになるのかと思い [続きを読む]

受信: 2018年2月11日 (日) 17時24分

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