エスペン・バルグ・トリオEspen Berg Trio「Bølge」
(2017年に聴いて印象に残ったアルバムを-8)
美意識が支配する中にモダニズムを追求する静と動の交錯
<Jazz>
Espen Berg Trio「Bølge」
BLUE GLEAM / JAPAN / BG008/ 2017
Espen Berg (p)
Barour Reinert Poulsen (b)
Simon Olderskog Albertsen (ds)
Recorded at Rainbow Studio, Oslo, Norway
2016年にここでアルバム『モンステルmønster』(BlueGleam/JPN/BG-006/2015)を紹介したノルウェーの気鋭ピアニストの第2弾だ。彼らは2016年ジャパン・ツアーを行って、高評価を得ている。
相変わらず憂いを湛えたリリシズムと静謐な美意識が支配する中にモダニズムを追求する静と動の交錯する3者のインタープレイが楽しめるアルバムである。ブラッド・メルドーやエスビョルン・スベンソンの影響を受けていると言われておりその先進性を追求する姿勢も諾(うべな)るかなと言うところだ。
(Tracklist)
1. Hounds of Winter
2. Maetrix
3. XIII
4. Bølge
5. Tredje
6. Cadae
7. For Now
8. Bridges
9. Skoddefall
10. Climbing
11. Vandringsmann (Bonus Track)
12. Scarborough Fair (Bonus Track)
オープニングのM1. "Hounds of Winter"は、スタートから美しさと静かさとそして安定感をもって安堵感を醸し出してくれる。しかし中盤からはテンポを早めての変調して流麗なピアノの流れとアンサンブルの妙を見せる演奏、これが"Hounds"の姿なのか。そしてハイテンポのM2. "Maetrix"へと流れる。
さてこのアルバム・タイトルの「Bølge」というのは、ノルウェー語で「波」を意味しているとか、なるほど寄せては返すという曲の流れを表現しているものと思われるがそんな世界を堪能できる。
とにかくそのM4. "Bølge"の約7分の曲は彼らの真骨頂の美しさだ。「波」と言っても高い荒々しい波でなく、静かに広がりをもって寄せてくる人の心に精神的安定感と幸福感に満たしてくれる情景だ。この曲でこのアルバムは私のお気に入りとなるんです。
しかし一方M6. "Cadae"に見るようなトリッキーにして荒々しくポリリズムの描くところ、彼らの尋常ならぬインタープレイの境地を示している。
そして続くM7. "For Now"の反転しての美しい落ち着きの世界へと繋がり、自然と人間との交わりの中から描く情景に心を奪われる。
M8. "Bridges"、M9. "Skoddefall"を聴くと、なるほど彼らのジャズ心はこんな複雑なアンサンブルのある先進性のあるところに目指していることが知ることが出来る。
Bonus Trackとして聴き慣れたM12. "Scarborough Fair" が登場するが、流麗なピアノ・プレイを聴かせ編曲の妙を見せる。
とにかく美しい旋律や哀感のある情景のみに浸ろうとすると、複雑な変拍子やポリリズムがパンチを浴びせてくる。しかしそれはあくまでも美しい世界を構築する彼らの目指す方法論としての重要な役割の一つとして果たしていることなのだろう。こうしたハイレベルな現代主義的トリオ・ジャズはこれからも注目のところにあると言える。
(視聴)
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コメント
風呂井戸さん 遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
さっそくですがEspen Berg 新作出ていたのですね。Mønsterの方、有していてなかなか良いトリオだと思っていました。
Bølgeの方もそのうち入手してみたいと思います。
風呂井戸さんが記事にされる作品は、自分の好みにも合うのでいつも参考になります。
今年も何かとジャズの情報交換宜しくお願いいたします。 松井
投稿: baikinnmann | 2018年1月12日 (金) 21時58分
Baikinnmannさん、こちらこそ今年もよろしくお願いします。Espen Berg のような美しさと挑戦的アプローチの交錯は、次の時代に向かっているように思います。
ところで、貴Facebookでの今年登場のOLGA KONKOVAも単純にはゆかない名ピアニストですね。2015年の「The Goldilocks Zone」も素晴らしい。私もファンです。(参考:http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2015/08/olga-konkova-tr.html)ご主人様がベーシストで共演ですね。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2018年1月13日 (土) 09時44分
こんにちは
エスペン・バルグとシリア・ネルゴールの日本公演を昨年聴きました。ピアノトリオの三人は、演奏能力が高く、音の美しさとタイミングの良さは素晴らしいものがありました。
ネルゴールは、ジャズとポップスの中間という感じでしたが、悪くはなく、会場でCDを購入してきました。ただ、自宅で聴いてみると、いまひとつ感興にひたれず、ライブの方が面白い歌手のように思いました。
長野市の隣の須坂市における公演だったのですが、田舎では北欧のミュージシャンを聴ける機会がないので貴重なコンサートでした。
投稿: azumino | 2018年1月13日 (土) 10時19分
風呂井戸さん こんにちは。
The Goldilocks Zoneの方も良さそうですね。
有用な情報ありがとうございます。
投稿: baikinnmann | 2018年1月13日 (土) 13時00分
azuminoさん、コメントどうも有り難うございます。
エネルギッシュな生活の中でのエスペン・バルグ公演参戦は見事に正解でしたね。おっしゃるように日本公演はなかなか好評の中に行われたようですね。彼らからはピアノ・トリオの新しい試みも感じられ、今後が楽しみです。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2018年1月13日 (土) 18時04分
baikinnmannさん、OLGA KONKOVAのアルバム「The Goldilocks Zone」は、3曲目から8曲まで”The Goldilocks Zone Suite”となってまして、若干難解なところもあります。このあたりはどう評価されるか、いずれか又機会があれば聞かせてください。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2018年1月13日 (土) 18時19分