ブラッド・メルドーBrad Mehldau 「After Bach」
<My Photo Album 瞬光残像> 2008-No4
「生」 (Feb.2018 撮影)
(当アルバムBrad Mehldau「After Bach」の最後の曲
"Prayer for Healing"に対しての一枚↑)
これは今期の注目作だ!:バッハにメルドー流即興で挑戦
<Jazz>
Brad Mehldau 「After Bach」
NONESUCH / USA / 7559-7931-0 / 2018
Brad Mehldau (piano)
Recorded April 18-20, 2017 at Mechanics Hall, Worcester, MA
いっや~~これは恐ろしいアルバムの登場だ。もともとバロックとして愛されているJ.S.バッハというのは、即興の大家とも言われており、そのJ.S.バッハの「平均律クラヴィーア曲集」から4前奏曲と1フーガの5曲を取り上げ、なんとそれらの後に、それぞれ対応する曲にインスパイアされたブラッド・メルドーにより作られた”After Bach”(バッハにかんがみて・・)オリジナル曲がおそらく即興を主体として続くという驚異の世界。
バッハに挑戦したジャズは数多いが、私のジャズへの入り口であった50年以上前のフランスのジャック・ルーシェを思い起こし、ジョン・ルイス盤やら、大御所キース・ジャレットの挑戦、更に近年はエドワール・フェルレ、又変わり種セルジュ・デラート・トリオの『Comme Bach...』(ASAWANO084)などもあるが、それらとも全く異なったメルドー流バッハ・ジャズを大胆不敵にピアノ・ソロで演じて見せた。
(Tracklist)
1. Before Bach: Benediction *
2. Prelude No. 3 in C# Major from The Well-Tempered Clavier Book I, BWV 848
3. After Bach: Rondo *
4. Prelude No. 1 in C Major from The Well-Tempered Clavier Book II, BWV 870
5. After Bach: Pastorale *
6. Prelude No. 10 in E Minor from The Well-Tempered Clavier Book I, BWV 855
7. After Bach: Flux *
8. Prelude and Fugue No. 12 in F Minor from The Well-Tempered Clavier Book I, BWV 857
9.After Bach: Dream *
10.Fugue No. 16 in G Minor from The Well-Tempered Clavier Book II, BWV 885
11.After Bach: Ostinato *
12.Prayer for Healing *
収録曲は上記の通りで、*印がメルドーのオリジナル曲。オープニングにメルドーによるM1."Before Bach: Benediction"を配置し、それも如何にも導入部は完全にバッハのバロック流の世界を覗かせ、次第にメルドーの世界。そして締めくくるのも彼によるM12."Prayer for Healing"。バッハの曲は5曲、そしてそれをテーマにしたメルドーの5曲が並ぶ作品。何という発想か、それはメルドーだから出来るバッハ解釈なのかも知れない。いやはや解釈というか彼のバッハの曲から描く世界を彼のオリジナル曲として展開させる手法により、見方によってはバッハを越えようという一つの手法にも取れる。
とにかくM2,4,6,8,10のバッハの5曲を、やや短めではあるがバロック・クラシック曲として軽快にパーフェクトに再現し、それに対しての彼の多分おそらく即興が主体であろうオリジナル・イメージ曲をM3,5,7,9,11と5曲展開する。例の如く左手演奏を巧みに織り込んでのメルドー・ピアノには聴き惚れるのである。
そして彼のオリジナル曲は不思議にバロック世界を巧みに聴かせながらも、更になんと彼独特のスリリングな展開すらする前衛性をも加味ところは圧巻で緊張感すら持つのだ。従って、バッハの曲に移るとむしろほっと気持ちが安まるところもあるから面白い。
そして締めくくりのメルドーの終曲M12."Prayer for Healing" にこれ又痺れる。この安定感、この安堵感は凄い。メルドー自身が為しえたこのバッハへの挑戦に、それに対して11分以上に及ぶ曲を展開し、長年に渡る自己のミュージシャンとしての世界、いやここまで歩んで来た人生を回顧しているのではないかと思わせる素晴らしい世界だ。この郷愁の美的世界、安堵の祈りの境地は為しえた者のみの世界と言えるように思う。
これはクラシックか、ジャズかと言う以前のメルドーのバッハに対する自己の発見なんであろうと結論づけるところだ。いまやジャズ・ピアニストのナンバー1とも言えるブッド・メルドーの成せる技、恐るべし。
(試聴)
| 固定リンク
« キース・ジャレットKeith Jarrett Gary Peacock Jack Dejohnette 「After The Fall」 | トップページ | ヨアヒム・キューンJoachim Kühn New Trio 「Love & Peace」 »
「音楽」カテゴリの記事
- 寺島靖国氏の看板アルバム 「Jazz Bar 2024」(2024.12.10)
- ジョン・バティステ Jon Batiste 「BEETHOVEN BLUES」(2024.12.05)
- ヨーナス・ハーヴィストJoonas Haavisto 「INNER INVERSIONS」(2024.11.25)
- コリン・ヴァロン Colin Vallon 「Samares」(2024.11.20)
- エミル・ヴィクリッキー Emil Viklicky Trio 「Moravian Rhapsody」(2024.11.30)
「JAZZ」カテゴリの記事
- 寺島靖国氏の看板アルバム 「Jazz Bar 2024」(2024.12.10)
- ジョン・バティステ Jon Batiste 「BEETHOVEN BLUES」(2024.12.05)
- ヨーナス・ハーヴィストJoonas Haavisto 「INNER INVERSIONS」(2024.11.25)
- コリン・ヴァロン Colin Vallon 「Samares」(2024.11.20)
- エミル・ヴィクリッキー Emil Viklicky Trio 「Moravian Rhapsody」(2024.11.30)
「ブラッド・メルドー」カテゴリの記事
- ブラッド・メルドー Brad Mehldau Trio 「STOCKHOLM 2023」(2023.06.07)
- フラッド・メルドー Brad Mehldau 「SOLO CONCERT AT BOZAR BRUSSELS 2023」(2023.04.27)
- ブラッド・メルドー Brad Mehldau 「PLAY THE BEATLES AND MORE」(2022.10.06)
- ブラッド・メルドー Brad Mehldau 「JACOB'S LADDER」(2022.04.03)
- ブラッド・メルドー Brad Mehldau Trio 「SWEET AND LOVELY」(2021.08.08)
コメント
最初なんの予備知識もなく、キース・ジャレットがすでに過去に演奏しているよね、と思ったら、収録時間的にメインは即興演奏の方だったとは! しかも、バッハのテーマの演奏をしてアドリブに入るのではなく、独立した曲の方でインスパイアされたことの表現をしているので、ぶったまげました。けっこう素晴らしいアルバムだと思いました。
TBさせていただきます。
投稿: 910 | 2018年3月15日 (木) 20時21分
910さん、コメント・TBわざわざ有り難うございます。おっしゃる「ぶったまげました」と言うところですよね。まだ多くの人の感想が書かれていないのですが、私はとにかくこのメルドーの発想には驚きと共に、恐ろしさも感じました。いやはや失礼ですが、”ただ者”では無いですね。バッハに敬意を表しつつ、それをも現代センスで乗り越えようとするかのエネルギーを感じました。これってジャズ界でも歴史に残るアルバムだと思ってます。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2018年3月15日 (木) 22時17分
風呂井戸さん おはようございます。
いつも記事楽しみに拝見させていただいております。
さっそくですが、こちら大変気になりつつも様子見していましたが、皆様の記事で評価高くやはり聴かなければと思い、本日注文しました。
留まることなくいろいろ挑戦し続けるメルドーは、ほんとすごいピアニストですね。
投稿: baikinnmann | 2018年3月17日 (土) 07時57分
すみません。タイトル、替えてしまいました。m(_ _)m
1つ、トラバを削除してください。
これも、大作ですね。1聴きにすごいと思いました。
いろんな壁をなんなく乗り越えてきたメルドーにしたら、、
あまり高い壁ではなかったのでしょうね。
どこを聴いてもメルドーって、感じで、、大変お気に入りです!
特に後半、とっても好みです!
トラバ、、本当にすみませんでした。お手間おかけいたします。
投稿: Suzuck | 2018年3月17日 (土) 09時08分
baikinnmannさん、こんにちわ。
20枚の未聴在庫所持、うらやましく(笑)拝見しています。日頃の活動力の高さから、時間が無いご様子よく解ります。
しかし、今回のブラッド・メルドーはおそらく名盤となる逸品です。締めくくりが又感動もので・・・・、是非御感想聞かせてください。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2018年3月17日 (土) 10時21分
Suzuckさん、コメント頂いて有り難うございます(TBもどうも・・・)。
やはり更に後半に喝采ですか・・、解ります。
しかし、メルドーの今回のこうした迫り方は、一つの自信の表れかとも思ってます。彼の実績からして当然とも思います。
昔、私は当時やたら感動したフランス流の洒落(しゃれ)であったシャック・ルーシェとは全く異なった方法論で、新たな感動すらありました。Suzuckさんにも好評でホッとしてます(笑)。
私の方からもTBさせてください。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2018年3月17日 (土) 10時30分
風呂井戸さん,こんにちは。TBありがとうございました。
まさに「クラシックか、ジャズかと言う以前のメルドーのバッハに対する自己の発見なんであろうと結論づける」というかたちの演奏と思いました。ジャンルなんて関係ないですね。こういうのを聞いていて,Brad Mehldauだけはコンプリートを目指そうと思った自分を褒めたくなりますね(爆)。
ということで,こちらからもTBさせて頂きます。
投稿: 中年音楽狂 | 2018年3月18日 (日) 13時22分
中年音楽狂さん、コメント・TB有り難うございます。Brad Mehldauに関しては、私が講釈を言う前に中年音楽狂さんのお話しを聞かねばと思ってました。熱烈なファン度というところでは私は幾つもレベルは低いですから(笑い)。しかし感ずるところ、共通点があってホッとしてます(笑い)。ここまでバツハから自己の流れを形にしたのは類をみないと思います。さすがBrad Mehldauだというところに尽きます。名盤が増えた感ありと言う所でした。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2018年3月18日 (日) 15時34分
基本的には、バッハを聴いている気分で大きな違和感なく、それでいてBrad Mehldauの個性がしっかり聴こえてくるって感じで、
Brad Mehldauの表現力と、そのインスピレーションを与えるバッハの曲の凄さを再認識しました。
コメント内TBさせていただきます。
https://blogs.yahoo.co.jp/pabljxan/64473698.html
投稿: oza。 | 2018年4月20日 (金) 06時29分
ozaさん、コメント有り難うございます。
これによって、益々Brad Mehldauの個性を再認識できたと言っても過言ではありませんでした。彼はバッハから自己を表現したと・・・・思っています。
こうゆうものを楽しめるのも有り難いです。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2018年4月20日 (金) 19時12分