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2018年7月29日 (日)

映像で観るサラ・マッケンジーSarah McKenzieのピアノ&ヴォーカル

今やダイアナ・クラールを追う有力な弾き語りピアニスト
                  (・・・・と、言うと大げさか?)

<Jazz>

 [DVD]  Sarah McKenzie 「Jazz San Javier 2016」
   Live at 19 Festival de Jazz de San Javier, Murcia, Spain, July 29th, 2016 (70min)

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Sarah McKenzie - piano
vocals Jo Caleb – guitar
Pierre Boussaguet – bass
Marco Valeri – drums

Parisintherain79ed7869 ジャズ・ピアノを軽やかにこなしての明るいヴォーカルでこのところ人気モノになりつつあるサラ・マッケンジー、昨年ここでアルバム『PARIS IN THE RAIN』UCCI-1037)(→)を取りあげたのだが、来日したりで日本でも美貌も相まって人気を獲得しつつある。
 そんなところで、やはりブートであってもライブ映像版を観たいとう心境で、このところ観ているDVDの紹介だ。
 これは2016年のスペインに於けるライブ収録。彼女の通常のスタイルのギターの入ったピアノ・カルテット構成だ。冒頭から彼女のヴォーカルが満開。例の如く軽やかで明るい。

Smw(Tracklist)
01. Onwards And Upwards
02. I Won't Dance
03. We Could Be Lovers
04. That's It, I Quit!
05. Don't Tempt Me
06. I Got The Blues Tonight
07. Moon River
08. When In Rome (I Do As The Romans Do)
09. Love Me Or Leave Me
10. Quoi, Quoi, Quoi
11. At Last
12. The Lovers' Tune
13. Embraceable You

 なんと言っても、映像に耐える美貌がいいですね。ピアノ・タッチも軽やかで、スウィングする演奏が多く、ジャズとしては極めてオーソドックス。ここではアルバム『PARIS IN THE RAIN』がリリースされた前年だが、アルバム収録されている曲の3曲(M01, M08, M13)をも演奏している。こうしてライブ映像で観ても、声の質は高音までクリアで清楚感がある。しかし今一つ聴いて痺れるところがないのがちょっと寂しい。M06." I Got The Blues Tonight"のブルース・タッチでも、もう少し哀感が欲しいと思うところ。
  ギターのみのバックで彼女のスローバラードがM07. "Moon River"、 M13. "Embraceable You "の2曲で披露されている。ここではヴォーカルの力量が問われるところだが、天性の歌い込みの上手下手が出てしまうところで、上品さの感じるところところは良いのだが、その為少々情感に乏しい感じだ。まあそのあたりが又良いというファンもいてそれはそれ結構な事である。私から見ると、やっぱり彼女はピアニストにウェイトがあるのだなぁ~と思うところなのだが・・・・。
 しかしこのタイプはカルテット仲間との相性はむしろ良さそうで、観る者にとっては快感でもあった。

② [DVD] Sarah McKenzie 「Monteu Jazz Festival  2017」
        Live at Montreux Jazz Festival 2017 (90min)

Montreuxaww

Sarah McKenzie: vocals & piano
Geoff Gascoyne: bass
Hugo Lippi: guitar
Donald Edwards: drums
Warren Wolf: vibraphone


 こちらは、昨年2017年のMonteu Jazz Festival における彼女の上のようなメンバーでのクインテット構成によるライブ・パフォーマンス、約90分に納めている。この時の特徴は最近あまり編成されないビヴラフォンが加わっていることで、これによって一味ムードが変わっている。彼女の清楚感あるヴォーカルからして、このパターンがなかなか面白いと思った。

(List)
0:17 Road Chops
5:39 I Won't Dance
10:41 We Could Be Lovers
16:31 Paris In The Rain*
22:07 One Jealous Moon*
28:54 The Secrets Of My Heart
35:32 Small Feats
42:00 I've Got The Blues Tonight
51:15 Tight
58:45 Triste*
1:05:08 I'm Old Fashioned*
1:12:19 The Lovers' Tune
1:22:04 Embraceable You*

  演奏曲目は13曲だが、最新アルバム『PARIS IN THE RAIN』と時期が一致していているため、アルバムの5曲(*印)がここで演じられている。
 そして彼女のなんとなく上品で清楚感あるヴォーカルとピアノ・プレイで楽しませてくれる。又このライブでは、メンバーそれぞれのソロ演奏も十分に取り入れられていて楽しいライブになっている。このあたりはアルバムと違った楽しみ方が出来るところだ。
 彼女は、オーストラリア、メルボルン出身。ウエスト オーストラリアン アカデミー オブ パフォーミング アーツでジャズの博士課程を修了。その後、アメリカのバークリー音楽院に入学し、卒業後は、パリを拠点として活動している。ジャズ曲コンポーザー、ピアニスト、ヴォーカリストと活躍している。これまでに下記の4枚のアルバムをリリースしているが、嫌みの無いところが取り柄として聴いてきた。これからどのように発展して行くかも楽しみなプレイヤーと言って良いだろう。ダイアナ・クラールの痺れる味には、まだまだと言うところだが・・・。

(Sarah McKenzie - Discography)

Don't Tempt Me (2011)
Close Your Eyes (2012)
We Could Be Lovers (2014)
Paris in the Rain (2017)

(視聴)

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2018年7月27日 (金)

懐かしの海外スナップ集(1)=ハンガリー・ペーチュ(1)

「ふと想う」
            ~ ペーチュ(ハンガリー)にて   (2000年5月)

Pecz2trw_4
                                (クリック拡大)
Mamiya 645 AFD,  Zoom AF 55-110  1:4.5
negacolor Fuji Reala 100(J19)

 このハンガリ-のペ-チュPécsというところは、ブタペストから南にあり、クロアチアとの国境に近い田舎都市ですが、縁あって2回訪れています。最初に訪れたのは、まだ共産圏であった1970年代後半で、当時は町の道路は舗装なしでしたが、この20数年後の2000年に訪れた時は、国は共産圏の拘束から解放されめまぐるしく発展しており、道路も立派になり、こうして町の一角も整備されていました。ただし建物は新しくなっているというのでなく、立派に塗装され手入れが成されていました。ところがなんと物価はもの凄い上昇で、約300倍になっていました。日本の戦前と戦後の違いと似ています。

 このスナップは、やらせではありません。ペーチュの市街地中央のSzéchenyi Square からKirály Streetを少し入ったところにあるNational Theatre in Pécs前の広場(Theatre Square)にて偶然みつけた光景です。なんとかタイミングを待っていて何枚か撮っての遂に捕らえた瞬間です。手前の像はハンガリーでは何かの意味があるのか解りませんが、魚の鱗のような肌になっています。これは広場の水の上に鎮座している像です。そしてその像との対比が私としてはお気に入りの一枚となったモノです。

(このシリーズは、私の別室ブログ「瞬光残像」http://photofloyd.exblog.jp/と連携しています)

(参考)
National Theatre in Pécs
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町歩き

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2018年7月24日 (火)

リッチー・バイラークRichie Beirachの未公開ライブ音源を加えての復刻盤 「INBORN」

マイケル・ブレッカー、ジョン・アバークロンビーに捧げるアルバム

Michael Brecker :2007年1月13日 白血病のため死去、57歳。
John Abercrombie: 2017年8月22日 心不全により死去、73歳。

<Jazz>
Richie Beirach 「INBORN」
Jazzline Records / IMPORT / N77049 / 2018

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Recorded April 17 & 18 1989 at Clinton Recording Studios, New York City

Richie Beirach (piano)
Randy Brecker (trumpet, flugelhorn on CD1-1,2,4,6,7,8,CD2-1,2,7)
Michael Brecker (tenor saxophone on CD1-3,5,CD2-3,5)
John Scofield (guitar on CD1-1,4,8,CD2-2,7)
George Mraz (bass except CD2-1)
Adam Nussbaum (drums except CD1-3,5,CD2-1,3,5)

81hypt8fbtw 1989年4月NYで吹き込まれリリースされたリッチー・バイラークのチェット・ベイカーのトリビュート・アルバム『Some Other Time - A Tribute To Chet Baker』(Triloka原盤)(→)に、同じ顔ぶれによる当時の未発表のライヴ音源を加えて2枚組としての充実再発版。これは80年代のジャズ界華々しい時のアルバムで、やはり耽美派ロマンチストのアルバムとして人気を博したもの。ただ私はリッチー・バイラークはトリオもの又はソロ・ピアノのアルバムが中心だった為、手にしてなかったので当然今回飛びついたのであった。

 上のメンバーにみるようにランディ・ブレッカー、マイケル・ブレッカー、ジョン・スコフィールド、ジョージ・ムラーツ、アダム・ナスボームと組んだセクステット構成だが、曲によって変わる変動的コンポもの(下のList参照)。
 CD-2のStudio版は、リッチーのオーソドックなピアノ・トリオ(piano,bass & drums)やマイケルとのデュオ(piano, sax)などでそのリリシズムはしっとりと味わえる。

List1List2


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[CD2]は、かってリリースされたアルバムの再発なのだが、バイラーク主導型の曲展開にランディのトランペット、マイケルのサックスが、朗々と歌いあげるバラード・プレイによって抒情的にして哀愁感のある曲に仕上げられている。 バイラークの名曲"Sunday Song"などもマイケルのサックスは見事にバイラーク流にあわせてのバラード演奏で十分に楽しませてくれる。この曲は私にとっては、24年前に来日ソロ・ライブの最後に聴かせてもらった曲で、感動モノなのである。
 更に"Some Other Time "も、そのエヴァンス流がしっかり味わえるバイラークの世界の出来である。
Richie_beirach__c_lutz_voigtlander_
[CD1]は、今回初公開のようだが、スタジオ版とは対照的に、この連中と言ったら叱られそうだが、当時のジャズ・メンの典型的スタイルをセクステットでお互い絶好調と言わんばかしにたたき込んで来て、バイラークのピアノもリリシズムを返上してアグレシッシブに迎え撃つ、この様はそれまでのニュー・ヨーク・ジャズが如何に盛り上がっていたかが窺い知れる演奏が聴ける。
 アルバム・タイトルの"Inborn"は、両方に収録されているが、この曲はバイラークらしい秘めたるロマンチィシズムと、ジャズの展開の楽しさとを両面持っている曲でマイケルのサックスがここでもバイラークのピアノに歩調を合わせつつ、だがしっかりと自己主張もしていて、トリビュートとしての選択は的確な曲である。

 このリリシズムたっぷりのスタジオ版が、ライブ版で知ることが出来るこんなジャズ・スピリット満開で演奏するセクステットの中で作り上げられた事に驚きながら感動できて、この2枚組構成は見事に成功している。まさにジャズ界トリビュート版といっても良い仕上げであった。

(評価)
□曲・演奏 ★★★★★
□録音   ★★★★☆
 
(参考視聴)

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2018年7月22日 (日)

ヨーロピアン・ジャズ・トリオEuropean Jazz Trio来日ライブ

猛暑の中の来日ライブ

Img_1126w しかしこの夏の猛暑は異常ですね。
 その暑さの中、オランダからヨーロピアン・ジャズ・トリオが来日。なんと言っても我々以上にこの陽気には彼らはビックリしているでしょうね。これには敬意を表さなければと、「Cotton Club」を覗いてきました(21日)。なにせ熱くて外には長く居られないので・・・・・。

 オランダのジャズ・ミュージシャン3人で結成されたこのジャズ・ピアノ・トリオ。発足は1988年と言うことなので、なんとメンバー・チェンジはあったとは言え30周年と言うことになる。
 残念ながらこのところニュー・アルバムにお目に掛かっていないので(ベスト盤のようなものはありますが)、どうなっているのかちょっと不安なトリオでした。もともと欧州ジャズのリリカルな因子のあるクラシックからジャズ・スタンダードそして映画音楽、ポップスまでを広くカヴァーして気持ちよく聴かせてくれるトリオであり、来日と言うことでホッとしたと言うのが正直なところ。

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 メンバーのマーク・ヴァン・ローンMarc van Roon(p)、フランス・ホーヴァンFrans van der Hoeven(b)、ロイ・ダッカスRoy Dackus(ds)というのは、1955年から続いている。特にピアニストのマークは、ビル・エヴァンスからの影響が濃く、それも日本では結構人気の一因子でもある。20周年の2009年には日本の歌謡曲や童謡をジャズ化してみせてくれたりで、日本に根強いファンもいるのである。

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 私からすれば、どちらかというと嫌みの無いリラックスして聴きやすいジャズの範疇に入るし、それは刺激性は少ないと言うことになって、強烈な印象というのは実はないのがこのトリオであった。

 そんな抵抗のないところで、今回、取り敢えず来日ライブに参戦して来たのである。このトリオは私にとっては初めてお目に掛かるのだが、なんとなく以前から観てきたような気になるから不思議なトリオ。それだけ親近感があるというと言うところか。
 やはりロイが一番愛嬌がありますね。フランスはあまり表情を変えずの演奏だ。やはりピアノのマークがこのトリオでは重要ですね。彼が最も若いと思うが、今回のプレイでなんとクラシックからの曲が最も生き生きとしていたところが印象的だ。彼のキャリアからして当然なんでしょうね。彼はソロ・アルバムや彼名義のトリオ・アルバムもリリースしている。

 しかしまあこれほど気品を感ずるトリオも珍しい。オーディエンスも何というかお上品に聴いていた。今夜もクラシックからビートルズまでを取りあげてのとにかく好感の持てるライブ演奏であった。ちょっと気持ちの豊かになる一夜でした。

(参考視聴)

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2018年7月18日 (水)

エンリコ・ピエラヌンツィEnrico Pieranunzi 「WINE & WALTZES Live at Bastianich Winery」

エンリコのワイナリーでのピアノ・ソロ・ライブ

<Jazz>
Enrico Pieranunzi 「WINE & WALTZES  Live at Bastianich Winery」
Cam Jazz / Euro / CAMJ7934 / 2018

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Enrico Pieranunzi (piano) played on Fazioli F278
All music by Enrico Pieranunzi

Recorded & mixing engineer Stefano Amerio
Recorded Live at Bastianich Winery (Cividale del Friuli, Italy) on 6 June 2017

  つい最近エンリコ・ピエラヌンツィEnrico Pieranunzi のトリオのアルバム(『Monsieur Claude - A Travel with Claude Debussy』(BON180301))がリリースされたばかりだが、ブログ友エンリコ命の爵士さんお勧めのピアノ・ソロ盤が今度はリリースされた(実際には欧州ではこちらが先のリリースのようだが)。
 イタリアからスロヴェニアとの国境に近いところにあるバスティアニッヒ・ワイナリーで昨年行われたエンリコのピアノ・ソロ・パフォーマンスだ。ヨーロッパに行くと、とにかく立派なワイナリーが各地にあるのだが、あの静かなワインの眠る大空間で行われた演奏と、いやはや洒落ている。そしてピアノはイタリアの誇る「FazioliF278」である。

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(Tracklist)
1. Wine & Waltzes (3:47)
2. Blue Waltz (7:11)
3. Twoliness (4:12)
4. Waltz Today (3:47)
5. Fellini’s Waltz (6:03)
6. B.Y.O.H. (8:29)
7. Waltz Tomorrow (4:21)
8. Flowering Stones (8:51)

  さてその中身は、Tracklistにみるとおりの、欧州クラシック音楽の歴史的なものであるワルツを基調としたエンリコのオリジナル曲群だ。つまり3拍子の円舞曲で、そこにはテンポの良さからの明るさがある。それはこうしたワイナリーにおける曲としては、彼の選曲の世界だろうと想像しているのだが。私としてはもう少し深遠なる世界を実は期待してしまうのであるが。
 ただエンリコは、M2. "Blue Waltz", M5. "Fellini’s Waltz"あたりは既に何回かと演奏してきているもので、どこか憂いがあるところが聴きどころなのかも知れない。
 とにかくクラシック音楽的上品さとその軽い明るさのワルツとくれば、どうも私好みとは別世界なのだが、そんなところからも、M1、M4、M7あたりの意義については私には理解不能。しかしそんな私自身の偏見的世界からしても、M2、M3、M5、M6などには、品格を持ったプレイに宿る哀愁感が描かれて、そのメロディラインの美しさと共に私自身は大いにその価値を感じている。

 究極は、このようなアルバムはジャズ・ピアノという範疇にはいるのか、むしろクラシックの派生と聴いた方が良いのか、私のように音楽学問の無い人間には難しいところだが、エンリコ・ピエラヌンツィの近年の一つの姿であることは間違いない。なかなか彼の演奏能力の技術的高さと同時に品格のあるアルバムであった。

 又、アメリオのピアノの音を知り尽くしての録音に感動だ。このワイナリーは、拍手の余韻を聞いても解るが、かなり研究された音響効果の良好な場として選ばれた可能性が高い。
 ただ、演奏と聴く者の拍手の音の重なる部分はないのであるから、こうゆうアルバム作りに於いて、敢えて拍手を入れる必要があるのかとふと疑問に思ったところであった。

(評価)
□ 曲・演奏 ★★★★★☆
□ 録音   ★★★★★☆

(試聴) Fellini’s Waltz

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2018年7月14日 (土)

この春のキャメルCamelライブ映像版「CAMEL Kanagawa, Japan 5.20.2018」

まだまだラティマーは健闘しています

<Progressive Rock>

[DVD] Camel「CAMEL Kanagawa, Japan 5.20.2018」

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Live at Club Citta', Kanagawa, Japan, May 20th 2018

Andrew Latimer – guitar, vocals, flute and recorder
Colin Bass – bass guitar, vocals
Denis Clement – drums, recorder
Peter Jones – keyboards, vocals

3 つい先日行われたキャメルの”「MOONMADNESS TOUR 2018」日本ライブ”の映像版。取り敢えずはオーディエンス・ショットのブートレグですから多くを期待してはいけない。まあそれでも昔からブートレグに親しんだ私としては、まあプロショットと言う訳にはいかないが、それなりに楽しんでいる。

 とにかく'76年リリースの4thアルバムの『MOONMADNESS 月夜のファンタジア』を完全再現しての”ジャパン・ツアー2018”より、5月20日の最終日公演の模様を納めている。会場は私はこのところ暫くご無沙汰のCLUB CITTA、幸いのことに映像はアンディ・ラティマーを完璧に納められる位置でのショットで、クローズ・アップも良好である。

 思い起こせば、キャメルと言うバンドは、アンディ・ラティマーの哀愁漂う泣きのギターとピーター・バーデンスの軽快で流麗なキーボード、アンディ・ウォードの多彩なドラムスといったところで、美しいメロディと共に適度なスリリングな緊張感のある演奏を聴かせてくれた。そしてプログレ華々しい70年代には、地道な人気を保持していた。
Moonmadness 1980年以降は次第にラティマー主導のバンドとなり、むしろ私個人はそれからのほうが好みに近いのだが、 『MOONMADNESS』(→)はそれ以前のあの彼らの初期のヒット作3rdアルバム『Snow Goose』1975)の直後で注目を浴びた作品だ。キャメルとしてはタイプの移行期の作品でもある。しかし今、こうして全曲ライブでの披露というのは、やっぱりキャメル・ファンが喜ぶからだろう。

(Set List)
(Set 1) : Moonmadness
1. Intro : Aristillus 2. Song Within A Song 3. Chord Change 4. Spirit Of The Water 5. Another Night 6. Air Born 7. Lunar Sea

(Set 2)
8. Mystic Dreams 9. Unevensong 10. Hymn To Her 11. Rose Of Sharon 12. Coming Of Age 13. Rajaz 14. Dingley Dell 15. Ice 16. Mother Road 17. Hopeless Anger 18. Long Goodbyes 19. Lady Fantasy

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 セット・リストを見て解るように、アルバム『MOONMADNESS』全曲披露のファースト・セットに続いて、セカンド・セットではクラシック・ヒット・ソングスを12曲を演じた。アンディ・ラティマーや盟友コリン・バス(Bass)をはじめとするこのところのキャメル復活メンバーは不変で、デニス・クレメント(drums)と盲目のプレイヤー・ピーター・ジョーンズ(keyboards, vocals)の 四人は息ぴったりである。
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 今や、「キャメル」と言うバンドの形をとってはいるが、実はスタート当初とは全く別のバンドで、むしろアンディ・ラティマーのソロプロジェクトみたいなものである。私としてはキャメルは、あの伝説のライブ「PRESSURE POINT」(1984)で終わっている。
 しかしその当時のラティマー主導のアルバム『Stationary Travellar』(1984)から、そしてそれ以降のアルバム『Dust and Dreams』(1992)はじめ『Harbour of Tears』 (1996)などの一連の作品は、初期キャメル以上に私は好きなのである。従って現在はこれで十分と言えば十分。

 アンディ・ラティマーが骨髄線維症で倒れ、骨髄移植という大変な医療を受け、この大病を克服して復活の現在、こうして日本に毎年のように来てのライブというのは夢みたいな話であり、大いに喜びたいというのが私の現在の心境だ。

(評価)
□演奏:     ★★★★☆
□映像・録音:   ★★★☆☆

(参考視聴)

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2018年7月10日 (火)

ヤスクウケ・セクステットJaskułke Sextet 「Komeda Recomposed」

プログレッシブな~格好いいジャズだ!!

<Jazz>
Jaskułke Sextet 「Komeda Recomposed」
CORE PORT / JPN /RPOZ-10041 / 2018

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スワヴェク・ヤスクスケSławek Jaskułke  (作曲、グランドピアノ、アップライトピアノ)
エミル・ミシュクEmil Miszk (トランペット、フリューゲルホルン)
ピョトル・ヘンツキPiotr Chęcki (テナー・サックス)
ミハウ・チェシェルスキMichał Jan Ciesielski(アルト・サックス)
ピョトル・クワコフスキPiotr Kułakowski (ベース)
ロマン・シレファルスキRoman Ślefrarski (ドラムス)

 上のアルバムの演奏メンバーを見て解るとおりセクステットなのだ。ピアノ・トリオ+トランペット、テナー・サックス、アルト・サックスという珍しいタイプ。とにかく私の好きな編成じゃないのだが、聴いてみると結構格好いいジャズを展開している。

Komeda ポーランドが舞台のジャズの話題となると、なんだかんだ言っても、ポーランド・ジャズ史上最高の作曲家クシシュトフ・コメダ(Krzysztof Komeda:1931-1969)(→)と言うことになる。

 そのコメダの曲を楽しませてくれたのは過去にも取りあげたMarcin WasilewskiのSimple AcousticTrio(『Lullaby for Rosemary』(2001))やNBS Trio(『Plays KOMEDA(2010)) とかLeszek Moźdźer(『Komeda』(2011))ですね、そうそうKomeda Project(『Crazy girl』(2006))もあった。

01tr そしてここに又ポーランドの人気ピアニストのスワヴェク・ヤスクウケSławek Jaskułke(←)  によってのコメダの登場となったのだ。
 しかし・・・・それが安易にコメダの美メロディーということに期待したら、なんと一発食らうのは間違いない。ポーランドのジャズとなると今やオラシオ氏の登場となるが、彼のライナー・ノーツを見ても、これは「カヴァー・アルバム」じゃないと強調している。難しい話だが、コメダの名曲を文字通りアルバム・タイトルにある”Re-Composed”つまり”再構築”するという斬新と言えば斬新な内容。まあ原曲はそう多く私は知っているわけでは無いので、完全にここではヤスクウケのオリジナル曲に近い。

(Tracklist)
1. KATO(「Astigmatic」(1965)収録Kattoma、その他より)
2. OXIS
3. NASTIC
4. CRAZY(映画「水の中のナイフ」収録曲Crazy Girl、その他より)
5. SVANTE(「Astigmatic」(1965)収録Svantetic、その他より)
6. ETIC(SVANTEのPart2)
7. SZARO(Szara Koledaより)
8. EPILOG

  こうして見ると、あの名作と言われるコメダ・クインテットのアルバム『Astigmatic』(1965)とか、映画ロマン・ポランスキ監督の『水の中のナイフ』の曲”Crazy Girl”あたりが注目点なんですね。素人っぽい私から見ると”ローズマリーの赤ちゃん”などが最右翼なんだがちょっと違う。
 そして曲はその曲をただなぞるという手法で無く、その血となる部分、骨となる部分をヤスクウスケ流に構築し直してのコメダ独特の短いリフが複数のコメダ曲から取り出して組み上げる手法で、まさに彼自身の曲として再構築されている。成る程これが「Recomposed」という事なんだと解る。

 セクステットのメンバーは結構若くて、これが又ロックとジャズといったジャンルに拘らない世界のコンテンポラリー・ジャズを演じて、流れは静寂性を描いたり、ダイナミックなパワーを見せつけたり、この絶妙にコントロールされた両極の世界はとにかく格好いいのです。特にピアノの流れとドラムスの迫力のリズム(ジャズでも時にはこれだけ叩くのも有りだ)は聴きどころ。不思議な世界を頭に描かせる冒頭のM1." KATO"が典型。
 又ピアノとトランペット、サックスとのインタープレイも奥深い。
 アルバムを通してM1." KATO"からM8. "EPILOG"までで起承転結がきちっと出来ているところもお見事。
  ヤスクウケのピアノがこうしてコメダを自己表現の世界に引っ張り込んだでの新しいジャズ・シーンに打って出た格好で、いやはや驚きのポーランド・ジャズだ。

[スワヴェク・ヤスクスケSławek Jaskułke] 
 1979年1月2日生まれ、ポーランド・プツク出身のジャズ・ピアニスト/コンポーザー。名門カトヴィツェ音楽大学へ進むも退学し、2年間欧州の各地を放浪しながら音楽を演奏。ポーランドへ戻るとサックス奏者のズビグニェフ・ナミスウォフスキに見出され、プロキャリアをスタート。自身のピアノ・トリオやショパンのカヴァー・プロジェクトなど、多彩な活動を展開。かつてはポーランドの人気パンク・ジャズ・ユニット、ピンク・フロイトでの活動経験も。映画音楽やモダン・クラシカルの仕事にも関与。2002年の初リーダー作以来、10枚以上の作品を発表。2017年にピアノ・ソロ作『夢の中へ』(原題:SENNE)をリリース。(ネットに見る紹介内容)

(評価)

□ 演奏・曲  ★★★★★☆
□ 録音    ★★★★★☆

(参考視聴)

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2018年7月 6日 (金)

セルジュ・デラート・トリオSerge Delaite Trio 「SWEET AND BITTER」

何故か心が躍る~ピアノ・トリオを楽しむならこのアルバムだ!!

<Jazz>
Serge Delaite Trio 「SWEET AND BITTER」
Atelier Sawano / JPN / AS162 / 2018


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Recorded, Mixed & Mastered by Francois Gaucher

Sdtrio1Serge Delaite : piano
Pascal Combeau : bass
Jean-Marc Lajudie : drums

(Tracklist)
1. Take Five
2. It Could Happen to You
3. Lover Man
4. Amazonas
5. ’Round Midnight
6. St. Louis Blues
7. Hi Fly
8. Step Lightly
9. My One and Only Love
10. Minor Mishap
11. I Fall in Love Too Easily
12. That’s All

 今年は例年より梅雨が早く明け、猛暑が襲って来ていたのだが、昨日今日は全国的な雨。梅雨の鬱陶しさが戻ってきてしまった。しかしそんな鬱陶しさを吹き飛ばす心が躍るトリオ演奏に浸ることが出来るのがこのアルバムだ。
As084_540x 澤野工房からのリリースで、既にこのトリオは多くのアルバムを蓄積している。私が最近納得したのはアルバム『Comme Bach...』(AS 084)/ 2008)(→)だった。あのバッハの捉え方には驚きでしたが、そのお洒落な発想はさすがフランス人ですね。そして今回のアルバムでもセルジュ・デラートのピアノ・タッチは優美というか、軽快というか・・・・暗さが全くない。これもピアノ・トリオの一つの楽しみ方であることをしみじみと教えてくれる。

 このアルバムは、誰もがよく知ってるM1."Take Five"からスタートするが、これが又4拍子の明るいアレンジが見事で驚かされる。そしてM6." St. Louis Blues"も、なんと心が躍ってくるから不思議。
 M3. "Lover Man"はベース、M4. "Amazonas"はドラムスと、それぞれ役どころをちゃんと持った演奏だ。  
 M9. "My One and Only Love"になって初めてしっとりした優しさのある心の安まる曲の展開となる。あまり躁状態にならないようにと、諫(いさ)められるというか慰められる気分である。アルバム・タイトルの「Sweet and Bitter」は、”甘く快くそして苦く”と言うところか?、しかし幸いにあまり苦さが無いところが味噌。
 M11. "I Fall in Love Too Easily"もしっとりとして、心に優しさと共に安らかさを与えてくれる。

 このアルバムを喩えると、懐かしのメンバーの集まる同級会のバック・クラウンド・ミュージックとして最高です(笑)。リラツクス・ムードが満載だから。
 そしてなかなか録音も楽しさを伝えるトリオのバランスとそれらの音質がお見事である。

S_d_1 セルジュ・デラートSerge Delaiteは、フランス・オーヴェルニュ生まれ。父親はバンドマスターで、その影響か7歳からピアノを始めたらしい。父が主宰するオーケストラに参加したり、後にジョ一ジ・ムラ一ツ等著名なミュージシャンと共演。彼自身のトリオでは何とも言えない快い明るさを振りまき、一方フランスらしいお洒落なジャズが人気で、ヨーロッパ各地を中心として幅広い活動を行なっている。

(評価)
□演奏: ★★★★☆
□録音: ★★★★☆

(参考視聴)

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2018年7月 2日 (月)

(友人から勧められた本)與那覇 潤 「知性は死なない」

平成はもうあと少しで終わる・・・・リベラルの凋落
こんな時代で終えて良かったのか?

 雨の6月末に読んだ本です。
 私はなかなかこの手の本を自分で見つけて読むと言うことが苦手。それは普段は目的が偏って決まっている為にその方面に沿った本しか選べない為です。
 しかし有り難いことにこうして本を薦めてくれる友人が居るということです。そんなおかげで、最近はかなり多方面の本に接しています。

與那覇 潤 「知性は死なない--平成の鬱をこえて
(発行者:吉安章  発行所:(株)文芸春秋 / 2018 )

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 この著者與那覇潤とは私は知らなかった。彼は「日本の存在」ということにかなりの意欲で対峙していた東京大学教養部卒で、同大学院総合文化研究科博士課程を経て(2007年)、愛知県立大学日本文化学部准教授であった。
 この書は、「双極性障害(躁鬱病)」という精神疾患に襲われ彼が、無能化した状態からの再生、そして平成を振り返り現在の状況に彼らの「知性」は何故崩壊と言えるに状態に至ったかを問いながらも、「ポスト平成」にやはり”光”を求める書である。

W_2 與那覇氏は1979年生まれと言うから、私から見れば失礼だがまだまだ若い青年と言える年頃。そして生きてきた時代は主として「平成」である。だから「平成」こそ思想と人格形成の時であった訳で、そんな目から見た貴重な「平成」は何であったかと思い残す気持ちは大きいと思う。それは私のような「昭和」の人間からすれば「昭和」の激動をどう生かしてくれるかとむしろそうした目で見てしまうのであるが。

■ 精神疾患からの再生
 與那覇氏が精神的に調子を崩すに至った過程は主として大学という場であったと思うが、ちらっと見える大学人批判らしきところからも「平成の流れに迎合して行く知性とは?」と言う懐疑心の世界がみえている。彼の精神病下のやるせない悲哀感も伝わってくる中で、療養生活(障害者との共同生活も含めて)下で、今までに経験の無かった世界を眺めるようになったこと、「言語」と「身体」という二つの視点からリベラルの凋落を考察するところに至る話も興味深い。

I0455_03_01a■日本のリベラルの破綻と知性の崩壊
 この書では「平成の年表」も「日本編」「海外編」と分けて記しているが、日本に於いては、細川非自民政権発足(1993)から、村山自社さ政権(1994)、自民・公明連立与党(1999)、小泉純一郎政権(2001)、第一次安倍晋三内閣(2006)、民主党政権(2009)、第二次安倍内閣(2012)と、やはり30年となると大きな変化があったとも言えるが、この過程の中にリベラルの破綻と知性の崩壊の歴史をみることになる。それは昭和の「60年安保闘争」の念頭に置いての「集団的自衛権に反対して政権を倒す」という人たちの運動は、知識人も含めて完敗した現実。

■ コムニズムへの期待は?
 そして世界情勢では冷戦以降の資本主義と共産主義、宗教、民族と広く分析する。マルクスのコムニズムCommunismを「共産主義」と言うので無く「共存主義」と説くところに至る過程も興味深い。

 これは私が薦められて読んだ書であるが、多くの人に読んで欲しい書でもある。

(最後に280頁から)
 私たちはのこりわずか一年で、新しい元号を迎えます。しかしそれがどこまでほんとうに「あたらしい時代」となるのかは、私たち自身がどのように、古い時代をふりかえり、その成果と課題を検討して、なにを残しなにを変えて行いくと決めるのか--すなわち、どのように「知性」をはたらかせるかにかかっています。

(與那覇潤 著書)
『翻訳の政治学 近代東アジア世界の形成と日琉関係の変容』岩波書店、2009年
『帝国の残影 兵士・小津安二郎の昭和史』NTT出版、2011年
『中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史』文藝春秋、2011年
『日本人はなぜ存在するか』集英社インターナショナル、2013年
『史論の復権』新潮新書、2013
『知性は死なないー平成の鬱をこえて』文藝春秋、2018


(参考映像)

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