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2018年12月29日 (土)

アントニオ・サンチェスANTONIO SANCHEZ & MIGRATION 「LINES IN THE SAND」

今年の締めくくりはこれに尽きる!!

<Jazz, fusion, crossover>
ANTONIO SANCHEZ & MIGRATION 「LINES IN THE SAND」
Cam Jazz / Import /CAMJ 7940-2 / 2018


Lineinthesand

Antonio  Sanchez(ds,  voice,  additional  keys), 
John  Escreet(p,  fender  rhodes,  prophet  synth), 
Matt  Brewer(b,  el-b), 
Thana  Alexa(voice,  effects), 
Chase  Baird(ts,  EWI)
Nathan  Shram(viola  on  Travesía  Part  II),
Elad  Kabilio(cello  on  Travesía  Part  II  and  Long  Road)

Migratio

 メキシコ人のアントニオ・サンチェスAntonio  Sanchez、彼は今や最も注目度の高いドラマーだ。その彼の結成するバンド「MIGRATION」が放つ問題作がこれだ。彼はメキシコ人であるが今は移住派のアメリカ人。
Trumpw 今、語るとしたらなんと言っても米国の現状についてであろう。容認できないメキシコとの関係についてサンチェスは訴えている。それは誰が何の為に引き起こしているのかと問うてみれば答えは一つ、トランプ大統領の誕生からの不幸な世情。そしてそれに対峙しているのである。
 彼は自ら書いたライナーノーツで言う「トランプが人々の不安に付け込んみ、デマや憎悪と頑迷に満ちた詭弁で彼らを利用したに違いないと思っている。この国に25年住む間、そんなことをする大統領は見たことがない」と・・・・。そしてここに大統領の政治姿勢に対する憤りと、それによって犠牲になっている人々に想いをよせた心の作品が誕生したのである。

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 メキシコで大々的にトランプ・アンチ・テーゼを掲げたライブを演じたロジャー・ウォーターズは、2017年にトランプはじめ世界の第二次大戦後の反省を忘れた現状を嘆いた『is this the life we really want?』(SICP5425/2017)をリリースした。そして二年間の世界ツアー「Us+THEM」ライブを展開、圧倒的支持を得た。それから始まって足掛け二年、ここに来て、立ち位置は異なっているも、アントニオ・サンチェスはやはり2017年作品の『Bad Hombre』(CAM Jazz/ITA/CAM7919)に続いて、更にトランプ批判作品のこの『Lines in the Sand』を登場させた。両者の作品の充実度は群を抜いている。
 この年末に来て、今年はこのアントニオ・サンチェス作品をもってしてそれ以外に締めくくれる術が無い。こうした群を抜いた充実度の高いアルバムの出現は、憂うべき世情に彼らを奮い立たせた結果でなのある。

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1. Travesía Intro (1:23)
2. Travesía (Part I - Part II - Part III) (20:08)
3. Long Road (6:57)
4. Bad Hombres Y Mujeres (8:43)
5. Home (6:17)
6. Lines In The Sand (Part I - Part II) (26:15)

▶ M1."Travesía Intro"イントロから不穏の雰囲気に包まれる。ここまでSEでやるかという冒頭からパトカーのサイレン、私の耳では聞き取れないが、紹介によると、大衆の“This is Wrong”“ Shame on You” といった人々の叫びが収録されている不穏な現場。サンチェスの危機感が表現されている。
▶ M2. "Travesía (Part I - Part II - Part III)"M6."Lines In The Sand (Part I - Part II)"の2曲はそれぞれ20分、26分という壮大な組曲。M2は静かに迫る不安な世界、M6は心に誓う決意の激しさと、悩める心の不安定感を感じさせる。
▶ M3. "Long Road" 怒り、憤りというよりは哀しみに満ちている。そして不安を抱きながらの長い道程を歩む姿、そこには意欲の表現が伺える。
▶ M4. "Bad Hombres Y Mujeres"強烈なアクセントとなる曲。彼らのパワーが全開する。圧巻のユニゾンとアンサンブル、そのスピード感あるスリリングと言うか緊迫感ある展開は見事。サンチェスのドラミングが炸裂。
▶ M5. "Home " アルバム「Bad Hombre」に登場した曲の再登場。静かに響くベースの調べから、Alexaのヴォーカルが哀しく美しい曲。シンバルとトラムスが危機感を描く。

 全編、静と動、哀愁と悲惨、ドラマチックにして深遠な世界、圧巻である。

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  とにかく、ジャズ畑(このアルバムは、そのジャンルは明らかに越えているが)としては珍しい壮大にしてアルバム全編一貫してのコンセプト版。前アルバム『Bad Hombre』に飽き足らず、ここにその延長線上といってよい自作自演作品で迫ったサンチェスに敬意を表したい。

 アントニオ・サンチェスは1971年生まれ、47歳ということになる。彼のリ-ダ-・アルバムは7を数えるが(↓)、ドラマーとしてPat Methenyと多くのアルバムを残し、Enrico Pierannunziとのアルバムも多い。その他Chick CoreaやGary Burtonとも共演している。更にドラマーというだけでなくコンポーザーとしての能力も評価されているのだ。どちらかというとラテン系の影響を受けているjazzだとは思うが、Rockのニュアンスもあり、Fusionと言った方が良いのか、死語ではあるがCrossoverといったところだ。彼のドラミングは緊張と緩和の絶妙なバランスが評価され今やそれは現代最高峰と言われている。(彼を取りあげたのは初めてであるのでリーダー・アルバムを下に記す)

(Antonio Sanchez : Leader Albums)
Migration (CAM Jazz, 2007)
Live in New York at Jazz Standard (CAM Jazz, 2010)
New Life (CAM Jazz, 2013)
Three Times Three (CAM Jazz, 2015)
The Meridian Suite (CAM Jazz, 2015)
Bad Hombre (CAM Jazz, 2017)
Lines In The Sand (CAM Jazz, 2018)

 今年は「地球規模の不安定」、「人間社会構造の不安定」が現れた一年であった言える。このようなアルバムの出現をしっかりかみしめ一年の締めくくりとすべきである。
 来年こそ、我々に課せられた課題は大きい。
 皆さん、良いお年をお迎えください。

(評価)
□ 曲・演奏・コンセプト : ★★★★★ 
□ 録音          : ★★★★★☆

(視聴)

*

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コメント

風呂井戸さん,こんにちは。TBありがとうございました。

このアルバムが発露する怒りをリスナーがどう受けとめるのかというところは,非常に関心がある訳ですが,こうした作品を作らずにおけなかったSanchezの心情は十分理解できます。それほど,世界はどんどんおかしな方向へ向かっていますが,トランプのポピュリズムはいつか崩壊するということを期待したいと思います。

ということで,こちらからもTBさせて頂きます。

よいお年をお迎え下さい。

投稿: 中年音楽狂 | 2018年12月29日 (土) 14時45分

中年音楽狂さん、コメント・TB有り難うございます。
 Sanchezのこようなアルバムは、憂うべき世情を感じ取らざるを得ない感覚の持ち主あるが故に奮い立っての力作を作り上げたと言うことなんでしょうね。
 哀愁・緊張そして静と動のバランスの採れた作品の素晴らしさに感動です。
 米国はじめ日本の現状に憂いを感じつつ今年はこれで締めくくりたいと・・・思うのです。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2018年12月29日 (土) 17時38分

風呂井戸さま、トラバをありがとうございました。

このアルバムも素晴らしかったです。
サンチェスはもちろん、アレクサの活躍が素晴らしいとおもいました。

ミュージシャンが、自分の喜怒哀楽を音楽で表現していくことは性だとおもいますが、できれば、このような負の感情がない世界になれほしいです。

とらばしますね。

投稿: Suzuck | 2018年12月31日 (月) 10時51分

Suzuckさん、こちらにお出まし有り難うございます。
私はこうしたアルバムの出現はある意味でのロック魂に通じていると評価してしまいます。曲自身も単なるJazzと言う世界で無くFusionと言うかRockにも通じていてお見事と言いたいです。
Thana Alexaはちょっと気になる存在ですね。ここでもバンドの構成する1楽器と言ってもよいヴォーカルを披露していますし、又Homeの歌い込みも見事です。彼女はクロアチアにおける社会情勢も影響しているのか、若干陰影もあっていいですね。
 私は歳をとってもサンチェスのエネルギーには感動してしまいます。
 今年はいろいろと有り難うございました。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2018年12月31日 (月) 12時10分

かなり遅れての入手になります。

結果、ジャンルを超えてけっこう素晴らしいアルバムに出会えました。まあ、彼にとってはこの怒りを表現するのにやりたい方向というのか、自然に出てきたのではないかと思いますが、ドラマーにしては完成度が高いサウンドですね。これが昨年のベストにかかるかどうか、タイミングを逃してしまいました。

TBさせていただきます。

投稿: 910 | 2019年3月 4日 (月) 18時48分

910さん、コメント有り難うございます。
日頃のアルバム評価を見させて頂いてますが、このサンチェスものの910さんの評価はどんなものかと・・・ちょっと興味がありました。私のようにプログレッシブ・ロック派からは全く自然に聴けるんですが・・・。
そうそう、Thana Alexaも気になりますね。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2019年3月 5日 (火) 17時31分

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