エミール・ヴィクリキー Emil Viklický Trio 「BALLARDS AND MORE」
完全にピアノ主導の東欧の香りあるジャズ・トリオ
<Jazz>
Emil Viklický Trio 「BALLARDS AND MORE」
ARTA / CZE / F15161 / 2013
Emil Viklický / piano
František Uhlíř / double bass
Laco Tropp / drums
チェコのもう大御所と言える70歳になるエミール・ヴィクリツキー Emil Viklickýのピアノによるトリオ・アルバムを取り上げる。近年は彼名義のトリオによるニュー・アルバムはなく、従ってこれは2008年の『TRIO'01』というアルバムからの4曲を収録し、新たな曲の追加による再編成した2013年の特別版アルバムである。
しかしここにきて彼の新録ニュー・アルバムが出た。それはやはりチェコの大御所ベーシストのとのデュオ・アルバムで『MORAVIAN ROMANCE』(2019)(→)だ。久々のリリースでいずれ詳しく取り上げたい。
とにかくバークリーに学び、昔の分裂前のチェコスロヴァキアでのアマチュア・ジャズ・フェスティバルの最優秀ソリスト賞をはじめ各種の賞を勝ち取り、クラシック畑での活躍もある。更に映画・舞台の音楽制作に携わったりというチェコ音楽界重要人物であり、是非アルバムを通して聴いておきたいという事でこれは入手したアルバムである。
(Tracklist)
1. ALWAYS AND FOREVER / Pat Metheny 4:00
2. DEDICATED TO YOU / Sammy Cahn, Saul Chaplin, Hy Zaret 5:27
3. WHEN THE SUN COMES OUT / Harold Arlen, Ted Koehler 5:10
4. CORAL / Keith Jarrett 4:00
5. I FALL IN LOVE TOO EASILY / Jule Styne, Sammy Cahn 5:34
6. ASPEN LEAF / Emil Viklicky 8:18
7. BUHAINA, BUHAINA / Ray Brown 7:18
8. WINE, OH WINE / Emil Viklicky 13:34
9. SONG FOR JANE / Frantisek Uhlir 4:37
なんと言っても、大戦後長年共産圏であったチェコスロヴァキアである。米国とは一線を画してきたわけであるが、ジャズの心はしっかり育んできており、しかしそんな環境から彼らの独特なジャズを作り上げてきたと言って良いようだ。なんといってもクラシカルな響きと東欧の香りが融合した一種独特のピアノ・トリオ作品と言って良い。昔共産圏時代にプラハに仕事で訪れたことがあったが、なんと若者は夜にはクラブに集まって、ピンク・フロイドのアルバム「THE WALL」からの"Another Brick in The Wall(p.1)"を歌い上げていてビックリしたが、彼らの心の中では欧州自由主義圏にかなり寄っていたことが解る。
このアルバムもかなり洗練されたものに仕上がっている。タイトル通り新旧のバラードを、ヴィクリッキー(→)のピアノ主導でオリジナリティ溢れる演奏を展開している。キース・ジャレット、パット・メセニー、レイ・ブラウンらの往年の名曲を演じていることからもその対象の広さが感じられるところだ 。一方彼のオリジナル曲もしっかりと組み込んでの特別版として仕上がっているのだ。
冒頭にパット・メセニーのM1."Allways and Forever"が登場するが、如何に東欧の雰囲気に塗り替えてしまうところは、さすがのベテランの演ずるところだ。
彼のオリジナル曲としてM6."ASPEN LEAF" がいいですね。比較的硬質な音のピアノですが、どこか優しく哀愁帯びた響きが最高だ。
又、寺島靖国はアルバム「For Jazz Ballad Fans Omly Vol.1」でM5."I FALL IN LOVE TOO EASILY"を取り上げている。たしかにこの曲でのピアノは美しく、そしてユッタリと詩的な心に訴える世界に、ベースとともに導かれる。
戦後の苦難な中に、ジャズをめざして1977年にアメリカに渡って勉強したという心意気から始まっての人生をかけての音楽界に生きてきた男の味は、そう簡単には真似できない味が満ち満ちているのである。
(評価)
□ 曲・演奏 ★★★★☆
□ 録音 ★★★★☆
(視聴) "ASPEN LEAF"
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