エンリコ・ピエラヌンツィ Enrico Pieranunzi Trio 「NEW VISIONS」
ロマンティックな哀愁とスリリングなダイナミックな演奏と
・・・・トータル・アルバムとして聴くに意味がある
<Jazz>
Enrico Pieranunzi Trio 「NEW VISIONS」
Storyville / IMPORT / 1018483 / 2019
Recorded March 10,2019 at The Village Recording, Copenhagen
Enrico Pieranunzi(p)
Thomas Fonnesbaek(b)
Ulysses Owens Jr.(ds)
Recorded March 10, 2019 at The Village Recording, Copenhagen
Produced by Enrico Pieranunzi and Thomas Fonnesbæk
Executive producer: Christian Brorsen
Mastering: David Elberling
Recorded and Mixed by Thomas Vang
Design: FinnNygaard.com
Photos: Gorm Valentin
Liner notes: Christian Brorsen
Thanslation: Steve Schein
Financial support: MPO & Kjeld Büllow
(Storyville 1018483)
イタリアのもうピアノの巨匠とも言えるエンリコ・ピエラヌンツイ(1949年ローマ生まれ)のメンバーを一新してのピアノ・トリオ作品。本作はデンマークのStoryvilleレーベルからのリリースだ。今年の録音である。場所はコペンハーゲン、そんなことから実質的なリーダーはベースのトーマス・フォネスベックだったのかもしれないという説もあるが、いずれにしてもピエラヌンツィのピアノとの相性も良いようで、このアルバムは両者がそれぞれの曲を提供しつつ、又トリオとしての3人によるオリジナル曲がアルバムの骨格を造っている。
とにかくピエラヌンティのややおとなしめの曲と対比的にフォネスベックの曲がダイナミックなところもあって、なかなか飽きさせないアルバムとして仕上がっている。
(Tracklist)
1. Free Visions 1 (Pieranunzi-Fonnesbæk-Owens Jr.) 3:25
2. Night Waltz (Enrico Pieranunzi) 3:20
3. Anne Blomster Sang (Enrico Pieranunzi) 6:47
4. You Know (Enrico Pieranunzi) 6:35
5. Free Visions 2 (Pieranunzi-Fonnesbæk-Owens Jr.) 2:03
6. Free Visions 3 (Pieranunzi-Fonnesbæk-Owens Jr.) 4:06
7. Alt Kan ske (more Valentines) (Pieranunzi-Fonnesbæk-Owens Jr.) 6:46
8. Free Visions 4 (Pieranunzi-Fonnesbæk-Owens Jr.) 4:08
9. Brown Fields (Thomas Fonnesbæk) 5:07
10. Dreams and the morning (Enrico Pieranunzi) 4:13
11. One for Ulysses (Enrico Pieranunzi) 4:40
12. Orphanes (Thomas Fonnesbæk) 5:10
上のように、収録12曲の内、ピエラヌンティの曲が5曲。フォネスベックの曲が2曲。3人による曲が5曲という構成だ。やはりピアニストとしてのピエラヌンティの曲は多くなるのは解るが、特徴はトリオ三者による"Free Vision"(自由構想 ?)と銘打った曲が4曲と多いと言うことだろう。
アルバム・タイトルの「NEW VISIONS」と言うのが意味深で、"新しい構想"、"新しい展望"、"新しい幻影・光景"と言ったところなのだろうか。
ドラマーのオウエンスJrも、ピエラヌンティの静かな曲では繊細に、三者の共作曲に於いては即興入りの結構ダイナミックに演ずるところがありなかなか聴くに飽きない。又フェネスベックのベース・ソロもそれなりに取り入れられていて聴かせどころが盛り込まれ、ピエラヌンティ・ワンマン・トリオというところにはなく、三者バランスのとれた意欲的なトリオ演奏である。
M1."Free Visions 1" は、リズム隊が活発でテンションの高い演奏からスタートしてピアノが同調してゆく形をとっている。これは所謂ピエラヌンティの叙情的世界とは違って新鮮なところを狙っているところが見える。まさに"新しい幻影"といったところか。
そしてそれに続いてM2."Night Waltz"一転してのピエラヌンティの夜の華やかさを描くワルツ、そして彼の曲らしいM3." Anne Blomster Sang"に流れ、M4."You Know"で、静かに説得力のあるやや暗めの沈静的な世界をピアノの美で描く。
そうかとしていると再びM5."Free Visions 2"、M6."Free Visions 3"はこのアルバムの大切な骨格の三者の前衛的なメロディ・レスの硬質アクションが展開。
このように美メロディーのロマンティックな哀愁感をしっとり聴かせ、今回のテーマである4曲の"Free Visions"では、圧倒的ダイナミズムとスリリングな即興を交えた硬質アクションを展開して、とにかく緩急メリハリの効かせた躍動的世界を形作っている。ドラムス一つとっても繊細なタッチと迫力ある重量級の音が、時に現れ時に変化して面白い。
ここまで来ると、このトリオがアルバム・タイトルを「NEW VISIONS」とした意味が十分理解できるアルバムとなっているのだ。従ってピアノの主役性は失ってはいないが、ベース、ドラムスがかなりその持ち味を心置きなく発揮している様が、曲の重きに貢献している。
さらにサービス精神も旺盛で、M11."One for Ulysses"では所謂近年のヨーロッパ的でないスウィンギーな展開まで見せてくれている。このあたりは芸達者というところか。
「静」「動」、「暗」「明」、「沈着」「躍動」、「軽」「重」が交錯するなかなかレベルの高いところでのトリオ演奏を目指していて見事と言いたい。
音質も録音法によるものか、ピアノ、ベース、ドラムスがそれぞれくっきり見えていてこの点も評価に値する。ちょっと前進のあるアルバム作りで、トータル・アルバムとして聴くところに意味がある。90点の高評価としたい。
(評価)
□ 曲・演奏 ★★★★★☆
□ 録音 ★★★★★☆
(試聴)
*
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コメント
最新作ですね。同じベーシストのトーマス・フォネスベックとのデュオの「BLUE WALTZ」(2018)もなかなかいいです。 過去もそうでしたが、ピエラヌンツィ、ベーシスト選びがなかなかうまい。
投稿: 爵士 | 2019年12月25日 (水) 16時36分
爵士さん、コメントどうも有り難う御座います。
このトリオ、なかなかやるなぁーーと言う感じです。聴いてみてください。
トリオものが中心で、「BLUE WALTZ」はスルーしてましたが、そうですか、良かったですか。聴いてみたいです。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2019年12月26日 (木) 09時51分