ロジャー・ウォーターズRoger Waters 「PROJECT K.A.O.S.」検証
「RADIO K.A.O.S.」の完全版スタジオ・アルバム
<Progressive Rock>
Roger Waters 「PROJECT K.A.O.S.」
Reissue, Unofficial Release / Jpn / 2017
Roger Waters & Bleeding Heart Band
Mixed by Chad Hendrickson
しかしロック・アルバムといっても、コンセプト・アルバムという世界を構築してきたロジャー・ウォーターズの関係するところでは、今でも本人以上に、ファン仲間ではトータル・アルバムとしての作品への思い入れは大きい。かってピンク・フロイド時代の映画「モア」のサントラ音楽に提供したため崩壊したピンク・フロイドの組曲「ザ・マン」「ザ・ジャーニー」を未だに求めたり、又アルバム『ウマグマ』(1969)に納められている"Careful With Tfat Axe,Eugene"と、映画「砂丘」に登場するピンクク・フロイドの曲"51号の幻想"の関係、そして"若者の鼓動"、"崩れゆく大地"の2曲も含めての世界。更に映画「2001年宇宙の旅」とアルバム『おせっかい』の曲"エコーズ"との関わり合い。更にリイッシューされたアルバム『ファイナル・カット』では、曲"when the tigers broke free"追加され完成させたりと、話は尽きない。
これらはコンセプト・アルバムという世界に起こる不思議な現象で、更に2000年以降もロジャー・ウォーターズのソロ・アルバムにおいてもこれは起きているのである。
まずは「ザ・ウォール・ライブ・ベルリン」では最後の締めくくりの曲に、アルバム『RADIO K.A.O.S.』(→)の"The Tide Is Turning"が採用され、アルバムどおり演じてきたコンセプト作品「ザ・ウォール」の曲にソビエト崩壊の時代の変化をオーバー・ラップさせ、喝采を得た。
そしてここで取り上げるは、彼のソロ・アルバム『RADIO K.A.O.S.』である。このアルバム・リリースは1987年、彼のソロとしての腹づもりが固まったときである。バンド名も当時は"Roger Waters &Bleeding Heart Band"として活動した。それはこの前年にリリースされた長編アニメーション映画『風が吹くとき』のサウンド・トラック制作に力を注いだ時からだ。当時彼には世界冷戦下の核戦争の恐怖を中心としたもともと持っていた"反戦思想"に関心は高く、前ソロ作『ヒッチハイクの賛否両論』は内に向けた葛藤であり、それから今度はこのような外に向けたエネルギーの発露でもあった。
しかしこのアルバム『RADIO K.A.O.S.』は、ウォーターズの求めていたコンセプト・ストーリーを表すには実は不十分に終わってしまっていた。当時CD時代の幕開けにそってLPサイズにはこだわらない長編を彼は企画して曲も作っていたが、レコード会社は40分少々のLPサイズにこだわったため、大きく削っての作品となってしまっていたのである。そして一部の曲は先行した映画『風の吹くとき』のサントラに提供していたのである。
そこで既にリリースされたアルバム『RADIO K.A.O.S.』を本来の姿に完成させようという動きがあって、まずは2000年に『PROJECT K.A.O.S.』が ライブ音源を中心に造られた。(参照 : 「ロジャー・ウォーターズの世界に何を見るか」)
しかしその後はスタジオ録音版を収集して2017年には完成版『PROJECT K.A.O.S.』(→)が登場し、今にしてブートレグ界では持てあまされている。それがここに取り上げたリイッシュー版の『PROJECT K.A.O.S.』の原型である。
もともとこのアルバムはウォーターズの反核戦争思想をベースにしての人の交わりを描いたアルバムであるが、彼の"自己を見つめる世界"、"社会をみつめる世界"のどちらかというと後者に当たる。そしてその数曲の追加収録によって、コンセプトが更に明快になってゆくのである。
(Tracklist)
1. Get Back To Radio 4:51 *
2. Radio Waves (Extended) 6:57
3. Who Needs Information 5:56
4. Folded Flags 4:27 *
5 .Me Or Him? 5:17
6. The Powers That Be 3:57
7. Going To Live In LA 5:38 *
8. The Fish Report With A Beat 1:49 *
9. Sunset Strip 4:46
10. Molly's Song 3:11*
11. Home 6:00
12. Four Minutes 4:00 13
13. The Tide Is Turning (After Live Aid) 6:16
14. Pipes And Drums 1:30 *
(*印 新規収載)
このアルバムは上記のように6曲が新規収録されていて、オリジナルが41:24分であったものが、なんと65:03分というストーリーを充実したアルバムになっている。注目はM1."Get Back To Radio"、M7."Going To Live In LA"、M10."Molly's Song"などが上げられるが、ジム・ラッドのセリフの充実や、話の主人公ビリーの新規セリフも入って、コンセプト・ストーリーがかなり解りやすくなっていると言うのだが・・・英語の理解力不足で少々残念。
もともとストーリーとそのコンセプトは・・・
主人公ビリーは植物人間的な存在、兄の擁護で生活。世界中に流れるラジオ電波(Radio Waves)と交信出来る超能力を持つことに気づく。様々な電波と交信している中で、電波を通じて社会や人間を操ろうとする権力者の存在に気付く。ビリーの抵抗は始まり、革新的試みが感じられるラジオ局「Radio KAOS」に接触。そして、DJのジムと共に世界に向けて平和のメッセージの発信を試みる。第二次大戦中の原爆開発プロジェクト「マンハッタン計画」やレーガン大統領、サッチャー首相ら、当時の政治家を交えながら、核の脅威が描かれる。物語の終盤では、ビリーの超能力は政府のスーパーコンピュータを操作できるほど強力になり、核兵器を制御して世界の混乱を納めることになる。
既存のマスメディアの批判を試みつつ、更に「Radio K.A.O.S.」という仮想媒体を通して多くの社会的メッセージを発信しているアルバム。ピンク・フロイド在籍時のラスト・アルバム『ファイナル・カット』(1983年)の続編的存在で、マーガレット・サッチャーやロナルド・レーガンを実名で批判する。また、核兵器廃絶も強く訴えるものだ。ラストのM13. "流れが変わる時〜ライブ・エイドが終わって〜"では、想いもしなかったソ連の崩壊という社会現象から平和的で暖かなメッセージが歌われ一つの収束をするところは一つの救いでもある。
このアルバムは、当時、"ピンク・フロイドの存続・所有権問題"の中での一つの戦いでもあったウォーターズは、ライブでもエネルギーたっぷりの展開を見せ、音楽的にも従来のフロイド・タイプをただ継承するので無く、むしろ一歩進めたことからも歴史的に興味深いアルバムである。更にそのコンセプトの完全化を期待するファンも多く、このような完全版が造られることは実に興味深い。
当時の状況の中でのウォーターズのその姿には更に興味深いところがあるため、それぞれの新規収録曲の内容検討しながら、この完成盤の検証をいずれ又もう少し深入りしたい。
(評価)
□ 収録曲・演奏 ★★★★★☆ (完成度を高めた努力を評価)
□ 録音 ★★★★☆
(参考「Radio K.A.O.S.」の多彩なメンバー)
Roger Waters – vocals, acoustic and electric guitars, bass guitar, keyboards, shakuhachi
Graham Broad – percussion, drums
Mel Collins – saxophones
Nick Glennie-Smith – DX7 and E-mu on "Powers That Be"
Matt Irving – Hammond organ on "Powers That Be"
John Lingwood – drums on "Powers That Be"
Andy Fairweather Low – electric guitars
Suzanne Rhatigan – main background vocals on "Radio Waves", "Me or Him", "Sunset Strip" and "The Tide Is Turning"
Ian Ritchie – piano, keyboards, tenor saxophone, Fairlight programming, drum programming
Jay Stapley – electric guitars
John Thirkell – trumpet
Peter Thoms – trombone
Katie Kissoon, Doreen Chanter, Madeline Bell, Steve Langer & Vicki Brown – background vocals on "Who Needs Information", "Powers That Be" and "Radio Waves"
Clare Torry – vocals on "Home" and "Four Minutes"
Paul Carrack – vocals on "The Powers That Be"
Pontarddulais Male Voice Choir - chorus
(参考視聴)
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コメント
コレ、オフィシャル出てほしいですよねぇ。デラックス版で出してくれればとも思いますが。
さて、年末ギリギリになってしまいましたが、大人のジャズ気配と知性溢れるロックネタ。年と共に味わい方が変化しつつある中、こうしてハッとする切り口が斬新。思えばネットもブログもそういう刺激が楽しくて続いているので、今でもその刺激を味わえる数少ないブログ仲間さんは貴重です。
本年もお付き合いいただきありがとうございます。来年もまた、大人のジャズとロックでお付き合いください。
投稿: フレ | 2019年12月31日 (火) 22時03分
フレさん、こんばんわ、コメント有り難う御座います。もう今年も後少々ですネ・・・ロックは一年殆どフレさん頼りでした。私は偏っているためにかなり助かりました。来たる年もよろしくお願いします。
この「RADIO K.A.O.S.」は、ロジャー・ウォーターズの意地と戦いのアルバムでもあったわけで、是非ここに来て本人によって完成させて欲しいですね。
私はロックで燃えて、ジャズで癒やす生活をしています。
それではフレさんにとって迎える新年がよい年でありますように。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2019年12月31日 (火) 23時08分