ミクロス・ガニ・トリオ Miklós Gányi Trio 「Retrospective Future」
新感覚のピアノ・トリオを目指して・・「回顧的未来」の意味は ?
<Jazz>
Miklós Gányi Trio「 Retrospective Future」
Atelier Sawano / JPN / AS168 / 2020
Miklós Gányi (piano)
Péter Oláh (bass)
Attila Gyárfás (drums)
私にとっては初めて知るピアノ・トリオだ。澤野工房がヨーロッパのピアノ・トリオを中心にアルバムのリリースを展開しているが、今や音楽業界とくにヨーロッパではCDリリースは下火の状況であり、そんな中で、ハンガリーのピアニストのこのミクロス・ガニは自ら澤野に売り込んできたという。
しかしその評価は良好で、2017年にスタンダード曲限定という制約の中で『Beyond the Moment』(AS157)がリリースされ、そして晴れて2019年になってオリジナル曲を加味してのアルバム『The Angle of Reflection 』(AS166)(→)がリリースされることになった。更にそれがそれなりの評価があったと言うことだろう、日本でのライブが行われ、更にこの第三作目のアルバム『Retrospective Future』がリリースされたという経過である。
(Tracklist)
1. Majority
2. Get Lucky
3. Estate*
4. Continuum
5. Fragile
6. 'Round Midnight*
7. One For P.B.
8. Wicked Game
9. Overjoyed*
10. Body and Soul
(*Piano Solo #3,6,9)
このアルバムにはトリオ演奏7曲、ガニのピアノ・ソロ3曲という構成で、又オリジナル曲は2曲に止まっていてその他はカバー曲である。
冒頭M1に"Majority"というオリジナル曲を配して、彼ら自身のピアノ・トリオというものの解釈をもって我々に迫ってくる。これはユーロ独特の美旋律による哀愁の曲というのとは全く異なっていて、むしろトリオのアンサンブルを全面に出しながらも快適なテンポで、ピアノ、ベース、ドラムスがそれぞれソロ展開を取り入れつつ主張する演奏パターンをみせ、これはちょっと一筋縄では行かないぞと思わせるのである。
大体アルバム・タイトルが「回顧的未来」というところが意味深で、スタンタード曲とオリジナル曲のギャップをどうこなすかというピアノ・トリオとしての意気込みが感ずるところだ。
しかしM3." Estate"をガニがソロ演奏するというところに、なるほど一つの旋律の美学をはらんでいることが見える。しかし決して単純なカヴァーでなく、その編曲は今まであまり聴かない面白いパターンで聴かせてくれる。この曲は私の好きな曲(参照 http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2019/09/post-668808.html)であるので多くの演奏を聴いてきたので比較できるのだが、いかにも新感覚ジャズを求めていると言う世界だ。
M4. Continuum", M5"Fragile" は、やはりそこにはピアノの美旋律によるピアノ・トリオとしての形はしっかり築いている。
M6."'Round Midnight" はモンクの曲だが、ピアノ・ソロでゆったりと演じて心地よい。
M7."One For P.B." はオリジナル曲で再び新感覚ジャズに迫ろうとする。M8."Wicked Game"は美しく優しい展開を見せ、このような曲の配置はメリハリがあって上手い。
M9."Overjoyed" のピアノ・ソロ演奏も単純な音に流さない技法を聴かせて自己主張するところが聴きどころ。
こんな流れのアルバムであって、すぐ飛びつく名盤というのでなく、何度も聴くに従って味が出てくるという不思議なアルバムでもある。
ピアニスト・ミクロス・ガニは、1989年プダペスト生まれというから、なんとまだ若き30歳。5歳よりバイオリンを習い、その後ピアノに転向、わずか12歳で権威あるコンクールで優勝したという。クラシックを学んだが、高校時代からジャズに傾倒していったという経過。近年、澤野に売り込みそれなりの評価を受けたというところ。彼らの写真をみると特にガニは30歳とはおもえない貫禄があって、むしろそのあたりと感覚の新鮮さのギャップが面白い。彼のピアノは意外に単純にゆかない早引きと余韻の残し方の世界が印象に残る。
(評価)
□ 曲・演奏 ★★★★☆ 85/100
□ 録音 ★★★★☆ 80/100
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コメント
写真はHyougoクリスマスジャズフェスのしゃっしんのようですね。ガニの右後方、前から4列目で聴いていました。たしかに、すぐに飛びつくようなピアノではないかもしれません。おっしゃるとおり、じわっと来るような気がします。
投稿: 爵士 | 2020年1月21日 (火) 23時08分
爵士さん、今晩わ、コメントありがとうございます。
今や、ユーロではCD時代から、次の時代に動いているようで、CD制作もままならないようですね。
この会場でお聴きになられたのですね。それなりの音楽の学問のあるメンバーなんでしょうね。中身はいわゆるジャズの形にとらわれず、暗中模索しつつも自己のパターンは既に築いているようにも聴き取れました。「回顧的未来」という感覚が良いと思っています。これからの健闘を期待したいですね。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2020年1月22日 (水) 19時37分