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2020年2月21日 (金)

須川崇志Banksia Trio 「Time Remembered」

スリリングにしてミステリアスな世界の構築

<Jazz>

Takashi Sugawa Banksia Trio 「Remembered」
DAYS OF DELIGHT / JPN / DOD005 / 2020

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林 正樹 (piano)
須川 崇志 (bass)
石若 駿 (drums except 6)

Recorded at Sound City Setagaya Studio on 31 July 2019

 Marc Copland話から発展して、ozaさんからご示唆頂いたアルバム。日本のピアノ・ジャズ・トリオものとしてはどうしても小曽根真となりがちな私だが、どうもその他は意外に多いのが一世代前のアメリカン・ジャズ世界、それがなんとも私には馴染めないで来ているのだ。しかしこのアルバム、こんな現代的センスのあるピアノ・トリオであることには驚いているのだ。リーダーはベーシストの須川 崇志だが、完全なピアノ・トリオのスタイルを守りながらの即興がらみのトリオ演奏は新鮮だ。そして重要なのは知的で美しい林正樹のピアノ、又石若駿の演ずるは繊細にしてダイナミックなドラミングの世界である。

Ts1 (Tracklist)

1. Time Remembered
2. Yoko no Waltz
3. Nigella
4. Banksia
5. Under The Spell
6. Lamento (p & b duo)
7. Largo Luciano
8. Yoshi
( S.Ishikawa : 2, 7, 8 /  M.Hayashi : 3 / T.Sugawa : 4, 5, 6)

 収録曲は上のような8曲、M1."Time Remembered"はビル・エヴァンスの曲で、それ以外は全て彼らのオリジナル曲。それはライナーによると、録音前日や当日の朝に書かれた曲をはじめ収録曲の半分はほぼお互いの初提出で演奏されたというのだから驚きである。この収録内容は、3人のこれまでに築き上げられた演奏技術によって、ここに集約されて作り上げられた曲であるというところのようだ。

 しかし、このオープン曲のアルバム・タイトル曲でもある"Time Remembered"は、繊細なシンバルの音から入って・・・・所謂エヴァンス美学とはまた一歩異なった世界観を構築していて見事である。私はこれを聴いて是非アルバムを聴き通したくなったのであった。アルバムの帯に平野暁臣のライナーからの言葉"須川崇志と石若駿が紡ぎ出すうねりのなかを林正樹がリリカルに駆け抜ける"まさにこのタイプなのだ。私が聴くエヴァンスのこの曲はカヴァーでありながら彼らの作り出すものは、今演じている彼らそれぞれのセンスから生まれるインプロヴィゼーションが加味され、それが有機的に結合してゆく流れが手に取るように聴けて、そこに現代的な新鮮さが加味されていて好感度が高まるのだ。
  私の聴くエヴァンス自身のこの曲演奏は、72年のパリ・ライブものだが、それは彼のピアノの美しさとその世界に並ぶベースの世界など協調の美が満ち満ちているが、このBanksia Trioは、ベース、ドラムスの疾走感が加わってトリオのバトル感覚のスリリングさが生まれていることだ。エヴァンスものの取り扱いは難しいと思うが、彼らの意志が感じられて頼もしい。

Triow

 冒頭で彼らの意志を示され、残る彼ら自身のオリジナル曲に入るのだが、M3."Nigella"は録音前日に出来たという林正樹の曲だが、これはむしろスリリングな展開の後の心のゆとりを謳歌するが如きの展開で三者のつながりが見事。
 M4."Banksia "は静かなピアノに始まり、次第にベースの主導に入り、次第にスリリングなドラムが絡んでインタープレイの妙を描く異世界に突入。
 M5." Under The Spell " ドラムス主導で流れる神秘世界。
 M6."Lamento (p & b duo)" 須川のアルコ奏法を中心にピアノがサポートして描くちょっと哲学的深い世界。
 M7."Largo Luciano" ドラムスのブラシ奏法の流れの中で、ゆったりと余韻の音を残したピアノ、それにベースの和音で綴る静かな神秘性ある沈んだ世界。

 とにかく、三者のバトルによるスリリングな味に美しさを乗せた緊張感ある硬質な世界と静かな奥深い心象風景にも迫るという演奏が聴かれ、ジャズ・トリオの醍醐味の感じられる久々に聴き込んでしまうアルバムであった。

 

( ネット上に見られた三者の紹介を載せておく )

T02200220_0320032013480396589 ■須川崇志
 1982年生まれで11歳の頃にチェロを弾き始め、18歳でジャズベースを始める。2006年、ボストンのバークリー音楽大学を卒業。その直後に移住したニューヨークでピアニスト菊地雅章氏に出会い、氏のアートフォームや音楽観から多大な影響を受ける。2009年に帰国後、辛島文雄トリオを経て日野皓正バンドのベーシストを6年間務める。現在は峰厚介カルテット、本田珠也トリオ、八木美知依トリオ、石若駿トリオほか多くのグループに参加。現在までに東京ジャズ、デトロイト(米)、モントルー(スイス)、ブリスベン(豪)、メールス(独)などの数多くの国際ジャズフェスティバルに出演。2018年11月にデビューアルバム『Outgrowing』を発表。

Hayashiw ■林正樹
 独学で音楽理論を学び、佐藤允彦らに師事してジャズピアノと作編曲を習得。渡辺貞夫バンドのレギュラーを務める傍らで、椎名林檎、長谷川きよし、小野リサら他ジャンルのアーティストとも幅広く共演。自身のリーダーアルバムにおいても、ジャズと他領域を行き来するチャレンジングな試みを続けている。

 

Ishiwakashunw_20200221094801 ■石若駿
 14歳で日野皓正クインテットの一員としてライブに出演し、高校時代には奨学生として米・バークリー音大に留学。東京藝大打楽器科在学中からジャズシーンのド真ん中で活躍を続ける万人が認める日本のトップドラマー。さらに活動範囲はストレートジャズにとどまらず多彩な領域におよび、参加アルバムは100枚を超える。

(評価)
□ 曲・演奏  ★★★★★☆  95/100
□ 録音    ★★★★☆  85/100

(視聴)

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コメント

買ってからしっかり聴くまで、しっかり聴いてから文章を公開するまでと、時間がかかってまして(汗)
ようやく記事アップしました。

今年は、年始から良作目白押しで、本作も年間ベストの有力候補になってます。

tbさせていただきます!

https://jazz-to-audio.seesaa.net/article/473722748.html

投稿: oza。 | 2020年3月 3日 (火) 06時15分

 ozaさん
 コメントどうも有り難う御座います。
 私は音楽に関する学問、理論はない人間ですが、聴いて感動するというセンスは持っているつもりです。その中で、久々に納得しました。良いモノをご示唆いただいて有り難う御座います。ユーロ系に傾倒していて日本を忘れてはいけませんね。
 TBも有り難う御座いました。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2020年3月 3日 (火) 09時22分

風呂井戸さん、こんにちは。
Banksia Trioで検索したら、こちらに辿り着きました。
仰るとおりスリリングな演奏ですね。
ビル・エヴァンスも見事なまでに再構築している。
楽しみな逸材ですな。
ではでは。

投稿: nanmo2 | 2020年5月 1日 (金) 15時49分

nanmo2さん
コメントどうも有り難う御座います。
ジャズ系が圧倒的に多いのですが・・・もう少し多岐に及んでもよい体質の人間ですが、よろしくお願いします。
このトリオを聴くと、日本のジャズ界も捨てたモノではないと、将来が楽しみですね。かってのアメリカン・ジャズ真似も良いのですが、一歩発展する若きエネルギーが、このトリオには感じられます。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2020年5月 1日 (金) 21時41分

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