マルテ・ロイエング Marte Røyeng「REACH」
ジャンルを問わない自己のミュージック世界を築きつつ・・・
欧州の難民問題に端を発して・・・過去の夢より前進をと
<Folk, Pops, Jazz>
Marte Røyeng「REACH」
Oslo Session Recordings / Import / OSR005 / 2019
マルテ・ロイエング(ヴォーカル、マンドリン、アコースティックギター、エレクトリックギター、ハイストラングギター)
マリウス・グランベルグ・レクスタ(ピアノ、ハルモニウム、シンセサイザー、ハモンドオルガン、クラヴィネット、フェンダーローズ)
ベンディク・ベルゲスティーグ(エレクトリックギター、ラップスティール、バッキングヴォーカル)
イーヴァル・ミュルシェット・アスハイム(ドラム、パーカッション、バッキングヴォーカル)
エヴェン・オルメスタ(ベース)
サンデル・エーリクセン・ノルダール(ベース、アコースティックギター、バリトンギター、ハイストラングギター、バッキングヴォーカル)
イェンニ・ベルゲル・ミューレ(バスクラリネット、クラリネット、バッキングヴォーカル)
オーサ・レー(ヴァイオリン)
マグヌス・マーフィ・ヨーエルソン(トロンボーン)
イングリ・フロースラン・レクスタ(バッキングヴォーカル)
ノルウェーの女性シンガーソングライターのマルテ・ロイエングMarte Røyeng(1990-)のデビュー・アルバム (「Oslo Session Recordings」レーベルの第5作)。
アルバム・タイトルが「REACH」、これは"つかもうと手を伸ばす"という意味から「高みにむかって」と言う思いを込めたもののようだ。そしてその内容は、全て彼女のオリジナル曲で占められている。それは彼女自身の音楽であり、どうもジャンルを定めがたい。つまりフォーク、ポップミュージック、ブルース、ジャズ、クラシカルと、さまざまな音楽の要素をはらんだ世界である。いずれにしても今年30歳の彼女だが、音楽というものの幅を広げ深みを持つため、現在ノルウェー国立音楽大学の作曲プログラムで現代音楽の技法を学んでいるらしい。
そしてこのアルバムの訴えるところは・・・・ノルウェーの社会現象に自ら立ち向かって、前進をと。
1 Hold(Marte Røyeng)
2 Pull of the Moon(Marte Røyeng)
3 My Eyes Betray Me(Marte Røyeng)
4 Ring in the Deep(Marte Røyeng)
5 Wherever You Are(Marte Røyeng)
6 Loser’s Game(Marte Røyeng)
7 Any Feeling(Marte Røyeng)
8 Find a Hill(Marte Røyeng/Siril Malmedal Hauge)
9 Making It Up(Marte Røyeng)
10 Shake Yourself Awake(Marte Røyeng)
さて一連の収録曲を聴くと、シンプルなバックに彼女の歌声が前面に出た録音タイプのアルバム作りである。そしてその歌声は比較的装飾の無いシンプルな歌い方の中にソフトなやや一部あどけなさのあるもので聴きやすいところだ。
そしてどうもこの声とは裏腹に、このアルバムの「高みに向かって」の"心"は決して困難なものを後退的な発想で無く、それを乗り越えてゆきたいという若さの持つ前進的なメッセージでもあるのだ。従って明るいという世界では無く、どことなく暗さも背負っている中の展望を掴もうとするところが感じられる。しかもそのテーマは個人的な恋愛問題的世界で無く、社会の暗部に目を向けているようにも見える。
それは最後の曲M10."Shake Yourself Awake"からの推測できるもので、彼女は最近オスロのアパートで、ギタリストのベンディク・ベルゲスティグと一緒に演奏する歌のライブセッションビデオを投稿していて、そこからこの歌は、難民の視点から書かれたものであり、外国の海岸に到着し、前世の幽霊Ghostだけを連れて道路に連らなって歩んで行くボート難民。その歩む姿にその立場になって・・・彼女の思うところがここに秘められているようだ。そこにはその世界、その問題を抱えても、前進を続ける衝動は、過去の夢に後退する誘惑よりも強いと・・・・。 やや陰鬱で詩的な歌詞というのはそのような社会現象に心を向けているところにあるらしい。
・・・・私は海岸に打ち上げられた/私の夢は私の周りに散らばっていた/外国の土地に私と一緒に運ぶには野生すぎる/だから私は目を覚まします/あなたが従うつもりの夢/いくつかの波が壊れます
ノルウェーへの難民は、多くはシリア、アフガニスタン、イラン、イラクなどからだ。 昨年の申請者のうちの3人に1人は、18才以下の未成年。270人の子どもは保護者が同伴していない状態でノルウェーに来たという。(過去で 解っていることは2016年には2万370人の難民申請者のうち、1万2451人が難民としての申請を受理された。結果として、およそ6割の申請者が難民としての滞在を許可されたという状況らしい)
欧州は今や難民受け入れが社会問題だ。受け入れに寛容であったスウェーデンでは、国民の1/4が外国人という国に変わってしまっている。そして北欧ではこれらの諸問題を抱えての世界各地と同様にポピュリズム政治が台頭し、今や難民受け入れに抵抗が始まっている。ノルウェーでは進歩党が政権を握って難民制限の方向にあるのだ。
このマルテ・ロイエングのアルバムも、そうした社会の現実に遭遇し、積極的に過去で無く前向きで向き合うことに意欲を示している姿と見れる。一聴に値するものとして受け入れたい。
(評価)
□ 曲・歌・演奏 ★★★★☆ 80/100
□ 録音 ★★★★☆ 80/100
(視聴)
Marte Røyeng/Shake Yourself Awake
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