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2020年3月18日 (水)

ピンク・フロイドPink Floyd 絶頂の75年ライブ 「LOS ANGELSE 1975 4TH NIGHT」

警察による逮捕者続出のライブの記録
マイク・ミラードによる好録音の出現

 

<Progressive Rock>

Pink Floyd 「PINK FLOYS LOS ANGELSE 1975 4TH NIGHT」
~ MIKE MILLARD ORIGINAL MASTER TAPES
Bootleg / Sigma 242 / 2020

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Live at Los Angeles Memorial Sports Arena, Los Angeles, CA, USA 26th April 1975

Pink Floyd
Venetta Fields : Backing vocals
Dick Parry : Saxophone
Cariena Williams : Backing vocals

  とにかくこの何十年の間にもピンク・フロイドのブートは何百枚と出現している。あのボックス・セット「Early Years 1965-1972」「The Later Years (1987-2019)」のオフィシャル・リリースによって下火になるのかというと全くそうでは無い。むしろ火を付けているのかと思うほどである。それもピンク・フロイドそのものはディブ・ギルモアの手中に握られたまま、全くと言って活動無くむしろ潰されている存在だ。これが本来のロジャー・ウォーターズにまかせれば、今頃米国トランプや英国の低次元の騒ぎなど彼の手によって一蹴されているだろうと思うほどである。相変わらずのファンはこのバンドの世界に夢を託しているのである。

 そんな時になんとあの彼らの絶頂期であった1975年の「FIRST NORTH AMERICAN TOUR」のライブものが、オフィシャルに使われるほどの名録音で知られるマイク・ミラードの手による良好録音ものの完全版が出現をみるに至ったのである。

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  とにかく世界的ベストセラーになったアルバム『狂気』(1973)以来、彼らにとっては全く別の世界の到来となる。金銭的には驚くほどの成果を上げ、それと同時に重圧ものしかかる。又スポンサーとのトラブル、四人の社会に於ける存在の意義にも変化が出る。

810cgm6w   そして1975年1月ようやく次のアルバム『炎』(1975 →)の作業に入る。しかしそこには『狂気』当時の彼らのクリエイティブなエネルギーのグループの姿はなかった。メイスンは個人的な問題から意欲は喪失していた("Shine on you Crazy Diamond","Wish You Were Here "の2曲はロジャー、デイブ、リックの三人、""Welcome to The Machine,"Have a Ciigar"の2曲はロジャーの作品である)。又ロジャー・ウォーターズの葛藤がそのままライブ(この「NORTH AMERICAN TOUR」)にも反映されていた。まさにライブとスタジオ録音が平行して行われメンバーも疲弊していた。更に慣れない4チャンネル録音で、技術陣も失敗の繰り返し。とにかくつまづきの連続で困難を極めたが、そこでロジャーは一つの開き直りで"その時の姿をそのままアルバムに"と言うことで自己納得し、ライブで二十数分の長い"Shine On"(後に"Shine On You Crazy Diamond")を2分割し、間にロジャーが以前から持っていた曲"Have a Cigar"を入れ、当時の音楽産業を批判したロジャー思想の"Welcome to the Machine"を入れ、更にロジャーのシドへの想いと当時の世情の暗雲の環境に対しての"詩"だけは出来ていたその"Wish you were here"は、ロジャーとギルモアが主として曲を付け仕上げた。しかしこの75年がバンド・メンバーの乖離の始まりであり、そんな中でのアルバム作りとなったのであるが・・・。
 そして予定より半年も遅れて9月にこの『炎』のリリースにこぎ着けたのだが、今想うに『狂気』に勝るとも劣らない名作だ。

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 しかしこのような状況であったこも関わらず、当時のピンク・フロイドの人気は圧倒的で、このロスのライブの4夜の4月22,23,24,26日の6万7千枚のチケットは一日で完売、追加の27日公演は数時間で売り切れというすざまじい売り上げであったのだ。
 そしてここに納められているのは26日(土)のライブの姿である。

5_20200316200001 (Tracklist)

Disc 1 (63:33)
1. Mike Test
2. Intro.
3. Raving And Drooling
4. You Gotta Be Crazy
5. Shine On You Crazy Diamond Part 1-5
6. Have A Cigar
7. Shine On You Crazy Diamond Part 6-9 

Disc 2 (56:54)
The Dark Side Of The Moon
1. Speak To Me
7_20200316200101 2. Breathe
3. On The Run
4. Time
5. Breathe(Reprise)
6. The Great Gig In The Sky
7. Money
8. Us And Them
9. Any Colour You Like
10. Brain Damage
11. Eclipse

Disc 3
1. Audience 
2. Echoes

 このはライブは、絶頂期アルバム『狂気』、『炎』、『アニマルズ』の三枚に関係するセットリストの内容であり、又彼ら人気の最高に至る経過を盛り込んでおり、ブート界でもこの録音モノは引っ張りだこなのだ。しかもアンコールでは"ECHOES"も登場するのである。

Hogsinsmog  私がかってから持っていて出来の良いブート・アルバムは『Hog's in Smog '75』(STTP108/109=1975年4月27日追加公演モノ)で、セットリストは同一である。これもかなりの好録音であった(→)。
  
 しかしここに登場したマイク・ミラード録音モノは、更にその上を行く。Audienceとの分離はしっかりとしており、特に音質は高音部の伸びが素晴らしい。そして全体の音に迫力がある。
 当時のピンク・フロイドのライブは、スタジオ・アルバム版との演奏の違いは各所にあって、ギルモアのギターのアドリブも多く、マニアにはたまらない。ヴォーカルはロジャーの詩に込める意識は強くその歌声にも意欲が乗っていて聴きどころがある。そして至る所にやや危なっかしいところがあって、そこがリアルでライブものの楽しみが滲み出てくる。今回のものは既に出まわっていたモノの改良版で、内容が更に充実している。
 とにかく集まった聴衆の行為にも異常があり、爆竹の音もある。とにかく警察による逮捕者の多さでも話題になったライブでもある。

 "Raving And Drooling "は、『アニマルズ』の"sheep"の原曲だが、スタートのベースのごり押しが凄いしギターのメタリックの演奏も特徴的だ。"You Gotta Be Crazy"は"dogs"の原曲でツインギターが響き渡る。 この難物の2曲もかなり完成に至っている。『狂気』全曲も特に"On the run"のアヴァンギャルドな攻めがアルバムを超えている。そして一方この後リリーされたアルバム『炎』の名曲"Shine on you Crazy Diamond"の完成に近づいた姿を聴き取れることが嬉しい。
 又アンコールの"Echoes"にDick Parryのサックスが入っていて面白い。

8

 いずれにしても、今にしてこの時代の良好禄音盤が完璧な姿で出現してくるというのは、実はギルモアというかポリー・サムソン支配下の現ピンク・フロイド・プロジェクトが、このロジャー・ウォーターズの葛藤の中からの重要な歴史的作品を産み、そして時代の変化の中でロックの占める位置を進化していった時期を無視している事に対して、大いに意義があると思うのである。そのことはピンク・フロイドの最も重要な『狂気』から『ザ・ウォール』までの四枚のアルバムに触れずに、ここを飛ばしてピンク・フロイド回顧と実績評価のボックス・セット「Early Years 1965-1972」「The Later Years (1987-2019)」を完成させたというナンセンスな実業家サムソンの作為が哀しいのである。

 当時のライブものとしては、この後5月はスタジオ録音に没頭、そして再び6月から「NORTH AMERICAN TOUR」に入って、『HOLES IN THE SKY』(Hamilton,Canada 6/28/75=HIGHLAND HL097/098#PF3 下左 )、『CRAZY DIAMONDS』(7/18,75=TRIANGLE PYCD 059-2  下右)等のブートを聴いたのを懐かしく思う。

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(評価)

□ 演奏・価値 ★★★★★☆   95/100 
□ 録音    ★★★★☆   80/100

(視聴)

 

 

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コメント

こちらにコメントを入れていいものか悩みましたが、ちょっとコメントを入れます。
とにかく凄い情報量に圧倒されました。
少し前にシドバレットの入っていた頃のアルバムを購入したので嬉しくなりました。
僕はここまでの深い知識が無くてお恥ずかしいのですが、ピンクフロイドは以前よく聴きました。

混沌とした時代の中で面白い音楽を誰かの真似じゃなくて作り出していた時代でした。
僕はキングクリムゾンなどもちょっとだけ聴いていてあそこのベースにいたグレッグレイクとエマーソンにアトミックルースターのカールパーマーのELPのほうに興味が行ってしまいました。
展覧会の絵までですが。そのあとジャズを聴くようになりロックから離れてしまいました。
同じ時代にYESもありましたし、ビートルズも。
凄い時代でした。

投稿: minton | 2020年3月18日 (水) 18時30分

 mintonさん、こちらまで出向いてくださって有り難う御座います。
 私の場合は、ビートルズ全盛自体は不満で、そこに68年Pink Floyd「神秘」、69年King Cromson「宮殿」がリリースされ万歳したことから一つの歴史が動いたのです。この当初、田舎の私にはアルバム(LP)が手に入らなくてイライラしたモノです。それ以来リアルタイムで彼らの世界に付き合ってきたと言うだけのモノです。
 今一連に彼らの作品を聴いて立派なことを言っている評論家には全く興味がありません。特にPink Floydはその時代を反映していますので、時代を肌で感じて彼らの作品に接して感動してきました。ただそれだけなんですね。ロジャー・ウォーターズの近作「is this the life we really want」を聴いてみれば解るところですね。ピンク・フロイドはそれなんです、時代との葛藤、自己の内面的葛藤などなど・・・そして音楽との葛藤、その歴史です。
 私もELPは「展覧会の絵」が全てでした。
 ロックは今でも自分の歴史として感動しています。ジャズはむしろ心休めに聴いています、殆どユーロ系ですが。又あちらでもこちらでもよろしくお願いします。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2020年3月18日 (水) 21時03分

大昔、アニマルズと炎の曲が両方入っているのを見てRaving And Droolingのブートを2000円で買ったら、殆どギターリフしか聞えなかった悲しい思い出があります。1976年頃だったから、40年以上前。恐ろしいですね。

今は、家に引き籠ってMONO INC.のシンフォニックライブばっかり聴いてます。

投稿: nr | 2020年3月18日 (水) 22時27分

nrさん
 大変ご無沙汰いたしております。コメントどうも有難うございました。
 nrさんのブログが不明になっていて今回解って喜んでおります。近年ロック畑が手薄状態でしたが、時に意欲が湧いたような時はロック系に限ります。特に時代を感ずるにはロックですね。ジャズは低飛行の老人の癒し系に聴いています(笑い)。
 MONO INC 知りませんでしたが、少々聴いてみました。解りますね・・・その魅力、ドラマーが良いということではありません(笑い)、もう少し入り込んでみます。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2020年3月19日 (木) 09時44分

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