浅川太平Taihei Asakawaピアノ・ソロ・アルバム 「Waltz for Debby」
空間を描く静寂にして深遠な世界
~ビル・エバンスの世界に独自の美意識を
<Jazz>
Taihei Asakawa 「Waltz for Debby」
Cortez Sound / JPN / CSJ0008 / 2019
Piano : Taihei Asakawa
Executive Producer: Teruhiko Ito / Recorded & Mixed & Mastered by Ken Tadokoro / Recorded on May 19 2018 at Jazz Room Cortez / Photo by Tatsuo Minami Mikio Tashiro
最近知ることとなったジャズ・ピアニストの浅川太平のソロピアノのアルバム。2枚組で、誰もが愛するビル・エバンスの名盤『Waltz for Debby』と、同日録音された『Sunday at the Village Vanguard』の2枚からの選曲により構成されている形をとっている。
彼は1977年生まれということで、40歳代になっての目下脂がのってきたと言える歳で期待度は高い。私にとっては過去の彼のアルバムには接してこなかったのだが、このアルバムのビル・エバンスの変化に驚きを隠せず、さっそくこのソロ・スタイルを演ずるところは何処に ? と、参考までに彼のピアノ・トリオ盤の『Touch of Winter』(DMCD26)(→)を取り寄せてみたという経過であるが、それはそれとしてこの『Waltz for Debby』を検証してみよう。
(Tracklist)
DISC1
01.My Foolish Heart〔13:34〕
02.Waltz for Debby〔10:02〕
03.Detour Ahead〔7:06〕
04.My Romance〔11:12〕
05.Some Other Time〔11:51〕
DISC2
01.Milestones〔7:15〕
02.Porgy〔9:40〕
03.Gloria's Step〔4:18〕
04.My Man's Gone Now〔7:03〕
05.Solar〔3:42〕
06.Alice in Wonderland〔5:09〕
07.All of You〔8:06〕
08.Jade Visions〔4:29〕
さて、ビル・エバンスに迫ると言うことで、それだけでもそんな世界を目指しているのか想像が付くところだが、どんなアレンジの世界かと興味津々。しかし結果は想い以上に、簡潔に言うと緊張感と静寂の世界にピアノによる描かれる空間に響く繊細な音に驚きを隠せなかった。
まず、DISC1"My Foolish Heart", "Waltz for Debby"の冴えたる代表曲、ビル・エバンスの世界を日本的(?)にリラックスして聴きやすく再現してくれるのかと思いきや、はっきり言うとそんな生やさしい世界では無い。気楽に聴こうと居直ってみたが、そこに描かれる情景は、双方10分を超える演奏で、静寂にして一音一音意味の込めた音には美しさという処をある意味で超えたむしろ厳しさも感ずるところであり、しかしそう言っても優しさの美しさはちゃんと散りばめらていて、その世界はエバンスと違った浅川自身の個性ある変化に圧倒されるのである。
そして"My Romance"も、ここまで深淵の美といったところに演じられるのも聴きどころ。
DISC2になって、ややリラックスを誘導してくれるところを演じてくれている。そんな意味では、特に"Porgy"や"Alice in Wonderland"では、ゆったりした気持ちで美しく優雅に聴けるところである。
ちょっと日本版エバンスものの演奏というところで安易に構えていたのだが、最初から彼の個性をしっかり提示しての哲学的な、思想的なところを感じさせる演奏でビックリしたわけだ。しかし何回と繰り返し聴くに付け、三度目ぐらいからかなりその世界にある美しさが見えてきてぐっと親しみがわいてくると言うアルバムであった。
█ 浅川 太平 (あさかわ たいへい)略歴 (ネット記事から)
1977年札幌出身。
父が札幌のライブハウス「銀巴里」(~2012)を経営し、母が歌手であったため、幼いころはシャンソンをよく聴く。3才よりクラシックピアノを始める。 1996年、洗足学園短期大学でジャズを専攻し、卒業後バークリー音楽大学より奨学金つきの編入資格を得るも独学の道を選ぶ。 2004年、横浜JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション、ベストプレイヤー賞受賞。
2007年に1stアルバム『Taihei Asakawa』(Roving Spirits)、2011年に2ndアルバム『Catastrophe in Jazz』(Roving Spirits)、2013年に3rdアルバム『Touch of Winter』(D-musica)、2018年に初のスタンダードでのライブ録音となる4thアルバム『Waltz for Debby』(Cortez Sound)をそれぞれリリース。
2019年、日本とヨーロッパを中心に国際的な活動を続けているドラマー池長一美とデュオユニットNordNoteを結成し、2020年デュオアルバム『NordNote』(Time Machine Records TMCD-1020)をリリース。
(評価)
□ 編曲・演奏 ★★★★★☆ 90/100
□ 録音 ★★★★☆ 80/100
(視聴) "My Foolish Heart"
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コメント
風呂井戸さん こんにちは。
早速ですが、彼の1st~3rd所有しておりお気に入りのピアニストの1人です。
「Touch of Winter」の美しく澄んだ空気感あるサウンド良いと思いますし、1stの「TAIHEI ASAKAWA」もお気に入りです。
ですが、このソロ作は、未入手です。
機会を見て入手し聴いてみたいと思います。
有用な情報いただきありがとうございます。
投稿: baikinnmann | 2020年4月 5日 (日) 14時12分
baikinnmannさん
こんばんわ、コメントどうも有り難う御座います。
私は逆行でソロを初めて聴きました。これなら是非トリオもと・・なった次第です。
なかなか得がたい世界ですね。彼のコレに至る人生観ももう少し知りたいところです。
そうそうbaikinnmannさんの取り上げているLynne Arriale Trioも私は好きですね。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2020年4月 5日 (日) 19時32分
初めまして風呂井戸さま。初めてコメント書かせてもらいます。
私も正直、全く期待せず、試しにアップされていた動画のマイ・フーリッシュハートを聴いてみました。
導入のハーモニーから、「おおなかなか気負って工夫しとるやん。でもそろそろ甘〜い聴きやす〜いエバンスに変わるんやろな」くらいにタカをくくってましたら、「あれ、何これ、いつまで続くの」と、硬質で深遠なボイシングに聞き惚れていく自分になっていました。
素敵なアーティストを教えていただいてありがとうございました。
わたしも最近ブログを開設しましたので、良かったら見に来て下さい。今後ともよろしくおねがいします。
投稿: zawinul | 2020年4月22日 (水) 22時41分
Zawinulさん
コメントどうも有り難う御座いました。
おっしゃるような感想は、私もその通りでした。エバンスにあやかっての単なる模倣という世界で売るという世界では全くなかったことに感動しています。
今後も期待ですね。
そちらにもお伺いさせていただきます。よろしくお願いします。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2020年4月23日 (木) 10時07分