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2020年9月18日 (金)

レイス・デムス・ウィルトゲン REIS DEMUTH WILTGEN  「sly」

若きトリオが、ヨーロッパ・ジャズの一つの最新形を目指して・・・
ステファノ・アメリオの録音とミキシングも聴きどころ


<Jazz>

REIS DEMUTH WILTGEN  「sly」
CamJazz /  /  MOCLD-1037 /  2020

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Michel Reis (p)
Marc Demuth (b)
Paul Wiltgen (ds)

Recording and Mixing engineer Stefano Amerio 

  ルクセンブルグの若きピアニストのミシェル・レイスは日本での活動は活発で、石若駿をレギュラーメンバーにした彼の他は日本人ミュージシャンのみからなる「ミシェル・レイス・ジャパン・カルテット」で知られる。  この5月に彼のソロ・アルバム『SHORT STORIES』をここで取上げたのだが、あのリリカルな世界が印象的である。
 さて、そのレイスは自国においては、高校時代の同窓のメンバーとトリオ「レイス・デムス・ウィルトゲン」を組んで、既に2013年にデビュー作品をリリースしているのだが、そのトリオが現在までがっちり続いていて、今年第4作を発表したのである。それがこの『sly』である。
 このアルバムはかなり彼らのレクセンブルグを意識したもので、ルクセンブルグの詩人の風物詩「ルナール」というものをテーマにしていて、その「ルナール」というのは狐を指すらしい。それがこのアルバム・タイトル「スライsly」ということになり、その意味は"ずる賢い"と言うことのようだ。
 とにかく、この若きトリオが描く新世代ジャズにアプローチしてみたのであるが、こうしたものがヨーロッパ・ジャズの一つの最新形なのかと聴いた次第だ。

Unnamed_20200916172401 (Tracklist)

1. Snowdrop #
2. No Storm Lasts Forever *
3. If You Remember Me *
4. Fantastic Mr. Fox #
5. Silhouettes On The Kuranda *
6. Viral #
7. Diary Of An Unfettered Mind *
8. Let Me Sing For You *
9. Venerdì Al Bacio *
10. Nanaimo *
11. The Last We Spoke #
12. The Rebellion 
13. Home Is Nearby #

(*印:Michel Reis 、#印:Paul Wiltgen)

 どちらかというと、そう長くない、短い曲も含めて上のように13曲。レイスReisの曲が7曲、ドラマーのWiltgenの曲が5曲、ベーシストのDemuthの曲が1曲という彼らのオリジナル曲だ。

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 いっやーしかし、この若きトリオの演ずるところはリアル・ジャズとヨーロッパ美学の結合なんですね。
 私は前半6曲は取り付くところが無いくらい異様なアヴァンギャルドな世界だ。印象はドラムスのパンチ力で録音も前面に出てきてバンバンアタックしてくるリアル・ジャズの印象。これらの曲はルクセンブルグの世界観とフリー・ジャズでの叙情詩と行ったところか、私がついて行くには少々厳しい。
 ようやく、心を引かれてのめり込めるのは、主としてミシェル・レイスの曲M7."Diary Of An Unfettered Mind"からで、M.11"The Last We Spoke"までの4曲で、あくまでも私の感覚としての素晴らしさだ。近代感覚あふるる中に美旋律そして叙情を漂よらせて非常に魅力的。
 このアルバムケの前半に評価を持って行く人もいるのではと思うが、私の場合はついて行くのが難儀だった。
 彼らは、彼ら自身のオリジナル曲に固執しているようで、その作曲演奏に自己の世界観を描こうとしている。
 若きトリオが、ヨーロッパの叙情を加味しつつ、リアル・ジャズ、フリー・ジャズ、そしてアヴァンギャルドな世界への挑戦として演ずるところは、注目すべき作品だ。

 そして録音がイタリアの名手ステファノ・アメリオということで注目してみたが、彼は曲を十分意識しての世界観のある音と音場を作り上げるのだが、このアルバムは過去のよく聴いた叙情的美しさを描き挙げるものと異なって、ちょっと驚きのリアル・サウンドを追求している。彼のこのような仕上げは珍しく貴重。そんなところからも、このトリオの演ずるところが窺えるところだ。

(評価)
□ 曲・演奏   85/100
□ 録音     90/100

(参考視聴)  このトリオのライブ模様

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コメント

風呂井戸さん、こんにちは。
早速ですが、私もレイスは好きなピアニストなのでこのトリオ3作目までは、所有しています。
3作何れも良かったので、このSLYも今後の入手アルバム候補にしています。
でも風呂井戸さんの記事読ませていただいて、アヴァンギャルド6曲はちょっと重い、覚悟して購入しなければ・・ですね。
彼らの、ひとところに留まらず、いろいろなことをやりながら進化しつづける姿勢は素晴らしいと思いますが。
よい試聴サイトも見つからないので大変参考になりました。


投稿: baikinnmann | 2020年9月21日 (月) 10時42分

baikinnmannさん、こんばんわ
若きピアニストの進歩の過程は、なかなか聴き応えあります。
とくに、Reisの才能とセンスは素晴らしく、欧州や日本には愛される素質が十分ですね。
そしてそのフリー・ジャズ的アプローチに実験性と主張が感じられる中に、彼独特の叙情性あって、私も注目しています。更に期待株であることには間違いありませんね。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2020年9月21日 (月) 21時23分

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