ダイアナ・クラールのニュー・アルバム Diana Krall 「THIS DREAM OF YOU」
しっとりムードが全編を通して流れ、秋の夜長に最適
<Jazz>
Diana Krall 「THIS DREAM OF YOU」
Verve / JPN / UCCV1181 / 2020
(Members)
ダイアナ・クラール(vo, p)、
ジョン・クレイトン(b)on 1,2,4,10、
ジェフ・ハミルトン(d) on 1,2,4、
アンソニー・ウィルソン(gt) on 1,2,4、
クリスチャン・マクブライド(b)on 3,7,
ラッセル・マローン(gt)on 3,7,
アラン・ブロードベント(p)on 5,8、
トニー・ガルニエ(b) on 6,9,11、
カリーム・リギンス(ds) on 6,9,11、
マーク・リーボウ(g) on 6,9,11,
スチュアート・ダンカン(fiddle) on 6,9,11 他
待望のダイアナ・クラールのニュー・アルバム。3年ぶりの登場だ。彼女のアルバムは、ジャズ・ピアノ・プレイヤーとしてのものと、シンガーとしてのものとで若干趣が変わってくるが、このところのトニー・ベネットとのデュエット前作『LOVE IS HERE TO STAY』(2018)は、あれはあれで良いとしても若干欲求不満であった。
今作は彼女のシンガーとしてのものと判断されるが、2012年にリリースされた古き良き時代のジャズ曲集『GLAD RAG DOLL』(UCCV9445/2012)は、鳴り物入りでのリリースであったが、ファンからの歓迎振りは期待どおりにはゆかなかった。そこで続くは、ロックなどの過去の注目曲を取上げた『wallflower』(2015)で再起を図った。これは今度は期待以上に広く受け入れられ売れ行きも最高を記録したが、反面、今度はジャズ・プレイヤーとして彼女自身は納得しなかったようである。
そんな経過で続くは、ジャズ曲に回帰しての『Turn Up The Quiet』(UCCV1162/2017)を、彼女をピアノ・プレイヤーであるのは当然としてもジャズ・ヴォーカリストとしても見いだしてくれた長年の付き合いである巨匠トミ-・リピューマTommy LiPuma(→)をプロデューサーとして起用してのリリース。そしてその結果は、彼女の原点回帰は成功して自身の納得と一般のファンに広く受け入れられたのだった。
そこで今アルバムは、そんな流れからどのような展開になるのかと実は興味津々なのであった。・・・そして開けてみると、なんとトミー・リピューマとの最後の録音を収録しているのだ。つまりこれまで、彼とスタジオで行ってきたレコーディングの中で、アルバム『Turn Up The Quiet』に納められなかった中で、ダイアナ本人が特に"アウト・テイクと化してしまうには、ちょっともったいない"と感じていた未公開音源を1つのアルバムにまとめ上げたものとなった。それは思いがけなかったトミ-・ピューマの死という現実に直面してしまったことにより、彼に贈るアルバムとして制作されたことになったのだ。従って前作の続編と言ってもよいところ。
(Tracklist)
01. バット・ビューティフル / But Beautiful
02. ザッツ・オール/ That’s All
03. ニューヨークの秋 / Autumn in NY
04. オールモスト・ライク・ビーイング・イン・ラヴ / Almost Like Being in Love
05. モア・ザン・ユー・ノウ / More Than You Know
06. ジャスト・ユー・ジャスト・ミー / Just You, Just Me
07. ゼアズ・ノー・ユー / There’s No You
08. ドント・スモーク・イン・ベッド / Don’t Smoke in Bed
09. ディス・ドリーム・オブ・ユー / This Dream of You
10. 月に願いを / I Wished on the Moon
11. ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン / How Deep is the Ocean
12. 雨に唄えば / Singing in the Rain
2016年からの数年間は、彼女は人気プレイヤーであるが故に世界各地を回るツアーで多忙を極めたが、なんとその当初においては名匠トミー・リピューマと新たなレコーディングを繰り返していた。しかし、そんな状況下で、リピューマがこの世を去ることとなってしまった。一度は録音した音源の公開もあきらめていたが、リピューマがプロデュースを手掛けた最後の録音であり、彼が気に入っていた曲"But Beutiful"も存在する為、それを中心にアルバム制作を企てたのだった。従って今作は、前作『Turn Up The Quiet』に隠れた思い出の未公開音源集なのである。
そんな事情から選ばれた曲集という事で、とにかく全編しっとりとしたムードに包まれている。あの派手というか、溌剌としたクラールのジャズ・プレイは全く影を潜めてしまっている。そんなことでこの秋の夜に静かに聴き入るには最高のアルバムである。
先ず冒頭のM1."But Beautiful"から"男女の愛"を歌ってはいるが、そこには哀しさも心の痛みも乗り越えてゆく心の覚悟が美しくしっとりと説得力ある歌として仕上げられている。
M3."Autumn in NY"は、彼女のピアノとヴォーカルにベース、ギターでのトリオで情景が目に見えるようだ。
とにかく、このアルバムのムード仕上げは、おそらくこれから10年は出現しないであろうと思われるクラールの情緒ゆたかにして語りかけてくる優しさが前に出ていて、貴重になりそう。そんな意味でも私としては、M8."Don’t Smoke in Bed"、M9."This Dream of You"、M11."How Deep is the Ocean"など注目している。
一方聴きようによっては、ジャズの醍醐味を感じ取れる曲に、例のClayton(B), Hamilton(D), Wilson(G)のカルテットによる曲M4."Almost Like Being in Love"もあって楽しめる。
又面白いことにこれは私の新しい発見であるが、クラールはジャズに固執しているようであるが、実はロック系を歌わせるとなかなか味を出す。それはアルバム『wallfiower』にみるイーグルスの曲であったり、又このアルバムでもボブ・デュランの曲が出色である。
又今アルバムのジャケが、従来のモノと全く異色。それはなんと彼女の撮った作品であるとか、こんな都会風景を撮るセンスがあるのかと、この点も新発見であった。
今回は、彼女のしっとりムードのヴォーカル曲ということで、録音もヴォーカルの微妙なところも描く方法として、歌声を前面に出しての録音となっている。従って手に取るように聴くことが出来る。異色作品として貴重な一枚とすることにした。
(評価)
□ 曲・演奏・歌 90/100
□ 録音 90/100
(視聴)
*
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コメント
やはりダイアナ節、満足のアルバムでした。ただししょうもない大きなジャケットのおまけは不要でした。
投稿: 爵士 | 2020年10月12日 (月) 10時33分
爵士さん、こんばんわ。
取り敢えずダイアナ・クラールは押さえているのですが、ここまでしっとりのアルバムとは思ってませんでした。
これはこれで、彼女の歴史として愛されてゆくでしょうね。
このジャケは彼女の作品とか、どこかに光が少し入ると良い作品になったのではと・・・思うのですが。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2020年10月12日 (月) 19時51分
風呂井戸さま、気から冬にかけてぴったりのアルバムでしたね。
ピアノも弾いていましたが、かなりヴォーカリスト寄りのアルバムで、彼女の歌を堪能しました。
いくつかのバンドの録音が混在していても、彼女らしさが強くでていた素敵な仕上がりでした。
もう少し、師匠さんとお仕事をさせてあげたかったですね。
トラバをありがとうございました!
https://mysecretroom.cocolog-nifty.com/blog/2020/10/post-8ebd65.html
投稿: Suzuck | 2020年10月14日 (水) 12時50分
suzuck様
こちらまでコメントを頂いて恐縮です。有り難う御座いました。
ダイアナ・クラールのピアノ・プレイはあるにしてもヴォーカリストとしての価値観は今のジャズ界では非常に大きい位置にありますね。驚きです。
そしてこのようにヴォーカルを生かした録音法まで取上げて作り上げたという処にも、気合いを感じます。
私の友人も彼女にぞっこん惚れ込んでいるという輩もおります。そんな魅力というものは天性のものもあるのでしょうが、恐れ入っています。
いずれにしても、今回のアルバムは一つの記念になるものとして評価されるものでしたね。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2020年10月14日 (水) 18時39分