マイケル・ベック・トリオ michael beck trio 「michael beck trio」
淡々としていてスリリングな新世界を探求する若き叙情派トリオ
マイケル・ベック・トリオ MICHAEL BECK TRIO
今年リリースされた寺島靖国の「Jazz for Audio Fans Only Vol.13」に収められた中で、少々気になったトリオがあったので、アルバムを探して取り寄せてみた。それがこのスイスのマイケル・ベック・トリオ Michael Beck Trioである。それが目下2枚のアルバムのみに行き着いたのだが、両者2003、2005年リリースもので15年以上前のものであった。
そもそもは寺島靖国には、おそらくベースとドラムスのリアルな音からスタートしてピアノの淡々とした演奏が気に入られたのであろうと推測するが、特に選ばれた曲"928"は、スタートから澄んだ繊細なシンバル音が響いてくることが重要であったと思われる。私もドラムス、ベースの協演は好きで、寺島靖国の言うところのトランペット、サックスが共に鳴り響くものはちょっとゴメンというところにあり、そこも納得してこのアルバムを手にすることにした。
しかし、若きこれほどのトリオが何故、その後15年間もアルバムが見当たらないのも不思議である(探せばあるのだろうか)。そんな事を考えながら聴いた2枚のアルバムを紹介する。
<Jazz>
█ michael beck trio 「michael beck trio」
SOUNDHILLS / IMPORT / FSCD2025 / 2003
michael beck (p)
bänz oester (b)
samuel roher (ds)
Recorded at Radio DRS Zurich, Switzerland, February12-13, 2000
(Trackjlist)
01. Loose Ends *
02. 928 *
03. Poin Turnagain *
04. Farewell
05. The Theme Of The Defeat
06. Open Doors
07. Three Men In A Boat *
08. Everything I Love
09. Detour Ahead
10. Loose Ends (alt. take) *
10曲のうち(*印)5曲はピアニストのマイケル・ベックの曲で、彼がリーダーと思われるが、スイス・ベルンに1968年に生まれていて、もともとはベルン大学で物理学と数学を専攻していたのだが、幼少期からクラシックのピアノを学んでいたこともあって、その後スイス・ジャズ・スクールに転学したという。ここでジョー・ハイダーの弟子となった。1992年にはウンブリア・ジャズ祭で入賞。奨学金を得て1994年から1997年までバークリー音楽院へ留学している。このアルバムは2000年の録音で、彼の32歳の作品である。
淡々としたタッチで演じられるピアノ、そしてベース、ドラムとの三位一体となってのインプロヴィゼーション。この流れがなんとしても新時代タッチで、私が重要視するテンポ・ルバート奏法が洗練されていて、そのタイム感にどこか美しさがかんじられるところが味噌のように感じられる。
そして時には、アヴァンギャルドな展開も加味して、究極は叙情派の流れを展開するところがいいですね。このアルバム、全編を通じて美事である。
渡米中に映画音楽の作編曲を学んでいたこともあったようで、メロディアスで甘美さが見えるところも私好み。
~~~~~~~~~~~
█ michael beck trio 「ANOTHER DAY」
Mons Records / IMPORT / MR874411 / 2005
Michael Beck(p)
Thomas Dürst(b)
Samuel Rohrer(ds)
Prodused for DRS2 by Peter Burli
Recorded Martin Pearson
(Tracklist)
1.Another Day
2.Rubato
3.Subsistence
4.Wind Dreams
5.Topic
6.Tune 101
7.Incubo
8.Otherwise
9.Dove
10.Rubato 2
11.Swing Sketch
数年後のこちらのアルバムは、ベースが変わってのトリオですね。今作は全曲ピアニスト・マイケル・ベックのオリジナルだ。
冒頭から美しいピアノの調べ、そして繊細にして響くスティック、ドラムスの音、確かに録音も優れている。やっぱり、旋律はヨーロッパ的で、リリカルでいて、しかもしつこさが無く淡々と進行し、ベースとドラムスとの交錯インプロヴィゼーションが、なかなか近代的である。テンポは主体はミディアムで聴きやすい。なかなか例のルバードが有効に迫ってくる。そこにはかなり計算ずくの世界であろうと思うが、洗練された世界を印象づける。
M2."Rubato"では、ベースのアルコ奏法をバックに、ピアノとスティック、シンバルを主体としたドラムスとの交錯には、近代性とクラシック奏法の美をも感ずる。
M7."INCUBO"は、ピアノ、ベース、ドラムスがそれぞれ分離良く繊細に美しく録音されていてオーディオ・ファンにはたまらない曲。「ジャズは音で聴け」という寺島靖国の言葉が頭に浮かんでしまった。
とにかく全編に漲る淡々としたピアノの物語にふけってしまう世界である。
このトリオの近況が解らないが、是非ともニュー・アルバムにたどり着きたいところである。寺島靖国の努力に期待するところだ。
(評価)
□ 曲・演奏 90/100
□ 録音 90/100
(参考視聴)
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