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2020年11月30日 (月)

カーリン・アリソン Karrin Allyson 「'ROUND MIDNIGHT」,「BLLADS」

本格的ジャズを歌い上げる ~ ~ ~

カーリン・アリソンKARRYN ALLYSON  

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1w_20201130172101  オーディオ・マニアが結構気に入っているアルバムに PREMIUM RECORDS の『BEST AUDIOPILE VOICES』というコンピレーション・アルバムがあるが、これは主としてJazzy not Jazz パターンから、Jazzにいたる女性ヴォーカルが主体である。目下7巻目の「Ⅶ」がお目見えしている。実はその記念すべき2003年の第1巻(→)においては、ここで何度も取上げているEva Cassidyが2曲収録されて主役の役を果たしているが、この米国女性ジャズ・ピアニストにしてヴォーカリストのカーリン・アリソンKarryn Allysonmも登場。そこで実は気にはしていたが、私は欧州系に寄ってしまうために、これまでアルバムをしっかり聴くということなしで来てしまった。しかしなんとなく気になっていて、この秋にアプローチしてみようと思ったのである。

  そこで、あらためて1963年生れのカ-リンの私の好きなバラード調のアルバムに焦点を当てて、この秋向きに2枚のアルバムを仕入れた次第。それは、2001年の『BALLADS』と、2011年の『Round Midnight』である。

 <Jazz>
KARRIN ALLYSON  「BALLADS-Remembering John Coltrane」
Concord Jazz / USA /  CCD-4950-2 / 2003

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Karrin Allyson : Vocals, Piano
James Williams : Piano
John Patitucci : Bass
Lewis Nash : Drums
Bob Berg : Tenor Sax
Lames Carter : Tenor Sax
Steve Wilson Soprano Sax

71tsoackrml_ac_sl850  彼女は1963年生れであるが、丁度30歳の1993年から何枚かジャズ・ヴォーカル・アルバムをリリースしていて、なんと30歳後半に恐れ多くも7枚目のアルバムにおいて、ジョン・コルトレーンに挑戦しているのだ。
  彼女はピアニストであるからして、そのあたりの流れは知るよしも無いが、ライナーに"何年も愛してきたジョン・コルトレーン"と記していることより、彼の演ずるジャズに惚れ込んでいたんでしょうね。とにかくJohn Coltrane の代表作『Ballads』( 1963 →)を、このアルバムでそっくり彼女のヴォーカルで演じきっているのである。

(Tracklist)

1. Say It (over And Over Again)
2. You Don't Know What Love Is
3. Too Young To Go Steady
4. All Or Nothing At All
5. I wish I Knew
6. What's New
7. It's Easy To Remember
8. Nancy (With The Laughing Face)
9. Naima
10. Why was I Born ?
11. Everytime We Say Goodbye

 このように、M1-M8 までコルトレーンのアルバムと完全に曲順も同じに演じきった。ピアノ演奏はここでは彼女はM5.の一曲のみで、他はJames Williamsがピアノ・トリオのパターンで演じ、それにSaxが加わる。
 とにかく彼女はヴォーカルに専念し、力んで気負っていることも無く例のハスキーがかった声で、当時のまだ若き年齢を考えると深みのある心を寄り添っての歌に驚きだ。全体に明るいジャズでなくバラードでやや暗めの線を行くも、なかなかの表現力があって聴き応えは十分。なにせコルトレーンですからサックスのウェイトが気になるが、彼女のヴォーカル以上の位置には出ずに、本来のコルトレーン・パターンとは異なった世界を築いていることは、むしろ好感が持てる。
   冒頭のM1."Say It"から、サックスとデュオのパターンで進行して、この女性ヴォーカルを生かしたパターンはそれなりに花があり、こうしたこのアルバム造りはスタートから面白いと感ずる。ジャズ・アルバムはスタンダードが人気があるのは、曲だけを聴くのでなく、その演奏者の解釈と演者自身の魅力を味わうところにあるのであって、ここまで徹底して自己のジャズ世界で、トリビュート・アルバムを作り上げた意欲に脱帽する。M5."I wish I Knew"はサックス抜きの彼女のピアノ・トリオで演じたことにその意欲が表れているところだ。又M7."It's Easy to Remember"のようにピアノ主体のバックで、アカペラに近いところも聴き応えあり。
 全体に決して軽さの無い深みのある女性ヴォーカル・アルバムに仕上げてくれたことに私は寧ろ大きく評価したい。

        - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 

 <Jazz>
KARRIN ALLYSON 「'ROUND MIDNIGHT」
Concord / US / CJA-32662-02 / 2011

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Karrin Allyson: vocals, Piano, Fender Rhodes
Rod Fleeman: guitar
Bob Sheppard: woodwinds
Randy Weinstein: harmonica
Ed Howard: bass
Matt Wilson: drums

  カーリン・アリソンのアルバムとして、実は今回はこっちが本命でした。彼女のバラード調のヴォーカルがこうしてスタンダードを如何に個性を発揮しつつも聴かせてくれるかというところに評価のポイントをおいていたんです。このアルバムは上の『BALLADS』から約10年後の50歳直前の円熟期ですから、もう頂点に近い状況でジャズを如何に歌い込んでいるか興味津々であった。

Allysonkarrinbb (Tracklist)

1. Turn Out the Stars (Bill Evans-Gene Less)
2. April Come She Will (Paul Simon)
3. Goodbye (Gordon Jenkins)
4. I'm Always Chasing Rainbows (Harry Carroll-Joseph McCarthy)
5. Spring Can Really Hang You Up the Most (Fran Landesman-Tommy Wolf)
6. Smile (Charlie Chaplin)
7. Sophisticated Lady (Duke Ellington-Irving Mills-Mitchell Parish)
8. There's No Such Thing As Love (Ian Fraser-Anthony Newley)
9. The Shadow of Your Smile (Johnny Mandel-Paul Francis Webster)
10. Send In the Clowns (Stephen Sondheim)
11. 'Round Midnight (Thelonious Monk-Cootie Williams-Bernard Hanighen)

  このアルバムでは、彼女のピアノを中心としたベース、ドラムスのトリオがバック演奏だ。そして曲によりギター、サックス、ハーモニカが加わるパターン。
 曲は聴き慣れたスタンダードが中心で、彼女のジャズ・ミュージシャン活動の真髄を集めたようなプロのアルバムであり、彼女の評価には十分な代物だ。
 
 やはり持ち前の米国には珍しいやや陰影のある中に、情感豊かにして曲の描く世界を十分に歌い込んでいる。
 驚きはM1."Turn Out the Stars"はジャズで、M2."April Come She Will "はフォーク調と、その変化も自在である。
 M3."Goodbye "のポピュラー・ナンバーが良いですね、低音の深く厚い歌声の魅力を発揮。
 M5."Spring Can Really Hang You Up the Most"の語りかけるように歌い上げ、ジャズとしては美しさを強調して聴かせる。
 M6."Smile" 彼女の得意のレパートリーの一つ、ピアノが美しく、編曲をこらしてゆっくりじっくり歌い込む。途中のハーモニカは不要か。
 M7."Sophisticated Lady"は彼女の思い入れが感ずるし、M9."The Shadow of Your Smile "これは私の好きな"いそしぎ"ですね、alto FluteとAcoustic Guitarの演奏の中で、ゆったりとしっとりと歌い込んでナイスです。
   M.10."Send In the Clowns"ギターとともに静かさが描かれていいですね。M11." 'Round Midnight"はアルバム・タイトル曲で、夜の静かさと寂しさをベースとの語るようにしっとり歌うところも魅力的。

 哀愁を帯びたハスキー・ヴォイスと曲の内容によって変幻自在の歌声が彼女の魅力でしょうね。つまり上手いのである。私自身の女性ヴォーカルに求める声質とは残念ながら若干異なってはいるが、ジャズ心の質によってそれは十分カヴァーしている。スローなバラード調は彼女の得意の世界でしょうね、従って、私にとっては、ちょっと何時も流しておきたいアルバムとなっている。

(評価)
□ 選曲・編曲・歌  88/100
□ 録音       85/100

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(参考)

<Karrin Allyson Discography>

I Didn't Know About You (Concord Jazz, 1993)
Sweet Home Cookin' (Concord Jazz, 1994)
Azure-Té (Concord Jazz, 1995)
Collage (Concord Jazz, 1996)
Daydream (Concord Jazz, 1997)
From Paris to Rio (Concord, 1999)
Ballads: Remembering John Coltrane (Concord Jazz, 2001)
Yuletide Hideaway (Kas, 2001)
In Blue (Concord Jazz, 2002)
Wild for You (Concord, 2004)
Footprints (Concord Jazz, 2006)
Imagina: Songs of Brasil (Concord Jazz, 2008)
'Round Midnight (Concord Jazz, 2011)
Many a New Day: Karrin Allyson Sings Rodgers & Hammerstein (Motema, 2015)
Some of That Sunshine (Kas, 2018)
Shoulder to Shoulder: A Centennial Tribute to Women's Suffrage, as The Karrin Allyson Sextet (eOne Music, 2019)

(参考試聴)

 

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