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2021年1月30日 (土)

ヤン・ハルベック Jan Harbeck Quartet 「THE SOUND THE RHYTHM」

サブトーンで聴かす味付けとピアノ・トリオとのカルテットが聴きどころ


<Jazz>
Jan Harbeck Quartet 「THE SOUND THE RHYTHM」
stunt Records / IMPORT / STUCD 19022 / 2019

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Jan Harbeck (tenor sax)
Henrik Gunde (piano)
Eske Nørrelykke (bass)
Anders Holm(drums/Tr.1.2.4.5.6.7.)
Morten Ærø (drums/Tr.3.5.7.8.9.)
+ Jan zum Vohrde (alto sax/Tr.8)

2018年11月7日-8日、ヴィレッジ・レコーディング(コペンハーゲン)録音

  私はどちらかというとうるさいトランペット、サックス等は敬遠派なんでして、何と言ってもピアノ派なんです。しかしジャズにおいてトランペット、サックス等は重要な役割を果たしている事実は知っている。特にトランペットはミュートを効かしたものなら愛するものも多いと思っているし、サックスはサブトーン奏法での味が欲しいと思っているのだ。
 ところが、先日我が友人が・・・・
   そんな私がHarry Allenの『DEAR OLD STOCKHORM』(VHCD-78308/ 2017)(下左)を聴いている事を知って、それならばこのデンマークのヤン・ハルベックJan Harbeck(1975年デンマーク生まれ。ベン・ウェブスター賞受賞) を聴いたらどうかと言うのである。そこでヤンのアルバム『IN THE STILL OF THE NIGHT』(STUCD 08202/2008)(下右)と、今日話題にするこの『THE SOUND THE RHYTHM』(2019)を共に目下聴いているのである。

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 ハリーもヤンも私が聴くのはピアノ・トリオとのカルテット・スタイルをとっていることが重要で、ピアノの描くトリオ世界を尊重しつつサブトーンによるサックスの味付けがあるというスタイルが寄りつける大きなポイントなのだ。
 ハリーの『DEAR OLD STOCKHOLM』はVENUS Recordsで若干録音がうるさいのだが、彼はピアニストのウラジミール・シャフラノフの演奏を尊重しつつ両者共存で哀感すら感ずる世界に誘導してくれるところで好きなんですね。それもストックホルムでの演奏というのが又効果を上げているのかも知れない。

 さてそこで、本題に入るが、このヤンの近作に焦点を当てて考察してみたい (これもコペンハーゲン録音)。

 (Tracklist)

1.Lighter Shades *
2.Johnny Come Lately
3.Tangorrus Field *
4.Poutin'
5.Woke Up Clipped
6.Blues Crescendo *
7.Shorty Gull
8.I'd Be There
9.Tail That Rhythm *
10.Circles *

*印 : Jan Harbeck のオリジナル曲

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 ヤンのTSの音は、やはりハリ-の手慣れた洗練さのある音に比べると、サブトーンの効果ある刺激の和らいだ広がりがあり、むしろ図太さがありますね。ここで演ずるは、ベン・ウェブスターの4曲と彼のオリシジナルが5曲。
 Henrik Gundeのピアノ、Eske Norrelykkeのベースはこのところ不変のカルテット。私はどうしてもこのようなカルテットは、TS+ピアノ・トリオとして聴いてしまうところがあるが、そうして聴いても十分味わえる美しいピアノ・トリオも魅力。

 M1."Lighter Shades"からバラード曲、そしてヤンのサブトーンでうるささは抑えられているが重量感のあるサックスが唸る。しかし全体に優しく旋律を奏でる。中盤からピアノに旋律に変わり、アドリブ役と変わりところも彼の味が出る。こうしたやや哀感のあるところは良いですね。
 M2."Johnny Come Lately"、M4."Poutin'"、M5."Woke Up Clipped"のスウィングに優しく相づちを打ちながらの展開。ピアノ・トリオの良さも生かしてこれも優しい。
Janharbeckw  M3."Tangorrus Field "の彼のオリジナル曲のバラード演奏がなかなか聴き所、いいですね。優しく状況を支える演奏がピアノの響きを又美しくしている。
   M6."Blues Crescendo " イタリア語にブルースを付けた奇妙な取り合わせ、リズムに乗ってのジャージーな盛り上がり、このタイプはお任せだ。
   M8."I'd Be There"  ASのドラムスそしてピアノとの掛け合い、ジャズの面白さだろうが、私は特に興味を持たない。
   M9."Tail That Rhythm"  淡々としたリズム隊にTSの味付けが聴きどころ。ベースの軽快なリズムにソフトに乗ってゆく軽快なサックス。続いてピアノの旋律展開がジャズ・インプロを誘導してドラムスが健闘し、カルテットとしての総決算的曲。
 M10."Circles " 最後の締めくくりはバラード演奏、ピアノと共にサックスのブツブツ音混じりの美しさがしっとりと襲ってくる。

 やっぱりジャズ愛好家でも好みはいろいろだが、私にとっての彼の魅力はサブトーンにての独特の重量感をバラードで、哀感もって流れるところですね。このアルバムでも十分聴きとれて納得。
 そして追加だが、2008年のアルバム『IN THE STILL OF THE NIGHT』の方は、スタンダード曲集だが、あの誰もが知る"Ptite Fleur"を代表にバラードの美しさがたっぷり聴けて、これもなかなかのものだった。

(評価)
□ 曲・演奏    90/100
□ 録音      85/100

(視聴)

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2021年1月25日 (月)

ニルス・ラン・ドーキー Niels Lan Doky 「Improvisation On Life」

ジャズ・ピアニストにしてコンポーザーとしての一つの集大成か


<Jazz>

Niels Lan Doky 「Improvisation On Life」
Rambling Records / JPN / RBCP3188 / 2017

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Niels Lan Doky : piano
Niclas Bardeleben : Drums
Tobias Dall :  Bass

with Debbie Sledge (of Sister Sledge) on Vocals for “Kiss” and Amanda Thomsen on Vocals for “Kærlighed og Krig” (Love and War)

Nielslandokyb   北欧のJAZZシーンでは中堅的存在であるデンマークのピアニスト、ニルス・ラン・ドーキーNiels Lan Doky (→)。ヨーロピアン・ジャズ・ピアノの知名度の高い群に入ってはいるが、どうも私にとっては今ひとつインパクトに欠けていたせいか、過去に於いてそのちょっと変わった名前をどこかで時に見る程度で来てしまっていた。

 昨年末の寺島靖国の人気コンピレーション・アルバムの『JAZZ BAR 2020』に、久々に登場した彼の曲"The Miracle of You"を聴いて、やっぱり少々ピアノの音が軽いが、流麗な演奏には魅力があり、この際一度アプローチしたくなったと言うところだ。
 そこで一気に5枚のアルバムを聴いてみたというところで、ここに最も最新のアルバムを取上げることにした。

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 彼の名義となるピアノ・トリオはメンバーは変わってきているが、かっての"Trio Montmartre" の2001年からの三作『Cafe En Plein Air (カフェ・モンマルトルからの眺め)』(上左)、『Casa Dolce Casa (ローマの想い出)』(上中央)、『SPAIN』(上右) (このトリオはパリのジャズ・ミュージシャンによる日本製作の為のレコーディング・プロジェクトで、ベーシストは、フランソワ・ムータンそして後二枚はラース・ダニエルソンが担当している。ドラムスはジェフ・ボードロー)は、かなり聴きやすいアルバム。

588  そして2011年のアルバム『HUMAN BEHAVIOUR』(BRO 011)(→)、そしてここに取上げた2017年の『Improvisation On Life』と聴いてくると、やはりそこには美旋律を愛するピアニストの心は常に宿っていて、トリオとしてのジャズの醍醐味を追求しつつ、我々の心に響くところは十分の存在だ。特にTrio Montmartreは、トリオ・ジヤズを極めると言うことより、日本向けにヨーロツパの地名に馴染んだ名曲を取上げての優しい演奏になっている。

 さて今作は彼の故郷のデンマークに拘り、更にジャズ・トリオとしての味にも拘ったという代物で、そこに聴きどころが結構あったので喜んでいるのだ。

(Tracklist)
1.Forever Frank (Niels Lan Doky)
2.Man In The Mirror (Michael Jackson)
3.The Miracle Of You (Niels Lan Doky and Lisa Freeman)
4.Kiss (Prince) feat. Debbie Sledge
5.Langt Højt Mod Nord (High Up North) (Niels Lan Doky)
6.Alone In Kyoto (from a movie “Lost in Translation”)
7.Toots Waltz (Niels Lan Doky)
8.Lady Marmelade (from a movie “Moulin Rouge”)
9.Kærlighed og Krig (Love and War) (Burhan Genç) feat. Amanda Thomsen
10.Don't Know Why (Nora Jones)
11.That's It (Niels Lan Doky)
12.Piano Interlude (Niels Lan Doky)
13.How Deep Is Your Love (Bee Gees)

   とにかくインプロヴィゼーション即興演奏が、アルバム・タイトルに出てくるぐらいに、彼らのピアノ・トリオに気合いが入っている。そして冒頭M1."Forever Frank"に自己の早弾きのオリジナル曲をぶつけてきた。しかし相変わらずピアノは名機Bösendorfer 225だと言うが、軽い音である。やっぱりこれは録音法なんでしょうかね、ドラムスの音もバタバタしていてリアル感も少ない。そして気合いが入っている割には、M1.、M2.に感動と言う世界は感じない。
 しかしM3."The Miracle Of You"になってガラっと変わってゆったりとメロディーの生きた叙情性たっぷりの美しいピアノ演奏となる。この曲は聴き覚えのある曲だ。この線でいってほしい。
 ちょっと意外だが、M4."Kiss"はDebbie Sledgeの女性ヴォーカルが入る。ベースの伴奏と相性が良い中低音を主体としたリズム感たっぷりでの歌声、なかなかジャズ心の芸達者なところを聴ける。後半ニルスのピアノはインプロヴィゼーションの展開となる。成る程ジャズを彩りもって楽しもうというところが見える、なかなかの出来。

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 M5."Langt Højt Mod Nord" 原曲のメロディーは意外に素直に演奏されるも、ここでもニルスのピアノは即興を織り交ぜて味付けが楽しい。
 M6."Alone in Kyoto"  異国の地をゆくをイメージさせるピアノの展開からスタートして、落ち着いた世界に。中盤ベースが深く心を静めるいい役割を演ずる。ピアノの美しさも味がある。
 M7."Toots Waltz" ニルスのオリジナル。大半を占めるピアノ・ソロが美しく展開。
 M8."Lady Marmelad" 珍しくピアノの低音から始まって、後半の三者によるインプロの醍醐味に進む。このアルバムの一つの主役曲か。
 M9."Kærlighed og Krig" 女性ヴォーカルの入る二曲目。澄んだピアノの音、そしてAmanda Thomsenの高音のヴォーカルが入ってトラッドっぽく訴えるように広がる。
 M10."Don't Know Why" と M11."That's It " は、ニルスのインプロの世界の緩と急を描く。M11ではドラムスのソロがステックを生かした展開でセンス抜群。
   M12."Piano interlude" ピアノ間奏曲を彼のインストで綴り、M13."How Deep Is Your Love"へと流れる。まさにインプロの楽しさを演じて締めくくる。

 ジャズのアレンジとインプロヴィゼーションの妙を描くアルバムとして作成された印象は十分伝わってきた。彼の長年の携わってきたジャズ・ピアノもこうして多くの要素から成り立っていることも聴きとれた。しかし先に触れたように録音が不満足だ。それでも彼のピアノ・ジャズのこの後への新展開の足がかりになりそうなアルバムとして評価する。

Niels_lan_doky2ネツトに見る・・「ニルス・ラン・ドーキーの略歴」
 1963年、デンマーク、コペンハーゲン生まれ。幼少のころからピアノに親しみ、バークリー音楽院卒業後、1986年にデビュー作を発表して以来、これまでに30枚を超えるアルバムを発表している。デンマークのみならず、アメリカ、イギリス、日本など世界中で演奏経歴があり、パット・メセニーやビル・エヴァンスらとの共演も果たした。演奏技術はもとより、アレンジや作曲能力の高さも評価されており、ローマ教皇のヨハネ・パウロ2世の前で演奏を披露したり、2010年にはデンマーク国よりナイトの称号も授与されるなど、卓越したキャリアを持つピアニストでもある。ジャズだけに留まらずクラシックやポップスのセンスも兼ね備え、世界中の注目を浴び続ける音楽家である。

(評価)
□ 曲・演奏   85/100 
□ 録音     78/100

(視聴)

 

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2021年1月20日 (水)

カティア・ブニアティシヴィリ Khatia Buniatishvili 「LABYRINTH」

タイトルどうりの異常ともいえる静から迷宮へと誘う演奏
・・・・久々の名盤である

<Classic,  classical music >

Khatia Buniatishvili 「LABYRINTH」
Sony Classical / Germ / 19439795772 / 2020

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Khatia buniatishvili(p)
Gvantsa Buniatishvili(p track 5,13)
arr. Khatia Buniatishvili track 1,5,8,11

Recording: Paris, Philharmonie, La Grande Salle Pierre Boulez,
June 16–20, 2020

 どちらかという奔放な解釈でありながら繊細な表現に秀でていることで知られる今や注目のピアニスト、カティア・ブニアティシヴィリの新作。なんとクラシックから映画音楽と現代音楽にまでの幅広い分野の曲がセレクトされていて多彩そのもの作品集。(彼女については、詳細は既にここで取上げているので、そちらを参照)
 そしてタイトルが「Labyrinth 迷宮」ですから、これまた聴き手を惑わす世界かとおそるおそる聴くことになった。しかしアルバム自身は彼女のお気に入り曲を集めたものであり、多くの人に聴いてもらうべく多彩であり気軽に聴ける世界と銘打っている。
 彼女の言う「迷宮」とは、「運命・宿命と創造」、「難局と放免(悪魔祓い)」ウンヌンが・・・これを聴くことによって理解できるかどうか。

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(Tracklist)

1.Ennio Morricone:Deborah’s Theme( from the film Once Upon a Time in America
2.Erik Satie:Gnopédie No. 1
3.Frédéric Copin:Prélude in E minor op. 28/4
4.György Ligeti: Arc-en-ciel No. 5 from Études pour piano – Book I
5.Johann Sebastian Bach:Badinerie(from Orchestral Suite No. 2 in B minor BWV 1067 for piano four hands with Gvantsa Buniatishvili
6 Johann Sebastian Bach:Air on the G String 5:19 from Orchestral Suite (Overture) No. 3 in D major BWV 1068
7.Sergi Rahmaninov(arr.Alan Richardson):Vocalise op. 34/14
8.Serge Gainsbourg:La Javanaise
9.Heitor Villa-Lobos:Valsa da dor
10.François Couperin:Les Barricades mystérieuses from Pièces de clavecin – Book II
11.Antonio Vivaldi/Johann Sebastian Bach:Sicilienne Largo from Bach’s Organ Concerto in D minor BWV 596 based on Vivaldi’s Concerto in D minor RV 565
12.Johannes Brahms:Intermezzo in A major op. 118/2
13:Arvo Pärtt:Pari intervallo for piano four hands
14.Phlip Glass(arr. Michael Riesman & Nico Muhly ):I’m Going to Make a Cake from the film The Hours
15.Domenico Scarlatti:Sonata in D minor K 32
16.Franz List:Consolation (Pensée poétique) in D-flat major S 172/3
17.John Cage:4:33
18. Alessandro Marcello/Johann Sebastian Bach:Adagio from Bach’s Keyboard Concerto in D minor BWV 974 based on Marcello’s Oboe Concerto in D minor

  とにかくとにかく上のように選曲がユニーク。クープラン、スカルラッティ、バッハなどのバロック期の作品からサティが登場し、モリコーネ、ペルト、ゲンスブールをはじめジョン・ケージまでの近現代作品まで網羅し、時代を超えて多彩な曲が登場してくる。

E0080798_2b  M1."Deborah’s Theme"はモリコーネだが、暗く沈んで静かに物思いの世界で始まり。M2."Gnopédie No. 1"サティは静かな世界に心安まる。そしてM3."Prélude in E minor op. 28/4"ショパンの超ゆったりの演奏で美しい世界にと、完全にこのアルバムの世界に弾き込まれてしまう。
 M4." Arc-en-ciel No. 5 from Études pour piano – Book "になって初めて強打鍵盤音が出現。
 バッハのM5."Badinerie", M6."Air on the G String"はほっとする安堵感あり、現実の世界に呼び戻される。M7."Vocalise op. 34/14"ラフマニノフは抒情性たっぷり。
 M9."Valsa da dor"は強弱のメリハリが素晴らしく、彼女の特徴を聴ける。弱の深い情感に心が惹かれる。
 M11."Sicilienne Largo from Bach’s Organ Concerto in D minor BWV 596"ビヴァルディ・バッハも美しい。M12."Intermezzo in A major op. 118/2"ブラームスは納得の美。
 M13."Pari intervallo for piano four hands"の「断続する平行」は、姉のGvantsa B.とのフォー・ハンド演奏。とにかく深遠に奥深さは出色。
 M14."I’m Going to Make a Cake from the film The Hours"の展開はまさに映画を見る世界。
 M15."Sonata in D minor K 32"スカルラッティのソナタ、M16."Consolation"リストの「慰め」は、このアルバムを聴いてよかったと心に染み入る名曲・名演奏。
 M17.はあの有名なジョン・ケージの"4分33秒"、全ての楽器の休章。これが登場するとは思わなかった。ここではかすかに聞こえる小鳥のさえずり。そして終曲M18."Adagio from Bach’s Keyboard Concerto in D minor BWV 974 "は締めくくりに相応しい美しいバッハのアダージョ。

 とにかく、久しぶりに素晴らしいアルバムを聴いたという気持ちで聴き終えることが出来る。カティア・ブニアティシヴィリも自分の好きな曲を演奏したと言うだけあって、情感の入れ方も素晴らしい。彼女の色に染められて、曲によってこんな哀感があったのかとも新しい発見がある。彼女のこうした面は初めてと言うことではないが、しかしこの世界は彼女がこれからも大切にしていく世界であろうと思うし、是非そうあって欲しいと願うのである。
 
(評価)
□ 選曲・演奏    95/100
□ 録音       88/100

(視聴)

 

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2021年1月15日 (金)

エンリコ・ピエラヌンツィEnrico Pieranunzi JAZZ ENSEMBLE 「TIME'S PASSAGE 」

欲張りのヴォーカル入りのクインテット・ジヤズ

<Jazz>

Enrico Pieranunzi JAZZ ENSEMBLE 「TIME'S PASSAGE 」
Abeat For Jazz / IMPORT / ABJZ 219 / 2020

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Enrico Pieranunzi (piano, arrangement) (electric piano on 1, 9)
Luca Bulgarelli (bass except 7)
Dede Ceccarelli (drums except 7)

*special guests:
Simona Severini (vocal except 3, 5)
Andrea Dulbecco (vibraphone except 7)

  日本で圧倒的人気の エンリコ ・ピエラヌンツィ(1949年ローマ生まれ)のピアノトリオを基軸とし、しかも彼のオリジナル曲を中心としたアルバムだが、ヴィブラフォン&女性ヴォーカルのゲスト二人を迎えてのやや異色のアンサンブル編。
 実はエンリコと言うとあのクラシック・ムードのある情緒あるメロディーのピアノの美旋律トリオを私はどうしても期待してしまうので、その世界とは明らかに異なる彼の近年のアグレッシブな姿勢がやはり前面に出てのアルバム。その為少々評価が難しい為に年を越してここに取上げたという次第。

Vvj106_hqf_extralarge  9曲中7曲に登場する女性ヴォーカルのシモーナ・セヴェリーニの歌声が、先ずは重要な役割を果たしている上に、近年ややジヤズ界から後退気味のヴィブラフォンが登場してのピアノの取り合わせが又微妙で、ちょっと意外な世界に流れていくのである。
  そしてもう一つピエラヌンツィとこの女性セヴェリーニのコンビというと、2012年からの関係で、2016年にはアルバム『My Songbook』(VVJ106/2016)(→)だ。これはピエラヌンツィが彼女を全面的にフューチャーしアレンジ、プロデュースを担当した本格ヴォーカル・アルバムだった。その後あのドビュッシーへの想いというちょっと中途半端だったアルバム『Moisieur Claude』(BON180301/2018)にも登場している。そんな流れの中での今回のアルバムなのである。

(Tracklist)
1. Time's passage (Enrico Pieranunzi) 5,40
2. Valse pour Apollinaire (Enrico Pieranunzi) 4,13
3. Biff (Enrico Pieranunzi) 4,33
4. In the wee small hours of the morning (David Mann & Bob Hilliard)*Quartet version 4,58
5. Perspectives (Enrico Pieranunzi) 5,15
6. A nameless gate (Enrico Pieranunzi) 5,04
7. In the wee small hours of the morning (David Mann & Bob Hilliard) **Voice&piano version 3,56
8. The flower (Enrico Pieranunzi) 7,10
9. Vacation from the blues (Arthur Hamilton/Johnny Mandel) 5,53

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 上のように、8曲中6曲はピエラヌンツィのオリジナルと言うことで、さてさてどんな美旋律ピアノの世界かと興味津々といったところ。しかし驚くなかれ、ここは期待に反してと言ったところでもあるが、今回のピエラヌンツィ(p)は、主役の座をヴォーカルのセヴェリーニやパーカッシブにメロディーを演ずるデュルベッコのヴィブラフォンに多くは譲っていて、むしろ引き立て役やリード役に徹した感がある。従って控えめに節度を保ちつつ、ゲスト陣の演ずるところに、端麗な味わい深いピアノを添えて演ずる。ただし時にアクセント聴かせてのリズムカルなプレイも披露もしている。そんなところで所謂ピアノ・トリオものとは全く別のアンサンブルな音作りのアルバムになっているところが特徴だ。

Simonaseverinijbw_20210114205401  そして重要なシモーナ・セヴェリーニのヴォーカルは、なかなかテクニックのある上クラスではあるが、中・低音に質量があるハスキー・ヴォイスでのその発声と声の質にはおそらく好みが分かれそう。

 M1."Time's passage "は、アルバム・タイトル曲で、ピアノ・トリオとゲストのヴォーカルとヴィブラフォンの演奏だが、美しさという世界でも無く、ヴォーカル曲というのでも無く、アンサンブル尊重なのか、意味のあまり理解できない曲。
 まあ、彼女のヴォーカルを主体に聴くならM2., M4.といったところか。M2."Valse pour Apollinaire"は、リズムカルにして、メロディーがよく、彼女は生き生きとしていてパリ・ムード、演奏も躍動感あって良い曲に仕上がっている。一方M4., M7. " In the wee small hours of the morning"はフランク・シナトラが歌った名曲で、しっとり歌い上げて聴き応えあるし、ヴィブラフォンとピアノとの相性が良い美しいヴォーカル曲として上出来。
 ところがM6."A nameless gate"あたりは、ヴォーカルと演奏におけるピアノの美しさが中途半端。何に感動して良いのか考えてしまうという状態。
 とにかく聴くにポイントはそれぞれ多々あるのだが、例えばM7.のヴォーカルと続くM8." The flower"で盛り上げた何か訴えてくるムードはかなり良い線をいっているにもかかわらず、M9."Vacation from the blues "のアンサンブルで全く別世界に連れてゆかれ、描いた世界が台無しになってしまう。描く世界の主体がハッキリしない変わったアルバムであった。

 結論的には、それぞれの曲には聴き所があるにもかかわらず、ヴォーカル・アルバムか演奏のアルバムなのかの聴いた後の感想がまとまらない作品だ。まあヴォーカル込みのクインテット・アルバムとしておこう。


(評価)

□ 曲・演奏・ヴォーカル    80/100
□ 録音            85/100

(視聴)

 

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2021年1月11日 (月)

モニカ・ホフマン Monika Hoffman 「TEN MUSES」

かなり手慣れた華やかなジャズ・ヴォーカルを展開

<Jazz>

Monika Hoffman 「TEN MUSES」
Mochermusic / sweden / MOM-0031 / 2020

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Personnel:
Monika Hoffman - vocals (+ violin on 3)
Arno Haas - saxes on 3,5,8,10
Klaus Graf - alto sax solo on 9
Alexander Buhl - tenor sax solo on 1
Peer Baierlein - trumpet/flh on 2,6,8,10
Marc Godfroid - trombone solo on 6
Christoph Neuhaus - guitar on 4,5,8,10
Patrick Tompert - MD + piano (except 1,9)
Martin Schrack - piano on 1,9
Jens Loh - double bass on 2,4,7,10
Benny Jud - electric bass on 3,5,8
Axel Kuhn - double bass on 1,6,9
Fulgencio Medina Jr. - drums on 2,4,7,10
Alvin Mills - drums on 3,5,8
Guido Joris - drums on 1,6,9
The Jazzfactory Orchestra - on 1,6,9

 昨年聴いてはいたが、ここに登場出来なかったものを少々取上げようと、まずはこのスウェーデンの女性ヴォーカリストのモニカ・ホフマンだ。彼女は1982年生まれの38歳。父はスウェーデン人、母はハンガリ人という歌手。流暢なハンガリー語、スウェーデン語、英語を話す国際派。3歳の時にヴァイオリンを弾き始め、サキソフォンも弾き始めたと。 子供の頃、そして10代の頃、彼女は様々な音楽学校に通い、その後バークリー音楽大学に進学した。彼女は奨学金を受け、マイケル・ブレッカーやチャーリー・ヘイデンとステージを共有するという機会を得ている。 いずれにしても華やかなアメリカン・ジャズに寄っている。しかもし豊かな声量で、ジャズだけでなくクラシック、ポップス、ラテンと幅広くこなす。
 彼女のスタートは、もう15年前の2005年にハンガリー ・メガシュタル(アイドル)のオーディションを受け、総合9位と好評価は得られなかったがその反面、高い人気を獲得して成功した。これにより歌手としてのキャリアをスタートさせ、最高のジャズピアニストの一人、ローベルト・ラカトースとも共演しスタジオ・アルバムが成功。
 本作は彼女のスタジオ・アルバム5作目あたりか。
 
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1. First Time
2. Sway
3. Fading Like a Flower
4. Cheek to Cheek
5. Where Do I Begin
6. Besame Mucho
7. Bang Bang
8. Lover Man
9. What are You Doing the Rest of Your Life
10. Lullabye of Broadway
11. Over the Rainbow

 まあどちらかというと、ジャズの中でもポピュラーな曲が続く。それも自身の敬愛する 10人の女性ヴォーカリスト の Doris Day, Judy Garland, Ella Fitzgerald, Rosemary Clooney, Marie Fredriksson, Shirley Bassey, Cezalia Evora, Cher, Barbra Streisand, Etta James に関係した作品を採り上げて歌い込んだと言うことのようだ。

 M1."First Time", M6." Besame Mucho" など期待したが、なんとビックバンドによるヴォーカルで、騒々しくて私向きで無かった。しかし彼女はジャズ・ステージは相当こなしてきているようで、その曲での歌い込みはかなり手慣れていて堂々と歌い上げている。
   とくに、M4."Cheek to Cheek"などは、ジャズの典型的なスタイルをオーソドックスに、しかも彼女らしさも出して危うさがない。
 私の場合は、M2."Sway"がバラード調に流れ、バックも静かな中で彼女なりきの編曲も多彩に込められて、後半のトランペットもバックにピアノと共に入るが、落ち着いていて好感度が高かくこの線なら期待度高い。

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 M5."Where Do I Begin(Love Story)"は懐かしい曲だ。最近聴いていなかったせいか、熱唱とバックのギターの味と妙に気に入ってしまった。
 M7."Bang Bang"ベースのリズムの刻みが効を呈して、ピアノの演奏も快調で彼女の熱唱に盛り上がって、この曲の編曲も面白く聴ける仕上げ。
 M9."What are You Doing the Rest of Your Life"バック演奏も、彼女のヴォーカルが始まると当時にサポートに変化して彼女の情感を盛り上げる。
 M11."Over the Rainbow" 彼女のオリジナル旋律の歌から始まって、この曲本来のメロディーがすぐに出てこないが、締めくくりに相応しくしっとりと歌い込むところは充実感ある。

 彼女のジャズ・ヴォーカリストとしての経験の豊富さが感じられる曲の展開と歌い込みがアドリブも含めて見事である。後は声の質など好みの問題だが、ユーロ系を感ずるよりアメリカン感覚でありその点が私的には気になるところ。しかし所謂ジャズ・ヴォーカルとしてはそれなりの評価は十分出来る。

(評価)
□ 選曲・編曲・歌   85/100
□ 録音        80/100

(視聴)  "Sway"

 

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2021年1月 7日 (木)

EL&Pからブニアティシヴィリ、ブレンデル、プレヴィンの「展覧会の絵」

ムソルグスキーの前衛性からの世界は・・・・

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 ロシアの作曲家ムソルグスキー(Modest Petrovich Mussorgsky, 1839.3.21 - 1881.3.28)は、民族主義的な芸術音楽の創造をした作曲家集団「ロシア五人組」の一人だ。ロシアの史実や現実生活を題材とした歌劇や諷刺歌曲を書いた。歌劇『ボリス・ゴドゥノフ 』や管弦楽曲『禿山の一夜』、ピアノ組曲『展覧会の絵』などが代表作だ。

 ここで取上げる組曲『展覧会の絵』(1874年作曲、楽譜は10年後にリムスキー・コルサコフにより編集出版)は、19世紀ロシアの生んだ最も独創的なピアノ音楽とされている。絵画にちなび彼の世界で発展させた10の楽曲と、全曲の冒頭と曲間に変奏されながら挿入される「プロムナード」より構成された曲。ムソルグスキーならではの独創性が全曲に漲っていて、その音楽的前衛性によって現代においても過去の物にならない。フランス印象派をはじめ各方面に大きな影響を及ぼした。民主主義的な理想のために闘う前衛的なロシア・リアリズムが宿っている。

 そしてそれは現代に於いてロックからクラシックに至る世界で重宝がられているのだ。ここでこの新年に聴いた四枚のアルバムを紹介したい。

█ 「展覧会の絵」 ロック盤

<Rock>
(DVD 映像盤)
 EMERSON,LAKE & PALMAR 
「MONTREAL 1977 COLLECTORS' EDITION」
Olympic Stadium,Montreal, Quebec   PRO-SHOT

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 EL&Pはクラシック曲をロックにアレンジしたグループの代表格だが、このムソルグスキーの「展覧会の絵」やチャイコフスキーの「くるみ割り人形」、アルベルト・ヒナステラの「ピアノ協奏曲第1番」などだ。
 これはもともとこのコンセプトはエマーソンがEL&P結成以前に在籍していたザ・ナイスで行ってきたもの、それがEL&Pに引き継がれたいた。

 これは1977年のオーケストラ共演ツアーのモントリオール公演のライブ映像版。かってライブアルバム『IN CONCERT』としてお目見えしたものだか、現在廃盤。そこで実際にショーどおりに再編集してのバージョンを加えての復刻版。
 とにかく「Pictures at an Exhition 展覧会の絵」が素晴らしい。ロックを過去のクラシックにプログレさせたという離れ業。しかもオーケストラを競演させるというエマーソンの野望の結晶。

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  EL&Pのバンド構成は、キーボード、ベース(ボーカル)、ドラムの、いわゆるキーボード・トリオである。所謂ロック・サウンドには、あの歪んだ破壊的パワーを出すギターは欠かせないものだが、このバンドの構成の場合はギター・サウンドはない。ときにベースのレイクがアコギを使う程度。そしてキーボード・プレイヤーはステージを自由に動き回れず、ロックにとって大きなインパクトとしてのパフォーマンスに制約が大きい。

 しかしキーボードのエマーソンは、ハモンド・オルガンでは攻撃的な音出しに成功し、モーグ・シンセサイザーの音色をうまく取り入れた。C-3とL-100という2台のハモンドオルガンを使い、L-100の出力にギター・アンプを使って破壊的なサウンドを出した。又アンプに近づけてノイズを出したり、鍵盤の間にナイフを突き立てて二つの鍵盤をオンにするエマーソン独特のパフォーマンスにより攻撃的・破壊的イメージ作りをした。さらに演奏面でも「PIANO CONCERTO No.1」にみるように、オーディエンスを虜にした。

 レイクもヴォーカルでの魅力も訴えたし(「C'EST LA VIE」)、パーマーとのドラムスも迫力演奏(「TANK」)。こうしてEL&Pは70年代末期に頂点に立った。しかしこの1977年のパフォーマンスがその後の彼ら自身に重圧となる。
 こんな衝撃は今のロック界では観られない。そんな意味でも貴重盤だ。

 

 

█ 「展覧会の絵」クラシック盤 (1)  ピアノ組曲版

<Classic>

Khatia Buniatishvili  「KaLEidoScope」
Sony Classical / EU / 2016

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Khatia Bunatishvili : piano

0d2926fc5f6c9861573b (Tracklist)

1. Modest Mussorgsky / PICTURES AT AN EXHIBITION
2. Maurice Ravel / LA VALSE
3. IGor Stravinsky / THREE MOVEMENTS FROM PETRUSHKA

   いまや売れっ子のピアニストKhatia Bunatishviliの異端のクラシック・アルバム。この新年の冒頭に当たり、彼女のメリハリのあるピアノ演奏を聴き込みました。
 このアルバムは、既にここで取上げているのでそちらへ (↓)
   (参照)http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2018/06/khatia-buniatis.html

 

█ 「展覧会の絵」クラシック盤 (2)  ピアノ組曲版

<Classic>

ALPRED BRENDEL 「PICTURES AT AN EXHIBITION」
PHILIPS / JPN /PHCP-1157 / 

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Alfred Brendel : piano
Recorded on 1985

Alfredbrendelb2   もともとのこの「展覧会の絵」はこのピアノ版であるピアノ組曲であるのだが、それはムソルギスキーが、彼の友人の急進的建築家ヴィークトル・ハルトマンの遺作展から影響を受けて作曲されている。原題は《展覧会からの絵》という意のようで、ハルトマンの絵をそのまま音楽において描出した訳ではなく、あくまでそこからインスピレーションを受けて彼の世界から作られた楽曲という。

  そしてこのブレンデルの演ずるところは、ブニアティシブィリと違ってどちらかと言うと、優しさに溢れているという印象。何度となくよく聴いてきたアルバム。

 

 

█ 「展覧会の絵」クラシック盤 (3)  オーケストラ版

<Classic>

ANDRE PREVIN , Wiener Philharmoniker 
「PICTURES AT AN EXHIBITION」

PHLIPS / Germ. / 416 296-2 /

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Wiener Philharmoniker 
conducted by ANDRE PREVIN

Live Recording , Musikvereinssaal , Wien, 20&21/4/1985

Previn219x219  これはラヴェルによるオーケストラ版「展覧会の絵」を、アンドレ・プレヴィン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団が演奏したアルバム。指揮者によってはこうしたオーケストラ版においては、原曲のピアノ組曲のロシア的世界に近づけるものと、あくまでもオーケストラ版としてのラヴェル的世界に広げる者と居るようだが、プレヴィンは特にどちらかにも偏らず、彼の世界で演じたようである。テーマが変わる間にプロムナードという散歩的繋ぎを挿入した組曲だが、そのプロムナードがそれぞれの状況や心理を描くに役立ったところをプレヴィンはかなり慎重に描いているような印象である。


█ 我々が受けるところとしては、オーケストラ版よりは、ピアノ版の方がスリリングな印象であり、その辺はこうして比べて聴いていると面白い。そこに更にEL&P版のようなロックで迫ってみると、これ又ムソルグスキーの世界が印象深くなってくるのである。

 ムソルグスキーに関して・・・・当時ロシアには、「移動派」という民主主義的な理想を求めての闘う前衛的なロシア・リアリズム美術の画家集団が存在していて、この運動を、ドストエフスキー、トルストイ、チェーホフといったロシアの歴史的作家たちは擁護したのだが、音楽界ではムソルグスキーのみ支持したというのだ。こんな貴族生活から大衆の世界に根を下ろした彼の心が前衛的な曲作りに向かわせたのか、興味ある「展覧会の絵」なのである。音楽というものもその時代の中で生きて存在しているところに価値はあるのだと思う次第だ。

(視聴)
EL&P

  

*

Khatia Buniatishvili

*

Alfred Brendel

 

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2021年1月 2日 (土)

2021年の幕開け -「原子心母」「原子心母の危機」

今年は辛丑(かのとうし)年(牛)・・・・・「帰馬方牛」を願いつつ

「帰馬方牛」
戦争が終わって平和になることのたとえ。
または、二度と戦争をしないことのたとえ。
戦争のための馬や牛を野性にかえすという意味から。
(殷の紂王を討ち取った周の武王は、戦争で使った馬を崋山の南で放ち、牛を桃林の野に放って二度と戦争に用いないことを示した故事から)
出典 『書経』

 2019年は全世界「コロナ渦」にのまれ、影に隠れていた世界情勢、そして日本の情勢には、甚だ疑問の姿を感じざるを得ない。歪んだポピュリズム、ナショナリズムの台頭、戦後の平和を維持するリベラリズムに対しての新自由主義の負の部分の支配、人種問題。そして日本での安倍政権以来顕著となった政府の独裁化と道義崩壊、対近隣諸国との政策の危険性、原子力政策の危険性、国民無関心化の助長などなど、新年に当たって多くの問題を考えざるを得ない。

 「丑(牛)」にちなんで、Pink Floyd「原子心母 Atom Heart Mother」そしてMORGAUA QUARTET「原子心母の危機 Atom Heart Mother is on the edge」へと流れるのである
 それはウォーターズの"人間と社会への不安"から荒井英治の"音楽は現実から逃避してはならない"へとの流れである。

 

91pv5nyeiklw  █ <Progressive Rock> Pink Floyd
   「原子心母」 Atom Heart Mother
    Harvest / UK / SHVL-781 / 1970

 
 (Tracklist)

    1. Atom Heart Mother, 2.If, 3.Summer'68, 4.Fat Old Sun, 5.Alan's Psychedelic Breakfast 



1970年発表。
 全英チャート初登場1位、全米でも55位を記録するなど世界的にヒットして、ピンク・フロイドを世界的バンドとして押し上げられたアルバム。
 プログレッシブ・ロックというものを世界をはじめ日本でも認知させた。
 ここには、ペース・メーカーで生き延びている妊婦を見てのウォーターズの人間観から生まれた不思議なタイトル「原子心母」、ロックとクラシック更に現代音楽を融合させたロン・ギーシン。そして既にB面には、ウォーターズにまつわる人間や社会への不安が頭を上げ、それを美しく歌ったM2."If"が登場、これ以降彼の曲はその不安との葛藤が続くのである。M4."Fat Old Sun"はギルモアのギターによる音楽的追求が始まっている。
 アルバム『モア』以降、ギルモアを呼び込んでバンド造りに努力したウォーターズ。しかし四人の音楽感の違いから分裂直前であったが、この『原子心母』ヒットで彼らは嫌が上でもバンド活動を続け、その後の『おせっかい』、『狂気』と最高傑作に向かう。

 

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  <Classic> MORGAUA QUARTET
 「原子心母の危機」 Atom Heart Mother is on the edge
     日本コロンビア/ JPN / CD-COCQ85066 /2014


 

 


(Tracklist)
1. レッド(キング・クリムゾン) Red(King Crimson)
2. 原子心母(ピンク・フロイド) Atom Heart Mother(Pink Floyd)
3. 平和~堕落天使(キング・クリムゾン) Peace~Fallen Angel including Epitaph(King Crimson)
4. ザ・シネマ・ショウ~アイル・オヴ・プレンティ(ジェネシス) The Cinema Show~Aisle of Plenty(Genesis)
5. トリロジ-(エマーソン・レイク&パーマー) Trilogy(Emerson Lake and Palmer)
6. 危機(イエス) Close to the Edge(Yes)
    i) 着実な変革 ⅱ) 全体保持 ⅲ) 盛衰 iv) 人の四季 
7. ザ・ランド・オブ・ライジング・サン(キ-ス・エマ-ソン) The Land of Rising Sun(Kieth Emerson)

Arai0618 MORGAUA QUARTET
荒井英治(第1ヴォイオリン、東京フィル交響楽団ソロ・コンサートマスター)
戸澤哲夫(第2ヴォイオリン、東京シティ・フィル管弦楽団コンサートマスター)
小野富士(ヴィオラ、NHK 交響楽団次席奏者)
藤森亮一(チェロ、NHK 交響楽団首席奏者)

編曲:荒井英治
録音:2013年 9 月 30日、2014 年1月27日、2月7日、クレッセント・スタジオ

   プログレ至上主義者、ヴァイオリンの荒井英治による入魂のアレンジにより、クラシック・カルテットの演奏アルバム。宣伝文句は「この危機の時代に、新たな様相で転生するプログレ古典の名曲群」で、まさにそんな感じのアルバム。
 このモルゴーア・カルテットは、ショスタコーヴィッチの弦楽四重奏曲を演奏するために結成されたカルテット。東大震災に衝撃を受けたキース・エマーソンが書き上げたピアノ小品の弦楽四重奏編曲に荒井英治(第1ヴァイオリン)は心を打たれた。震災に伴っての世紀の世界的人災「福島の危機」とピンク・フロイドの「原子心母」、そしてその同一線上にクリムゾン「レッド」、イエス「危機」を見ることで、このアルバム製作となったと。

「音楽は現実からの逃避になってはならない。逆に立ち向かうべきことを教えてくれるのではないか」 (荒井英治)

 

(視聴)

pink floyd "Atom Heart Mother"

*

morgaua quartet "Atom Heart Mother is on the edge"

*

morgaua quartet "atom heart mother"

 

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