ニルス・ラン・ドーキー Niels Lan Doky 「Improvisation On Life」
ジャズ・ピアニストにしてコンポーザーとしての一つの集大成か
<Jazz>
Niels Lan Doky 「Improvisation On Life」
Rambling Records / JPN / RBCP3188 / 2017
Niels Lan Doky : piano
Niclas Bardeleben : Drums
Tobias Dall : Bass
with Debbie Sledge (of Sister Sledge) on Vocals for “Kiss” and Amanda Thomsen on Vocals for “Kærlighed og Krig” (Love and War)
北欧のJAZZシーンでは中堅的存在であるデンマークのピアニスト、ニルス・ラン・ドーキーNiels Lan Doky (→)。ヨーロピアン・ジャズ・ピアノの知名度の高い群に入ってはいるが、どうも私にとっては今ひとつインパクトに欠けていたせいか、過去に於いてそのちょっと変わった名前をどこかで時に見る程度で来てしまっていた。
昨年末の寺島靖国の人気コンピレーション・アルバムの『JAZZ BAR 2020』に、久々に登場した彼の曲"The Miracle of You"を聴いて、やっぱり少々ピアノの音が軽いが、流麗な演奏には魅力があり、この際一度アプローチしたくなったと言うところだ。
そこで一気に5枚のアルバムを聴いてみたというところで、ここに最も最新のアルバムを取上げることにした。
彼の名義となるピアノ・トリオはメンバーは変わってきているが、かっての"Trio Montmartre" の2001年からの三作『Cafe En Plein Air (カフェ・モンマルトルからの眺め)』(上左)、『Casa Dolce Casa (ローマの想い出)』(上中央)、『SPAIN』(上右) (このトリオはパリのジャズ・ミュージシャンによる日本製作の為のレコーディング・プロジェクトで、ベーシストは、フランソワ・ムータンそして後二枚はラース・ダニエルソンが担当している。ドラムスはジェフ・ボードロー)は、かなり聴きやすいアルバム。
そして2011年のアルバム『HUMAN BEHAVIOUR』(BRO 011)(→)、そしてここに取上げた2017年の『Improvisation On Life』と聴いてくると、やはりそこには美旋律を愛するピアニストの心は常に宿っていて、トリオとしてのジャズの醍醐味を追求しつつ、我々の心に響くところは十分の存在だ。特にTrio Montmartreは、トリオ・ジヤズを極めると言うことより、日本向けにヨーロツパの地名に馴染んだ名曲を取上げての優しい演奏になっている。
さて今作は彼の故郷のデンマークに拘り、更にジャズ・トリオとしての味にも拘ったという代物で、そこに聴きどころが結構あったので喜んでいるのだ。
(Tracklist)
1.Forever Frank (Niels Lan Doky)
2.Man In The Mirror (Michael Jackson)
3.The Miracle Of You (Niels Lan Doky and Lisa Freeman)
4.Kiss (Prince) feat. Debbie Sledge
5.Langt Højt Mod Nord (High Up North) (Niels Lan Doky)
6.Alone In Kyoto (from a movie “Lost in Translation”)
7.Toots Waltz (Niels Lan Doky)
8.Lady Marmelade (from a movie “Moulin Rouge”)
9.Kærlighed og Krig (Love and War) (Burhan Genç) feat. Amanda Thomsen
10.Don't Know Why (Nora Jones)
11.That's It (Niels Lan Doky)
12.Piano Interlude (Niels Lan Doky)
13.How Deep Is Your Love (Bee Gees)
とにかくインプロヴィゼーション即興演奏が、アルバム・タイトルに出てくるぐらいに、彼らのピアノ・トリオに気合いが入っている。そして冒頭M1."Forever Frank"に自己の早弾きのオリジナル曲をぶつけてきた。しかし相変わらずピアノは名機Bösendorfer 225だと言うが、軽い音である。やっぱりこれは録音法なんでしょうかね、ドラムスの音もバタバタしていてリアル感も少ない。そして気合いが入っている割には、M1.、M2.に感動と言う世界は感じない。
しかしM3."The Miracle Of You"になってガラっと変わってゆったりとメロディーの生きた叙情性たっぷりの美しいピアノ演奏となる。この曲は聴き覚えのある曲だ。この線でいってほしい。
ちょっと意外だが、M4."Kiss"はDebbie Sledgeの女性ヴォーカルが入る。ベースの伴奏と相性が良い中低音を主体としたリズム感たっぷりでの歌声、なかなかジャズ心の芸達者なところを聴ける。後半ニルスのピアノはインプロヴィゼーションの展開となる。成る程ジャズを彩りもって楽しもうというところが見える、なかなかの出来。
M5."Langt Højt Mod Nord" 原曲のメロディーは意外に素直に演奏されるも、ここでもニルスのピアノは即興を織り交ぜて味付けが楽しい。
M6."Alone in Kyoto" 異国の地をゆくをイメージさせるピアノの展開からスタートして、落ち着いた世界に。中盤ベースが深く心を静めるいい役割を演ずる。ピアノの美しさも味がある。
M7."Toots Waltz" ニルスのオリジナル。大半を占めるピアノ・ソロが美しく展開。
M8."Lady Marmelad" 珍しくピアノの低音から始まって、後半の三者によるインプロの醍醐味に進む。このアルバムの一つの主役曲か。
M9."Kærlighed og Krig" 女性ヴォーカルの入る二曲目。澄んだピアノの音、そしてAmanda Thomsenの高音のヴォーカルが入ってトラッドっぽく訴えるように広がる。
M10."Don't Know Why" と M11."That's It " は、ニルスのインプロの世界の緩と急を描く。M11ではドラムスのソロがステックを生かした展開でセンス抜群。
M12."Piano interlude" ピアノ間奏曲を彼のインストで綴り、M13."How Deep Is Your Love"へと流れる。まさにインプロの楽しさを演じて締めくくる。
ジャズのアレンジとインプロヴィゼーションの妙を描くアルバムとして作成された印象は十分伝わってきた。彼の長年の携わってきたジャズ・ピアノもこうして多くの要素から成り立っていることも聴きとれた。しかし先に触れたように録音が不満足だ。それでも彼のピアノ・ジャズのこの後への新展開の足がかりになりそうなアルバムとして評価する。
█ ネツトに見る・・「ニルス・ラン・ドーキーの略歴」
1963年、デンマーク、コペンハーゲン生まれ。幼少のころからピアノに親しみ、バークリー音楽院卒業後、1986年にデビュー作を発表して以来、これまでに30枚を超えるアルバムを発表している。デンマークのみならず、アメリカ、イギリス、日本など世界中で演奏経歴があり、パット・メセニーやビル・エヴァンスらとの共演も果たした。演奏技術はもとより、アレンジや作曲能力の高さも評価されており、ローマ教皇のヨハネ・パウロ2世の前で演奏を披露したり、2010年にはデンマーク国よりナイトの称号も授与されるなど、卓越したキャリアを持つピアニストでもある。ジャズだけに留まらずクラシックやポップスのセンスも兼ね備え、世界中の注目を浴び続ける音楽家である。
(評価)
□ 曲・演奏 85/100
□ 録音 78/100
(視聴)
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