菊池雅章 MASABUMI KIKUCHI 「HANAMICHI 花道」
究極の深遠なる美と、人生の姿に心を馳せるドラマがある
<Jazz>
MASABUMI KIKUCHI 「HANAMICHI The Final Studio Recording」
Redhook Records / JPN / KKJ9010 / 2021
Masabumi Kikuchi : piano
Recorded Dec. 2013 at Klavierhaus, New York
2015年に肺がんを患ってこの世を去ったピアニスト菊池雅章の、なんとも驚きのラスト・スタジオ録音もの(ピアノ・ソロ)の登場である。
彼の演ずる世界は、「瞬間の表現を追究し続けたアーティスト」とか「生涯ピアノの響きを追求し続けたピアニスト」とか、更に「妥協を一切許さなかったアーティスト」、「生涯をかけて探求した音楽表現・芸術を極めたアーティスト」などなど、彼をしてピアニストとしての生き様に熱い評価が綴られる。音楽芸術の評価を学問的には全く出来ない私にとっても、これらの評価はなんとなく彼の作品には宿っていることだけは理解しているつもりではあるが、こうしてラスト録音モノの出現に、万歳というところなのである。
かってのゲイリー・ピーコック(b)とポール・モチアン(ds)とのトリオ(デザート・ムーン)を懐かしむところでもあるが、このアルバムは取り敢えず心に響く演奏としてここに取上げるのである。
(Tracklist)
1. Ramona ラモナ (L. Wolfe Gilbert and Mabel Wayne) (06:40)
2. Summertime サマー・タイム (George Gershwin and Ira Gershwin) (11:23)
3. My Favorite Things I マイ・フェイヴァリット・シングス1
(Oscar Hammerstein and Richard Rodgers) (05:08)
4. My Favorite Things II マイ・フェイヴァリット・シングス2
(Oscar Hammerstein and Richard Rodgers) (06:30)
5. Improvisation インプロヴィゼーション(Masabumi Kikuchi) (05:36)
6. Little Abi リトル・アビ (Masabumi Kikuchi) (05:52)
実は、オール彼のオリジナルものかと思っていたが、開けてみると上のようにむしろスタンダード集に近いものであった。そして自身の即興モノが一曲と最後の締めの曲が例のオリジナル曲"Little Abi"となっている。
予想通り、スタートM1." Ramona "から彼自身の即興の美が加味された演奏となって、深遠にせまってくる。そして誰もが口ずさむM2."Summertime"は、11分越えの演奏で、やさしくメロディーを流しながらも彼の人生を回顧しているかの如きのインプロヴィゼーションの積み重ねで、原曲を意識しない彼の世界に没頭できる。
M3.M4.の" My Favorite Things"も、ここには原曲の姿以上のそこに現れる音を大切にした音楽を超越した世界を描くのである。
そしてフリー・インプロヴィゼーションを経て、彼の生涯の曲である愛娘に捧げたM6."Little Abi"の慈しみの愛と美しさの究極を演じて終わる。
これに至るは、ECMでマンフレッド・アイヒャーの下、プロデューサーをつとめたMr. Sun Chung( サン・チョン)の彼に対する心入れから生まれたものの様だ。2011年、それは実質2 年以上にレコーディングを模索しつづけて、ようやくここまでに実現させたものという。
そしてこのアルバムの価値は、聴く者に、ただ深遠な美を与えるというだけで無く、一つ一つの音から自己の人生を何らかの形で脳裏に描かせる奥深さが存在している作品として結論づけるところにある。
(評価)
□ 編曲・演奏 90/100
□ 録音 88/100
(視聴)
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コメント
風呂井戸さま、、
音数は極度に限られ、一音一音に必然性を感じますよね。
そして、ダイナミクスを駆使した深遠な表現が、心打つ…作品でした。
作品として、世に出て、、本当に良かったとおもいます。
私もリンクをはっておきます。
https://mysecretroom.cocolog-nifty.com/blog/2021/03/post-bb236b.html
投稿: Suzuck | 2021年4月 3日 (土) 10時35分
風呂井戸さん,こんにちは。リンクありがとうございました。
おっしゃる通り,この作品の奥深さは半端ではないものでしたし,それが大きな感動を呼ぶのだと思います。ある一定の年齢を重ねれば見えてくる世界というのもあると思いますが,そうしたことを痛切に感じさせるアルバムだったと思います。
これほどの作品にはなかなか出会えないと思っていますし,この作品がリリースされたことには感謝の言葉しかありませんね。
ということで当方記事のURLを貼り付けさせて頂きます。
https://music-music.cocolog-wbs.com/blog/2021/03/post-53974f.html
投稿: 中年音楽狂 | 2021年4月 3日 (土) 13時52分
Suzuckさん
こんばんわ、わざわざコメントありがとうございます
このような一つの音に思いを込めて描く世界というのは感動します。なかなか一概に出来る技ではありません。・・と、奥深さに納得なんです。
そしてリンクも有り難う御座いました。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2021年4月 3日 (土) 21時31分
中年音楽狂さん
こんばんわ、こちらまでわざわざ有り難う御座います。
こんな世界に我々を引き込んでくれたこの菊池雅章の渾身の演奏に感謝しています。私は特に歳を重ねてきて、その世界にごくごく自然に入れたことも感動でした。これだからジャズと単に言ってよいか解りませんが、愛好家になってしまいます。
そしてこちらにリンクして頂いて有り難う御座いました。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2021年4月 3日 (土) 21時38分