« ベッカ・スティーヴンス Becca Stevens 「PALLET ON YOUR FLOOR」 | トップページ | カリ・カークランド Kari Kirkland 「Wild is The Wind」 »

2021年5月12日 (水)

ヴィジェイ・アイヤー VIJAY IYER Trio 「UNEASY」

安易に聴けない不安からの予言・暗示の世界か

<Jazz>

VIJAY IYER /LINDA MAY HAN OH/ TYSMAWN SOREY 「UNEASY」
ECM / Germ / ECM 2692 / 2021

61gluxdghl_ac_sl1200_

Vijay Iyer (piano)
Linda May Han Oh (double bass except 06)
Tyshawn Sorey (drums except 06)

Recorded Dec. 2019, at Oktaven Audio Studio, Mount Vernon, NY
Produced by Vijay Iyer and Mnanfred Eicher

  個性派ピアニストのヴィジェイ・アイヤー(1971年ニューヨーク州オールバニー生まれ)の、ピアノ・トリオ編成によるECMからのアルバム。なかなか欧州叙情派ジャズに傾倒していると、こうした強者のジャズには寄りつけないところもあるのだが、今回は、ECMからでのプロデュースにアイヒヤーEicherの名が、ヴィジェイとともに連ねているので、ちょっとよこしまに聴きたくなったアルバム。

 アルバム・タイトルが「UNEASY」というと「不安」と言うことだろうと思うが、そこが意味深。ライナーノートの中で、Vijayは「今日、"不安 "という言葉の示すものとして、最も落ち着きのある癒しの音楽は、しばしば深い不安から生まれ、その中に位置していることを思い出させてくれる」と書いている。このECMアルバム世界を説明しているようである。彼は音楽の過去の実績からそれを引きずりながら、必ずや前進させ続けてる事に評価がある。そして更に彼の意志は、今日のアメリカと言う国に支配している政治的、社会的な複雑な問題に及び、それが彼自身の音楽的な世界に反映されているところにも注目されているのだ。
 敢えて、自由の女神を遠望するジャケ写真も暗示的。

 さて、このアルバムの中身は、20年の歳月をかけて作曲された8曲の彼のオリジナル曲がメインだが、Cole Porterの "Night And Day "とGeri Allenの "Drummer Song "を加えている。それにはそれなりの意志があることを認識しておきたい。

Vijayiyer3 (Tracklist)

01. Children Of Flint
02. Combat Breathing
03. Night And Day
04. Touba
05. Drummer's Song
06. Augury (solo piano)
07. Configurations
08. Uneasy
09. Retrofit
10. Entrustment

 

 これは、ヴィジェイ・アイヤーの7作目だそうで、トリオでは2作目(メンバーは異なる)。過去にはACTレーベルで異色を発揮してきたというのだが、どうも敷居が高くECM世界の方が、私自身はとっつきやすい。
 又、アルバムを通じて彼の社会的問題意識の表現も・・・と、考えると、ロック界と違ってジャズ界では珍しいパターンに属するが、ニューヨーク・タイムズ紙は彼の人格を「社会的良心、マルチメディア・コラボレーター、システム・ビルダー、ラプソディスト、歴史的思想家、そして多文化への入り口」とまとめているようだ。そんなことを意識しながら聴いて、なんとなく彼の世界が見えてきた。

Vijaytrio

 とにかくこのトリオ、ベーシストがリンダ・オーだ、彼女は中国ルーツでマレーシア生まれ、オーストラリア育ちという個性派で注目度が高い。(上右)
 又ドラマーがタイショーン・ソーリーと来るから、これ又恐ろしい。彼はマルチ・インストゥルメンタリストとして、現代音楽の研究者もあり、大学で教鞭もとっていて、クラシックにも通じている。(上左)
 こんな二人であるが、過去にヴィジェイとは共演して来た経過があって、ここにトリオとして結集した。このようなメンバーの作り出すものと言うだけで、心して聴けといったところで恐れ多いのである。

20180321_223605_859085  M1."Children Of Flint"から抑制の利いた小気味よい端正な流れのピアノが緻密に思索世界を描いて、ベースがなんとなくやや暗めにサポートし、リズムカルでありながら決して軽さというモノで無いドラムスが小気味よく進行する。昔ながらのアメリカン・ジャズとは完全に一線を画して歯切れの良いリズム感で心象風景に迫る。
 M2."Combat Breathing"から、三者が前半から意外に盛り上がりをみせ、次曲 Cole PorterのM3. "Night And Day "へと続く・・これが又9分を超える長曲だが、長いと感じない。又スタンダードというより彼らの複雑な演奏の交錯の世界はお見事で、カヴァーという感覚になれない。
   M6."Augury"はピアノ・ソロ。見事にあとからあとから連なって打鍵音が流れる世界は次への展開の序曲か。
 M7."Configuration"は、"配置"と言う意味か。かなり三者のアクティブな演奏に、明るい未来というよりはベースの暗さからも混迷の社会の異常な世界へと流れていく様か。
Tyshawn_sorey_05n3481-1  私にとって印象深いのは、やはりアルバム・タイトル曲のM8."Uneasy"(不安)で、これから最終曲のM10.までの流れに感動的であった。癒やしのやや暗い静から生まれる不安が後半に荒々しく拡大するM8。
 しかし、M9."Retrofit"(旧たるものからの改装・更新)を経て、M10."Entrustment"(委託)の落ち着いたピアノの描く美の世界は何なんだろうか。

 トータルに思索的に流れ、時として三者のダイナミックな荒々しさの交錯を交えながらも奥深く考えさせる瞑想性に誘う演奏であった。

(評価)
□ 曲・演奏   90/100
□ 録音     80/100

(視聴)

 

 

|

« ベッカ・スティーヴンス Becca Stevens 「PALLET ON YOUR FLOOR」 | トップページ | カリ・カークランド Kari Kirkland 「Wild is The Wind」 »

音楽」カテゴリの記事

JAZZ」カテゴリの記事

ピアノ・トリオ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ベッカ・スティーヴンス Becca Stevens 「PALLET ON YOUR FLOOR」 | トップページ | カリ・カークランド Kari Kirkland 「Wild is The Wind」 »