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2021年5月 7日 (金)

ベッカ・スティーヴンス Becca Stevens 「PALLET ON YOUR FLOOR」

意外や意外のオールド・アメリカン・スタンダードで描くベッカの美と情緒溢るる世界

<Jazz>

Becca Stevens and Elan Mehler 「PALLET ON YOUR FLOOR」
Newvelle Records / JPN / RPOZ-10066 / 2020

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Becca Stevens : Vocal
Elan Mehler : Piano

Recorded and Mixed on Sep. 8th 2019 at East Aide Spund Studio 

 これはベッカ・スティーヴンスの純然たるヴォーカル・アルバム。それもイーラン・メーラーのピアノとのデュオという極めてシンプルな構成での演奏、それだけにベッカの歌声が極めて注目される曲作りである。
 私にとってのベッカはSSWとしての評価のところにあり、ちょっとフォークぽいロックでありボピュラーであり、一方ジャズをも演ずるというところにあって、純然たるロツクとかジヤズの世界観にはちょっと本物ぽくなく、これぞと深入り感覚にならなかったミュージシャン。
 しかし、このアルバムは、所謂ジャズ・ピアニストでもリリカルな世界にコンテンポラリーでありながら通じているというイーラン・メーラーということで、ちょっと関心は沸いてくる。そこに「ジヤズ批評」誌常連のSuzuckさんが実に高評価を付けていることが解って、聴いてみたという代物である。

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(Tracklist)

1.Elvis Presley Blues (Gillian Welch and David Rawlings)
2.But Beautiful (Jimmy Van Heusen and Johnny Burke)
3.I Ain’t Got Nothin’ But The Blues (Duke Ellington / Don George)
4.Our Love is Here to Stay (George Gershwin / Ira Gershwin)
5.Deep Purple (Peter DeRose)
6.Just Squeeze Me (Duke Ellington and Lee Gaines)
7.Make Me a Pallet on Your Floor (Traditional; Gillian Welch and David Rawlings)
(ボーナス曲)
8.Our Love Is Here To Stay – take 1 version (George Gershwin / Ira Gershwin)

 曲をざっと見てアメリカン・スタンダートを取上げていると言うが、殆ど解らない。これはピアニストのイーラン・メイラーの世界にベッカが寄り添ったのか、いずれにしても彼女の知らざる(私だけか)世界がここに出現していることは、今後にとっても素晴らしいと言えるだろう。
 旧友であるというイーラン(p)との完全なデュオ・アルバムで、グレイト・アメリカン・ソングブック、フォーク、ブルースなどを取り上げたモノと言うが、私にはあまり思い当たる曲で無い。しかし内容は情緒たっぷりの感銘深い仕上がりとなっている。そもそもベッカの私の描いていたイメージとは全くの別物で、シンプルなピアノの音をバックに、彼女のヴォーカルが定評あるとは言え、しっかりそのものを聴かれるというのも珍しいのではないか。なんともイーランのピアノが又美しく響き、メロディーを易しく流すという世界は情緒的。

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 冒頭曲M1."Elvis Presley Blues"で、こうして良く聴けるベッカのヴォーカルは、高音部になるとあのサラ・マクラクランのようにひっくり返った発声となり、ええそうだったのかと改めて聴き込んだ。しかしこのムードは信じられない、シンプルな深遠さのピアノの中に情景が普遍的な情緒を礼賛した真摯な歌声の世界に驚く。もうこれでこのアルバムの流れが何かが見えてくる。
 M2."But Beautiful" 余韻の残したピアノの音としっとりとした切なさの美の歌。
   M3."I Ain’t Got Nothin’ But The Blues"  デューク・エリントンの曲。ここでちょっとイメンジ・チェンジ。ブルースと言ってもどこかシットリしている。
 M4."Our Love is Here to Stay" 哀感あるバラード。
 M5."Deep Purple"  60年に全米ヒットチャートのNo.1となった曲とか、彼女の高音が漂う。
 M6."Just Squeeze Me "  アメリカン・ジャズのイメージが最も出た曲だが、二人の世界はぐっと落ち着いている。
 M7."Make Me a Pallet on Your Floor "  締めくくりは、ややフォークっぽく自然な真摯な世界を謳歌する。

 歴史の中に浸かって、情緒たっぷりの美しい世界観を構築したベッカには今後の活動にも大いに影響をもたらすものと、高評価したい。

 このベッカとイーランは、2009年にイーランのアルバム『The After Suite』で共演して以来の関係らしい。そのアルバムのアメリカ・ヨーロッパ・ツアーでの演奏中、さらにイーランの居住地スイスで二人は集中的にセッションしたという。そんなかでイーランがベッカの古い曲の解釈と声の幅の広さ・質に見込んで、今回のアルバムへのアイデアが生まれたとか。それからなんと10年の経過があるが、"Newvelle Recording Sessions"という形が取れて、実現した作品のようだ。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏・歌  90/100
□ 録音          85/100

(視聴)

 

 

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コメント

風呂井戸さま、ご紹介をありがとうございました。m(_ _)m

この作品では、心象風景を切々と歌い上げて、ヴォーカルの徹していましたね。
多くのアーティストが参加し、プリグラミングやエレクトロニクスを駆使した『Wonderbloom』とは、対極をいくような内容で、彼女の歌にスポットライトがあってました。
やっぱり、歌がとても巧いんだなぁ、、って、単純に思いました。
彼女の才能からすると、、レアなアルバムになってしまうのでしょうか。。

リンクを貼っておきますね。

https://mysecretroom.cocolog-nifty.com/blog/2021/04/post-5c91ed.html

投稿: Suzuck | 2021年5月 8日 (土) 09時37分

Suzuckさん
コメントどうも有り難う御座います
本当に意外でした。Suzuckさんの高評価を知って手にしたアルバムですが・・・彼女のレペルの高さというか、奥深さも感じ良かったです。
おっしゃるように、おそらく次作はこのパターンはオアズケで、元に戻るのでしょうが・・・それでもこれを知っての上となると見方聴き方も変わります。まあ今後取り敢えず注目しておくことにします。^^

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2021年5月 8日 (土) 16時27分

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