Brad Mehldau の試み == 「Suite: Aprill 2020」 「 VARIATIONS ON MERLANCHOLY THEME」
コロナ禍での世界観を描くソロとオーケストラとの競演と
対照的な二枚のアルバム
<Jazz>
Brad Mehldau 「Suite : April 2020」
Nonesuch / / Nonesuch 075597919288 / 2020
Brad Mehldau : piano
前作『ファインディング・ガブリエル』(2019)がグラミーを受賞し、現代のジャズ界においては、最先端を行く人気ピアニストであるブラッド・メルドーの新型コロナウィルスのパンデミック下の2020年にリリースされたアルバム。これはオランダで家族とともに自粛生活を送っていた彼は、ロック・ダウン中、自分が今体験していることをもとにコロナ禍の世界を捉えた12の楽曲を作りあげ、更にそれらに加え彼個人にとって思い入れのある3曲を、アムステルダムのスタジオでレコーディングしたもの。
現在のジャズ・シーンでのNO.1ピアニストのオリジナル曲ソロ演奏ということで、否が応でも当然注目された。当初配信リリースと限定アナログ盤リリースであり、その後9月にCDと通常盤アナログは世界同時で発売という形をとったが、これら売り上げの一部がJazz Foundation of America’s COVID-19 Musician’s Emergency Fund基金へと寄付されている。
(Tracklist)
1.I. waking up / I.
2.II. stepping outside / II.
3.III. keeping distance / III.
4.IV. stopping, listening: hearing / IV.
5.V. remembering before all this / V.
6.VI. uncertainty / VI.
7.VII. - the day moves by - / VII.
8.VIII. yearning / VIII.
9.IX. waiting / IX.
10.X. in the kitchen / X.
11.XI. family harmony / XI.
12.XII. lullaby / XII.
13.Don't Let It Bring You Down
14.New York State of Mind
15.Look for the Silver Lining
メルドーは、「世界中の誰もが経験したであろうことを捉えた音楽的スナップショットで、多くの人々が共通して、また新たに体験し、感じたことをピアノで描こうとした」と言っている。家族とともにNYから離れた地オランダで自粛生活を送っていた中での作品。このコロナウイルス禍に加え、2020年5月のジョージ・フロイドさんの白人警察官による殺害事件からの Black Lives Matter(黒人の命も大切だ)運動で揺れる米国社会を見つめつつの彼の心が描かれていた作品。聴いてみて、しかしここまで彼の真摯な心の作品に浸れるとは思わなかったもの。
M1."waking up"どこか優しい雰囲気でスタート。
M3."keeping distance"は、不自然な形での離れた二人の理不尽な経験とか、M4." stopping, listening: hearing"は、コロナウイルス禍に加え新しい困難が発見された状況など描いたものとして評価された曲。
M5."remembering before all this"は、今は数ヶ月前は遠い昔に思える困難に向かわざるを得ない状況と、M6."uncertainty"はそんな中での不安を表現。
などなど・・・メルドーの心の表現なのであろう。実はやや内向的な世界ではあるが、全編に漂う人間としての誠実にして真摯な心での人間愛をここに聴けるとは思わなかった。それだけ驚きのアルバムだ。
M13.、M14.、M15.の三曲は彼の人生を回顧するに、心に与えてくれた感謝の曲として演じられている。
彼は、こんな不自然な世界であるが、一方家族に囲まれての時間が多く取れたこの時を大切にといった感謝も忘れては居ない。
いずれにせよ、実際にこのコロナ禍での彼のフランスやドイツでのソロ・ライブも非常に優しいライブとなっている(参考:ドイツ・ライブ「MOERS 2021」)
(評価)
□ 曲・演奏 88/100
□ 録音 78/100
* * * *
<Jazz, Classic>
Brad Mehldau, Orpheus Chamber Orchestra
「VARIATIONS ON MERLANCHOLY THEME」
Nonesuch Records / / Nonesuch 075597916508 / 2021
Brad Mehldau : piano
Orpheus Chamber Orchestra
Produced by Adam Abeshouse
Recorded,mixed,and mastered by Adam Abeshouse
Music composed by Brad Mehldau,published by Werther Musi (BMI)
Design and Illustration by Lawrence Azerrad
ブラッド・メルドーのコロナ禍において上の『SUITE: APRIL2020』を昨年リリースした彼だが、それに続いての今年意欲作の登場だ。それもなんとジャズとクラシックの新たな融合を試みる。オルフェウス室内管弦楽団とのコラボレーション作品となるもので、”メランコリー”を主題として、クラシックの構成にジャズのハーモニーを導入したという代物。これもメルドーの探求心の一つとして知るべきものとして位置づけた。
この曲は、ブラッド・メルドーがロシア出身のピアニスト、キリル・ゲルシュタインのために作曲したものと紹介されていて、本作ではオルフェウス室内管弦楽団とともに、オーケストラ・ヴァージョンを新たにレコーディングしたもの。アルバムには、主題(テーマ/Theme)と11の変奏曲(ヴァリエーション/variation)、カデンツァと後奏曲(ポストリュード/postlude)が収録されている他、”アンコール“として、「Variations X」と「Variation Y」の2曲も追加されている。
(Tracklist)
1.Theme
2.Variation 1
3.Variation 2
4.Variation 3
5.Variation 4
6.Variation 5
7.Variation 6
8.Variation 7
9.Variation 8
10.Variation 9
11.Variation 10
12.Variation 11
13.Cadenza
14.Postlude
15.Encore: Variations ""X"" & ""Y""
メルドーとオルフェウス室内管弦楽団は、この作品でアメリカ、ヨーロッパ、そしてロシアをツアーし、2013年にはカーネギー・ホールでも演奏してきたんですね、そのあたり詳細は知らなかったが、この作品について彼は「もしブラームスが憂鬱な気分で目が覚めたらと考えてみたんだ」と語っているようだ。所謂このブラームスとメランコリーな世界というものが、どこから来たモノか解らないが、究極は単にそれに終わらない激しさも終末部では演じていて、そのあたりにももっと理解度を高めないと評価に難しい。
どちらかというとクラシックものに聴けるし、ジャズとしてはちょっと私の感覚にはないものだ。序盤からのメランコリーというところだが、後半にはかなり高揚感もあってそれなりの仕上がりではあると思うが、クラシックとしてもちょっと中途半端な感覚になって、どうも私自身には大きなインパクトは無かった。メルドー・ファンがどのように理解しているか、むしろ知りたいところだ。
(評価)
□ 曲・演奏 80/100
□ 録音 80/100
(視聴)
*
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コメント
こんばんは。
メランコリーの方は、そんなに悪くはなかったなあ、というのはちょっと表層的な聴き方だったかもしれませんけど、自分の書いたものを見直してみても、少し歯切れが悪い。でもそういう印象も大事なんだろうなあ、と思います。
当方のリンクアドレス(メランコリー)は下記の通りです。
https://jazz.txt-nifty.com/kudojazz/2021/06/post-f4bcae.html
投稿: 910 | 2021年6月18日 (金) 22時37分
910さん
こんばんわ、コメント有り難う御座います
いずれにしても、ちょっと私は期待が大きすぎたのかも知れません。私はクラシックとして聴くにはやはり心に響くストーリーを音で楽しみながら、オーケストラのスケールを感じながら・・・と、要求が大きすぎたのかも知れません。とにかく何に付けても、ちょっとこのアルバムは中途半端な感覚になりました。
まあ、そんなところで取り合えずといったものとして評価しておきます。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2021年6月18日 (金) 23時18分
風呂井戸さま、リンクをありがとうございます。
私は、メルドー節もでているし、頑張っているなぁ、って、思った次第であります。
メルドーというより、私が中途半端な聴き方だったかもしれません。
リンクを置いていきますね。
https://mysecretroom.cocolog-nifty.com/blog/2021/06/post-a19787.html
投稿: Suzuck | 2021年6月19日 (土) 08時35分
風呂井戸さん,こんにちは。リンクありがとうございました。
この2枚を比べると,録音時期の違いや弾く方,聞く方の心象の違いもありますから,単純には比較できないとしても,"Variations"の方は,決定的な何かに欠けるって感じがしました。私が気になったのはオーケストレーションがイマイチってことですね。
一方"Suite"の方は制作の動機が明確であり,特殊な環境を反映したものなので,我々の心に訴求してくるところは大きかったと思います。
ということで,2枚に関する記事のURLを貼り付けさせて頂きます。
https://music-music.cocolog-wbs.com/blog/2020/07/post-085bb3.html
https://music-music.cocolog-wbs.com/blog/2021/06/post-4aaa63.html
投稿: 中年音楽狂 | 2021年6月19日 (土) 12時04分
Suzuckさん
コメントどうも有り難う御座います
このメルドーの「VARIATIONS ON MERLANCHOLY THEME」の評価はいろいろな見方があるだろうなぁーーと想像しながら聴きました。
ピアノの流れとオーストラの流れ、それぞれに表現が良いところもあるんですが・・・どうもしっくりしない・・・そしてなんか中途半端に放り出されたと言った感がありました。
私の期待度がいま一歩高かったのかも知れません。それでも皆さんの感想が面白かったです。どうも有り難う御座いました。
投稿: photofloyd | 2021年6月19日 (土) 20時15分
中年音楽狂さん
コメントどうも有り難う御座います
そうですね、「Suite」は、それなりの心情が共通もしているところから、入りやすいのでしょうね・・・しかもそれはソロ向きであったとも。
「Variation」は結局クラシック的な聴き方に入ってしまっての、期待度からの欲求不満かも知れません。ピアノ協奏曲的なはっきりとした起床顛末が欲しかったんですが・・・なんとなく不満なんです。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2021年6月19日 (土) 20時21分