ケイティ・メルア Katie Melua 「ALBUM NO.8」
久々のアルバムはポップなオリジナル曲で内省的であるが美しく歌い上げる
<Jazzy not Jazz, Pops, Rock>
Katie Melua 「ALBUM NO.8」
BMG/ADA / Eu / 538624882 / 2020
katie Melua : Vocals
Leo Abrahams : Guitars,Keyboards
Sam Dixon : Bass Guitar
Jack Pinter : Alto Flute, Soprano Sax
Luke Potashnick : Guitar, Synthesizers
Emre Ramazanoglu : Drums
The Georgian Philhamonic Orchestra
ケイティ・メルアKatie Meluaを聴くようになったのは、デビューよりかなり後であったが、それでも既に12-3年経った。その間の彼女の変化は非常に大きい。もともとアルバム・デビューは2004年『CALL OFF THE SEARCH』で、どちらかというとポップよりの曲作りに、若さなりきの洗練されたヴォーカルは透明感と説得力があって人気爆発、全英アルバム・チャートで6週No.1を記録した。
その後、エリザベス女王から最大級の賛辞を受けたり、2ndアルバム『Piece by Piece』(→)は、欧州各国でゴールド、プラチナ・ディスク。2006年には英国人女性アーティストとして最多セールスを記録している。
その後も英国的品格をもった女性ヴォーカリストとして人気を保ってきたが、2010年4thアルバム『THE HOUSE』リリースするもかってのようなヒットにはならなかった。これの背景には、彼女とは相反するキャラクターで突然現れた異色の女性歌手アデルAdele(1988年生まれ)の2008年のデビュー・アルバム『19』の超爆発的ヒットであり、更にアデルは2nd『21』(2010)、3rd『25』(2014)と、英国はじめ世界に於けるヒットは最高レベルで、それに完全に圧倒されてしまう。
しかし大きなヒットとはならなかったが、ケイティ・メルアは、その後も2012年『Secret Symphony』、2013年『Ketevan』、2016年『In Winter』とアルバムをリリースしている。近年は母国ジョージアやウクライナ、ロシアと想いを馳せたアルバム作りの印象が強く、所謂ポップな世界とはひと味異なった世界に入ったが、ここに4年ぶりの8thアルバムのリリースとなったのである。
彼女は、1984年ジョージア(グルジア・旧ソ連)生まれ。子供時代をグルジアとロシアのモスクワで過ごす。 内戦による混乱の中での幼少期を経て、9歳の時に北アイルランドの北部の都市ベルファスト、13歳でロンドン移り住む。16歳になり、ロンドン郊外のブリット・スクール(BRIT School for the Performing Arts)に進学。在学中にプロデューサーのマイク・バットに見出され、歌手の道へ。イギリスを拠点に活動するシンガー・ソングライター。
近年の彼女は母国ジョージアとの関わりの中にいたが、しかしここに原点回帰、透明感溢れる癒しのヴォーカルで再びその世界に戻ってきたのだ。それには、私生活との関係も大きいようだ。スクール時代の恋人ルーク・プリチャードと破局後、2012年9月、オートバイレーサーのジェームス・トスランドと結婚したが(右上)、この2020年に離婚。こんな経過が歌われているようにも感ずる曲群である。
(Tracklist)
01. A Love Like That
02. English Manner
03. Leaving The Mountain
04. Joy
05. Voices In The Night
06. Maybe I Dreamt It
07. Heading Home
08. Your Longing Is Gone
09. Airtime
10. Remind Me To Forget
デビューから17年経過し、30代半ばの彼女としては、それまでの経験によって作り上げられた一人の女性として、またアーティストとして成熟した大人の視点からの心の歌とみてよいのだろう。それは所謂この業界に生きる女性の多くが経験する「愛の痛み」に関するものと見れるのである。結婚生活のピリオドからの影響は大きいだろうと推察するが、彼女も"スタジオを告白する場所"に使ったとも語っているとか。全曲、作詞は彼女自身で、作曲も諸氏の手を借りながら彼女がかかわったものだ。
最後のM10." Remind Me To Forget"の、豊かな自然に心の痛みを忘れるとか、M8."Your Longing Is Gone "の、失いつつある憧れへの想いとか、明らかにこのアルバムは自己の人生からの歌であるとみれるのだ。そんな歌詞を作成に当たっては、ロンドンにあるFaber Academyというところに通って、短編小説のコースで学び、ソングライティングにも充実を図ったようだ。
しかし、全編過去からそうであった優しさと美しさのヴォーカルで、かってのような跳ねるような青春の歌ではなく悩みと対峙した自己を見つめる世界になっている。しかし単に暗さというものではない、寧ろ聴く者をして癒やされる雰囲気のアルバムである。更にアルバム・ジャケもそれなりに主張しているのだろうと思うが、クラシック・ブローニー版フィルム・一眼レフを構えているところは、人生の記録と言うことも意識しているのかも知れない。
なおバックもギターの多彩な演奏、そしてピアノに加え、フルート、ソプラノ・サックス、シンセサイザーなどと、又ジョージアのフィルハーモニー・オーケストラなどの参加など、音楽的な実験的な世界にも努力している様子も見える。
良質なポップ・アルバムとして評価しておきたい。
(評価)
□ 曲、歌、演奏 85/100
□ 録音 85/100
(視聴)
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コメント
色々と経験を重ね、声も歌も深みを増したようですね。
やや線が細いですが、それが魅力にも感じられます。
何か、ヒットがあると、もっとやりやすくなるのだろうな、と思われました。
投稿: iwamoto | 2021年9月 8日 (水) 17時12分
iwamotoさん
コメントどううも有り難う御座います
過去の彼女のヒットは、若さとの密接な関係もありましたので・・・、年齢とともにその変化することがどう受け止められるかでしょうね。
前回のように、故郷のトラディッショナルであったり、聖歌よりであったりと、美しい世界への試みもありましたが・・・今回は、ポップよりのオーソドックスなところに帰ってきました。これがどう受け止められるかで、今後の方向性が決まってくるようにも思います。
私はもう少しジャズよりになって、広くポピュラーなスタンダードからと言うところから歌い上げてゆくと、良い線行くのではと思いますが。もともと声の質も良いし、歌も旨いですから。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2021年9月 8日 (水) 20時34分