アレッサンドロ・ガラティ Alessandro Galati Oslo Trio 「SKYNESS」
素晴らしい演奏は、こうした好録音で聴くべしと言うお手本
<Jazz>
Alessandro Galati Oslo Trio 「SKYNESS」
Terashima Records / JPN / TYR1098 / 2021
Alessandro Galati アレッサンドロ・ガラティ (piano)
Mats Eilertsen マッツ・アイラーツェン (bass)
Paolo Vinaccia パオロ・ヴィナッチャ (drums)
Recorded in Jan.2017, Rainbow Studio, Oslo, Norway
Recording Engineer : Jan Erik Konghaug
Recording & Mastering Engineer : Stefano Amerio
Producer : Yasukuni Terashima
このニュー・アルバムは、実は2017年に、レインボー・スタジオで実力派ヤン・エリック・コングスハウグをエンジニアに迎えて録音されたもので、もう四年前のものだが、マスタリングは、これまた人気者のステファノ・アメリオである。しかし、これが直ちにリリースされなかったのは、ライセンスを持っている澤野工房の澤野由明(↓右)の意志であったようだ。しかし、澤野由明と寺島靖国(↓左)の絆が実現させたアルバムとしてここにリリースされたわけで、それには惚れ込んだ寺島の熱意であろう。
寺島は歴史に名を刻む最高音質として評価し実現に向かったのだが、このアルバムはもともと澤野のジャズ心とはうまくリンク出来ずにリリースに至らなかったいたものらしい。しかし「幻の作品」と言うには、大げさだが、ここに寺島レコードとして日の目を見ることになったのである。
アレッサンドロ・ガラティは「Keeping the Faith on Melody」(メロディー信仰)、メロディー至上主義を信条としていて、過去に素晴らしいアルバムを残してきた。しかし一方ピアノ・トリオとしても前衛的な世界もしっかり持っていて、その面を強調した世界も持っている。つまり二面をもっているのだ。勿論私は彼のイタリア独特の美旋律のピアノ世界にあるアルバム『TRACTION AVANT』(Via Vent Jazz /VVj007 / 1994)以来惚れ込んでしまって、その後日本では澤野工房が彼のアルバムのリリースに貢献してきた。そして現在に至って寺島靖国がアプローチして近年は寺島レコードと関係が密である。
とにかく、私の好きな澤野工房のアルバム『Cold Sand』(ATELIER SAWANO / AS155 / 2017=インジニアはStefano Amerio)をリリースする直前の2017年1月に別メンバーで録音し、そのクオリティーの高さに澤野工房がリリースを躊躇してしまった作品であったらしい。しかしこれを知った寺島が澤野との関係の中で、これは最高傑作と信じて発表に至ったもののようだ。
01 Rob as Pier
02 Silky Sin
03 In My Boots
04 Balle Molle
05 Flight Scene #1
06 Raw Food
07 Flight scene #2
08 Entropy
09 Jealous Guy
10 Skyness
寺島はとにかく惚れ込んでしまったその音とメロディでの「このアルバムは世に出すには早すぎる最高傑作かもしれない」と豪語するだけあって、成る程このヤン・エリック・コングスハウグとステファノ・アメリオの両エンジニアが関係した音には圧倒される。
とにかくトリオがそれぞれの位置をしっかり確保しており、冒頭のM1."Rob as Pier"のスタートから、シンバルの清んだ音が響き、ピアノと同列に響き渡るところは、これはまさに寺島の好きな世界であることが解る。又、ベースがその世界を支えているが如く響き渡り、ピチカット奏法にスラッピングした音もリアルに聴くことが出来る。それはこのアルバムの描く一つの重要な世界である曲M5,M7."Flight Seene #1,#2"に特に特徴的だ。
究極はピアノの響きが余韻までしっかり聴き取れて、その美しさと描く深さに感動である。これはまさに録音・ミックスの芸術品でもある。
そして曲の印象は同時期の『Cold Sand』のアルバムにかなり近い。このアルバムの曲群は、ガラティのオリジナルで、一曲のみがジョン・レノンのものだ。つまりスタンダード集というものとは全くの別物で、ガラティが当時想う世界をオリジナルで自己の目指すところに演じていると思う。
アルバム・タイトル曲M10."Skyness"は、最後に出てくるが、このタイトル名はガラティによる新造語ということらしく、それはオスロに向かう飛行機での「北に向かう空と北欧の氷の大地にみる独特の虚無感」と言うことらしい。このトリオ名には、Osloという名が付けられていることからも、そのガラティの描く世界に繋がっているようだ。聴いてみれば解るが、そんな世界をベースにしたガラティの世界が演じられているのだ。
ガラティの描く演奏の世界とエンジニアの目指すオーディオ的世界の音の両面からの傑作と位置づけたい。
こうして、少しでも良い音で聴くことが重要であることを示したアルバムとして、高評価したいところである。
(評価)
□ 曲・演奏 : 95/100
□ 録音 : 95/100
(参考試聴)
目下、このアルバムの音源はアップされていない為、同時期のものを・・(いずれ追加予定)
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コメント
わたしも早速聴いていますが、素晴らしい音質の傑作だと思います。しかし、全編オリジナル、スタンダードは一曲もなし。澤野氏が躊躇した理由もわかります。
投稿: 爵士 | 2021年10月 5日 (火) 22時35分
爵士さん
おはようございます、コメント有り難う御座います
今や、こうしたオリジナルによって自己の世界を描いてゆくというのは、ジャズの世界でも当たり前のように思います。(ロックは殆どがオリジナルの世界ですね)
ジャズが社会的にどうした役割を果たしてきたか、果たしているのか、果たして行くのか・・・
ジヤズ愛好層が社会のどこに存在しているのか・・・変化してゆくのが時代の流れでしょうね。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2021年10月 6日 (水) 09時49分