リニー・ロスネス Renee Rosnes 「KINDS OF LOVE」
ハードボイルド調の世界もアルバムとしての統一性に欠けて雑多に終わった
~~強者集団であるが故の良し悪し
<Jazz>
Renee Rosnes 「KINDS OF LOVE」
SMOKE SESSIONS RECORDS / USA / SSR-2104 / 2021
Renee Rosnes (piano) (electric piano on 3,7) (vocal on 3)
Chris Potter (tenor saxophone on 1,3,4,5,7,8) (soprano saxophone on 2,6,9) (flute or alto-flute on 3,7) (bass clarinet on 6)
Christian McBride (bass)
Carl Allen (drums)
Rogério Boccato (percussion on 1,2,3,4,7) (vocal on 3)
Recorded March 31 & April 1, 2021 at Sear Sound Studio C, NY City
ポスト・バップのベテラン女流ピアニスト(1962年、カナダ生まれ)のリニー・ロスネスのオリジナル曲で構成され、前作『Beloved of the Sky』に続いて人気のクリス・ポッター全面参加したアルバム。しかもベースはクリスチャン・マクブライド、ドラムはカール・アレン、そして、パーカッションのロジェリオ・ボッカートとなかなかの強者が参加している。
まあ、注目はコンテンポラリージャズ・シーンでの活躍に評価あるクリス・ポッターの役割は如何んといったところだが、私はピアノ・ジャズは、そもそもアメリカン・オールド・ジャズの時代の役割とは異なった現代ジャズ・パターンにおいて、その一つの近年特に欧州ミュージシャンがむしろ築き上げている美旋律を伴っての情緒ある世界を演ずる小編成(P.、B.、D.トリオ)が魅力的だが、そのようなタイプにはサックスの役割には疑問を持っている人間であって、今回はハイレベルな彼女が何を目指し何を示すか興味があった。
特に、所謂真性ジャズのみにとどまらず、フュージョン、ファンク的なアプローチも得意としているポッターを、彼女のジャズにどう位置づけるかが聴きどころと言うところだ。
1. Silk (Dedicated to Donald Brown) 5:24
2. Kinds Of Love 5:47
3. In Time Like Air 6:09
4. The Golden Triangle 6:35
5. Evermore 7:29
6. Passing Jupiter 7:17
7. Life Does Not Wait (A Vida Não Espera) 5:20
8. Swoop 6:35
9. Blessings In A Year Of Exile 5:31
全9曲リニー・ロスネス自身のオリジナル・編曲。
スタートM1."Silk"は、米国のレジェンド・ピアニストDonald Brownに捧げた曲。ドラムスとピアノの低音で始まるスリリングな演奏にどんなコンテンポラリーな世界かと期待度が高まるが、そこにポッターのサックス、意外に古めかしいパターンで、むしろうるさい。中盤のピアノの快速プレイも聴きどころだし、後半のピアノとサックスのユニゾンの効果は解るが、ロスネスの目的が不安定。
タイトル曲M2."Kinds of Love"は、 スロー・タッチでしっとりと抒情的で美しいピアノ、そしてベースとドラムスとのトリオ演奏で良い感じ。後半に突如途中からS.サックスが加わって、がらっと別世界に変化、これは何を目論んだか不明。
M3."In Time Like Air"、ベースの低い響きにフルートとフェンダーが効いた異空間、ここでのサックスはその味を倍増して面白みがある。
M4."The Golden Triangle" ピアノとベースのインプロヴィゼーションが冴え渡る見事な一曲。なかなかジャズの一つのパターンである抒情よりはかっこよさが表現でのこのアルバムの一つの頂点、好みにもよるだろうがどうもここでのテナーの音は一部騒音。
バラード調のピアノ・ソロで始まるM5."Evermore"、深遠さと抒情を描くメロディが最高。ここに彼女の一つの世界を聴き取れる。私には最も響く曲だった。ベースのアルコはその世界を更に深く心に響く、意外にテナー・ソロの出番は少なくかえって良かったかも。いずれにしてもこのアルバムでは一押しの曲。
ちょっとした異空間のM6."Passing Jupiter"、ここでのS.サックスとB.クラリネットが初めてピアノとマッチング。
ミニマル奏法でのピアノでスタートしてM7."Life Does Not Wait (A Vida Não Espera) "、生きたパーカッションの展開に乗って躍動するT.サックスとフルートが生きた曲。
M8."Swoop" サックス、ピアノのユニゾンとダイナミック・ピアノ・プレイが聴きどころ、ここでのマクブライドのベース・ソロも味がある。しかし曲として何度も聴きたいとは思わない、やっぱり好みなんでしょうね。
M9."Blessings In A Year Of Exile " スタートのやや憂鬱感あるピアノ・ソロに優しくシンバルが支えて描く危機感が感じられる世界に、S.サックスが歌い上げて見事に完成された曲だ。
ハードボイルド調のかっこよさが売りなのか、叙情性の世界を描きたいのか、ちょっと目的が不明瞭。アルバム作りで無くそれぞれのハイレベル演奏の曲を聴いてくださいと言いたいのか、まあこのメンバーだと欧州系のクラシックがイメージされる叙情の世界というのはありえないだろうとは思うが、メリハリを付けたというよりメンバーが強力すぎて優秀であるが雑多な世界のアルバムという印象だった。
(評価)
□ 曲・演奏 85/100
□ 録音 85/100
(試聴)
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コメント
ベースの人しか知りません。
よく分からないので、何も申しませんが、たぶん、仰ってることがアタリだと思います。
何でも出来まっせ、みたいな手練が集まって、どこを聞けば良いのか、難しかったです。
投稿: iwamoto | 2021年10月15日 (金) 18時37分
iwamotoさん
コメントどうもありがとうございます
女流ピアニストのリニー・ロスネスはしっかりとしたジャズの実績を残してきて、詩情あるピアノからハードボイルドなコンテンポラリーな世界まで幅広いですね。
ジャズの歴史的世界を広くカヴァーしての実力派、こうした米国の強力メンバーとの共演のジャズは、迫力がありますね。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2021年10月18日 (月) 09時37分