« サンタナ SANTANA 「BLESSINGS AND MIRACLES 」 | トップページ | ゴンザロ・ルバルカバ R.CATER, J.DEJOHNETTE, G.RUBALCABA 「SKYLINE」 »

2021年11月 5日 (金)

ビリー・アイリッシュ Billie Eilish 「 Happier Than Ever 」

これは驚き!!
一筋で無いクオリティーの高さを持った若き世代の社会派ポップ

<alternative pop>

Billie Eilish 「 Happier Than Ever 」
Universal Music / JPN / UICS-1374 / 2021

Billieeilishhappierthanever

Billie Eilish : Vocals
All Songs Written by Billie Eillish O'connell and Finneas O'connell

 しかし、ミュージック界には時として驚きの事件が起きる。あの2008年のアデルAdeleが19歳に作成したアルバム『19』の爆発的ヒットが記憶に新しいが、そしてそれにも勝るとも劣らない、この米国のシンガー・ソングライターのビリー・アイリッシュ(本名 Billie Eilish Pirate Baird O'connell)もその一人。彼女は2001年12月生れの現在19歳、2015年13歳で兄の作曲したオルタナティブな曲"Ocean Eyes"を歌い名前が知られ、その後ダンスポップぽい人気曲"Bad guy"収録の17歳でリリースしたデビュー・アルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』が英米をはじめ全世界18ヵ国で1位を獲得。2020年「第62回グラミー賞」にて主要4部門の新人賞、最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀アルバム賞を独占。今年「第63回グラミー賞」でも史上最年少19歳で「年間最優秀レコード賞」を2年連続受賞。世界中の注目を集めている。

Billieandfinneasw
  又、私が興味を持ったのは、2020年の全米シングル1位の映画007の主題曲"no time to die"だ。あの大人っぽい歌が19歳と聞いて驚き、そして、タイミングよく今年2ndアルバムがここにリリースされているので、取り敢えずは聴いてみたという処なのだ。曲は兄のフィネアス・オコネルFinneas O'connell(上右)と共作であるが、歌詞はかなり彼女自身のモノであり、自己のオリジナル曲集言ってもいい。従って彼女の思いが歌われているところが聴きどころでも有り、又評価の重要なところでもある。
(Tracklist)

Beilishw 01. Getting Older
02. I Didn't Change My Number
03. Billie Bossa Nova
04. my future
05. Oxytocin
06. GOLDWING
07. Lost Cause
08. Halley's Comet
09. Not My Responsibility
10. OverHeated
11. Everybody Dies
12. Your Power
13. NDA
14. Therefore I Am
15. Happier Than Ever
16. Male Fantasy

  とにかく驚きの曲集だ。全体にテンポは穏やかというか、陰影をもった精神的な部分と抵抗と訴えのあるアイリッシュの作詞作曲群。彼女の以前の画期的なダンス・ポップ的作品よりも一歩大人になった感のある非常にクオリティーの高いアルバムの質とサウンドを作り上げていて、兄のフィネアスに示唆を与えつつも音楽的援助を受けて構築したと思われる。十代の女性のそれも華々しいデビュー後の恋人との決別、体のことに関するマイナス・イメージの中傷などに傷つきながらも・・頂点に到達して知るこの業界への不信感、社会的抑圧等を訴え、それを乗り越え打ち勝つが如くのアルバム製作は実は彼女の決意の声であろう。ここに見事にそれが結実していると見れる。それはジャケ写真の一筋の涙が全てを表しているのであろう。

 歌は、ウィスパーのような、聴きようでは優しさの表現、ある意味でセクシーでもあり、一方攻撃的静かな反発でも有り、訴えでも有り、達観でも有り・・とにかく多彩。なんと言っても、説得力ある情感の表現、高音部の刺激の無い歌い回しと、歌は旨い。この年齢にして高度の歌唱力は驚きの世界だ。そして曲のパターンも多彩、オルタナティブ・ロックと言えども、インディー・ポップ、テクノ、ラップ、R&B、 ボサ・ノヴァ、エレクトロ・ポップさらにフォークの因子とジャンルを超えて聴かせるところも驚きでもある。

 又、更に曲と曲との繋ぎが続いた形で構成され変化してゆくところも多く、アルバムにいくつかの曲をただ納めたというので無く、曲群で一つの世界を造っている点も、一曲主義の若い世代の好みに叩き付けたミュージシャンとしての一つの精神を示している。その姿は、歌詞からみても、単なる恋愛騒動だけの世界で無く、この業界の若き女性が直面する名声を得たものの知るところの女性嫌悪とか女性蔑視、感情的虐待、社会的な抑制・不信感などなど克服せざるを得ない彼女の自意識の世界への荒波を扱って、社会派としての因子も垣間見れるアルバムとなった。

Billieeilish1_20211104101701

    冒頭のM1."Getting Older"は、自己の存在とその業界の虐待に近い環境に対しての声、M2." I Didn't Change My Number"、M12."Your Power"の性的強制に対する意志らしいなど、テーマは暗いところから見事に歌い込む。
 M3."Billie Bossa Nova"   M4."My future"は、ゆったりと美しく、自己発見の世界へ。
 M5."Oxytocin"これは子宮収縮ホルモン、やや攻撃的テクノ・ポップで高音の処理が見事であり、又その高音の色気も見事。 
 M8."Halley's Comet" ハレー彗星、柔らかいバラード、良い曲だ。
   M9."Not My Responsibility"のメディア反抗・抵抗・懐疑。語りが暗く、ムードは深刻。
 M11."Everybody Dies "の哀しさと絶望感。
 M13."NDA"スターであることの"NDA"の機密保持契約の生きる社会への自己の戸惑い
 M16."Male Fantasy"権力にゆだるる男たちへの怒り
 テーマのM15." Happier Than Ever "には、元恋人への意地がみえる。人間関係における成長に突き進む厳しさを知る歌か。中盤以降の力強いロックが電子的ビートでこのアルバムの頂点に至る。

 10代の女性の成長の過程に於ける社会的懐疑と戦い、人間関係の疑問と発展、ソーシャル・メディアへの疑問、ミュージック業界への不信などとの自己の戦い等に対して戸惑いが描かれ、歌い上げられたところには音楽的にも非常にクオリティーの高い作品として、驚きを持って高評価を付けるのである。
 さて、ここまで自己の暴露を含めて内容の高い作品をリリースすると、次に来るものには相当のプレッシャーが生ずるのが通例だが・・・果たして如何。

(評価)
□ 曲・演奏・歌   93/100
□ 録音       90/100

(視聴)
"NDA"

*
"Your Power"

*
"Happier Than Ever"

 

 

|

« サンタナ SANTANA 「BLESSINGS AND MIRACLES 」 | トップページ | ゴンザロ・ルバルカバ R.CATER, J.DEJOHNETTE, G.RUBALCABA 「SKYLINE」 »

音楽」カテゴリの記事

ROCK」カテゴリの記事

POPULAR」カテゴリの記事

女性ヴォーカル」カテゴリの記事

コメント

まさに仰る通りだと思います。
アデルも驚きましたが、しかも一線から退くなんて、それ以上の驚きも与えてくれました。

ビリー・アイリッシュはそれ以上の驚きとなりました。
思うのは、どこまでが、彼女の創作なのか。
曲の振れ幅が大きいので、なる程こういう音楽を作っていたのかな、と思わせるものもありますが、異常に高度な音づくりのものが、全く自然に表現できていますよね。

もの凄いバックが付いてるのか、どういう状況にあるのでしょう。 尊敬の念を持って見守ってゆきたいです。

投稿: iwamoto | 2021年11月 6日 (土) 12時13分

iwamotoさん
今晩わ、コメント有り難う御座います
約10年に一度ぐらいの頻度で、驚きはありますね。
私をして、ビリーは若き女性のミュージックに接するチャンスを与えてくれて感謝しています。
 テイラー・スウィフトもグラミー賞を含め衝撃はありましたが、私的にはビリー程ではありませんでした。
 ビリー・アイリッシュの音楽的なクオリティーの高さは、マルチプレイヤーにしてコンポーザーの兄フィネアス・オコネルの力が大きいでしょうね。ライブを観ると良く解ります。彼女は兄によって育てられたと言っても過言では無いと思います。兄弟によるところの作品のニュアンスが大きいですね。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2021年11月 6日 (土) 21時14分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« サンタナ SANTANA 「BLESSINGS AND MIRACLES 」 | トップページ | ゴンザロ・ルバルカバ R.CATER, J.DEJOHNETTE, G.RUBALCABA 「SKYLINE」 »