ティエリー・マイヤール MLB Trio 「BIRKA」
変則トリオで迫る牧歌的・ヨーロピアン・ロマンの世界
<Jazz>
MLB Trio 「BIRKA」
ILONA RECORDS / IMPORT / LIR9210121 / 2021
Thierry Maillard (piano except 08) (electric piano on 08, 10, 14)
Sylvain Luc (guitar)
Stéphane Belmondo (flugelhorn, trumpet)
ドラムレスの変則トリオ作品。構成はフレンチ・ジャズ界を代表するピアニストのティエリー・マイヤール(マイラード)Thierry Maillard(1966年フランスのピュトー生まれ)、ヨーロッパでテクニシャンとしての評価が高いギタリストのシルヴァイン・リュックSylvain Luc(1965年フランスのバイヨンヌ生まれ)、フランス屈指のトランペッター、ステファン・ベルモンドStéphane Belmondo(1967年フランスのヴァール県イエール生まれ)。このキャリア豊富なフランスの個性派名手3人が組み合ったスペシャル作品。
コンポーザーとしても能力の高いマイヤール(8曲が彼のオリジナル)については、ここでも過去に取上げてきたが(アルバム『Il Canto Delle Montagne』(AD3689C/2016)、『Alone』(AD4180C/2017))、今回は、ピアノ、ギター、トランペットというトリオでアルバムを録音するというアイデアを思いつき(あまり面白そうには思えないが)、コントラバスとドラムといったリズム楽器を使わず違った方法で、三人で挑戦的な姿勢の結果、耽美的にして牧歌的な優しさ溢るる世界を構築した。
(Tracklist)
01. Birka
02. Terres Celtes
03. Astor
04. Couleurs Atlantiques
05. Eg Elskar Deg
06. Revenir à Vous
07. The Wave Of The Heart
08. La Valse Circonflexe
09. Norsk Skogkatt
10. Sleipnir
11. En Attendant Demain
12. Urban Walk
13. Luggala Estate
14. Les Langskips
15. Walz For Mom
ヨーロピアン抒情派ならではのやや陰影のある詩的世界のロマンティシズムが、どこかのんびりした牧歌的な色合いをみせたり、旋律美と小気味のいいリズムに乗った展開など、結構快適な世界に誘う好演。
この3楽器の組み合わせ事態には、私はちょっと不安感があったが、ピアノ&ギターの美しさの中に、私的には騒々しいラッパもののトランペット、フリューゲルフォーンは願い下げだと思って聴いたが、なかなかソフトにして刺激性の無い演奏で、とくに牧歌的であり欧州の浪漫指向の色づけされた世界に貢献していた。
このような現代欧州の風雅な趣を呈している曲群によって、これも一種のコンテンポラリーというところにあるのか、又やフランス・トラディッショナルのニュアンスがこうなのか、意外な世界を構築している。
とにかく曲は短めが多い為15曲が納さまっていて、この曲はこうだとか、あの曲はこうだとかなかなか表現が難しい。全体にマイヤールのピアノがもっと旋律を持って流れてゆくのかと思いきや、これが彼が考えたこの変則トリオの曲展開なのかも知れないが、むしろリズム隊の役を果たしたり、曲の起承転結のまとめ役に納まっている曲が多い。寧ろ私の耳ではリュックのギターの音色が優先して聴こえてきて、それをバックアップするが如くベルモンドのフリューゲルフォーンとかトランペットが、優しく包み込むような音色で曲を展開する。
M12."Urban Walk"は全体の中では少々異色で面白かった。三者のユニゾンも面白く、ミュートを効かしたトランペットとピアノ、ギターとの責め合い的な展開も有り、コンテンポラリー・ミュージックの展開が聴けた。しかしこの曲はこのアルバムの牧歌的世界では異色で、チラッと見せた強者の彼らの世界であった。
まあ、マイヤールの企画の中で、三者でこのコロナ禍の中にあって、ヨーロピアン・ロマンティシズムの世界で、哀愁感満ちた時代の回顧をしつつ、現実の社会に深遠なる風雅のこころで迫ったのかも知れない。そんなアルバムに思えたところである。
(評価)
□ 曲、演奏 88/100
□ 録音 88/100
(視聴)
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コメント
基本的にベースとドラムがいない演奏ですね。
いないんだけど、その役を誰かが、代行する場合も。
Urban Walk は、ウェザーリポートみたいと思われました。
20世紀に於ける音楽の発展は、リズムの強化にあると思うのですが、アンチテーゼが現れるんは当然ですね。
もちろん、クラシックでは同時に進行したと言えますが。
リズム隊の無い音楽って、そういう括りも出来ますよね。 幾つかあると思われます。
Urban Walk は壮大なリズム隊を背景に演奏した方が宜しいのではないかと。
日も暮れまして、今はジョン・フィールドのノクターンを聴いています。 いかにもつまらなく聞こえるのですが。
投稿: iwamoto | 2021年12月19日 (日) 16時51分
iwamotoさん
コメントどうも有り難うございます
私は、ジヤズを聴くベースは、いわゆるオーソドックスなピアノ・トリオにありますので、ベース、ドラムスのリズム隊も貴重です。音楽的価値観の問題で無く、あくまでも私の好みですね。そしてビック・バンドは願い下げです。
本来ギターとピアノは、難しい取り合わせですし、トランペットものは私の好みからは若干世界が違うので、評価が難しいですね。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2021年12月19日 (日) 20時02分
風呂井戸さん、こんにちはmonakaです。私はラッパは選択の基準にはしていませんが、なぜか集まっている気がします。この編成で、ここ安定して聞かされるのは彼らの実力と思います。
投稿: monaka | 2021年12月21日 (火) 09時34分
monakaさん
コメント有り難う御座います
ジャズも考えてみると幅広いですね。
更に楽器好みもいろいろで・・・ピアノ派、ギター派、ラッパもの派(サックス派はラッパではありませんがファンは多いですね)、ドラムス・パーカッション派などなど・・・皆それぞれでいいと思いますね。
このトリオは異色ですが、なかなかやりますねぇーーと言うところでした。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2021年12月22日 (水) 11時30分