アレックス・リール Alex Riel ・Bo Stief・Carsten Dahl 「OUR SONGS」
アメリカン・ジャズをも飲み込んだ北欧浪漫派の老獪な決定打の登場だ
<Jazz>
Alex Riel ・Bo Stief・Carsten Dahl 「OUR SONGS」
STORYVILLE / Import / STORYVILLE 1014336 / 2021
Carsten Dahl (piano)
Bo Stief (bass)
Alex Riel (drums)
Recorded On June 8&9, 2021
デンマークの大御所アレックス・リール(1940年コペンハーゲン生まれ)のドラムス、同じくコペンハーゲン生れの大ヴェテランのボ・スティーフ(1946生まれ)のベース、そして中堅のピアノの人気者カーステン・ダール(1967年やはりコペンハーゲン生まれ)の連名による北欧(デンマーク)ピアノ・トリオ作品。
アレックス・リールはもう80歳の大台に乗っているんですね、叙情派のビル・エヴァンスとの共演や、欧州ではエンリコ・ピエラヌンツィとの共演などと多くのキャリアのある彼だが、今回は地元の2人のお互い知り尽くしたメンバーでの聴き慣れたスタンダードとスウェーデンのホークソングなど交えての北欧ジャズを展開。特に若干若いのがダールだが、彼は今や最も革新的なピアノ奏者と言われ注目を浴びている。こんなトリオとなると我々から見ると見逃せないところだ。
(Tracklist)
01. My Song (Keith Jarrett)
02. Høstdansen (Riel, Stief, Dahl)
03. Moon River (Henry Mancini)
04. Den Milde Dag Er Lys Og Lang (Carl Nielsen)
05. The Poet (Carsten Dahl)
06. Vem Kan Segla Forutan Vind (Trad.)
07. My Funny Valentine (Richard Rodgers)
08. Stella By Starlight (Victor Young)
09. Giant Steps (John Coltrane)
10. Jag Vet En Dejlig Rosa (Trad.)
11. Drømte Mig En Drøm (Trad.)
"抒情的な王道ピアノトリオ作"と評されているが、まさにそんなところだ。そして情緒豊かな演奏と人生の回顧的な優しさが感じられる演奏、更に三者それぞれが自己の世界感の中で見事にトリオとしての役割を果たしていて、快感そのもの。
オープニングは、旧くは私をピアノ・トリオ・ファンに誘導したキース・ジャレットが登場、曲はM1." My Song "で、あの記念すべき北欧オスロでの録音のヨーロピアン・カルテットですね、従ってこの曲を登場させるのが解ります。キースの優しさの再現に十分、3分46秒でフェードアウトしてしまうが、最低6、7分は聴きたかった。
M2."Høstdansen"は、唯一の三者連名の曲、ここで取り敢えずトリオの顔見せ的な楽しさが伝わってくる。
M3."Moon River " こんなところでHenry Manciniとは驚いたが、このアルバムのバラード演奏の優しさが開幕だ。
M4."Den Milde Dag Er Lys Og Lang " 優美なピアノに惚れ惚れ。
M5."The Poet" ダールの曲、ピアノの情緒豊かに対して勝るとも劣らないスティーフのベースも中盤では旋律を奏でる。
M6."Vem Kan Segla Forutan Vind ", M10."Jag Vet En Dejlig Rosa", M11"Drømte Mig En Drøm" スウェーデン、デンマークのトラッドというかフォークソングが登場。なかなか郷愁があって日本人の私にも伝わってくるモノがある。彼らの一つのこのアルバムのテーマなんでしょうが、北欧の哀愁と深遠さと人間らしさが満ちている。
スタンダードはアメリカン・ジャズが主力だが、M9."Giant Steps "のコルトレーンが、オリジナル世界を追うので無く、完全に北欧化してこんな叙情性が秘めていたのかと、ビックリ。こんなところがこのトリオの主張なのかも知れない。
ダールがムードが盛り上がると、キースなみの声を発しているが、私的には無い方が良いが、ご愛敬か。
とにかく、ドラマーのトリオとはいえ、彼はステック、ブラシなどを繊細に使い分け、曲の盛り上げに集中して、景気の良いドラム・ソロ等は控えての北欧ジャズに徹している。しかしこのアルバムはやはり録音が非常に良く、どうしても主役になるピアノのクリアな音は当然だが、重厚なベース、ドラムスの音もクリアーに切れ味良く繊細な部分もしっかり中央寄りで聴きとれ、トリオ作品として素晴らしい。こうしたかってのピアノの音だけがメインというトリオ作品ではなく、三者が手にとるように聴けるというのは近年の録音の進歩だと大歓迎。
現代北欧浪漫派ならではのちょっと内省的なところを匂わせての憂愁ある優美な世界や、スカンジナヴィアンの「民謡ジャズ」的情景を加味しての郷愁感を誘ってのアルバム作りはお見事で、アメリカン・スタンダードを北欧化してしまうリリシズムの表現に万歳だ。何と言ってもこの聴きやすさの世界は老獪そのもので万人向けに仕上げてあり、普遍的名盤が出現したと言っておきたい。
(評価)
□ 演奏 90/100
□ 録音 90/100
(試聴)
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コメント
こういうものが、この世に存在してるんですね。
ある意味で、パラレルワールドのようです。
タネが飛んで来て、その土地に芽吹いて、その環境の中で育ってゆく。
なんであれ、そういうものではありますが。
その変容を目の当たりにすると、孫の生長のようでもあります。
投稿: iwamoto | 2022年1月27日 (木) 15時07分
iwamotoさん
おはようございます
やはり音楽の歴史が深いユーロでのジャズの流れは既にそれなりの世界が構築されていて、私にとっても数十年前からのその流れがむしろジャズを愛好するキッカケでもありました。
その一例はフランスからジャック・ルーシェの出現は今においてはごく変哲の無い世界に感じますが、当時は衝撃でした。こうして流れてきたユーロ・ジャズは今や音楽のご本家イタリアや北欧、中欧などによって既に完成の領域に有り、これから更に新次元への流れが楽しみです。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年1月28日 (金) 09時52分
風呂井戸さん,こんばんは。
いやぁ,これはいいアルバムでした。取り上げる曲のバランスや抒情性には痺れてしまいますねぇ。
確かにCarsten Dahlの声はうるさいのが玉に疵ってところでしょうか。
ご紹介がなければ,到達していませんでした。ご紹介に感謝します。
ということで,当方記事のURLを貼り付けさせて頂きます。
https://music-music.cocolog-wbs.com/blog/2022/02/post-fbc775.html
投稿: 中年音楽狂 | 2022年2月 4日 (金) 17時56分
中年音楽狂さん
こんばんわ、コメント有り難うございます
このところ、ユーロと言っても北欧にかなりその魅力が感じられるアルバムが多い私ですが・・
こうしたピアノトリオで迫ってくれると嬉しいのです。
老獪なセンスによる刺激の無い心地よい演奏で満足でした。録音もなかなかいい線行ってますね。
リンク有り難う御座いました。
そうそう、Brad Mehldauのニューアルバムが出るようですが、ちょっとかじってみましたが、又難しそうな気配がするのですが、どうなんでしょうかね。
彼は、ニューアルバムとなると懲りすぎるのでは無いでしょうか
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年2月 4日 (金) 22時31分
風呂井戸さま、アレックス・リールが健在で嬉しいです!
ダールの唸りは、無い方が良いとは思うのですが、、
まぁ、今に始まったことではないし、あまり気にしていませんが、、
「My Song 」は、確かに惜しかったですね。
「Giant Steps」って、速いか変態化か、、って、イメージなので、
こんな綺麗なバラッドにもなってしまうんだ、と、驚きました。
「Jag Vet En Dejlig Rosa 」は、クリスマス・アルバムにも沢山入っている好きな曲なのですが、北欧の人たちがトラッドを弾く時には、ヤン・ヨハンセンの影響ってすごいなぁ、、って、思います。
私のリンクです。
https://mysecretroom.cocolog-nifty.com/blog/2022/01/post-eaa5f1.htm
投稿: Suzuck | 2022年2月 5日 (土) 08時38分
Suzuckさん
コメントどうも有り難う御座います
Keithの"My Song"は、やはり無視できない重要性があったんでしょうね。アルバム・タイトルも「Our Songs」ですし、敬意を表してさわりを冒頭に入れたと言うことなんでしょうか。
しかし、アレックス・リール始めこのメンバーの老獪さには納得してしまいます。自己の納得の演奏と聴くモノへの配慮が出来るレベルに昇華しているんですね。
Suzuckさんのご評価で私も安心して居ます。(笑い)
リンク有り難うございます
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年2月 5日 (土) 20時57分