ニシュラ・スミス Nishla Smith 「Friends with monsters」
清楚可憐にして情感豊かにしっとり聴かせる歌声
<Jazz>
Nishla Smith 「Friends with monsters」
WHIRLWIND RECORDINGS / UK / WR4780 / 2021
Nishla Smith (vocal)
Aaron Wood (trumpet, flugelhorn except 01, 04, 07, 08)
Richard Jones (piano except 04, 07, 10)
Joshua Cavanagh-Brierley (bass except 01, 07, 10)
Johnny Hunter (drums, percussion except 01, 04, 10)
オーストラリア出身英国在住(マンチェスター拠点)の女性ヴォーカリスト・ニシュラ・スミスNishla Smithの初リーダー・アルバム。彼女はソングライターでもあり、アコースティックな演奏のトランペット、ピアノ、ベース、ドラムとのレギュラー・クインテットにより、主としてオリジナル曲のアルバムをここに完成させた。
このアルバムは、「モンスターと友達」というタイトルからも想像がつくが、眠りにつけない女性の描くメルヘンと言って良いのか夢世界"子供のころから、現在、未来に描く一つの物語"として聴くのがいいかもしれない。これは演劇、音楽、視覚芸術の融合に関わるコラボレーションに携わっているという彼女の世界なんだろうと。
結構、豪華なアルバムパッケージが付いていて、彼女から音楽に視覚的な反応を提供するよう依頼された多くのビジュアルアーティストの作品によって歌詞の世界を描いてみせている。なかなか気合いの入ったアルバム。
(Tracklist)
01. Twilight (vo & p duo) *
02. Friends With Monsters
03. Julian
04. Midnight (vo & b duo) *
05. Home
06. Starlight
07. 3 AM (vo & ds duo) *
08. It Might As Well Be Spring (vo-p-b-ds)
09. I Want To Make You Happy
10. Dawn (vo & tp duo) *
11. Up
彼女の歌声は歌詞とメロディーをしっかりと描きつつ、情感込めてのやや甘さと潤いのあるところで、ちょっとキュート・ヴォイスだ。清楚な印象もあり、曲によってはしっとりと囁きかけてくるところもある。物語調で軽快・明るさというところでなくちょっと陰影や儚(はかな)さを感じさせるが、清々しい世界がある。
アルバム全体の印象も単にジャズと言って良いのか、不思議な夢物語的で、ちょっと特異である。
このアルバムは「1つの悩んで困った夜に設定された」と、一夜を4つの別々のセクションに分かち(上の*マーク)、それぞれがシーン設定の間奏曲として導入され、トータル・アルバムとして構成されている。
導入のM1."Twilight"(薄暮・たそがれ)からはじまる夜行性、憂鬱な気分が歌われ、M2."Friends With Monsters"は美しいピアノ・ソロからスタート、ヴォーカルは不安・陰鬱を描きそして一転してモンスターを歓迎するが如きの軽快と曲展開、続いてトランペットが歌い上げ更にピアノのスウィング演奏と変調が面白い。M3." Julian"ではしっとりと夢を歌う。
こんな流れで続く真夜中から、夜明けまで続くのだが、かなり歌無しの演奏部も多く(M8." It Might As Well Be Spring "など)、聴くには楽しい。
M5."Home"のベースが、ソロと彼女のヴォーカルとのデュオにより深夜の眠れない不安さを描く。
M6."Starlight"では子供時代に思いを馳せる。
M10."Dawn"(夜明け)で、睡眠から目覚めの喜び、M11."Up"では発展的朝の世界へ・・・と、どうも我々には良く解らないモンスターの登場による女性の半分夢の欧州的夜の物語である。
バック演奏は、ピアノ、ベース、トランペットなどが、効果的に現れて展開は飽きさせない。硬派正統筋のハード・バップらしさとヨーロッパ・ジャズならではの叙情性も匂わせつつドラマチツクなところもある演奏で、むしろ彼らも楽しんでいるようにも聴ける。
トータルには、物語的で真摯な世界であって悪い印象は無く、女性のもつ特異な物語を聴(聞)かせて頂いた。こんな優しさと和みとちょっと異様なムードの混在する不思議空間も時には良いのではと、特に内容で悩むこと無く彼女の歌声と演奏の世界に没頭して、ほっとして聴いていれば良いアルバムだ。
(評価)
□ 曲・演奏・歌 85/100
□ 録音 85/100
(視聴)
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コメント
前記事でご紹介のものよりは、馴染めます。
ヨーロッパって、例えば五輪の開会式でも、このような雰囲気の出し方がうまいですよね。
好みで言えば、こういう演出をするなら、ご本人さんに、もっと異様さが欲しいのですが。
このバランスしてないのが良いとも言えますね。
前記事の演奏は、素晴らしいけれど、もっと何か欲しい気がしました。
投稿: iwamoto | 2022年1月20日 (木) 12時38分
こうした女性の夢物語が、私には良く解らないのが残念ですが・・・、大体モンスターが解らない。
あまり深入りせず、歌詞の理解も特にすること無く、イメージで聴いていると、それなりに印象の良いヴォーカルに演奏陣の丁寧な演奏に好感がありました。
一般的ジャズを演ずる構成での演奏ですが、アメリカン・ジャズの生い立ちを考えると全くの別世界ですね。
前記事の、ダイアナ・パントンは、このパターンで長年ずっと来たところが立派と言えば立派、私はそれはそれとして評価しています。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年1月20日 (木) 23時22分