アンジェロ・コミッソ Angelo Comisso 「NUMEN」
イタリアから欧州浪漫派ピアノ・トリオの気品溢るる名演奏・名録音盤の登場
<Jazz>
Angelo Comisso, Alessandro Turchet, Luca Colussi 「NUMEN」
ARTESUONO / Italy / ART208 / 2022
Angelo Comisso (piano except 05, 12)
Alessandro Turchet (bass except 03, 10, 12, 15)
Luca Colussi (drums, percussion except 03, 05, 10, 15)
Mastering : Stefano Amelio
Artesuonoから 気品溢れるユーロ・ピアノ・トリオ盤が登場。 イタリアのキャリアある個性派ピアニスト:アンジェロ・コミッソの、彼のオリジナル曲を中心としたベース(Alessandro Turchet) & ドラム(Luca Colussi=アルバム「Luca Colussi Trio / Segni」(2021)は先日紹介した)との連名トリオの一編。
彼はかってピアノ・トリオ・マニアの間で話題のアルバム『STURM UND DRANG』(2010)(右)があったが、私はそのアルバムは入手出来ておらず、ストリーミングでその美しく抒情的な世界を聴いてきた。これはピアノソロ、トリオと二種スタイルが半々での収録されたアルバムで、繊細なタッチで美しく描かれた一枚。
その後はライブものがあったかと思うが、日本ではその実力とキャリアの割には広く知れ渡ってはいないミュージシャンだ。とにかく欧州といってもその中心のイタリアの抒情と詩情をしっかり身につけたピアニストであって、ここにトリオ演奏盤が出現したことは、ちょっと久々の衝撃でもある。又エンジニアも名手Stefano Amerioで、これまたオーディオ・ファンとしても見逃せない。
(Tracklist)
01. Rarefactia
02. Alianti
03. Promenade #1 (solo piano)
04. Erbolat
05. Promenade #2 (solo bass)
06. Amistad
07. Lettere*
08. Whisper
09. Shem
10. Promenade #3 (solo piano)
11. Chiquilin De Bachin*
12. Promenade #4 (solo percussion)*
13. Wasserklalvier*
14. Wood Indigo
15. Torii (solo piano)
*印以外の11曲は彼のオリジナル曲、M7はトリオ連名、M12:Luca Clussi
オープニングのM1."Rarefactia"から繊細なるスティックによるシンバル(Luca Clussi 下右)が鳴り響き、追従して透明感のあるピアノが前面に出て、静かに語り始め、後半にはベース(A.Turchet 下中央)も静かな世界を造り物語のスタートのような雰囲気だ。
とにかく、クラシック的でも有りながらイタリアのあの哀愁漂うメロディが襲ってくる。 抒情と詩情が繊細なタッチで語られるアンジェロ(下左)のピアノ・プレイはたまらない魅力の音で包み込む、そこに品格が溢れているのが素晴らしい。そんなところは、M6."Amistad", M8."Whisper", M11."Chiquilin De Bachin", M14."Wood Indigo"にてしっとりと聴くことが出来て満足の至り。又そのM8."Whisper"では、ベースの旋律による物語も聴ける。
このアルバム・タイトルは「精霊」とか「守護神」という意味で良いのか不明だが、トータルに聴き理解する流れに構築されていて、"promenade"と称する曲が#1から#4までの4曲あり、ピアノソロ、ベースのアルコ奏法ソロ、ドラムス奏者の描く世界によりメリハリを付けている。この辺りがなかなかのもの。
そしてM13."Wasserklalvier"では、瞑想的な中に深遠なるピアノの響きが水の流れを描く如く流れる。又M6."Amistad"では牧歌性をも感ずるところもあったりする。
しかし彼らの演奏が甘さや優美だけで無いところが、M4."Erbolat"に聴ける。ドラムスが活発に動き、ピアノがドラマチックな展開を見せる。そして三者の奇妙なプレイの交錯、そこには前衛的な展開が聴き取れる。ここにはメロディックな叙情性とは全く対比される世界だ。後半のピアノとドラムスが掛け合うところも面白い。こうした変則的な緊迫感まで描くところはこのトリオの高度な世界にあることと窺い知るのである。
全編に流れるムードは、明るさの世界というよりは、ちょっと北欧的自然の美を交えた憂愁の世界であって、ただ陰鬱というので無く心に響く和みのある安堵の癒やされる世界と言った方がいい。美しいピアノの旋律が深遠に流れ、最後のM15." Torii "は、なんとなくM1." Rarefactia"の曲を思い起こさせ、静かにして沈黙の世界を描くが如く、ソロ・ピアノの音が余韻を大切に静かに消えゆくが如く描いて終わる。
まさにトータル・アルバムにして、心象風景を描きながらきちんとした姿勢を正しての抒情と詩情を欧州的センスで演じきった名盤と言いたいところだ。更にアメリオのマスター録音とミックスの素晴らしさは、このバンドが全体に広く奧行き感をもって配置され、ピアノの音が美くしく広がりが有り、ベース、ドラムスもきちんとした位置に録音されていて、その音も繊細から重厚まで充実して聴き取ることが出来る。
(評価)
□ 曲・演奏 95/100
□ 録音 95/100
(試聴)
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コメント
ジャズと言うか、これはミュージックですよね。
遥かに包括的で、熟成が始まってきている気がします。
思ったのですが、こういう音楽って、アメリカに対する逆襲みたいなところもあるでしょうか。
投稿: iwamoto | 2022年1月21日 (金) 12時57分
iwamotoさん
コメント有り難うございます
いまや、こうしたクラシックの流れをもったジャズの展開は、欧州における重要な位置にありますね。北欧しかり、波蘭しかり、そして独逸ではECM世界、私にとってはたまらない歓迎のするところです。
私が今日ジャズを愛する重要な処です。
米国のジャズ起源とは全く別の世界ですね。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年1月21日 (金) 15時33分
いいですね。久しぶりの欧州ジャズピアノですね。風呂井戸さんの評価の高さがわかります。『STURM UND DRANG』も聴いてみたくなりますね。
投稿: 爵士 | 2022年1月22日 (土) 23時19分
爵士さん
コメント有難う御座います
やっぱり、イタリアさすがに底に流れている音楽の厚さが違いますね。多くのピアニストがそれぞれいい味を出しています。
このAngelo Comisso は気になっていたんですが、ようやく嬉しいニュー・アルバムが出て、飛びつきました。^^
『STURM UND DRANG』は、ストリーミングで何時でも聴けますので・・・今はこのスタイルですね、しかし私はCDで持っていないと、納得できないタイプで、古い男です。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年1月24日 (月) 10時20分