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2022年2月16日 (水)

山本剛 TSUYOSHI YAMAMOTO TRIO「MISTY for Direct Cutting」

果たしてダイレクトカッティングは、高音質名録音なのか・・・

<Jazz>

TSUYOSHI YAMAMOTO TRIO「MISTY for Direct Cutting」
SOMETHIN'COOL / JPN / MQA-CD / SCOL106 / 2021

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山本剛(p)
香川裕史(b)
大隅寿男(ds)

録音:2021年2月@キング関口台スタジオ
レコーディング・エンジニア : 松山 努
カッティング・エンジニ ア: 田林正弘(日本コロムビア)

5b52d73134b712273w  ジャズ史上屈指の名盤と言われたThree blind miceレーベルのオーディオ・ファンの永遠のバイブル『ミスティ』(1974CMRS-0033(DQCP-5281))を生んだピアニスト山本剛が、このところのハイレゾ・ブームでのアナログ・レコードの音質的魅力の再認識から、キング関口台スタジオがアナログ用のカッティング・マシンを復活させてダイレクト・カッテイング録音を始めたことにより、ここにメンバーは変わってはいるが現在のトリオでの45年ぶりの過去の再現を試みて、2021年版の『ミスティ・フォー・ダイレクト・カッティング』の録音が実現した。ミックス、マスターリングなどのプロセスを省いたダイレクト録音であり45回転LP録音である。従って録音スタジオの音が、そのまま納められているものだが、同時録音によるDSD11.2MHzデータをMQAでエンコード処理されたハイレゾデータが格納されたCDも作製され発売されたのだった。
 この紹介のMQA-CD盤は、通常のCDプレイヤー(44.1kHz/16bit) で再生可能だが、MQAデコード対応機器等でPCM176.4kHz / 24bitのデータが展開され、ハイレゾ音源で再生することができ、当然私もそのMQAハイレゾとして聴いている。

Tsya1w2 (Tracklist)

1.Misty (Erroll Garner)
2.Midnight Sugar (Tsuyoshi Yamamoto)
3.The In Crowd (Billy Page)
4.Girl Talk (Neal Hefti)
5.The Folks Who Live on The Hill (Jerome Kern) ★
6.Yesterday (Paul McCartney) ★
★印 ボーナストラック

  いっやぁーー、何度聴いてもエロール・ガーナーのこのM1."Misty"は名曲ですね。なにせ歌詞までつけられて多くのミュージシャンがカヴァーしてきた曲だが、日本では山本剛のあの1974年作品は、演奏と言い、録音と言い最高傑作と評され、海外でも評価が高かったものだ。
 それを歳を取ったとはいえ、ここに来て山本剛はそれなりの演奏を展開し、かっての音質の最高峰と言われた録音方式ダイレクトカッテイングにての挑戦であった。まずその演奏はなんと下に紹介する若き45年前の彼の演奏と比較して聴く事になったのである。
 このダイレクトカッタィングは45回転LPであり、収録時間が短いため、彼はかなりそこに自由度の制約があってのストレスのある演奏であったと言っている。従って、'74年版は7分13秒の演奏だが、今回は5分51秒とかなり短い。更に、比較しての結果、'74年版の演奏の方が、更に情感が込められており、演奏も余韻を含めてしっとりとしている。ただこの点は、彼の人生経験を積んだ高齢となった今は、この情感は人生の達観されたところもあるのかかなり整理されたものとなり、むしろこの"ミスティ"への思い入れも変わっているのかも知れない。

M01

 さて問題の録音評価だが、ダイレクトカッティグのピアノそのものの音質のレベルの高さは解るが、再生しての印象はその音場の広さ奥行き空気感などやはり現代のイタリアのステファノ・アメリオに代表される近代ジャズ録音とすれば、一歩及ばぬところにあった。トリオ三者の表現もその定位が三者とも中央に寄っていて、奥行き感もそれほどなく、このあたりはやはりミックス、マスターリングの施されたものとは一段劣っている。今や、オーディオ的観点での評価は単純に楽器そのものの音だけでなく、多岐に渡って音楽的に評価される時代となり、名録音の評価は難しい。とにかく我々が聴くところの味に如何に満足感があるかというレベルの評価も必要である。
 そんな意味ではMQAハイレゾも、その元となる録音から作り上げられた世界が高いレベルにないとその味のせっかくの高度化が生かされない。そんな意味では今一歩の出来であった。
 M2."Midnight Sugar"は、昔の彼のデビュー作のタイトル曲、スタートのベースの録音された音には若干物足りなさが感じられたが、やはり彼のピアノの演奏には美しさを感ずることが出来る。最近の誰かが好きな若き女性ピアニストのピアノ・トリオものと比較してもその味わいの深さは一歩も二歩も上である。M4."Girl Talk "にしてもその展開には大人の深い味わいがあり、M5."The Folks Who Live on The Hill"の情景描写は出色。
 彼のジャズへの思い入れをあらためて聴く事が出来た。

(評価)
□ 演奏  88/100
□ 録音  88/100

         *      *     *     *     *     *

(参考)

<Jazz>

YAMOTO TSUYOSHI TRIO 「MISTY」
CRAFTMAN RECORDS / JPN /CMR S33 / 2019 (Original 1974)

Misty1

山本剛 (p)
福井五十雄 (b)
小原哲次郎 (ds)
Rcorded Aug. 7, 1974 at Aoi Studio , Tokyo
Mixer Yoshihiko Kannari

2w_20220216120701 (Tracklist)
1. Misty
2. Blues
3. Yesterdays
4. Honey Suckle Rose
5. Smoke Gets In Your Eyes
6. I Don't Know What Time It Was
7. Angel Eyes

 1974年のジャズ界きっての演奏そして録音の名作、今も語り継がれ、CD化も繰り返されているThree blind miceレーベルのベストセラー第一位の作品で我々を楽しませてくれる。
 結論的には、上に紹介の近作『Misty for Direct Cutting』の録音よりも、古さはあってもその演奏の空気感、ホール感、三者の定位感によるトリオの味などは上と判断する。
 演奏も、曲M1."Misty"の 霧のたちこめたような静かな世界の「ミスティ」は、抒情性も高く現在も山本剛の代表的な演奏曲でもある。彼のストイックな面が充ち満ちている美しい音色によるまさに陶酔の世界。ここでは音の余韻の残す美しさと心に訴える世界までも演じられていて、当時の若さからするとお見事と絶賛するところだ。
 M2."Blues"は彼のオリジナル曲だが、これもスイング感が気持ちよい。
 その他のスタンダード曲も含めて、彼のピアノの音色は硬質でクリアに捕らえられていて、現在もオーディオ的にも評価が高い。

(評価)
□ 演奏  90/100
□ 録音  90/100

(視聴)

2021版 山本剛トリオ「MISTY for Direct Cutting」

*
1974年版 山本剛トリオ 「MISTY」

 

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コメント

音楽を聞くという行為の、重要な側面を考えさせられます。
音質と音楽の質は、関係あるのか。
なくはないけれど、最高に重要な問題と捉えて良いのか。

わたしは、ご紹介の古い演奏の方が良いというか、好みに感じました。

音質は、写真の画質のように、大事ではあるが最高に大事ではないものとして考えられます。

条件次第では、カセットテープに録音されたものでも心に深く突き刺さることはあるでしょう。
それは、今聞いている音ではなくて、記憶が蘇ってるだけなのだとか?
わたしは、音楽は音だと思うのですが、それは高品位な音質ということではありません。

特に西洋の楽器や音楽は、音の持つ魅力を半減させているように感じられます。
ですから、それらを上手に録音しても、そこに見出せる価値は低いです。

世の中には雑音を出すために腐心している楽器も多いですよね。

とにかく、大変興味深く、面白いテーマであることには違いないです。

投稿: iwamoto | 2022年2月16日 (水) 22時50分

iwamotoさん
コメント有り難うございます
 非常に微妙なところですね
 楽器そのものの美しさと、音楽としての全体の音場の姿は、聴く者にとってはかなりの評価が分かれるところかも知れません。
 ただ、昔の名演と言っても、音が悪く演奏そのものの情景が、美しさと同時に訴えてくる何かを表現していてくれなければ、やはりそれも空しくなります。
 究極は名録音(音と情景を描く)と名演奏が揃って、名盤となるんでしょうね。
 それにおいては、今やジャズの世界に限らず、演奏者の技量だけでなく、エンジニアの技量は録音、ミックスを経過して表現するものを作り上げる重要な役割(芸術)のように思えてなりません。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年2月17日 (木) 21時26分

その意味では録音機材も同様ですね。
使ったケーブルの名まで明記されていたり。
キリが無いと思いますが、大元の電源は何だとか。

投稿: iwamoto | 2022年2月18日 (金) 13時19分

iwabotoさん
おっしゃるように・・・それに加えて聴く方もそれなりの装置がなければ評価も疑問。
確かに、音の余韻とか、広がりとか、トリオならその配置による音楽的バランスとか、機器によって、又その部屋の構造によっても違ってくるのでやっかいです。
カメラも・・・オーディオも・・・微妙なところまで追求する日本人は、世界的にも良い消費者でもありますね。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年2月20日 (日) 22時48分

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