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2022年3月24日 (木)

アレッサンドロ・ガラティ Alessandro Galati Trio 「EUROPEAN WALKABOUT」

トラッドをピアノ・トリオで・・・そこには美旋律世界

<Jazz>
Alessandro Galati Trio 「EUROPEAN WALKABOUT」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1100 / 2022

Eww

Alessandro Galati (p)
Guido Zorn (b)
Andrea Beninati (ds)
Recorded on Jan.18, 2022 at Artesuono Recording Studio
Recorded,mixed & mastered by Stefano Amerio

 驚きましたねぇーー、昨年から出る出るといっていて延期になって待たしていたアルバム、ようやく発売されたアレッサンドロ・ガラティの新作。見てみると録音がミックス・マスターリングは期待のStefano Amerioはそのまま期待通りで良いのですが、なんと録音日が今年2022年の1月18日となっていて、これなら去年の年末12月や今年1月に出るわけないですね。これでも早いくらいです。

 それはそれとして、ガラティは私の期待のミュージシャンですが、寺島レコードとの関係が出来てから、新作のリリースが早いですね。前作は昨年の『SKYNESS』(TYR-1098)ですからほぼ半年です(録音は2017年で、4年前ですが)。そしてトラッドのピアノ・トリオによる演奏集だ。このリリース目的が、おそらく彼がアルバム作りをしたいとミュージシャンとしての情熱と目さすところの集積というのでなく、希望に答えての演奏集といったところでしょう。その為、今回のアルバムで彼のこんな意思が見えてきた・・というのでなく、我々に楽しませてくれるという範疇のものなんでしょう。そんなところで実は彼の『Traction Avant』(vvj-007/1995)以来惚れ込んで新作に期待してきた私は、若干期待度というのがちょっと違った姿勢でこのアルバムに接しているのである。

 さて、このアルバム、やっぱり寺島氏からの要求に答えたものだろうとのことは、彼のライナー・ノーツを見ても想像できる。勿論、ガラティも決して今回のトラッド集は否定するものでなかったと思うが、果たして彼が今ミュージシャンとして、そしてアルバム造りとしての意思であったかどうかは疑問のところだ。そんなことも想像しながらこのアルバムを聴くのである。
 そして"際立つ美しいメロディ、細部まで行き届く繊細な表現力。哀愁の美旋律は歌心溢れる音楽世界へと誘ってくれる"という宣伝文句そのもものの美しいピアノ・トリオ作品である。

Ag1w (Tracklist)

01. Love in Portofino
02. Verde Luna
03. Dear Old Stockholm
04. Almeno tu nell'universo
05. Last Night a Braw Wooer
06. Cancao do Mar
07. Danny Boy
08. The Water is Wide
09. Liten Visa Till Karin
10. Parlami d'amore Mariu

 「トラッドは外れナシの美曲」と寺島氏は語るように、このアルバムは文句なしの哀愁の美旋律を十分堪能できるトラッド集に仕上がってますね。冒頭のM1." Love in Portofino"から聴き惚れますね。
  しかしガラティ・ファンの私にとっては期待が大きいだけ・・・・ピアニストとして旋律を愛し奏でる"メロディ至上主義"と言われてはいるガラティですが、過去の作品を聴くと必ずしもそれだけではない。彼の目指すところ、いわゆる美しい旋律の重要性と同時にミュージシャンとしての演奏をどこまで極められるかという実験的な世界も作ってきた。そんな意味からは若干虚しさも感ずるのである。

 例えば、彼の作品群の中でもどちらかというと異色に入る『JASON SALAD!』(VVJ-014/2010)の単なる美旋律というよりジャズの奥深さを探る世界とか、又『UNSTANDARD』(VVJ-068/2010)のあの美しい"CUBIQ"のオーボエ、ギターはじめメンバーとのそれぞれの描くところを一つの曲の中でまとめ上げてゆくピアノプレイ。更に『WHEELER VARIATIONS』(SCOL-4024/2017)のインタープレイの真迫のスリルなど、いわゆるジャズ・ピアニストとしての描く世界の極みが尽きない。そんな意味では、今回のアルバムは、美しく演奏するところを聴かせると決まっての曲作り、それぞれの美は素晴らしくても、どこか彼の挑戦的演奏が見えないところがちょっと寂しい。

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   しいて言えばM6."Cancao do Mar"は、ファドで有名なポルトガルの伝統的な歌謡曲のようだが、私にとってはようやくこの曲でトリオとしてそれなりに作り上げたという感じがするのだ。つまり、アルバム全体的に、ちょっと感じられる"ガラティの美旋律演奏にベース、ドラムスが合わせている"というような曲作りでは若干むなしい。私的希望として、もっとトリオとなると、三者それぞれの解釈による演奏と協調が魅力的なのであり、ある意味ではバトル的な感覚での演奏から協調へと向かい曲仕上げを高めてゆくところが聴きたいのであり、そのような流れの中でふと現れる美旋律の美学がガラティの得意とするところであり、聴く者にとっても感動が大きい。ミュージシャンというものは、期待されることは当然嬉しいが、作品に一つの枠が決められてのアルバム造りは、実はそんなに納得しているものでもないのだ。

 トリオ三者にてのスリリングなインタープレイのジャズ美学は、ガラティにもともとある一つの世界であって、その特徴への私の期待があるのである。今回、前作と異なるメンバーのグイド・ツォルン(Bass 上左)とアンドレア・ベニナチ(drums 上右)との演奏準備は十分あったのかどうか、もっと二人は我を出して頑張ってもよかったのではないかと、特にツォルンは遠慮っぽかったように感じた次第。
 しかし、そんなことより"郷愁が感じられ美しい情緒あるピアノがとにかく聴ければよい"ということであれば、やっぱりこれは素晴らしいアルバムである。まあ、テーマがそうゆうことであるので、ガラティ自身も職人ですから難しいことなしで演じたのであろう。したがってこれで実際のところ正解なのかもしれない。

 今回も、録音そしてミックス、マスターリングとStefano Amerioが担当していて、素晴らしいリアルにして繊細で美しくミュージシャンの演ずるところをしっかり描き聴かせてくれるところは見事であった。

(評価)
□ 曲、演奏 :  88/100
□   録音   :  90/100

(視聴)

私のこのアルバムでは一押しの" Cancao do Mar"

 

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コメント

美しいですね。
ピアノは音としての旋律というのはもちろんですが、図形的な感じがします。 グラフのような。

合奏としての魅力は、やや薄いように聞こえました。

投稿: iwamoto | 2022年3月24日 (木) 16時58分

お邪魔します。
毎回の事ですが、大袈裟に言うと、最初の30秒で他とは1段2段上の世界へ連れていってくれます。勿論、色んな評価はありますが、全て格上の世界かと思います。技術なのか感覚なのか、自分では大ファンのつもりは無いのですが、毎回聞く前から楽しみにしています。

投稿: ランス | 2022年3月24日 (木) 18時44分

iwamotoさん
こんばんわ、コメント有難うございます
美しさはやっぱりずば抜けてますね
 面白いですね・・・「図形的な感じ」という表現、音の硬質さ、ずば抜けた構成、アメリオのリアルな録音とミックス・・・それから感ずるところでしょうか・・・解りますねぇーーー。
 この曲が最もこのアルバムではトリオとしての機能がみられると思いました。・・ですから、他には、ベースやドラムスのリードもありますが、でも究極はピアノ主導で、あまりにもサポートに回っていて、もうちょっと頑張るとおもしろいのになぁー-という欲張りの話でした。
 

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年3月24日 (木) 22時51分

ランスさん
こんばんわ、コメント有難うございます
 アルバムがスタートすると、もうそこには捕らわれた身の私になってしまいます。
>技術なのか、感覚なのか
そうなんですね・・・どこか違うんですよね。やはりその両者とキャリアというか年期といか。
イタリア人にある独特の歴史的なものから生まれてくるものなのか・・・
 とにかく、私はこれがファン心というものか、すべてを受け入れつつ、多くを期待していつもいるんです。
 多くのミュージシャンは、結構自分のしたいこととは別の要求が、商業的組織からあり、それに縛られながら苦闘している話をよく聞きます。そうでなければよいのですが、ガラティには自由奔放に才能を発揮してほしいというファンの一人の思いのところのお話を今回してしまいました。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年3月24日 (木) 23時06分

アルバム聴きました。やはりガラティの美メロはただものではない。何のためらいもなく、身をゆだねられます。

投稿: 爵士 | 2022年3月25日 (金) 22時47分

爵士さん
コメントありがとうございます
 イタリアという国の歴史的背景に育ったイタリア人の歌心というのはいつも心に迫ってきます。そんな世界の中のガラティの才能なんでしょうね。
 日本の寺島靖国氏が夢中になるのも解ります。
 さあ次作は、Brad Mehldauのように、自分の作りたいアルバムをおもいっきり作ってほしいですね。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年3月26日 (土) 09時13分

風呂井戸さま、リンクをありがとうございました、
そして、、たぶん、私も同じようなことで揺れてたと思います。
リリースされて、すぐに聴いた時には甘さでお腹がいっぱい、、
的な感じがして、少し、聴くのをやめていました。

で、あれこれ他のアルバムを聴いて、、やっぱり、この人の居るステージって、随分上なんだなぁ、、って、思いなおしました。

私も、もう少し抽象的な美しさを探求してくれるとよかったとおもうのですが、、まぁ、これはこれで売れるんだろうし残っていくんだろうなぁ。。って、思います。
その辺が、わかっていて要求している方たち、、やっぱり、プロですね。

私のリンクも置いていきますね。
https://mysecretroom.cocolog-nifty.com/blog/2022/03/post-dedb03.html

投稿: Suzuck | 2022年3月27日 (日) 10時59分

Suzuck様
こちらまで、そしてリンクも有難うございます
 実のところ・・という感覚の世界が見えてきて私はそれで充分納得しています。^^
 そうですよね、ガラティは甘さだけじゃないのですよね。その甘さというか美学はあるところを乗り越えて迫ってくるところに更に心に染みこんでくるんですよね。
 寺島氏もここまで答えてくれたガラティに、次回は彼の美学のなすところを自由に描かせるという余裕をもって対応してほしいですね。当然解っている人だと思いますので・・・

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年3月27日 (日) 12時35分

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