キット・ダウンズ Kit Downes Trio「vermillion」
詩情世界を描く品格のあるリリカル・プレイ
<Jazz>
Kit Downes, Petter Eldh, James Maddren 「vermillion」
ECM / Germ. / ECM2721 / 2022
Kit Downes (piano)
Petter Eldh (double-bass)
James Maddren (drums)
Recorded May ,June 2021, Auditorio Stelio Molo RSI,Lugano
Engineer:Stefano Amerio
英国ロンドンを本拠として活動している新進気鋭個性派ピアニストであるキット・ダウンズKit Downes(1986年生)の作品、ECMからの彼の3作目としてリリースされたもので、ベース&ドラムスとの初ピアノ・トリオ盤。
彼はオルガンとピアノの両方を演奏し、2018年に教会のオルガンで録音した作品『Obsidian』でECMソロ・デビューを果たし、翌2019年リリースのECM2作目『Dreamlife of Debris』では、オルガンとピアノと、サックス、ギター、チェロ、ドラムスというクインテット構成を演じてきた。オルガンは教会パイプ・オルガンのクラシックもの、そして今回のアルバムは勿論アコースティック・ピアノである。
これまでピアノ・トリオとしては、ENEMYという名で2018年からの活動があり、スウェーデン出身のベーシスト、ペッター・エルドとイギリス人ドラマー、ジェームズ・マドレンと共に演じてきたようだ。今作はそのメンバーでのピアノ・トリオ・ジャズ作品。主として自己とエルドによるオリジナル10曲とJimi Hendrixの1曲での構成となっている。
彼は英国王立音楽院出身で、現代若者としてのBritish Jazzを探求しつつの作品として評価されており、かってのAmerican Jazzとは全く異なる歴史観の中でのジャズを築きつつある。今やジャズはこのような世界に根を下ろしてきたことを知るに格好の作品だ。
01. Minus Monks*
02. Sister, Sister*
03. Seceda*
04. Plus Puls#
05. Rolling Thunder*
06. Sandilands#
07. Waders#
08. Class Fails#
09. Bobbl's Song*
10. Math Amager#
11. Castles Made Of Sand
*印: composed by Kid Downes
#印: composed by Petter Eldh
まず何といっても感ずるのは教養ある品格である。ジャズが一つにはこうした音楽になっているところを知るべきだろう。その流れは北欧はじめヨーロ世界に今や広く拡散しているのだ。そしてこれを支えるは"Manfred EicherのECMの世界"でもある。
とにかくアルバムを通して流れる心が洗われるような品格ある詩情世界が何とも言えなく素晴らしい。つくづく今やピアノ・トリオをはじめとして築かれつつあるヨーロ・ジャズのすばらしさの一世界だ。
やや陰影があるも、そこには透明感が漂ったけがれなきピアノの音が心象風景を描くのである。そしてベース、ドラムスが決して前面に我れありと出てくるのでなく、そうは言ってもただ影に没入するわけでもなくトリオとしての持ち味の役割は、やはり優しさと美しさをもってなくてはならない支えの立場を展開。これには音質と同時にStefano Amerioの音場作りがかなり貢献しているのかもしれない。今や作品はミュージシャンの演奏世界と、技術陣の作品作りの総合として展開しているのである。
スタートM1."Minus Monks"からAmerio録音が功を奏した3者の対等な品格ある展開が見事、それはM2." Sister, Sister"でも、ピアノ、ベースがメロディーを交互に聴かせる。M3."Seceda"は繊細なシンバルのスティック奏法と美しいピアノとベースのユニゾン。
スタンダード曲でなくオリジナル曲の演奏であるため、その曲は彼らなりの演奏で変化がこうなっているということは言えないのだが、M6."Sandilands"の盛り上がりは、それぞれが別の世界に没頭しているようでて、その姿で一つの頂点で交わるという芸の深さを聴かせてくれる。
M8."Class Fails"ドラムスのブラシによる演奏、低く響くベース、そしておもむろに登場するピアノのメロディー、その曲の響きの余韻の美しさを誘っての音楽的造詣の深さを知る。
M9."Bobbl's Song" 静から動への展開に見事な一致感。
M11."Castles Made Of Sand"ジミヘンの曲が抒情的に流れて幕を閉じる。
優しさの中にやや仄暗さを感じさせての情景に、穏やかな中に微妙にスリリングな流れをトリオとしてフル回転してのメロディックとアクションを適度に配する技法の快演が見事。そして全体に漂う品格すら感ずるリリカルな世界が聴きどころだ。現代ユーロ・ジャズの一分野として失いたくないところである。
(評価)
□ 曲・演奏 : 90/100
□ 録音 : 90/100
(視聴)
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コメント
ジャケットも良いですね。
わたしは、電線が写真の敵とは思ってないし(笑)
たしかに、ジャズがこのような発展もしているのだと、世界が知るべきでしょうね。
投稿: iwamoto | 2022年3月 6日 (日) 18時10分
iwamoto様
コメントありがとうございます
ジャケは私も狙いそうな電柱と電線ですね ^^
まあ、私は近年ユーロ系のピアノ・トリオに傾いているのは、一つには、このようなトリオが魅力あるからですが・・・
そうは言っても、アメリカン・ニューヨーク・ジャズを時に聴きながら・・というところです。気分によっては、もともと大編成ものはダメですが、ピアノ・トリオのスイング・ジャズもそれなりに良いので聴いてはいますね。~~
もうこの線は、ユーロでは、当たり前の流れでここ一昔以上前から主流で来ているんでよ・・・。
北欧・中欧の健闘がすごいです。ドイツのECMの世界も積み上げた業績は並大抵のものではありません。
もともとイタリア、フランス、スベインの流れもありますし、今やジャズも欧州ですね。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年3月 6日 (日) 21時29分
風呂井戸さん,こんばんは。リンクありがとうございました。
「品格ある詩情世界」というのがぴったりと言うべき作品でした。私はこの演奏を聞いていると,英国と言うより,北欧に通じるところが感じられる演奏でした。
実にECMらしい優れた作品だと思います。ということで,当方記事のURLを貼り付けさせて頂きます。
https://music-music.cocolog-wbs.com/blog/2022/03/post-cade95.html
投稿: 中年音楽狂 | 2022年3月10日 (木) 18時11分
中年音楽狂様
コメントありがとうございます
貴ブログも益々充実していて楽しませていただいてます。
確かに、おっしゃることわかります、今や北欧の流れが充実してきていますし、ECMも積極的に取り入れてますね。私としては嬉しいことです。
リンクもありがとうございました。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年3月10日 (木) 20時40分