トルド・グスタフセン Tord Gustavsen Trio 「Opening」
瞑想性をもって繊細でリリカルな美旋律が溢れてくる
<Jazz>
Tord Gustavsen Trio「Opening」
ECM Records / Germ / ECM 2742 / 2022
Tord Gustavsen (p, electronics)
Steinar Raknes (b, electronics)
Jarle Vespestad (ds)
Engineer : Stefano Amerio
Produced by Manfred Eicher
初期からのトリオを築き上げたベーシストHarald Johnsenが2011年死亡してから、トルド・グスタフセン(ノルウェー出身)はトリオ演奏アルバムを封印していたのか、3rdアルバムから11年経っての2018年に、ようやくトリオ作品に復帰、4thアルバム『The Other Side』をリリース。そしてそれから4年経ってここにトリオ5作目の待望のアルバムが登場した。
思い起こせば、2003年、デビュー・アルバム『Changing Places』をECMからリリースして以来、そのリリシズムあふれるヨーロッパならではの美旋律、しかもそれに留まらず哲学的な深みにも及ぶ世界が多くのピアノ・トリオ・ファンを魅了した。勿論私もそれに魅了された一人だ。
本作では前作とは異なって、ベースはノルウェーの実力派ベーシスト、スタイナー・ラクネスが参加している。グスタフセンの洗練された微妙な味を描き繊細に試みられるコードとヴェスペスタッドのパーカッシブな音やスティックとブラシワークの間にいかにトリオとしての味を構築しいるかも興味の湧くところだ。
(Tracklist)
1. The Circle
2. Findings / Visa fran Rattvik
3. Opening
4. The Longing
5. Shepherd Song
6. Helensburgh Tango
7. Re-Opening
8. Findings II
9. Stream
10. Ritual
11.Floytelat/The Flute
12. Varsterk,min sjel
スウェーデンの伝統的な民謡だという「Visa från Rättvik」、Geirr Tveittの「Flutelåt」、美しい曲Egil Hovlandの「Varsterk,min sjel」を除いて、12曲はすべてグスタフセンによって書かれたオリジナル曲で構成されている。
オープニングM1."The Circle"では、内省を誘う瞑想的な曲だが意外に深刻にならず優美さがグスタフセンのピアノが美学を追求し、ラクネスのベースもメロディックで、かってのグスタフセンのトリオと特に逸脱することなく、ヴェスペスタッドの繊細なスティックとブラシワークとともに旨く支える側でまとめ上げて居る。
M2."Findings / Visa fran Rattvik"は、珍しくドラムスの響きからリズム感を盛り上げ、それにピアノはおもむろにうねりをもって歌いあげる。
テーマ曲M3."Opening"そしてM4."The Longing"は、静かな希望が描かれている。それは美そのもののようでありピアノとベースの相互の作用が生きている。
M5."Shepherd Song"では、静かに語るようなピアノ、ヴェスペスタッドがライドシンバルとスネアで展開する、ラクネスがアルコ(おそらく)からハーモニックな演奏に移り、グスタフセンは答えるように妖艶なる表現から盛り上がる。
M6."Helensburgh Tango" 哀愁漂うピアノと電子的に強化されたアルコベースラインのコードからは、沈鬱な世界が迫ってくる。ブラシ、シンバル音がさらにそれを助長して・・・・
M7."Re-Opening" このアルバムの物語の再開、ベースのアルコ奏法による広がる世界。ドラムス・のシンバル音がメリハリを・・・そして後半には、ピアノの音がかってのアルバムに通ずる懐かしさを誘う。そしてM8."Findings II"の波のように押し寄せるピアノの美しさとダイナミックさが聴きどころ。
M9."Stream" ここで再びグスタフセンのピアノが描く深淵な世界に流れるが、ベースもその音を次いで描く世界が美しい。
M10."Ritual"儀式と訳してよいのだろうか、このアルバムでは、トリオがそれぞれが異様に盛り上がる唯一の曲。不吉な、サスペンスフルでロックに通ずる世界だ。グスタフセンは低音和音のリズム、ヴェスペスタッドはピアニストの勢いを強調するためにスネア、ハイハット、キックドラムで応戦。ラクネスのベースは電子的増幅によりエレキギターのような歪んだ音で響く。波のように押し寄せてくる様は、このアルバムの面白いアクセントの曲。
M11."Floytelat/The Flute"優しさから広がる世界へ、M12."Floytelat/The Flute" 賛美歌の世界か、未来への希望と展開が感じられる。
相変わらず、グスタフセンの世界は、繊細で音空間が微妙なずれも許さずモチーフを忍耐強く発展させてゆく様は見事。リリカルにして抒情的な世界が時に瞑想性も描きつつ展開する。どこか精神性の追求感が感じられるのは、オスロ大学での心理学や宗教学を学んだ世界感であろうか。
このアルバムでも相変わらず彼のピアノのタッチそしてメロディーの流れは美しく迫ってくる。今回はベーシストの交代があったが、ヴェスペスタッドの手慣れたドラムスとの関係も含めて、自らの特徴も見せながらグスタフセンの世界を十二分に描いてくれた。
又、エンジニアのステファノ・アメリオは、グスタフセンのピアノの弱音をも生かすためか、ドラムスを後方に置き、広く広がる響きを持たせる手法を取って立体性を考えた世界を構築して、曲のイメージを高めたミックス・マスターリングを行っている。こうした曲の描くところの世界を考えての録音が聴けるのも素晴らしい。そんなところは、今や、CDから聴かれる音楽は、ミュージシャンとエンジニアの総合芸術の色が益々濃いですね。
(評価)
□ 曲・演奏 90/100
□ 録音 90/100
(視聴)
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コメント
CD到着が楽しみです。
投稿: 爵士 | 2022年4月25日 (月) 17時37分
こんにちは
このトリオも手持ちで4枚目になりましたが、もう少し早く1年間隔位で発売してもらいたいのです。
まあ、今回も素晴らしい演奏であまり文句も言えませんが・・・
中々、ピアノトリオは卒業出来そうにないです。
投稿: ランス | 2022年4月25日 (月) 18時00分
爵士さん
こんにちわ
昨年秋のMarcin Wasilewskiから、今年のAlessandro Galati、Giovanni Mirabassi そしてHelge Lien 、今度のTord Gustavsen と期待がズラーっと出てしまいましたので、ちょっとこの後寂しくなりますので、ゆっくりお待ちいただいた方が良いかも・・・ですね。^^
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年4月25日 (月) 18時01分
ランスさん
こんにちわ
ノルウェーも素晴らしい、イタリアも素晴らしい・・ユーロ・ピアノ・トリオはほんとに奥深く私は感動しています。
とは言っても、一年でのニュー・アルバム・リリースは厳しいでしょうね(笑い)。彼らの意欲と閃きと諸々の条件がそろってくるには、2-3年は必要なんでしょうと・・・。ライブものが好録音でリリースされるといいですね。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年4月25日 (月) 18時10分
風呂井戸さん,こんばんは。
私も"Changing Places"以来,Tord Gustavsenにはまったクチですが,この人は期待を裏切りませんね。
哲学的,瞑想性というのは全くおっしゃる通りで,この響きを聞いていると,ついつい柄にもなく(笑)思索の森へ入り込みたくなるってところです。そういう音楽だと思います。
ということで,当方記事のURLを貼り付けさせて頂きます。
https://music-music.cocolog-wbs.com/blog/2022/04/post-d03e09.html
投稿: 中年音楽狂 | 2022年4月28日 (木) 18時32分
中年音楽狂さん
こんにちわ、コメント有難うございます
深淵で、哲学的で・・・ほんとに聴いていると思索的深みに入ってゆきますね。
ノルウェーの一押しの貴重なピアニストと思っています。
一時、ピアノトリオをベーシストHarald Johnsenの死から封印していたように思いますが、前作から復帰してほっとしています。益々期待が深まりますね。
リンクも有難うございました。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年4月30日 (土) 15時02分