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2022年5月29日 (日)

エンリコ・ピエラヌンツィ Enrico Pieranunzi 「SOMETHING TOMORROW」

朗々とした優雅な世界とトリオの楽しさのアルバム

<Jazz>

Enrico Pieranunzi EUROSTARS TRIO 「SOMETHING TOMORROW」
Storyille Records / e-onkyo Flac 96kHz/24bit(Hi-Res) / 2022

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Enrico Pieranunzi (piano)
Thomas Fonnesbæk (bass)
André Ceccarelli (drums)

Recorded on September 5 & 6 by Thomas Vang at Village Recording, Copenhagen 2021

  いまやベテランそのもののイタリア・ピアニストのエンリコ・ピエラヌンッィのニュー・ピアノ・トリオ作品。今回はEUROSTARS TRIOと名付けて巨匠アンドレ・チェッカレリ(drums  フランス 下左)、気鋭トマス・フォネスベック(bass デンマーク 下右)とヨーロッパのジャス界では評価の高いミュージシャンと組んだところが注目される。

Epcasadeljazz2016w   私にとっては、かってのピエラヌンツィのアルバムには、素晴らしい魅力があって・・・彼の1970年ごろからの100を超えるアルバムの中でも、丁度約20年前の2000年前後が最も感動のアルバムに恵まれたときでもあったように思われる(ここでも何度も取り上げたが)。もう昔話になってしまうが、夜になってはそのアルバムを聴くことによって哀愁抒情性の美学により癒しの世界に導かれ、一日の疲労が休まるといった生活をしてきたことが懐かしい。

 しかし、近年は多作で、各種レーベルから毎年いろいろな企画でアルバム・リリースが続いていており(ビル・エヴァンスのトリビュートとか、トランペットとのデュオ、ヴォーカル入りのクインテットなど)、それはサポート役のアルバムであたり、一方バッハ、ヘンデル、スカルラッティとかドビュッシー、ガーシュウィンの曲にも挑戦していたりで、私の彼に期待するものとは少々違ってきていた。演奏の姿も抒情性あるピアノの美旋律の世界から、メンバーとのインタープレイ、インプロヴィゼーションの交錯などのジャズとしての面白みとその成すテクニックの美学などに重きが移り、ミュージシャンの目指すところの姿にも変化を感ずるところもあったように思う。その結果、意外にもかっては考えられない私にとってはとっつきにくいというか、評価は高いが、難解であったり、感動の少ないアルバムもちらほら出現したりと、いろいろと無条件に大歓迎とゆかないところが続いていたのであるだが・・・、今回2019年の『NEW VISIONS』以来だろうか、純粋なるピアノ・トリオとしてアルバムのリリースで、さてどんなところにあるのかと、むしろそんなことに興味を持ちながら聴いているのである。今回も出来るだけピアノの澄んだ音に期待して、E-Onkyoからのハイレゾ音源(Flac 96KHz/24bit)としてダウンロードして手に入れている。

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(Tracklist)

1.Those Days 04:52
2.Perspectives 04:27
3.Wave Of Interest 03:44
4.The Heart Of A Child 04:58
5.Something Tomorrow 03:17
6.What Once Was 04:49
7.Three Notes 03:59
8.Suspension Points 04:20
9.Je Ne Sais Quoi 05:33
10.This Is New 04:50

 さて、結論的なところを先に書こう、「ヨーロッパのロマンが溢れる耽美なピアノトリオ作品」「ヨーロッパのジャズ界で絶頂期にある3人のスターを組み合わせたトリオで、類まれなる個性が出会うことで滅多に見られないドラマチックなアルバム」という紹介文をみるのだが、そうかなぁー-?と思いつつ、まあこんなところに落ち着いたのかと言うところにある。つまりかってのエンリコ・ピエラヌンツィの哀愁感ある抒情性の世界とはやっぱり別物であって、そんなところを求めてはいけないのかもしれない。

 冒頭のM1."Those Days"を聴いて、おおこのアルバムは手に入れた価値はあるぞと感じたのは、そこにはゆったりとした静かなピアノのスタートでちょっと哀愁感が伝わってくるのだが、ベース、ドラムスのリズム隊が加わると一転してムードは朗らかに優雅な世界となる。つまりどこか過去の郷愁を感じつつの美しい人間愛に満ちた世界なのである。
 M2."Perspectives"となると、リズム・アップして私は"眺望"と訳したい世界に。3者の競合が聴きどころ。
 M3."Wave Of Interest "も同様にハイテンポで同様だ。結構ベースの展開が前に出てくる。
 M4."The Heart Of A Child"再びスローに・・ピアノの旋律が優美な世界に誘導。やはり続けて奏でるベースの旋律演奏とともに郷愁感に浸る。
 タイトル曲のM5."Something Tomorrow "、そしてM7."Three Notes "は、トリオのハイテンポ演奏で、演奏技術を聴けばよいのか、それほどスリリングでも無く私的ににはあまり意味を持たなかった。
 M6."What Once Was"これもスローな曲で、ベースのソロに近い演奏とそれを受けて盛り上がるピアノの旋律との流れが美しく優美。
 M8."Suspension Points" 浮遊感を描いているのか、どうも感動というところの曲ではない。
 M9."Je Ne Sais Quoi" よりどころが掴めず難解。
 M10."This Is New " 流麗なピアノとトリオの軽快な演奏で幕。

 私にとっては、トリオの思惑や、ピエラヌンツィを愛する人達とはずれているかもしれないが、注目点は4曲のスロー曲にあった。それは深刻さとか、哀愁とか、哲学的といったやや暗部の匂いのするものでなく、極めて朗々として優雅なのである。
 一方評価するものが言うところの「ベーシストのトーマス・フォンネスベックのテクニック(巧妙さと調和)との対応と、ドラマーのアンドレ・チェッカレッリの繊細なタッチのよく協和する音に対しての"演奏を楽しんだエンリコ・ピエラヌンツィの姿"のアルバム」であったのかもしれない。やっぱり20年前の哀愁のある抒情性の世界とは別物ですね。

(評価)
曲・演奏   85/100
録音     85/100

(試聴)

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コメント

前記事の演奏は、少し物足りなく思われたのでした。

こちらの演奏家は、ご紹介の経緯を持っているわけですね。
音数も適度で、聴きやすかったです。
いかにも仕掛けの無いような演奏ですが、背景的に、そうでもないのでしょうね。
とにかく、知らないものばかりと出会いがあるので、楽しんで記事を読ませて頂いています。

投稿: iwamoto | 2022年5月29日 (日) 10時39分

 エンリコ・ピエラヌンツィは、今やイタリアのピアノ・ジャズでは大御所ですね。
 ユーロ・ジャズにどっぷりの皆さんは、彼なしには語れないと思っているのではないでしょうか。
 私の惚れ込んだのは2000年前後の10年間のあたりが中心ですが・・・これからの彼の動向は、やっぱり期待してしまいますね。

投稿: photofloyd | 2022年5月29日 (日) 23時38分

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