メロディ・ガルドー Melody Gardot & Philippe Powell 「Entre eux deux」
深い詩と堅実なメロディーへのデュオでの挑戦
<Jazz>
Melody Gardot & Philippe Powell 「Entre eux deux」
universal music / JPN / UCCM-1268 / 2022
Melody Gardot(vo)
Philippe Powell(piano, vo)
私の期待のメロディ・ガルドーのニュー・アルバム、今回は今までの中では最も異色と言っていい作品。彼女は歌手・作曲家そしてギター、ピアノを演ずるが、ここではヴォーカルに専念して、かって私が入れ込んだブラジル音楽を代表するギタリスト/作曲家バーデン・パウエル、その息子のフィリップ・バーデン・パウエルのピアノとのデュオ作品だ。
とにかく彼女の言葉からも「深い詩と堅実なメロディーという、同じものを愛し、評価する2人の間のダンスのようなものです。「Entre eux deux」(私たち二人の間)というタイトルは真実です。お互いを本当に掘り下げ合う2人のアーティストの世界がここに広がっている。聴くあなたも本当にそれを掘り起こすことを願っています(メロディ・ガルドー)」という事で、それに対してのフィリップの言葉は「ピアニストや作曲家が夢見る最も素晴らしい贈り物のようなもの。現代の偉大なアーティストの1人とデュオで作曲し演奏することは、私がこれまで経験した中で最も素晴らしい音楽体験でした。彼女(ガルドー)の愛、信頼、指導、私の中のベストを引き出してくれたこと、そしてこの美しいレコードを作るためのたゆまぬ努力に対して深く感謝しています」と答えている。かなり宣伝どおりのインティメイトな作品となっている。
嬉しいことに、私はこのピアニストのフィリップ・パウエルの父親のブラジルのギタリストのバーデン・パウエルのかってはファンであったということ(かっての愛聴盤LP「TEMPO FELIZ(バーデン・パウエルの芸術)」(SFX-7299 →)は、現在も健在でターンテーブルに乗るのである。尚この名盤昨年55年ぶりにCD化で再発)と、現在はメロディ・ガルドーのファンであって、その取り合わせというのが、私から見ると普通では考えられない奇遇であって興味津々なのである(前作『Sunset in The Blue』が、その始まりか)。
全編ピアノとのデュオというアルバムは彼女にとって初の試みである。彼女の新曲を中心に、映画『男と女』でピエール・バルーが歌った「あらがえないもの」や、なんとフィリップの父バーデン・パウエルの名曲「プレリュードのサンバ」なども収録している。又彼女の詩の朗読(M.9)や、フィリップのソロピアノのインスト曲(M.6)も登場するという気合の入れようだ。
又、メロディ・ガルドーがパリを拠点としていることから、昨年12月にパリで録音されている。更にフランス語の歌詞も登場し、フランス映画の名作「男と女」がイメージされ、パリのムードも随所にみられる。
1. This foolish heart could love you
2. What of your eyes
3. Plus forte que nous あらがえないもの
4. A la Tour Eiffel
5. Fleurs de Dimanche
6. Samba em preludio プレリュードのサンバ
7. Perhaps you’ll wonder why
8. Recitativo
9. Ode to every man
10. Darling fare thee well
このアルバムは、この二人が心から音楽(ジャズ)を愛し、そしてそれを極めようとしている姿がひしひしと伝わってくる。もともと二人とも作詞作曲に熱意があり、自己のアルバムにもそれを挿入し、そのアルバムの何たるかを訴えてきているところからも、その道を常に真摯に歩んでいるところが素晴らしい。
今作も冒頭のM1."This foolish heart could love you"フィリップの曲にガルドーが詩をつけており、このアルバムでは共作が5曲に上る。フィリッブも女性ヴォーカルのサポート・ピアノとしての存在でなく、自己のアルバムとしてもガルドーのヴォーカルを有効に掴もうとしていることが良く解る。このバラード曲でその点ははっきり見える。彼女もガルドー節が満開であり、説得力たっぷりに迫ってくるし、ピアノも一つの世界を描こうと演ずる。
M2."What of your eyes"は彼女の曲だが、このアルバムの世界をしっとりと主張する。どこかパリ・ムードが感じられるところが彼女の最近の拠り所を描いている。そこにM3." Plus forte que nous あらがえないもの"は、懐かしの映画「男と女」が登場してフランス語の歌声が響き、フィリップの歌も登場し大人の愛の物語が浮かび上がる。
M4."A la Tour Eiffel" こうしてエッフェル塔も登場して、パリの物語とジャズの結合が面白い。
M5." Fleurs de Dimanche" これは曲も歌詞も完全に共作で、彼女の囁くごとくのフランス語ヴォーカルがしっとり訴えてくるも、もう昔見たフランス映画のムードが満開だ。
M6."Samba em preludio "は、フィリップの父バーデン・パウエルの曲。ガルドーとのデュエットは、ここまでしっとりと仕上げたところは、相当の心を寄せたことが解る。
M7."Perhaps you’ll wonder why" ここにきて英語歌詞となり、彼女がこのアルバムでは、しっとりとしながらも最も歌い上げる曲。情感が伝わってくる。
M8."Recitativo"は、フィリップのピアノのみのソロ・インスト曲だ。彼のこのアルバムへの意欲の証、美しいピアノ旋律が響く。
M9."Ode to every man" 余韻を残すピアノの音に、彼女の世界に引っ張り込まれるポエトリー・リーディングだ。
M10."Darling fare thee well" ガルドーの作詞作曲、このアルバムの締めにふさわしい人間愛の表現だ。
いっやー-、ほんとに心憎いアルバムを造ってくれたものだ。久々の人間への愛と音楽への愛が相乗効果してしっとりと迫ってくる。こんなにフィリップ・パウエルとをもって成し遂げるとは、彼女自身が当初から描いていたのであろうか、お互いが演ずる中で相乗効果で思いがけないところまで広がっていったというのが偽らざるところではないのか。彼女の社会における人間としての存在に対しての思い入れの深さがアルバム『CURRENCY of MAN ~出会いの記憶~』(2015...あれから7年にもなるんですね)で爆発して以来、次第に深く広いところに進行していることが伺えた最新アルバムであった。芸術的評価も十分感じ取れた作品だ。
(評価)
□ 曲・演奏・歌 90/100
□ 録音 88/100
(試聴)
"This foolish heart could love you"
*
"Perhaps you’ll wonder why"
*
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コメント
ガルド―への評価、私の中でもまた一段上がりました。どこまで成長していくんでしょうか。
投稿: 爵士 | 2022年5月29日 (日) 22時40分
爵士さん
こんばんわ、コメント有難うございます
彼女のミュージック・センスは抜群ですね(歌もうまいし)・・・、フィッリップ・パウエルも彼女に自分の中のものを、引き出してくれたと、かなり満足の行ったアルバムづくり(作曲演奏)であったと言ってますが、おそらくこれは実感なんでしょうね。
いいアルバムでした。
投稿: photofloyd | 2022年5月29日 (日) 23時33分