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2022年6月 8日 (水)

ディミトリ・ナイデッチ Dimitri Naiditch trio 「Ah! Vous Dirai - je...MOZART」

クラシックをジャズで・・・を、更に発展させて

<Jazz>

Dimitri Naiditch trio 「Ah! Vous Dirai - je...MOZART」
DINAI RECORDS / IMPORT / DR232526 / 2021

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Dimitri Naiditch (p)
Gilles Naturel (b)
Arthur Alard (ds)

 私に五十数年前に、ジャズに興味を持たせてくれたのは、あのフランスの粋なセンスから生まれたジャック・ルーシェの「プレイ・バッハ」シリーズでした。そしてロックの特にプログレッシブ・ロックと並行し、又クラシック音楽と並行して聴いてくることになった。それと同時にキース・ジャレットのピアノ・トリオ演奏にも惚れ込んで、その後はピアノ・トリオ・ファンとして存在しているんですが、近年はバッハはじめ多くのクラシックに対して、ジャズで挑戦しているミュージシャンも多い。そもそも特にピアノ・ジャズ演者は、クラシックからジャズの両方で活躍する者も多いのだ。

Dimitrin1w  今日取り上げるこの今や大変な状況にあるウクライナ、その出身であるディミトリ・ナイジッチ(→)も、私は"バッハをジャズで"のパターンのアルバム『BACH(K)UP』(=下に記すので参照) にて知ることになったのだが、これがなかなかのもので、ジャク・ルーシェ時代から発展しての現代的ジャズを演じており、非常に好感が持てた。そんなことから続いてのこのモーツァルトを取り上げたアルバムに至ることになるのだが、これが更に発展してのパターンを示し、"モーツァルトをジャズで"といったスタイルから、"モーツァルトの曲にインスパイヤーされての自己のジャズを展開する"といったところに至っているのである。したがってモーツァルトを聴こうと思うと、一発パンチをくらうことになる。しかし思うに、そこがまた聴きどころであって、十分楽しめるし、彼の実力を知らしめられることになるのだ。

(Tracklist)
1.Fantaisie 40 (Inspired by the 40th Symphony K550)
2.Bossanota (Inspired by Piano Sonata in C Major K545)
3.Romance (Inspired by the 2nd Movement of Piano Concerto no 20 in D Minor K466)
4.Adagio (Inspired by the 2nd Movement of Piano Concerto no23 in A Major K488)
5.Ah, vous dirai-je... Mozart (Variation on Twinkle Twinkle Little Star)
6.Jazzante (Inspired by the 2nd Piano Concerto no 21 in D Major)
7.Mozart dans les etoiles (Inspired by Ave Verum Corpus)
8.Fantasia in D minor K397 extract
9.Jazz-Fantaisie (Inspired by Fantasia in D Minor K397)
10.La Ci Darem La Mano (Inspired by Don Giovanni,k527)

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 モーツァルトの名曲をモチーフに、ディミトリ・ナイディッチがリーダー(ピアノ)での曲展開、ジル・ナチュレル(ベース)、アーサー・アラード(ドラムス)が伴奏で、完全ピアノ主導型のトリオだが、これは前作『BUCH(K)UP』と同じメンバー・トリオ。

 "inspired by ...."ということが注目点で、モーツァルトの曲を入念に編曲し自由な即興演奏を展開し原曲の流れにとらわれず、むしろ自己のジャズ曲としての演奏だ。これはモーツァルトをジャズで聴くといのでなく、彼のモーツァルトから受けたイメージから、彼の曲に発展しているもので、モーツァルトを新感覚で聴こうと思ってはいけない。ディミトリのカリスマ性とインスピレーション溢れる驚異的な即興演奏は、完全に彼がクラシックから養われた感覚をもってオリジナル・ジャズを演じているのである。しかし、その展開は見事と言わざるを得ないレベルにある。
 又当然ベース、ドラムスもそれを知っての即興展開を独自のものをしっかりもって参入していて、ピアノ・トリオとして完成している。

 ディミトリDimitri Naiditchは、17歳でピアニスト・パフォーマーを卒業。ビリニュス国立ピアノコンクール(リトアニア)、カリス国際コンクール(ポーランド)で優勝し、チャイコフスキー高等音楽院で4つの最優秀賞(通訳、室内楽、教授職、伴奏)を受賞しているとか。彼はコンサートを多く展開し、ジャズにも情熱を注ぎ、いくつかのジャズコンクールの受賞者にもなった。近年、「白鳥の湖」のジャズバージョンをも演じたようだ。そして一方クロード・ルルーシュの映画「Chacun sa Vie」のサウンドトラックをも作曲している。
 クラシック音楽とジャズのフェスティバル、Les Mélomanies d'Annonayの方向性を、"音楽スタイルの開放性と脱区画化"の原則に基づいて形成しているようだ。

 このアルバムも、私の感覚では「クラシック演奏」から、「そのジャズ化演奏」、そして更に「現代的ジャズに進化させたもの」のステップアップが聴かれ、かってのジャック・ルーシェから芽生えたものを、現代ジャズの発展への領域に独自の幻想の世界から描く姿が見られて価値ある楽しさを教えてくれている。

(評価)
□ 曲・演奏 90/100
□ 録音   88/100

    ― ― ― ― ― ― ― ―

(参考)

<Jazz>

DIMITRI NAIDITCH Trio「BACH(K) UP」
DINAI RECORDS / France / DR2138 (AD5792C ) / 2019


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Dimitri Naiditch (p)
Gilles Naturel (b)
Arthur Alard (ds)

 クラシックとジャズ両ジャンルの世界で活躍しているピアニスト、ディミトリ・ナイディッチがピアノトリオで、J・S・バッハの楽曲を、多くのジャズ・ミュージシャンが試みている中での、彼の独自の解釈し即興も交えての見事な作品。歴史的にはジャック・ルーシェの洒落たセンスによるものからこの道は始まったのであるが、50年経ったここでは彼なりきのクラシックからのジャズ化のインスピレーションを生かしたセンスでの現代化が見事で素晴らしい。私はこのアルバムの素晴らしさから上記のアルバム『Ah! Vous Dirai - je...MOZART』に至った経過をたどったのである。

(Tracklist)

1 Prélude N 1,
2 Concerto pour violon
3 Adagio
4 Musette
5 Fugue N 2
6 Prélude N 2
7 Air
8 Badinerie
9 Prélude en Si mineur
10 Improvisation sur le thème B.A.C.H

(評価)
□ 編曲・演奏  88/100
□ 録音     88/100

(視聴)
「Ah! Vous Dirai - je...MOZART」

*
「Bach UP」

 

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コメント

なんと申して良いのやら、といったところです、わたくしには。
大好きなアダージョを、こんなにしちゃって(笑)
聞いていて、跳ねないでね、と思うのです。
これがピアノソロなら、もっと聞けそうに感じます。
ハイレベルな解釈だし、演奏であると理解できますが。

ところで、バッハの方が自然に感じるのですが、何かご意見ありますか。

ウッドベースが入ると、個人的に違和感が増す気がしました。
撥弦すると、出ない音がありますよね。 擦弦なら良いのですが。

面白いものですね。 とにかくこの手のものは聞くことがなかったので、追いかけるのが精一杯です。

ジャック・ルーシェは聞きにくいのですが、デオダートのザラトゥストラは聞けます。

投稿: iwamoto | 2022年6月 8日 (水) 10時04分

iwamoto様
コメント有り難うございます
Morzartはお気に入りなんですね。私は1980年代には、内田光子でよくいろいろなPiano Concertoを聴きましたが、このNo23Kv488のAdagioは良いですよね。
 おっしゃるようにジャズ化は、彼の前作のBachよりは、このMozartの方が一歩又進んでます。従ってBachのアルバムの方が、"バッハをジャズ"でという感覚になりますが、Mpzartの方は、むしろ"彼のジャズ世界"ですね。"inspired"というのはその点の事ですね(原曲にこだわらずに即興を重んじて)。その気で聴くと面白さが倍増します。
 私がジャズに興味を持ったのは、原曲へのこだわりは人によって違いますが、自分の世界を演ずるところにもありました。私のジャズの歴史と重なって、今もこうした世界には興味があるのです。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年6月 8日 (水) 13時27分

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