ビル・エヴァンス Bill Evans Trio 「You Must Believe In Spring 」
名盤の2022年新リマスターでの良音質盤で納得
<Jazz>
Bill Evans Trio「You Must Believe In Spring 」
e-onkyo, Hi-Res MQA 192kHz/24bit / 2022
( CD:Concord / IMPORT / 7243691 / 2022 )
Bill Evans - piano
Eddie Gomez - bass
Eliot Zigmund - drums
■ オリジナル盤の話
1977年8月録音でビル・エヴァンス没後1981年にリリースされた70枚目のスタジオ・アルバムという名盤『You Must Believe In Spring』が、リリース40年を迎えてここにリマスターCD盤で蘇ったもの(180g重量盤2LPもリリース)。この2022年のリマスター音質の改善にはかなりの技術を投入されたようだ。エディ・ゴメス(Bass, Evans Trio 1966-1977、下中央)、エリオット・ジグムンド(Drums, Evans Trio 1975-1978、下右)との最後のレコーディングとなった1977年8月録音で『I Will Say Goodbye』の直後に録音されているのだが、発表されたのは、エヴァンス没後だった。元妻のエレイン夫人を亡くし、翌年実兄のハリー・エヴァンスも自殺で亡くした後のアルバムで、表面的には、そのショックが音に表れた、感傷的すぎる作品ということで、没後まで未発表だったのだ。しかし私にとっては過去において多くのエヴァンスものの中でも3本の指に入る名盤、従って当然無視はできない。
■ リマスター盤について
もともとこのオリジナル・アルバムは、重要な要素としての録音が、名匠レコーディングエンジニアのアル・シュミットAl Schmitt(1930-2021)の手により、トリオ三者の適切なバランスとミキシングがあったことだ。一般的にエヴァンスものは、ピアノが表に出ていてリズム隊は影になっているのが多いが、ここでは明快に三者がしっかり聴き取れ、三者のパフォーマンスを記録されていたことだ。従って、現代風リマスターに非常に有利であったことも指摘できる。
そしてこのアルバムのCD、ハイレゾ音源、SACDの音源は、Plangent Processes Playback Systemを使用してオリジナルテープから転送され、グラミー賞受賞エンジニアのPaul Blakemoreによって新たにリマスターされたものとのことだ。
エヴァンスものの中でも、このリマスター盤の音質はかなり良好との評判があり、そこでe-onkyoからHi-Res(192kHz/24bit)もので仕入れることとした。尚、このアルバムには3曲のボーナストラックも収録されていてなかなか豪華版。
(Tracklist)
1. B Minor Walz (for Ellaine) 3:12
2. You Must Believe In Spring 5:37
3. Gary’s Theme 4:15
4. We Will Meet Again (For Harry) 3:59
5. The Peacocks 6:00
6. Sometime Ago 4:52
7. Theme from M*A*S*H* (aka Suicide Is Painless) 5:53
8. Without A Song 8:06 (Bonus Track)
9. Freddie Freeloader 7:34 (Bonus Track)
10. All Of You 8:10 (Bonus Track)
なにせ数えきれないほどのエヴァンスのアルバムは存在しているのだが、しかし残念ながら名演にしても音質が今となってはかなり落ちるものが多く、満足な鑑賞に値しない場合が多い。その為私は意外にも新発掘版といえども、エヴァンスものは若干敬遠していたところもあったが、成程、このアルバムはまず聴いて喜んだのは、ここまでの良質な音質の改善があれば、何につけても万歳である。特にピアノの音はクリアで中・高音は伸びも良く、シンバル音も生きてきた。しいて言えばベース等の低音部がもう少しパワーがあって重量感があると申しぶんないと思ったところではある。
ここに収録されているアルバムタイトル曲M2."You Must Believe In Spring"は、晩年のエヴァンスの"I Will Say Goodbye"と双璧をなす傑作であるだけに、貴重である。
まずオープニングの彼のオリジナル曲M1."B Minor Waltz (For Ellaine)"は、元夫人を亡くした悲しみを演じたのであろうが、その悲しみが美しさに転じて演じられたところは言葉に表せないほど訴えてくる。
M2."You Must Believe in Spring" ミッシェル・ルグランの作曲。「春が来ることを信じなければならない」というところだろうか。ピアノの導入から主旋律を聴かせた後、ベース・ソロが曲に変化を持たせて見事だ。哀愁感を支えるドラムスも味わいをサポート。エヴァンス流即興も暗くならずにいい塩梅に響く。
M3." Gary’s Theme" ここではピアノの流れで通した曲。特に高音が綺麗に心に響く優しさだ。
M4."We Will Meet Again (For Harry) " 兄に捧げたエヴァンスのオリジナル曲。これは兄に聴かされた曲のその歌詞がタイトルとなっていると。短めではあるが、厳粛な中にトリオのかみ合わせが聴きどころ。
M5."The Peacocks" ここにきて、やはりふと悲しみが湧いてきたというリリカルな曲。ピアノの高音の流れを支えるベース、ドラムスは見守るようなサポート。トリオの良さがにじみ出ている。
M6."Sometime Ago" 曲名が微妙だが、やはり回顧でしょうね。ベースソロが如何にも悲しい。ピアノが明るく演じようとするが、その分、むしろ哀しさが感ずる。
M7."Theme from M*A*S*H* (aka Suicide Is Painless) " アルバム締めくくりの曲。映画の主題曲のカヴァーだが、エヴァンスのピアノには展望すら感じて、このアルバムは"悲しみのもの"として、かってはリリースをおさえたいう事が不思議なくらいの未来への意思が感じられる。ドラムスも本領発揮でトリオの良さが聴ける。
こうしてこのアルバムは、M1.-M.7までの7曲で出来上がっていて、哀感と美に包まれながら納得の世界に納まる名盤そのもののアルバムだ。残るボーナス3曲は全くの別物で、一緒に聴かない方がいい。マイルスやコールポーターの曲カヴァーで別のエヴァンスを味わい深く聴ける。従って私はこのHi-Res(MQA)データを1-7曲を一枚のCDに、そして8-10曲を別のCDに焼いて再生している。
(評価)
□ 曲・演奏 92/100
□ リマスターHi-Res音質 88/100
(視聴)
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コメント
jazzの弱点のひとつに、アルバムの構成というものがあると思いませんか。
それぞれの演奏に意味があって、それらを記録したものだから?
それらを適当な時間分に纏めている。
A面に針を落とし、B面から上げるときに感じる、一話の満足が得難いです。
もちろん、それが絶えず必要なものではないですが。
このアルバムは、既存の実績があり、それに乗っかるものですね。
マニアの人たちのコレクション。
有り難くもあり、お節介でもあるような。
収集家には大事なものだと思います。
わたしは、LPのものはそのままでも良いかな、くらいの立場です。
音楽が多様であるように、聞き方の多様であるべきでしょうから。
そういうと、不真面目に聞こえるかもしれませんね。
極論すると、他人が出す音は二の次なんです。
自分が出す音が一番大事なので。 演奏家というわけではありませんが(笑)
投稿: iwamoto | 2022年6月18日 (土) 12時24分
iwamoto様
コメントいつもどうも有り難うございます。張り合いです。^^
ジャズにせよ、ロックにせよ・・アルバム作りというのはミュージシャンやその関係者たちは、かなりの神経を使って作り上げているのですが、その一つにアルバム・トータルとしての意味を込めていると言うことですね。かってのLPの時代は、全体でなくとも、少なくともA面、B面それそれにおいてはそれなりに意味を持たせる場合が多いと思います。
従って聴く方においても、そこまで想いを込めて聴くと言うことに私は意味を持っています(あまり意味の持たないものもありますし、聴く人も全く無頓着という場合もありますが、それはそれとして)。
このアルバムはエヴァンスにとっても重要なものの一つと思いますがが、彼の没後のリリースですね、しかしこの演奏は少なくとも彼の人生の重要なターニングポイト時の演奏で、このメンバーとも一つの締めくくりになった時のものです。そんな意味での人生の中の姿を私は共感して聴いているという事ですね。・・・従って、M1-7を私は一つのものとして聴いています。これは、私自身の感覚ですから、そんなことでお許しを。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年6月18日 (土) 15時41分