ピンク・フロイド Pink Floyd 「HEY HEY RISE UP」
ウクライナ支援のために・・・・
<Progressive Rock>
(CD Single) Pink Floyd 「HEY HEY RISE UP」
Sony Music Japan international / JPN / SICP6479 / 2022
Pink Floyd (David Gilmour, Nick Mason, G.Pratt, N.Sawhney)
Andriy Khlyvnyuk (Boombox)
(Tracklist)
01. Hey Hey Rise Up
02. A Great Day for Freedom 2022
ピンク・フロイドが、ウクライナの人々を支援するための新曲「HEY HEY RISE UP」が限定CDシングルで発売。収益はウクライナ人道支援募金へ寄付されるとのことだ。7インチは日本のみClear Vinyl仕様となっているらしい。 事の始まりは、ピンク・フロイドのデイヴィッド・ギルモアは、息子のチャーリーと結婚しているウクライナ人アーティストのヤニナ・ペダンから、2015年に知ったウクライナの歌手アンドリー・クリヴニュクAndriy Khlyvnyuk(ウクライナのロック・グループBoomboxのメンバー →)のインスタグラムの投稿を見せられ、ロシア・ウクライナ戦争でウクライナを支援する何かを録音するよう促された。そこで彼はニック・メイソンに連絡を取り活動を提案したことによるようだ。
ピンク・フロイドはもうここ数年間活動しておらず、ギルモア自身もはバンドが再結成しないと何度か言っていた。しかし、この戦争に対して身内の中からも訴えが出てきたことから、腰を上げたようだ(再結成と行っても相変わらずロジャー・ウォータースとの関係はない)。このインスタグラムの投稿内容は、A.クリヴニュクのウクラエル軍に所属してのウクライナ国歌をキエフのソフィア広場で、聖ソフィア大聖堂の鐘楼を背景にして歌うパフォーマンスを動画で撮影したものだった。
今回のこのCDシングルには、一曲の新曲M1. "Hey Hey Rise Up"が収録されている。そしてこの曲にはA.クリヴニュクのインスタグラムの投稿から、キーウのソフィア広場で歌う彼の声を使用。彼の歌う「ああ、草原の赤きガマズミよ(英題:Oh, The Red Viburnum In The Meadow)」が使われている。従って彼とD.ギルモアらは一緒に録音していない。この曲は第1次世界大戦中に書かれたもので、ウクライナの抗議のフォーク・ソングであって、同国がロシアから侵攻されてからウクライナの人々を鼓舞すべく世界各地で歌われてきたもの。そしてピンク・フロイドのこの曲のタイトルは、この曲の歌詞「さあ、立ち上がろう、勝利の喜びを(HEY HEY RISE UP and rejoice)」からきているものである。
この曲のアートは、キューバ人芸術家のヨサン・レオン(Yosan Leon)の描いたウクライナの国花ヒマワリの絵が使われている。
ニック・メイスンは立場上、呼ばれただけで曲の作成にどんな役割をしているかは全く不明だが、A.クリヴニュクの如何にもウクライナらしい国の曲が高らかに歌い上げられ、それを支えるべくギルモアの泣きのギターが入るパターンだ。悪くない。
D.ギルモアとA.クリヴニュクの関係というと、2015年のロンドンで行われたベラルーシ人民の支援コンサートで一緒になるはずが実らなかった事件がそもそもスタートらしい。
もともと今回のCDシングル・リリースの件は、D.ギルモアの身内にたまたまウクライナ人がいて、ウクライナ支援という戦争に対しての反応のようであるが、不思議に思うのは、かって彼はピンク・フロイドの「創造的才能」と言われるR.ウォーターズの反戦運動、そして戦争に導かれる社会的・政治的問題、それらに対するコンセプト・アルバム作成には、D.ギルモア自身は"ミュージック至上主義"で、そのような曲作りや演奏にはリック・ライトと共に反対してきた経過があるが、今にしてこうした反応は、いかなるものかと疑問が湧いてくる。
ウクライナ支援は決して悪いこととは思わないが、そこにある根本的な民族的、社会的問題に相対してゆかねばどこか形だけのものに見えてきてしまう。R.ウォーターズがアルバム『ANIMALS』から『THE WALL』、『THE FINAL CUT』で訴えてきた事、そして彼はバンド内での協力が得られなくなり孤立し脱退することになった。そしてそれ以後のギルモア主導のピンク・フロイドとは何であったのかと、今更にして疑問も残る事ではある。最後のアルバム『The Endless River』で終わっていた方がD.ギルモアらしかったと言えるような気がする。
又D.ギルモアは「R.ライトが死亡してのピンク・フロイドはあり得ない」と、ピンク・フロイドを終わらせた。しかし、今回このシングルをリリースしたことに関しては、かってのライトのいたころの曲をつけて辻褄(つじつま)を合わせている。そして更に今回発売にようやく至ったアルバム『ANIMALS』リマスター版に対しても、その時代の背景、政策に至る経過のライナー・ノーツをつけるのを反対したりと、R.ウォーターズにしてみれば納得できないことなんだろうとも想像できる。
R.ウォーターズは、D.ギルモアは結構お人好しなんだと言い、アルバム『The Final Cut』制作においても彼一人協力してくれたと感謝している。そしてR.ウォーターズの過去の大々的なライブにも顔出し出演を誘ってきた。しかし人間関係はそれを取り巻く人々によってゆがめられて行ってしまう事も多い。今のピンク・フロイド・サイドは商業的営利主義が旺盛で(特にギルモアの作品の歌詞を殆ど書いている出版業界から始まった商業感覚の旺盛な米国人の女房のポリー・サムソンPolly Samsonの影響が大きいようだ)、そんなことで、R.ウォーターズの反発も大きい。そしてその波に乗らざるを得なくなっているD.ギルモアも、被害者なのかもしれない。R.ウォーターズがかって曲"Welcome To The Machine"で訴えた現実がここにもあるようだ。
(評価)
□ 曲・演奏 88/100
□ 録音 85/100
(視聴)
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コメント
なんと言いますか、難しいのですが、夫婦喧嘩のようにも見えて、あまり関わりたくないです。
W氏も、G氏も、個人ではないのでしょうね、会社対会社の争いのような気がします。
金を稼げる人にはいろいろなものが近づいて蝕んでゆくものでしょう。
人は成りたい形に成れるわけでもなく、そこかしこに心を残しつつ歳を取り、死んでゆくと思います。
投稿: iwamoto | 2022年8月 6日 (土) 11時53分
若き頃、志を一(いつ)にして頑張った仲間でも・・次第にその関係が崩れてゆく。人生の寂しさですね・・
これらは、それぞれが家庭を持ち、そして社会的にも自分の世界が出来てきて、そこに人間関係・社会的関係も絡んでくるわけで。いい年の男がいつまでもべったりというのもこれ又ちょっといただけないですが、最低限、仲間が信頼できることが宝なのかも。
又、ミュージシャンや芸術家などもそれぞれの世界が出来てゆくのも自然であるし、そこに相手を尊敬して受け入れる関係がいいのでは・・・と。
投稿: photofloyd | 2022年8月 6日 (土) 22時18分
ギルモアの矛盾、ロジャーの正義…、歴史が長くなれば思考も環境も変わるので何が、とは言い切れないですが、ロジャーの芯はやはり強かった。
それでもこの曲をこうして世に出したギルモアの英断?は音の素晴らしさを実感させてくれます。単純に、素晴らしい音と聞けるから悩ましい(笑)。
投稿: フレ | 2022年8月10日 (水) 22時12分
フレさん
コメントどうも有難うございます
現在まさにツアー中のロジャー・ウォーターズは、そのライブで、ピンク・フロイドを愛する者と、彼(ウォーターズ)の政治的行動について言及していますが、常に自己分析をしての発言には中身がありますね。
ピンク・フロイドにはギルモアのギターも重要ですから、ギルモアは無理にウォーターズ主導のピンク・フロイド時代の政治色を付けようとするとむしろ逆に虚しさが顔を出しますので、純粋にギターを大切に曲を作り演じてゆくのがベターと思ってみています。ウォーターズもその方が喜んでいるでしょう。
投稿: photofloyd | 2022年8月11日 (木) 09時58分