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2022年9月26日 (月)

山本剛 TSUYOSHI YAMAMOTO TRIO 「BLUES FOR K」

懐かしの神成芳彦の録音での再会セッション

<Jazz>

TSUYOSHI YAMAMOTO TRIO meet Yoshihiko Kannari
「BLUES FOR K」

SOMETHIN'COOL /    /  SCOL-1062 / 2022

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山本剛(ピアノ)
香川裕史(ベース)
大隅寿男(ドラムス)

エンジニア:神成芳彦 那須・スタジオ雷庵にて2022年録音

81xq4mk8kbl_ac_slw  ジャス・ピアニスト山本剛(1948年生)が若き頃1970年代、当時ジャズ・ファン、ジャズ・オーディオ・ファンに圧倒的な支持を得たThree blind mice(TBM)レーベルからのトリオにてリリースしたアルバム『MIDNIGHT SUGAR』(初リーダー・アルバム:TBM-23/1974)(→)、『MISTY』(TBM-30/1974)は話題騒然の代物であった。好演奏はもちろんだが、その音質の素晴らしさも大きかった。その録音エンジニアはこのレーベルの看板として愛されたジャズ・サウンド革命児神成芳彦(1943年生)であった。現在もこれらのアルバムはCD化され音質も現代に引けを取らず人気である。 そしてこのアルバムは山本剛トリオの新プロジェクト、神成芳彦とのリユニオンセッションである。そして神成の那須にあるプライベートスタジオ「スタジオ雷庵」にての録音という涙物の企画がなされたのである。

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(Tracklist)
1. You Go to My Head
2. Blues in The Closet
3. The Breeze and I
4. Darn That Dream
5. But Not for Me
6. I'm Glad There is You
7. Gentle Blues
8. I'm Getting Sentimental Over You
9. Love Theme from SUNFLOWER
10. Blues for K
11. Misty (Bonus Track)
12. Midnight Sugar (Bonus Track)

 Bonus Track になんと50年前の記憶を呼び起こす"Midnight Sugar"、"Misty"の2曲が演じられていて、昔のアルバムと聴き比べてほしいと言っているのかもしれない。とにかく今年6月に「スタジオ雷庵」に集結、ドラマーは大隅寿男(1944年生)、ベーシストは香川裕史(1962年)だ。山本剛といえばブルースとバラードが定評あるが、大隅はスウィング、香川はビートあるドラムスに特徴を持ったレギュラー・トリオを結成している。

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 オープニングは、やはりバラードでM1."You Go to My Head"で、取り敢えず"Misty"代わりと登場するが、ムードあるピアノの音が早速登場。おおこれぞやっぱりかってのTBMの音がすぐ頭に浮かぶ。山本のピアノは昔よりはメロディーに素直になっているとはいえ、やっぱり彼の世界が見える。相変わらずの神成はやっぱりこの音に人生をかけてきたのだなぁーーと78歳の彼の人生が浮き彫りになる。
 そして一転してアップテンポのブルースM2." Blues in The Closet"が現れ、その後は懐かしのM3." The Breeze and I"へとスウィングして移ってゆく。昔のジャズ・クラブのムードはしっかり演じてくれている。
 こんな調子で、ジャズの哀感と快感を織り交ぜて楽しませてくれるアルバムを、あのピアノのみならずベース、ドラムを生かしての神成サウンドが作り上げてゆくのである。
 そしてM10." Blues for K"で神成へ捧げるブルースの登場で一締めとし、最後に山本が日本に知られるようになった記念の例の2曲をBonus曲として演じてこのアルバムの幕を閉じるのである。
 録音のマスタリングは、ここ10年70タイトルを超える「TBM復刻シリーズ」を、今日の世代に変遷をとげてきたジャズ愛好家の為に送り出してくれたソニー・ミュージックスタジオが手掛けて仕上げてくれている。

 こうしてここに日本の一つのジャズ歴史を作ってきた決して若くないトリオの今の演奏・録音盤が出現するというのは、先般残念にもやはり当時のTBMレーベルを支えたベーシスト鈴木勲氏の新型コロナウィルス肺炎で亡くなられた悲報の後だけに、なかなか良い企画をしてくれたと歓迎するのである。

(評価)
□ 演奏 :   88/100
□   録音 :   88/100

(試聴) 参考:山本剛トリオ

 

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2022年9月20日 (火)

ピンク・フロイド Pink Floyd  「Animals 2018 Remix」

「ライナー・ノーツ騒動」経てようやく発売・・・・
5.1サラウンド・ミックス、ステレオ・ミックスHi-Res盤 など各種

<Progressive Rock>

Pink Floyd  「Animals 2018 Remix」
①Sony Music Japan / JPN /SICP-6480
②e-onkyo /Hi-Res flac  192kHz/24bit
③Blue-ray audio : 5.1 surround

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(BLUE-RAY AUDIO)
2018 Remix - Stereo: 24-bit/192kHz Uncompressed, dts-HD MA
2018 Remix - 5.1 Surround: 24-bit/96kHz Uncompressed, dts-HD MA
1977 Original Stereo: 24-bit/192kHz Uncompressed, dts-HD MA

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(Tracklist)

1.Pigs on the Wing 翼を持った豚(Part One)
2.Dogs 犬
3.Pigs 豚(Three Different Ones)
4.Sheep 羊
5.Pigs on the Wing 翼を持った豚(Part Two)

F78645b2368a27911afd2d24cw   ピンク・フロイドの第4期スタートとなったロジャー・ウォーターズ主導で制作された1977年発売のコンセプトアルバム『Animals』の2018年リミックス盤が、なんだかんだとすったもんだしてようやくリリースされた。ジェームス・ガスリーによってオリジナルマスターテープからのリミックスだが、特に最近「Pink Floyd権」を持つD.ギルモアとその一派(敢えて一派というのは、まさしくロジャー・ウォーターズがいみじくも歌ったアルバム『炎』の曲"Welcome To The Machinようこそマシーンへ"で批判した音楽産業の営利独占主義そのものになってしまっているギルモアの女房で実業家のpolly samson主導のアメリカ流商業主義の組織である)のマーク・ブレイクMark Blake(英国ミュージック・ジャーナリスト)がこのリミックス盤の為に書いたライナー・ノーツを拒否するというみっともない独占欲の抵抗で、遅れに遅れてここに日の目を見た。・・・これに関しては既に詳しくここ記したところである(参照:"2021.7.4「Pink floyd 「Animals」(5.1Surround)」リリースか")

  これも話題になったロジャー・ウォーターズの発想でバターシー発電所に豚が飛ぶ象徴的なアートワークも、ヒプノシスの元メンバーでもあったアートデザイナー、オーブリー・パウエルによって元画(↓参照)を生かして一新、上のように現代風に衣替え(初めて見たときは、これは現代調で良いと思ったが、比較してみると1977年のオリジナル・デザインの方が、やっぱりいいですね)。ここに 発売45周年、またバンドのデビュー55周年を迎えた2022年ついにピンク・フロイドの歴史的問題作が一新リリースとなったのである。

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 この『Animals』は、人間の世界を動物に置き換えながら社会問題を痛烈に批判したコンセプトのプログレッシブ・ヘビー・ロック・アルバム。
 又この1970年代半ばは、英国において特に社会不安高まった時代だった。ロック界はプログレッシブ・ロックの波が最高潮を迎え、その結果形骸化、AOR化という流れは否定できず、それに反応してのパンクの波の襲来は、イエス、キング・クリムゾンなどの巨星をも撃沈し、当然恐竜と化したピンクロフロイドにも向かった。確かにピンク・フロイドもアルバム『炎』の内向き傾向から方向性を失いつつあった中で、この刺激こそ眠っていたロジャー・ウォーターズの眼を覚ましたのである。そして彼は自身の目論見の為にはアルバム制作にマイナスの者の締め出しも行った。これはこのバンドの頂点への一歩であったと同時に、ある意味悲劇の始まりでもある。

 とにかくこの英国社会不安は、当時労働組合と労働党政府の間での断絶、ストライキの発生、経済不安は頂点に達し、スポーツでもサッカーは衝突の場となり、街にも暴力が増えパンクとスキンヘッドの連中により扇動された不安社会が動き、一方右翼の台頭は人種問題にまで発展していた。こんな時にウォーターズの世界観が動かないはずはない。そしてピンク・フロイドは宇宙的浮遊的快いサウンドから、ウォーターズは新しいサウンドの試みを展開し、ウォーターズの歌詞にも誘導され、ギルモアもそのキター・ワークはヘビーな展開を見せたのだ。ただ一人リック・ライトの色は消え、彼の協力も薄くなりクレジットから消えてしまっている。
 このフロイドの新時代が・・・彼らの歴史の中でも最高潮の4期の開幕となったのである。

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 こんな事態背景の中でのロック界、ピンク・フロイドは消滅に向かうだろうという見方がなされ、代わりにセックス・ピストルズのようなバンドに方向は向いていた。しかしこのアルバムの登場は、ミュージック評論家はこぞってネガティブ反応とフロイド・ミュージックの変化に批判を集中させたが、しかし事態はそれに反して、ピンク・フロイド熱は更に上昇し、各地でのライブは異常な熱気の中で成功をおさめ、パンクからの支持まで生まれ、ロック市場では圧倒的支持を得たのである。更にバンドには当時ウォーターズの要請でスノーウィ・ホワイトがサポート・ギタリストとして加わってツイン・ギターのスタイルでこれも好評だった。

 このアルバムの中身は長編"Dogs犬", "Pigs豚(Three differrent ones)" 、"sheep羊"3曲と、ウォーターズのソロ"Pigs on The Wing翼を持った豚 part1,part2"によって成り立っているが、一曲はウォーターズとギルモアの共作だが、その他は全てウォーターズの曲、そして作詞は全てウォーターズであり、"支配階級"(豚の社会構造連鎖の頂点に金と権力で太る存在)、"権力者"(ビジネスのボスたる犬)、"従順な羊"を描き社会の三構造に痛烈な批判をする(しかし、よく聴いてみると一般に言われるようなそんな単純でないところにウォーターズの意図は隠されている。社会の疎外と残酷さが暗くのしかかってくるし、羊の犬に対しての逆襲をも示唆している)、なんと冒頭と最後の曲"翼を持った豚"は、対照的に非常に優しい歌でウォーターズのロマンスの相手キャロライン・クリスティーに捧げているという芸達者だ。

 こうしてロック・ミュージックは、その時代の社会に根差したものとしての市民権の獲得に根拠を回復し、ピンク・フロイドはウォ-ターズ主導の社会派転換によって更に基盤は確実なものに築き上げられた。続く『The Wall』、『Final Cut』と他の追従を許さない世界の構築がなされるのだ。しかしこれが又ピンク・フロイドにとっての一つの悲劇ともなった。

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 今回は、当然私はリミックス盤として、「BLUE-RAY AUDIO」盤を手に入れたが、ここには「2018REMIX」の①5.1Surround 24bit/96kHz と、②Stereo 24bit/192KHz が収録されている。又e-onkyoからHi-Res192kHz/24bitもダウン・ロードして聴いているが、しかし今回のREMIXは、宣伝にあるほどの大きな変化はない。従って5.1Surroundがお勧めである。しかしこのSurroundも昔のもののような著名な音の分離はなく、比較的前面に音を集めていて聴きやすく作られている。そんな訳で、面白さという点では少々期待を裏切っていた。
 目下80歳を目の前にしているウォーターズは北米ツアー「This is not a Drill」を展開して、相変わらず社会問題としての訴えを続けている。そしてそこには今回はこのアルバムからの"Sheep"を演じているのだ。彼は過去のどのツアーにおいてもこの『Animals』からは必ず一曲は演じ、特に"Bigs"によるトランプ前米国大統領批判はインパクトを残している。

(評価)
Remix効果  :   80/100
Surround効果 :  70/100

(参考試聴)

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2022年9月16日 (金)

ソニア・スキアヴォーネ Sonia Schiavone 「WAYNE SHORTER's LEGACY」

独特な歌声でウェイン・ショーターの世界へ迫る

<Jazz>

Sonia Schiavone 「WAYNE SHORTER's LEGACY」
Da Vinci Jazz / Import / C00573 / 2022

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Sonia Schiavone (voice, vocal background and effects)
Fabio Gorlier (piano)
Stefano Profeta (double bass)
Donato Stolfi (drums)
Gianni Virone (tenor saxophone on 03, 06, 08, 10) (soprano saxophone on 02) (bass clarinet on 04) (clarinet on 09) (possibly baritone saxophone on 03, 10)
Cesare Mecca (trumpet on 03, 08, 10)
Aldo Caramellino (trombone on 03, 08, 10)

Recording:22,23,24,September 2021, Riverside Studio, Italy

Avatars0002010517029jwr44t500x500   イタリアのキャリアある本格派女性ヴォーカリスト:ソニア・スキアヴォーネの、小コンボ伴奏でのウェイン・ショーター名曲集。ゴスペル、オペラ、アカペラ、ジャズ、その多彩な音楽スタイルを究めんとする彼女だが、今回のアルバム・コンセプトは「彼女が深く魅了されたというコンテンポラリー・ジャズの第一人者、ウェイン・ショーターの詩学と芸術哲学への小さなオマージュ」というところのようだ。
 彼女は7歳からクラシック音楽を学んできており、その芸術性をベースにした即興ボーカル・インプロヴィゼーションで迫っている。

Waynew  ウェイン・ショーター(Wayne Shorter、1933年8月25日 – )は、あえて説明することのないジャズ・サックス奏者だが、作曲家としての評価も高い。米国合衆国ニュージャージー州ニューアーク生まれ。ジャズ・メッセンジャーズのメンバーとして活躍。1960年代にはマイルス・デイヴィスのクインテットに参加し、その後ジョー・ザヴィヌルとともにウェザー・リポートを結成。即興演奏家としての技量の高さも人気。

(Tracklist)
01. Deluge
02. Footprints (Follow The Footprints)
03. Yes And No (To Be Or Not To Be)
04. Infant Eyes
05. Touches Of Colours
06. I Sing
07. Iris
08. Speak No Evil (All For One)
09. Miyako (How Do I Love Thee)
10. Black Nile
All Tracks by W.Shorter and arranged by sonia schiavone

 とにかくまずオープニングから彼女のヴォーカルの特異性に驚く。それぞれの曲の大半は彼女の作詩による歌であるし、かなり高音まで響かせ、イタリアっぽい歌唱とその節回しがなんとなく怪しげ、というか陰影を漂わせて、ちょっと音程が外れたのではないかと思わせるところが異様。おそらく即興的な因子が加味されての歌と思われるが、惑わすミステリアスな世界も見えて、これが私の印象にあるウェイン・ショーターとはどうも重ならない。
 バックはピアノが重要な役割を果たしつつサックス、トランペット、トロンボーンがリズムを刻むように演奏する。ベース、ドラムスも快適に演ずる。そこにはなかなか洗練されたサウンドを聴かせる。

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 しかしM4."Infant Eyes"のバラード調に彼女のじっくり歌いこんだ声が響くと、成程ここまでにショーターの曲を華やかに展開させて、ここにきてそこに心を置いてて行く様が見事で、聴く方もうっとり。途中から彼女のヴォーカルを受けてクラリネットが歌いあげて曲が美しく完成ている。
 M5."Touches Of Colours"も同様に心をもって歌い上げるところはショーターの世界を知り尽くして迫っていくところが伺えて、その世界にいつの間にか聴く方もどっぷりつかってしまう。続くM6." I Sing"と共に歌声とピアノが美しい。そしてこのM6.でサックス・ソロの歌い上げが顔を出して最高潮になる。     そして異様と思った彼女のヴォーカルがM7." Iris"となると、なんとその彼女の描く世界に充実感すら感ずることになる。凄い洗練された音楽性が迫ってくる。M8." Speak No Evil (All For One)"は彼女のアカペラの技法がみなぎっている。
 M9."Miyako "、M10."Black Nile"とまとめに入るが、最後は何とショーターの世界とシンクロして聴き惚れてしまう彼女の世界となった。
 ハイレベルのコンテンポラリー・ジャズ・アルバムだ。

(評価)
□ 曲・編曲・作詞・歌  88/100
□ 録音         88/100

(試聴) お勧め"Infant Eyes"
 

 

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2022年9月11日 (日)

ヨハンナ・リネア・ヤコブソン Johanna Linnea Jakobsson 「ALONE TOGETHER」

北欧の自然と文化を匂わせる演奏とヴォーカル

<Jazz>

Johanna Linnea Jakobsson 「ALONE TOGETHER」
AMP MUSIC & RECORDS / Import / DUATO112 / 2022

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Johanna Linnea Jakobsson (vocal except 4, 6, 7) (alto saxophone on 2, 4, 5, 6, 7)
Robin Petersson (guitar)
Gustaf Rosenberg (piano)
Anders Fjeldsted (bass)
John Fernold (drums)

2021年6月デンマーク、コペンハーゲンのHHH Music録音

  まだまだ若さそのものの1991年生まれの北欧デンマークの女流アルト・サックス奏者でSSWのヨハンナ・リネア・ヤコブソンのデビュー・アルバム。彼女は現在はスウェーデンで活躍中。ほゞ同世代の北欧のギター、ピアノ、ベース、ドラムとのクインテット作品。
 彼女はアルト・サックスを演じ、ヴォーカルも披露。そして収録曲の半分の4曲を作曲している。
しかしこれは直輸入CDだが、アルバム・ジャケの安っぽさは日本では考えられないもの。

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1. Alone Together
2. Itinerant
3. Anything
4. Opaque (instrumental)
5. She's Leaving Home
6. Stolen Moments (instrumental)
7. The Single Petal Of A Rose (instrumental)
8. Blue
*all compositions by Johanna Linnea Jakobsson except #1 by A.Schwartz & H,Dietz, #5 by P.McCartney & J.Lennon, #6 by O.Nelson and #7 by D.Ellington

  ジャズの即興演奏の要素を十分生かしたアコースティックな演奏を彼女自身のユニークなクロスオーバーの世界に溶け込ませての曲作りは、違和感なくを自然な世界を作り出しているところに驚く。
 ポップ風の作曲と組み合わせてはいるものの、やはりジャズの心地よさが十分に伝わってくるちょっと不思議なアルバム。クインテット・メンバーがそれぞれの持ち味を力むことなく非常に気持ちよく演じているところが楽しい。
 そして彼女の歌もやや高めのトーンで、線は細めなのでその質とともに丁寧な歌い方が嫌みがない。結構しっとりと優しく軽妙流麗という表現にぴったりで、若さと共に時にハスキーなところもあってデビュー・アルバムっぽい瑞々しさがあって好感度が高い。

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  スタートのM1."Alone Together"は彼女のヴォーカル曲、ちょっと静かなしっとり物憂い歌い方でジャズ・ムードは十分。歌ものと言ってもかなり演奏のウエイトも多く、それぞれがクリアーに録音されていていい。
 M2." Itinerant"はオリジナル・インスト曲、ギターの演ずるところが彼女のASとが交互にインプロ交じりのメロディーを静かにソフトに流す。
 M3."Anything"やはり歌声は優しい。M4."Opaque"この曲でもASはソフトでゆったり描きベースが静かなピアノのバックで語るところは私好み。
 M5." She's Leaving Home"ビートルズ・ナンバーをアシッド味の味付けのあるジャズに変身。
 M6."Stolen Moments "リズム感のあるインスト演奏で深い世界に導く。
 M7."The Single Petal Of A Rose "じっくりと歌い上げるASは、ベテランの境地でピアノと共にバラード演奏。
 M8."Blue"彼女のヴォーカルが軽快なギターをバツクに清涼感たっぷりに。

 とにかく力みのない抒情性豊かな演奏と、ちょっとキュートであり、清楚感もありの北欧の自然と文化を匂わせるジャズはなかなかのもの。それに透明感を描いてのクリアな音色に仕上げた録音もいい。なかなか一つの世界観があるアルバム造りは素晴らしい。

(評価)
□   曲・演奏・歌      88/100
□ 録音      88/100

(試聴)
"Opaque"

*
"Alone Together"

 

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2022年9月 5日 (月)

スージー・アリオリ Susie Arioli 「ALL THE WAY」

もう一つのジャズ・バラッドもの

 知らないで来たアルバムってありますね、そんな一枚に遭遇したので取り上げる。
 そのそもそもの切っ掛けは・・・e-onkyoにて、Hi-Res音源をざーとみて居たら、ジャズ・バラードもののコンピレーションものがありましたので、ダウン・ロードして聴いてみた。その一枚がこれです ↓

Jazz-ballads   『JAZZ Ballads』(flac 44.1kHz/24bit)

 ・・・・・という単純なタイトルで「Vol.2」「Vol.3」とある代物だ。女性ヴォーカルが主体なんですが、勿論インストものも少々ある。「2xHD」と高録音ものを強調しているシリーズものの一つです。この「Vol.1」は、全18曲90分というスケールが結構大きい。

 この「Vol.1」であるが、私は「Vol.2」の後から入手したものである。このシリーズの女性ヴォーカリストというと・・・・Diana Panton, Emillie-Claire Barlow, Holly Cole と、女性ジャズ・ヴォーカリストの宝庫のカナダがどうも対象のようだ。その他、Amanda Martinez, Susie Arioli, Jill Barber, Ginette Renoなどなど下のように登場しています。

(Tracklist)
1 The Very Thought of You / Emilie-Claire Barlow 0:06:38
2 Good Time Charlie's Got the Blues / Holly Cole 0:03:14
3 Babes in Arms: My Funny Valentine / Susie Arioli 0:04:02
4 Will You be There? / Ginette Reno 0:04:17
5 You're My Thrill / Holly Cole 0:05:46
6 Cucurrucucu paloma / Amanda Martinez 0:05:11
7 Breaking Up Is Hard to Do / Emilie-Claire Barlow 0:05:13
8 Oh My Love / Robert Len[trumpet] 0:03:06
9 My Foolish Heart: My Foolish Heart / Holly Cole Trio[Ensemble] 0:04:34
10 I Don't Know Where I Stand  / Emilie-Claire Barlow0:04:11
11 Tell Me / Jill Barber 0:04:10
12 Guys and Dolls: My Time of Day - I've Never Been in Love Before / Emilie-Claire Barlow 0:05:58
13 Le chemin / Amanda Martinez 0:03:19
14 T'es pas une autre / Emilie-Claire Barlow 0:04:16
15 God Bless Our Child / Ginette Reno 0:04:21
16 Talk to Me Baby / Holly Cole Trio[Ensemble]0:04:33
17 Be My Man / Jill Barber0:03:02
18 Dames: I Only Have Eyes for You / Holly Cole o:03:31

 ここで気になったのが M3.のSusie Arioliであって、今まで知らずに来ていたので、この際ちょっとアルバムを手に入れてみたという事である。↓

 

                *    *    *    *    *

■ しっとりムードで聴かせるアルバム

<Jazz>
Susie Arioli 「ALL THE WAY」
Jazzheads / Import / JH 1192 / 2012

71eiv2tb36w_20220903173001 Suisie Arioli : Vo
Jordan Officer : G
Jeff Johnston : p
Bill Gossage: B
Michel Berthiaume : Dr
Commeron Walls : TS
etc.

 

 

 

 このスージー・アリオリSuisie Arioliはカナダのジャズ・シンガー、1963年生まれでこのアルバムは49歳時のもの(2012年リリース)。又ギタリストJordan Officer(アリオリとスージー・アリオリ・バンドを結成している)とのデュオをベースに多くのミュージシャンがバックを支える。
 彼女の豊富な経験から、円熟を迎えての作品だ。

(Tracklist)

107152w 1 My Funny Valentine
2 Time on My Hands
3 Here's to the Losers
4 All the Way
5 Here's That Rainy Day
6 It's Always You
7 Forgetful
8 There's a Lull in My Lifおふ
9 Come Rain or Come Shine
10 When Your Lover Has Gone
11 Un Jour de Diff Rence
12 Looking for a Boy
13 Time After Time

 全13曲ですが、全般的にバラード調でのスローな歌として仕上げてある。オープニングのM1."My Funny Valentine"が私がこのアルバムを聴くことになったきっかけの曲だが、超スローでなかなか豊かな低音の魅力を発揮して説得力十分だ。バックはオフィサーのギターが主として支えるが、ピアノトリオが心地よく盛り上げる。しかし彼女は決して高音が出ないわけでなくM2."Time on My Hands"ではしっかりと聴かせてくれる。
 このスロー・ヴォーカルは、M7."Forgetful"でもその魅力を発揮、非常にまろやかに歌い上げる。
 M4."All the Way"のタイトル曲は、曲としてはスローの方に入るが、ビブラフォンも響き、しっとりした世界に仕上げて聴かせる。
 M3."Here's to the lovers"M10."When your lovers has gone"は、ミディアムテンポでイメージを変えるが、バックはテナーサックス3本とバリトーンサックス1本による豪華サポートだが、控えめに録音されていて嫌みがなかった。全曲通じての共同プロデューサーのギターのオフィサーはもうこのコンビは慣れたもので歌の間奏部に美メロディを流して盛り上げる。
 M11."Un jour de diffence"はフランス語で、リズムカルで歌い、優しくトランペットが入り、ギターもリズムカルでこのアルバムでは珍しく軽快な曲。

 なかなか期待通りの聴かせるヴォーカル・アルバムとしてはすべて及第点のアルバムであった。カナダも女性ジャズ・シンガーの宝庫で、ダイアナ・クラール、ホリー・コール、エミリ・クレア・バルロー、ダイアナ・パントンなどの陰に隠れて、今更に知ったアルバムであった。

(評価)
□ 演奏・歌   85/100
□ 録音     85/100

(視聴)

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