ピンク・フロイド Pink Floyd 「Animals 2018 Remix」
「ライナー・ノーツ騒動」経てようやく発売・・・・
5.1サラウンド・ミックス、ステレオ・ミックスHi-Res盤 など各種
<Progressive Rock>
Pink Floyd 「Animals 2018 Remix」
①Sony Music Japan / JPN /SICP-6480
②e-onkyo /Hi-Res flac 192kHz/24bit
③Blue-ray audio : 5.1 surround
(BLUE-RAY AUDIO)
2018 Remix - Stereo: 24-bit/192kHz Uncompressed, dts-HD MA
2018 Remix - 5.1 Surround: 24-bit/96kHz Uncompressed, dts-HD MA
1977 Original Stereo: 24-bit/192kHz Uncompressed, dts-HD MA
(Tracklist)
1.Pigs on the Wing 翼を持った豚(Part One)
2.Dogs 犬
3.Pigs 豚(Three Different Ones)
4.Sheep 羊
5.Pigs on the Wing 翼を持った豚(Part Two)
ピンク・フロイドの第4期スタートとなったロジャー・ウォーターズ主導で制作された1977年発売のコンセプトアルバム『Animals』の2018年リミックス盤が、なんだかんだとすったもんだしてようやくリリースされた。ジェームス・ガスリーによってオリジナルマスターテープからのリミックスだが、特に最近「Pink Floyd権」を持つD.ギルモアとその一派(敢えて一派というのは、まさしくロジャー・ウォーターズがいみじくも歌ったアルバム『炎』の曲"Welcome To The Machinようこそマシーンへ"で批判した音楽産業の営利独占主義そのものになってしまっているギルモアの女房で実業家のpolly samson主導のアメリカ流商業主義の組織である)のマーク・ブレイクMark Blake(英国ミュージック・ジャーナリスト)がこのリミックス盤の為に書いたライナー・ノーツを拒否するというみっともない独占欲の抵抗で、遅れに遅れてここに日の目を見た。・・・これに関しては既に詳しくここ記したところである(参照:"2021.7.4「Pink floyd 「Animals」(5.1Surround)」リリースか")
これも話題になったロジャー・ウォーターズの発想でバターシー発電所に豚が飛ぶ象徴的なアートワークも、ヒプノシスの元メンバーでもあったアートデザイナー、オーブリー・パウエルによって元画(↓参照)を生かして一新、上のように現代風に衣替え(初めて見たときは、これは現代調で良いと思ったが、比較してみると1977年のオリジナル・デザインの方が、やっぱりいいですね)。ここに 発売45周年、またバンドのデビュー55周年を迎えた2022年ついにピンク・フロイドの歴史的問題作が一新リリースとなったのである。
この『Animals』は、人間の世界を動物に置き換えながら社会問題を痛烈に批判したコンセプトのプログレッシブ・ヘビー・ロック・アルバム。
又この1970年代半ばは、英国において特に社会不安高まった時代だった。ロック界はプログレッシブ・ロックの波が最高潮を迎え、その結果形骸化、AOR化という流れは否定できず、それに反応してのパンクの波の襲来は、イエス、キング・クリムゾンなどの巨星をも撃沈し、当然恐竜と化したピンクロフロイドにも向かった。確かにピンク・フロイドもアルバム『炎』の内向き傾向から方向性を失いつつあった中で、この刺激こそ眠っていたロジャー・ウォーターズの眼を覚ましたのである。そして彼は自身の目論見の為にはアルバム制作にマイナスの者の締め出しも行った。これはこのバンドの頂点への一歩であったと同時に、ある意味悲劇の始まりでもある。
とにかくこの英国社会不安は、当時労働組合と労働党政府の間での断絶、ストライキの発生、経済不安は頂点に達し、スポーツでもサッカーは衝突の場となり、街にも暴力が増えパンクとスキンヘッドの連中により扇動された不安社会が動き、一方右翼の台頭は人種問題にまで発展していた。こんな時にウォーターズの世界観が動かないはずはない。そしてピンク・フロイドは宇宙的浮遊的快いサウンドから、ウォーターズは新しいサウンドの試みを展開し、ウォーターズの歌詞にも誘導され、ギルモアもそのキター・ワークはヘビーな展開を見せたのだ。ただ一人リック・ライトの色は消え、彼の協力も薄くなりクレジットから消えてしまっている。
このフロイドの新時代が・・・彼らの歴史の中でも最高潮の4期の開幕となったのである。
こんな事態背景の中でのロック界、ピンク・フロイドは消滅に向かうだろうという見方がなされ、代わりにセックス・ピストルズのようなバンドに方向は向いていた。しかしこのアルバムの登場は、ミュージック評論家はこぞってネガティブ反応とフロイド・ミュージックの変化に批判を集中させたが、しかし事態はそれに反して、ピンク・フロイド熱は更に上昇し、各地でのライブは異常な熱気の中で成功をおさめ、パンクからの支持まで生まれ、ロック市場では圧倒的支持を得たのである。更にバンドには当時ウォーターズの要請でスノーウィ・ホワイトがサポート・ギタリストとして加わってツイン・ギターのスタイルでこれも好評だった。
このアルバムの中身は長編"Dogs犬", "Pigs豚(Three differrent ones)" 、"sheep羊"3曲と、ウォーターズのソロ"Pigs on The Wing翼を持った豚 part1,part2"によって成り立っているが、一曲はウォーターズとギルモアの共作だが、その他は全てウォーターズの曲、そして作詞は全てウォーターズであり、"支配階級"(豚の社会構造連鎖の頂点に金と権力で太る存在)、"権力者"(ビジネスのボスたる犬)、"従順な羊"を描き社会の三構造に痛烈な批判をする(しかし、よく聴いてみると一般に言われるようなそんな単純でないところにウォーターズの意図は隠されている。社会の疎外と残酷さが暗くのしかかってくるし、羊の犬に対しての逆襲をも示唆している)、なんと冒頭と最後の曲"翼を持った豚"は、対照的に非常に優しい歌でウォーターズのロマンスの相手キャロライン・クリスティーに捧げているという芸達者だ。
こうしてロック・ミュージックは、その時代の社会に根差したものとしての市民権の獲得に根拠を回復し、ピンク・フロイドはウォ-ターズ主導の社会派転換によって更に基盤は確実なものに築き上げられた。続く『The Wall』、『Final Cut』と他の追従を許さない世界の構築がなされるのだ。しかしこれが又ピンク・フロイドにとっての一つの悲劇ともなった。
今回は、当然私はリミックス盤として、「BLUE-RAY AUDIO」盤を手に入れたが、ここには「2018REMIX」の①5.1Surround 24bit/96kHz と、②Stereo 24bit/192KHz が収録されている。又e-onkyoからHi-Res192kHz/24bitもダウン・ロードして聴いているが、しかし今回のREMIXは、宣伝にあるほどの大きな変化はない。従って5.1Surroundがお勧めである。しかしこのSurroundも昔のもののような著名な音の分離はなく、比較的前面に音を集めていて聴きやすく作られている。そんな訳で、面白さという点では少々期待を裏切っていた。
目下80歳を目の前にしているウォーターズは北米ツアー「This is not a Drill」を展開して、相変わらず社会問題としての訴えを続けている。そしてそこには今回はこのアルバムからの"Sheep"を演じているのだ。彼は過去のどのツアーにおいてもこの『Animals』からは必ず一曲は演じ、特に"Bigs"によるトランプ前米国大統領批判はインパクトを残している。
(評価)
Remix効果 : 80/100
Surround効果 : 70/100
(参考試聴)
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