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2022年11月25日 (金)

ロジャー・ウォーターズ Roger Waters 「Comfortably Numb 2022」

ウォーターズの意地の回答
「Comfortably Numb」ニュー・バージョンの登場
暗さと不安と不吉を描く感動の曲に・・・・

<progressive Rock>

Roger Waters 「Comfortably Numb 2022」

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 ロジャー・ウォーターズRoger Waters(1943年生まれ、79歳)は、1979年のピンク・フロイド時代のアルバム『ザ・ウォールTHE WALL』(1979)中の人気曲「Comfortably Numb」の新しいバージョンをリリースした。タイトルは2022年のものとして「Comfortably Numb 2022」となり、アップデートは、オリジナルよりもかなり暗く、描くところ不安と不吉なムードが漂っている。
 これは目下の彼の"別れのショー"としての北米ツアー「This Is Not a Drill」(人気の為、2023年には引き続きヨーロッパでのツアーが3月17日からポルトガルのリスボンで始まり、続いて14か国で40回のショーが追加企画されいている)のオープニングの為に書かれた曲で、話題になっているもの。それをシングルとしてリリースした。(YouTubeにて公開中 ↓)

 「コロナ禍で予定されたツアーが中止となり(今年ようやく2年越しにスタートした)、そのパンデミック下に新しいショーのオープニングとして「Comfortably Numb」の新しいバージョンのデモを作成しました」とR.ウォーターズはニューリリースに関し述べ、「イ短調で、暗くするために一歩下がって、ソロなしでアレンジしました。アウトロのコードシーケンスを除いて、私たちの新しい歌手の1人であるシャネイ・ジョンソンShanay Johnsonによる話題になるほど美しい女性ボーカルソロがあります」と付け加えている。
 成程、彼らしい曲の展開で、現在の世界情勢が破滅に向かう事に対しての警告となっている。

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  ライブ・メンバーの10人のミュージシャンが「Comfortably Numb 2022」の作成に貢献し、ストリングス、パーカッション、ベース、ギターなどを提供し、ウォーターズ自身はトラックを共同プロデュースし、ボーカルも担当した(↑)。

Credits:
Produced by Roger Waters and Gus Seyffert
Roger Waters – Vocals
Gus Seyffert – Bass, Synth, Percussion, Vocals
Joey Waronker – Drums
Dave Kilminster – Vocals
Jonathan Wilson – Harmonium, Synth, Guitar and Vocals
Jon Carin – Synth, Vocals
Shanay Johnson – Vocals
Amanda Belair – Vocals
Robert Walter – Organ/Piano
Nigel Godrich – Strings, amp and backing vocals from Roger Waters ‘The Wall’ Sessions.
Video produced and directed by Sean Evans.

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 もともと1979年のアルバム『The Wall』は、ピンク・フロイドものといっても、中身はロジャー・ウォーターズの自伝にもとづいて彼主導で作成されもので、ロック・オペラとも言えるところもあっての人気アルバムだが、その中の人気曲「Another Brick In The Wall 」は当時、子供の教育問題を歌い上げ、しかも子供のコーラス入りという事で、ご本家英国では発売禁止にもなった話題アルバムだ。
 そしてその中の「Comfortably Numb」(作詞:Roger Waters, 作曲David Gilmour,Roger Waters)は、ピンク・フロイドの有名な曲の1つである。その歌詞は、肝炎に苦しんでいた時のR.ウォーターズがステージに上がる前に精神安定剤を注射された1977年の事件に触発されている。「それは私の人生で最長の2時間でした」と彼は後にローリングストーンに語った。「腕を上げることがほとんどできないときにショーをやろうとしている」といった状況だったようだ。

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 さて、このニュー・バージョンの注目点は、もともとこの曲の人気はR.ウォータースの語り利かすようなヴォーカルと不安なベース音、そしてD.ギルモアの現実の世界から離れる感覚へ誘うギター・ソロが大きな因子であった。そしてR.ウォーターズがピンク・フロイドから離れたあと、多くのファンの期待から「ライブ8」に際して一時的再結成した際の最後のメンバー4人によるショーの締めくくりにも演じられた貴重な曲でもある。
 しかし、その後のファンの期待があってもピンク・フロイドの再結成の夢も実現せず、R.ウォーターズからは彼自身のライブにてD.ギルモアを呼んで、この曲を演じさせたりなどしたが、D.ギルモア側のピンク・フロイド名義の企業的独占欲が強く、もう40年という経過を経ても再結成は実現できないで来た。
  しかもなんとここに来て、ピンク・フロイド再起の一つのターニング・ポイントとなった1977年のアルバム『ANIMALS』のリマスター版の発売に関して、英国ミュージック・ジャーナ・リストのマーク・ブレイクMark Blake(ピンク・フロイド研究に実績と評価がある)の書いたライナー・ノーツ(どうしてもR.ウォーターズの功績が浮き彫りになってしまう)をD.ギルモアが拒否して発売もままならない状況になるという不祥事が起きるなどして、R.ウォーターズは諸々に不信感を持ちそれが極限に達してしまった。

 そんな時に書かれたこの「Comfortable Numb 2022」は、R.ウォーターズの人気曲を使っての"無言の回答"である。人気のあったD.ギルモアのギター・パーツをすぱっと削除して、R.ウォーターズの得意の社会の不安、人間の不安を描ききった。しかもそこには全く異なったメロディーで美しい女性ヴォーカルを聴かせ、今回のツアーにおける冒頭の曲として登場させ、多くの喝采を得たのである。そして曲に対する多くの要望で、なんとここにシングル・リリースとなった。
 ここにて彼は完全にD.ギルモアを切ったのである。そしてそれが彼の「Farewell Tour」として演じられているのだ。

(評価)
□ 編曲・演奏 : 90/100
□   録音           : 87/100  

(LIVE視聴)

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コメント

殊更に新しい音色を用いずに、演奏されていますね。
この時間の経過をどのように表すのかと思いましたが、考えたら、その必要があると思えばそうするし、ないと思えば、それもそれ。
意図的に古い感じを出そうとしているのかもしれないですね。
映像のイメージとしてはブレードランナーのアシッドレインが連想されますが、あのアジアンな雰囲気は彼には無いですよね。

この曲のコード進行は、ギターのローコードで作られた曲だと感じます、そのように演奏されても心地良いですよ。

投稿: iwamoto | 2022年11月25日 (金) 20時12分

iwamoto様
コメント有難うございます
 四十数年来・・演奏してきても、飽きない曲というのがありますね。その時代その時代にイメージがマッチングするものを持っていると恐ろしいです。
 ウォターズは、どの時代にも通ずる意識を持っているところが凄いです。
 今回は、敢えてのニューバージョンには、彼の意識の結晶と思っています。今や、不安、不吉が歴史的に過去のある時を現代とマッチングして想像させるものを訴えていると思いますが、そこには又彼なりきの得意なトリックが隠されているとみています。それは聴く人が感じ取ればよいことですね。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年11月26日 (土) 22時24分

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