アリルド・アンデルセン Arild Andersen Group 「Affirmation」
むしろ完全即興の世界で・・・カルテットの味が生きる
<Jazz>
Arild Andersen Group 「Affirmation」
ECM / IMPORT / 4828593 / 2022
Marius Neset (ts)
Helge Lien (p)
Arild Andersen (b)
Håkon Mjåset Johansen (ds)
Recorded November 2021, Rainbow Studio, Oslo
Engineer: Martin Abrahamsen
Mastering: Christoph Stickel
Cover photo: Thomas Wunsch
Liner photos: Helge Lien
Design: Sascha Kleis
Executive Producer: Manfred Eicher
今年もあとわずかとなったが、相変わらずコロナ禍での出発であったが、まだその終息を見ない。それでも"with Corona"という社会の在り様も進行して、少しは人間らしい活動もあってミュージック界もなんとなく回復の兆候があったことは喜ばしかった。しかしなんとなく心から開放的な姿はまだまだといったところで、今年締めくくりのアルバムもECMの世界でぐっと落ち着いて来年を見据えることにした。
ノルウェーのベテラン・ベーシストのアリルド・アンデルセン(1845年生まれ(右上))は、50年以上にわたってECMミュージシャンの経歴があり、ここにニュー・アルバムがリリースされた。今回は久々の彼がリーダーのカルテット構成であるが、もともと独特な北欧イメージを展開し興味をそそるのだが、ピアニストのヘルゲ・リエンの名も連ねていて、更なる興味が湧いたというところである。
カルテット構成は、サックス奏者のマリウス・ネセット(1985年生まれ(下中央))、ピアニストのヘルゲ・リーエン(1975年生まれ(下左))、ドラマーのホーコン・ミヨセット・ヨハンセン(1975年生まれ(下右))と、アンデルセンからみれば若きから中堅のメンバーでの新しいノルウェー・カルテットであり、オスロのレインボウ・スタジオでの2021年11月の録音作品。ノルウェーの旅行規制により、マンフレート・アイヒャーの参加は見送られとのこと、従ってミュージシャンたちだけの録音となった。録音開始から2日目に、アンデルセンはグループでの即興演奏を提案して「何も計画せず、約23分の第1部と約14分の第2部を録音しました」と。それは「Affirmation Part I」と「Affirmation Part II」で、未編集でその即興はフルで収録され、最後にアンデルセンの作曲した"Short Story"でアルバムは完結するという形になった。
(Tracklist)
1-4. Affirmation Part I
One 4:29
Two 6:13
Three 4:40
Four 8:22
5-7. Affirmation Part II
Five 7:09
Six 1:38
Seven 5:23
8. Short Story 7:27
Music by Andersen / Neset / Lien / Mjåset Johansen
except "Short Story" by Arild Andersen
そもそもこのカルテット・メンバーは、初めての集合でなく、過去に一緒にコンサートなど数多くこなしてきているようだが、このような即興演奏だけでフルセット行うといったことはなかったようだ。そもそもアンデルセンは過去のトリオなどでも即興は得意であったことから、ふとお互いのパターンを知ってのことから思いついたのであろう。
とにかく、「Affirmation」(肯定・支持・賛同)と名をつけ、上のようなリストにみる2部作であり、最後は彼の曲で締めくくったのである。
これは、見方によれば、ピアノ・トリオ+サックス(ts)のスタイルだ。こうなると一般的にはその楽器演奏のパターンから、多くはサックスがメロディーを奏で始めると、サックス演者は自己の世界に突入し、サックスの響きだけが中心となるパターンが多い。楽器の音質からサックスの世界で残りのトリオがリズム隊と化してしまうのである。従って私はこのパターンのカルテット構成は好きではないのだ。 しかし、メインの旋律のないこのようなカルテットの即興集となると、リーダーがベースであるだけに四者がそれぞれの個性を示す方向にリードされ、なんとスタートの"one"から、四者それぞれの他者の描くところに反応しながら形作っていくという流れで、サックスの独壇場は形成されず、それぞれが互いを認めて発展させる方向に流れ、極めてカルテットそのものの面白さが出現することになった。実は私が面白いと思ったところはそこにあったのだ。
そして描くは、「PartⅠ」は、流れとして北欧の独特な自然と人間との交わりを想像させるかなり静的な世界で、サックスは細かく刻んで踊り、リエンのピアノの旋律が"Three"あたりに至ると一層美しく流れ、"Four"に流れると、ベースが更に深淵な世界に沈みつつも次第にリズムをアップさせてサックスを先頭にピアノが俄然勢いを増し、ドラムスが全体の盛り上がりを頂点に誘導する。この辺りが単純な「静」でなくアクセントをしっかり描く「動」の曲展開に納得する。
「Part Ⅱ」は、まず"Five"で繊細なシンバル音、ピアノも繊細な響き、ベースが後押しというトリオ形でスタート、スリリングな流れが微妙で面白い。続いてサックスが合わせるように登場。こんな微妙な連携プレイが即興でつづる技には脱帽だ。その後も続くステック・ワークとピアノ、ベースの三者の微妙な裁きが凄い。
短い曲"Six"では、サックスが動く、その後"Seven"では、ピアノの静とシンバルの静、ピアノの澄んだ美音が心に染みる。次第にベースの誘導でサックスが静かに現れるが、やはり究極はリエンのピアノの美だ。
そして挑戦は終わり、最後はアンデルセンの曲"Short Story"を優しいサックスの旋律が前面に出て優しく演じて納める。
オール即興・未編集で作り上げたアリルド・アンデルセンの主導によるこのカルテット作品は、信じられないほどの四者のバランスとまとまりが良好な展開を見せた北欧の静と躍動を描いた作品となった。北欧の一般的ロマンある哀愁と美旋律ものを期待するとちょっと別世界となるが、この世界も魅力的でお見事であった。
今年一年有難うございました。来る年もよろしくお願いします
(評価)
□ 曲・演奏 88/100
□ 録音 85/100
(試聴)
"Short Story" (このアルバムで唯一即興ものでないアンデルセンの曲)
*
(参考) Arild Andersen Group
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