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2022年12月31日 (土)

アリルド・アンデルセン Arild Andersen Group 「Affirmation」

むしろ完全即興の世界で・・・カルテットの味が生きる

<Jazz>

Arild Andersen Group 「Affirmation」
ECM / IMPORT / 4828593 / 2022

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Arild_andersenbw Marius Neset (ts)
Helge Lien (p)
Arild Andersen (b)
Håkon Mjåset Johansen (ds)

Recorded November 2021, Rainbow Studio, Oslo
Engineer: Martin Abrahamsen
Mastering: Christoph Stickel
Cover photo: Thomas Wunsch
Liner photos: Helge Lien
Design: Sascha Kleis
Executive Producer: Manfred Eicher

  今年もあとわずかとなったが、相変わらずコロナ禍での出発であったが、まだその終息を見ない。それでも"with Corona"という社会の在り様も進行して、少しは人間らしい活動もあってミュージック界もなんとなく回復の兆候があったことは喜ばしかった。しかしなんとなく心から開放的な姿はまだまだといったところで、今年締めくくりのアルバムもECMの世界でぐっと落ち着いて来年を見据えることにした。

 ノルウェーのベテラン・ベーシストのアリルド・アンデルセン(1845年生まれ(右上))は、50年以上にわたってECMミュージシャンの経歴があり、ここにニュー・アルバムがリリースされた。今回は久々の彼がリーダーのカルテット構成であるが、もともと独特な北欧イメージを展開し興味をそそるのだが、ピアニストのヘルゲ・リエンの名も連ねていて、更なる興味が湧いたというところである。

 カルテット構成は、サックス奏者のマリウス・ネセット(1985年生まれ(下中央))、ピアニストのヘルゲ・リーエン(1975年生まれ(下左))、ドラマーのホーコン・ミヨセット・ヨハンセン(1975年生まれ(下右))と、アンデルセンからみれば若きから中堅のメンバーでの新しいノルウェー・カルテットであり、オスロのレインボウ・スタジオでの2021年11月の録音作品。ノルウェーの旅行規制により、マンフレート・アイヒャーの参加は見送られとのこと、従ってミュージシャンたちだけの録音となった。録音開始から2日目に、アンデルセンはグループでの即興演奏を提案して「何も計画せず、約23分の第1部と約14分の第2部を録音しました」と。それは「Affirmation Part I」と「Affirmation Part II」で、未編集でその即興はフルで収録され、最後にアンデルセンの作曲した"Short Story"でアルバムは完結するという形になった。

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(Tracklist)

1-4. Affirmation Part I
    One 4:29
    Two 6:13
    Three 4:40
    Four 8:22
5-7. Affirmation Part II
    Five 7:09
    Six 1:38
    Seven 5:23
8. Short Story 7:27

Music by Andersen / Neset / Lien / Mjåset Johansen
except "Short Story" by Arild Andersen

 そもそもこのカルテット・メンバーは、初めての集合でなく、過去に一緒にコンサートなど数多くこなしてきているようだが、このような即興演奏だけでフルセット行うといったことはなかったようだ。そもそもアンデルセンは過去のトリオなどでも即興は得意であったことから、ふとお互いのパターンを知ってのことから思いついたのであろう。

 とにかく、「Affirmation」(肯定・支持・賛同)と名をつけ、上のようなリストにみる2部作であり、最後は彼の曲で締めくくったのである。
 これは、見方によれば、ピアノ・トリオ+サックス(ts)のスタイルだ。こうなると一般的にはその楽器演奏のパターンから、多くはサックスがメロディーを奏で始めると、サックス演者は自己の世界に突入し、サックスの響きだけが中心となるパターンが多い。楽器の音質からサックスの世界で残りのトリオがリズム隊と化してしまうのである。従って私はこのパターンのカルテット構成は好きではないのだ。

Arildandersen01aw  しかし、メインの旋律のないこのようなカルテットの即興集となると、リーダーがベースであるだけに四者がそれぞれの個性を示す方向にリードされ、なんとスタートの"one"から、四者それぞれの他者の描くところに反応しながら形作っていくという流れで、サックスの独壇場は形成されず、それぞれが互いを認めて発展させる方向に流れ、極めてカルテットそのものの面白さが出現することになった。実は私が面白いと思ったところはそこにあったのだ。
 そして描くは、「PartⅠ」は、流れとして北欧の独特な自然と人間との交わりを想像させるかなり静的な世界で、サックスは細かく刻んで踊り、リエンのピアノの旋律が"Three"あたりに至ると一層美しく流れ、"Four"に流れると、ベースが更に深淵な世界に沈みつつも次第にリズムをアップさせてサックスを先頭にピアノが俄然勢いを増し、ドラムスが全体の盛り上がりを頂点に誘導する。この辺りが単純な「静」でなくアクセントをしっかり描く「動」の曲展開に納得する。
 「Part Ⅱ」は、まず"Five"で繊細なシンバル音、ピアノも繊細な響き、ベースが後押しというトリオ形でスタート、スリリングな流れが微妙で面白い。続いてサックスが合わせるように登場。こんな微妙な連携プレイが即興でつづる技には脱帽だ。その後も続くステック・ワークとピアノ、ベースの三者の微妙な裁きが凄い。
 短い曲"Six"では、サックスが動く、その後"Seven"では、ピアノの静とシンバルの静、ピアノの澄んだ美音が心に染みる。次第にベースの誘導でサックスが静かに現れるが、やはり究極はリエンのピアノの美だ。
 そして挑戦は終わり、最後はアンデルセンの曲"Short Story"を優しいサックスの旋律が前面に出て優しく演じて納める。

 オール即興・未編集で作り上げたアリルド・アンデルセンの主導によるこのカルテット作品は、信じられないほどの四者のバランスとまとまりが良好な展開を見せた北欧の静と躍動を描いた作品となった。北欧の一般的ロマンある哀愁と美旋律ものを期待するとちょっと別世界となるが、この世界も魅力的でお見事であった。

 今年一年有難うございました。来る年もよろしくお願いします

(評価)
□  曲・演奏  88/100
□  録音    85/100

(試聴)  
"Short Story" (このアルバムで唯一即興ものでないアンデルセンの曲)

*

(参考)   Arild Andersen Group   

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2022年12月27日 (火)

アレッサンドロ・ガラティ Alessandro Galati Trio「Portrait in Black and White」

カルロス・ジョビンをガラティ世界にて蘇えらせる

<Jazz>

Alessandro Galati Trio「Portrait in Black and White」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1109 / 2022

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Alessandro Galati (piano)
Guido Zorn (bass)
Andrea Beninati (drums)

Artesuono Recording Studios (Italy)
Recorded by Stefano Amerio

Ag5xw  アレッサンドロ・ガラティの新作は、なんとボサノヴァのアントニオ・カルロス・ジョビン集。ちょっとピンとこないのだが、果たしてガラティの手によるとどうなるのか、まさに興味津々のアルバムの登場。
 ガラティは、私の最も愛するイタリアのジャズ・ピアニスト、彼に関してはここで何回と取り上げているが、それはアルバム『TRACTION AVANT』(Via Veneto Jazz/1994)から始まっての歴史ではあるが、近年寺島レコードとの契約によって矢継ぎ早にアルバム・リリースがある。

 当初、寺島靖国はこの作品をリリースすることに前向きではなく、寺島レコードとしてジャズ作品のリリースを望んでいた。しかし、送られてきた音源を聴いてその思いは一転し、"アントニオ・カルロス・ジョビンの楽曲が、ジャズ・ピアノ・トリオ作品として成立していることに驚き、その出来栄えに感嘆したのだ"・・・と言うのがこのアルバムのリリースまでの経過らしい。
 確かに、イタリアのピアノ・ジャズ名手といえども、ユーロ・ジャズのまさに中軸にあって、ジャズとも言えないボサノヴァとは聴き手を裏切ってしまうだろうと心配するのは当然である。
 しかし、冒頭の曲から驚きはスタートするのだ。

(Tracklist)

1. O Que Tinha de Ser
2. Modinha
3. Samba de Uma Nota S
4. Inūtil Paisagem
5. STinha de Ser Com Voc
6. Fotografia
7. Dindi
8. Vivo Sonhando
9. Eu Sei Que Vou Te Amar
10. Retrato Em Branco e Preto
11. Por Toda a Minha Vida
12. Luiza

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   M1."O Que Tinha de Ser"から、完全に裏切りというか大歓迎というか・・優しくリリカルな奥ゆかしく繊細ながらしっかり描くピアノのガラティ・ムード満開で、どこにボサノヴァがあるのやら、メロディも初物感覚でジョビンもおどろきの世界ではないでしょうか。いっやーーいいムードだ。
 そして次に聴いていっても、ボサノヴァ感覚のラテン・ムードは完全に消え去られ、そこにあるのはガラティの優しく軽やかさから一方耽美なやや陰影のあるピアノの調べに、ベースがしっかり支え、ドラムスのシンバル音が響く。ああ見事なユーロ・ピアノ・トリオ作品だ。
   M4."Inutil Paisagem"ではガラティの前衛性もチラッとみせ、M9."Eu Sei Que Vou Te Amar"は、低音のベースの語りがピアノの軽さと対照的で面白い。
 M10." Retrato Em Branco e Preto"は、ドラムスのスティック・ワークが繊細の美、ベースの低音の響き、ピアノの流れる演奏が盛り上がる。
 M12."Luiza"は、ピアノの静かな旋律美で幕を閉じる。

 今回のトリオはベースはグイド・ツォルン(上左)でしっかりと低音でリズム、時にメロディーとガラティの世界を支えているし、ドラムスはアンドレア・ベニナティ(上右)が、これも私の好きなシンバル音の多様で堂々と渡り合って演じている。トリオ作品としての価値も高めている。
 とにかく、私がジョビンとして聴いたことがあるなと解ったのは、M3."Samba de Uma Nota S"だけだが、かってのセルジオ・メンディスにたたき込まれたメロディーが頭に浮かんだだけで、他は完全にガラティ・メロディとして聴き入ったことになった。

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 録音に関しては、やはり名手ステファノ・アメリオが担当し、なんとミックス、マスターはガラティというのには驚いた。とにかくベースがしっかり中央に陣取って、やはりピアノも中央だがやや左右に広がり、そしてドラムスは更に広く左右にシンバル音を響きかせ、トリオ・メンバーの音がしっかりと聴き取れる。彼の技はここまで広がっているようだ。見事な粒立ちの良さと繊細な美しさを描く好禄音盤。この年末に来て今年のベスト盤最有力候補の強力なアルバムの登場だ。

 

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏  95/100
□ 録音        95/100

(試聴)

"O Que Tinha de Ser"

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2022年12月23日 (金)

寺島レコード:コンピレーション・アルバム「Jazz Bar 2022」

今年の最後を飾るは、なんと22年続いてのアルバムだ

<Jazz>

  Yasukuni Terashima presents 「Jazz Bar 2022」
 TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1108   / 2022

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2138c60anzl_ac_    寺島靖国プレゼンツとしてのオムニバス(コンピレーション)・アルバム・シリーズは、目下5種が継続中だ。その最も長く根源的なアルバムが「Jazz Bar」シリーズだが、2001年にスタートして(→)、この12月に22年目を迎え第22巻がリリースされた。
 こうした彼の名を冠してのシリーズは、1巻を1年以上空けてのリリース・スタイルで、今年は私の好きな「For Jazz Audio Fans Only」(Vol.15)、そして「For Jazz Vocal Fans Only」(Vol.5)、「For Jazz Ballad Fans Only」(Vol.3)が既にリリースされていて4巻が登場したわけだ。(今年リリースしなかったのが、「For Jazz Drums Fans Only」)
Yt-1w_20221223164801   いずれにしても、既に47巻がリリースされていて、考えてみるとほぼ600曲は紹介してきていることになる。これもかなりの偉業ですね。もともとオーディオ的興味とジャズ分野ではピアノ・トリオもの、女性ヴォーカルものなどが好む私は、丁度お手頃の世界であって、特に寺島氏の好みともやや似通ったところがあって、私的には満足してきた。又彼の選曲は、その年のヒット曲ということでなく、彼自身が出会って評価に値するとしたものを選んでいるので、マイナーなものあり、更に彼のあまり形にこだわらないライナー・ノーツも楽しく、その点も私にとっては興味深いところがある。

 この最も基本的な「Jazz Bar」シリーズは、ジャズのジャンルを問わず、彼自身がその年何らかの意味で評価したものを集めている。従って意外に古いものを敢えて取り上げることもあるが、基本的には近年のリリースもので、注目点は何びとにもという普遍的なところを狙うのでなく、彼自身の世界からの選定で、しかもリリース・レーベル・会社などが許可してくれるものに限られている。この彼の意志というのが面白いところでもある。

 さて今年の最後のこの「Jazz Bar 2022」は、以下の内容であった。

(Tracklist)

01. In Memory / Tingvall Trio
02. Rendezvous / Roy Powell
03. Ojos Carinosos / Joe Farnsworth
04. O Que Sera / The Hans Ulrik, Steve Swallow, Jonas Johansen Trio
05. Aniram / Andrea Beneventano Trio
06. Arrolo de Toques / Nani Garcia Trio
07. Anastasia / Al Foster
08. Returning / Jeff Johnston Trio
09. Don't Give Up / Philippe Lemm Trio
10. Brother Can You Spare a Dime / Dylan Cramer
11. Ballada na Wschod / Jana Bezek Trio
12. My Old Flame / Domenic Landolf
13. Mi Sono Innamorato Di Te / Enrico Pieranunzi, Marc Johnson, Joey Baron

 今年の22巻は、私から見ての特徴は、既に聴いているものが少なかったところで、これも私としては嬉しいところ。初めてのものが多いほど私には収穫があるという事でして・・・。
Tingvall_trio_dance  冒頭のTingvall Trio の名を見て・・やや、これは私の結構好みのドイツのトリオ(ピアニストはスウェーデン出身)であるが、このアルバムは知らなかった。・・と、言うより彼らの事を忘れていて、このところマークしてなかった。この曲M1."In Memory"が収められているアルバムは『Dance』(Skip Records / SKP9177/2020 →)は聴いてなかったのだ。2年前のアルバムだったが、その13曲(スタート曲は"Tokyo Dance")の最後を飾る曲である。さっそくそのアルバムを聴いてみることとなったのだが、ほゞ全体的にはこの曲とはイメージが違う世界である。リズムカルな曲集だ。そしてこの曲のみ悲しみを描きアルバムを纏め上げるという不思議なアルバム。とにかくこの曲がいいですね。この悲しいメロデイーとシンバルの音の響きがピッタリ、ベースのアルコも有効、ユーロ・ジャズの極み。これだけで聴く価値あり。

 M3." Ojos Carinosos"は、持ってましたね、ドラマーのピアノ・トリオ。ピアノはケニー・バロン。ここでも紹介しました。私も評価は良かった。
 M4." O Que Sera" ちょつと面白いギターとサックスの取り合わせ。
 M8."Returning" ジャズ世界には珍しい色気のない淡々とした静かな世界を描くピアノ。
 M10."Brother Can You Spare a Dime"は、アルト・サックスの魅力と、M.12" My Old Flame "ちょっと変わったサックスで、好きな人向き。
 M11." Ballada na Wschod"は、正座して聴いた方がいいようなピアノ・トリオ。   
 M13." Mi Sono Innamorato Di Te"は、これは又古いものをここに持ってきましたね、10年前のピエラヌンツィのアルバム『Ballads』(CAM77852/2012)。再聴の為、私は手持ちのアルバムを引っ張り出すに苦労しました。これが締めくくりに来た意味はちょっと解らないが、まあ良いでしょう、お手本を示したかったのか。

 今年のこのシリーズは、知らなかったものが多く興味深かった。そんな意味で購入して良かったと思うのでお勧め盤としよう、なんと言ってもM1.が最高でしたね。

 (評価)
□ 選曲    88/100
□ 録音    88/100

       ---------------------------

参考までに、今年2022年にリリースしたその他の「Yasukuni Terashima presents シリーズ」は以下のようだった。

■ 4月『For Jazz Vocal Fans Only Vol.5』(TYR-1103)

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 女性ヴォーカルが中心のアルバム。美女狩りの範囲が広がります。しかし、今作は知っているものが多すぎて残念でした。

■ 8月『For Jazz Ballad Fans Only Vol.3』(TYR-1106)

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 今回は、寺島氏も反省したのか管ものが多くなって、私にとってはイマイチでした。
   参照: http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2022/08/post-a75acb.html

■ 10月『For Jazz Audio Fans Only Vol.15』(TYR-1107)

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 これはかなり私の期待度の高いシリーズ、もう15年経過。前作のVol.14が良かったので、今年は若干空しいところもあったが、75点としておこう。

(参考試聴)
"In Memory"

 

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2022年12月16日 (金)

ビル・フリゼール Bill Frisell「Four」

牧歌的な中に人間性を追求した感すらある
  コロナ禍での蓄積した世界からの展望

<Jazz>

Bill Frisell 「Four」
Universal Music / JPN / UCCQ-1177 / 2022

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Bill Frisell :  el-guitar   ex.M10, 12  (ac-g M11 ,  baritone-g M12)
Gregory Tardy :  cl M1, 2, 8, 9, 11 ,    ts M3, 4, 5, 12, 13 ,  b-cl M6, 7
Gerald Clayton : piano
Jonathan Blake  : ds  ex. M10

120frizpromow   私はジャズ・ギターものはあまり聴かないのであるが、どちらかというとビル・フリゼール(1951年米国メリーランド州生まれ(→))はベテランだけあって、意外に落ち着いたじっくりと説得力あるギターを聴かせてくれるということもあり、又先日「ジャズ批評」のSuzuckさんも取り上げていたので、ここにニュー・アルバムを聴いてみた次第である。
 私はブルースは好きなので、かって彼のアルバム『Blues Dream』(2001)を聴いて、好感度があったし、近年アルバム『Music IS』(2018)も静かな説得力ある世界で、前作アルバム『Valentine』(2020)は、Tomas Morgan(Bass) 、Rudy Royston(Drums)とのトリオで現代的センスと音が溢れていて、しかも女性ヴォーカルが入ったり、聴きやすい演奏であって、馴染める世界であった。

 さて、今作はアルバム・タイトルが『Four』と変わったもので、何のことはない4人演奏(カルテット)ものという事なんですね。上に見るように、彼のギターと、ピアノ(Gerald Clayton(1984年生まれ、ジョン・クレイトンの息子)=下中央)、ドラムス(Jonathan Blake(1976年生まれ)=下右 ) そしてGregory Tardy(油ののった1966年生まれ=下左)のクラリネット、テナー・サックス、バリトン・クラリネットが加わるという私自身はあまり聞かない構成。どんな音の世界が展開するのかと、不安を抱きながら聴いた次第。

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(Tracklist)

1. Dear Old Friend (for Alan Woodard)
2. Claude Utley
3. The Pioneers
4. Holiday
5. Waltz for Hal Willner
6. Lookout for Hope
7. Monroe
8. Wise Woman
9. Blues from Before
10. Always
11. Good Dog, Happy Man
12. Invisible
13. Dog on a Roof

 曲はフリゼールのオリジナル13曲を収録。このカルテット構想はかなり前からあったようで、そうしている中での新型コロナ・パンデミック中に彼は友人を亡くすという経験を何度もしたようだ。そんなところも録音時までにはじっくりと曲に練り上げたという。
 M1."Dear Old Friend"は、亡くなった幼馴染に捧げた曲とか。冒頭からギターの音は聴こえず、クラリネットが愛しさを感ずる世界を開く。更に無くなった友人であり画家に捧げたM2." Claude Utley"、ピアノを全面に出しての演奏。そして2020年に亡くなった名プロデューサー、ハル・ウィルナーに捧げたM5."Waltz for Hal Willner"はピアノとサックスのユニゾンが美しい。これらの3曲は、どこか真摯な印象があるのはそのためと言うことが解った。

 とにかく驚いたことにもジャズ・ギタリストのアルバムといった印象が少なく、彼は結構サポート役を演じたり、カルテット4者の対等な立場でといった雰囲気が全体にある。集まってのその時の感覚で演奏を展開したようで、計算ずくでない4者の化学反応に期待しての演奏となったという。
   そしてアルバム全体の印象は、全く予想に反して詩情的であり、牧歌的であり、心を癒やすところがあって、なんか春の草原に自然と戯れ人間性を膨らませるという印象すらある。
 M10."Always"は、ピアノ・ソロの静かに美しいタッチが聴けるし、M4."Holiday"は、ドラムスもはつらつとしていて4者がここに合体して演ずる楽しさに満ち満ちている。M12"Invisible"は、静かなテナー・サックスの世界が全面に。最後のM13."Dog on a Roof"は、思索的に終わる。

 とにかく、米国ジャズの華々しさより、それぞれが真摯に人生に向き合ったような詩情を感ずるアルバムであった。

(評価)
□ 曲・演奏  87/100
□ 録音    87/100

(視聴)

 

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2022年12月12日 (月)

ロジャー・ウォータース Roger Waters 「The Lockdown Sessions」

コロナ禍にてミュージシャンがリモート集合しての演奏で録音
  (新アルバム・・ストリーミング・サービス・リリース)

<Progressive Rock>

Roger Waters 「The Lockdown Sessions」
Legacy Recordings / 2022

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ROGER WATERS : Vocals,  Guitar,  Piano
"US+THEM Tour"and"This is Not A Drill Tour"Members
Dave Kilminster (g)、Jon Carin (key, g)、Jonathan Wilson (g, vo)、Joey Waronker (d)、Gus Seyffert (b, g)、Robert Walter (org)、Ian Richie (ts)、Bo Koster (Ham)、Lucius(Jess Wolfe, Holly Laessic - vo)、Shanay Johnson (vo)、Amanda Belair (vo)

2022 The copyright in this sound recording is owned by Roger Waters Music Overseas Limited, under exclusive licence to Legacy Recordings, a division of Sony Music Entertainment

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 ピンク・フロイドの"The Creative Genius(創造的才能)"を自負するロジャー・ウォーターズが、ここにストリーミング・サービスにて新アルバムをリリースした。
 このコロナ禍で予定した「This is Not A Drill」ツアーが延期を繰り返していて、ようやく今年北米で実現したところだが(反響が大きく2023年欧州ツアーが追加された)、このロックダウン中2020年から2021年に、彼がツアー・メンバーと連絡を取りつつ、自宅からリモートでつないで新アレンジにて演奏し歌いあった曲がYouTubeで公開していたのであるが、それをここにアルバムとしてリリースした。そして先日紹介した今回の「This is Not A Drill」ツアーのオープニングで公開した曲"Comfartably Numb 2022"のニューバージョンを追加している。
 これは身近にはe-onkyoでは、Hi-Res 音質(flac 48kHz/24bit)でダウンロード出来る為、手に入れたものだ。

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(Tracklist)

1 Mother
2 Two Suns In the Sunset
3 Vera
4 The Gunner's Dream
5 The Bravery of Being Out of Range
6 Comfortably Numb 2022

 ロジャー・ウォーターズはこのようにコメントしている。
 " 僕たちの『US+THEMツアー』は3年に渡って終わった…どのギグでも、ショウの本編を"コンフォタブリー・ナム"で締めくくった後でアンコールをやった。アンコール曲にはいつも"マザー"だ。ツアーの終盤に僕はこう思うようになった、“アンコールを全曲集めたら興味深いアルバムができそうだな”.....そしたらロックダウンになってしまった!、“アンコール”プロジェクトはもう諦めるしかないかと思った時もあったけど…とにかく、この作品集ができた。この最後には"コンフォタブリー・ナム2022"を付け加えた。この愛の輪を締めくくる感嘆符の適切な置き所だと思ってね"

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 もうじき80歳になろうとする彼が精力的な活動をしている。ロックダウン中もツアー・メンバーと連絡を取り合い、リモートによって集まって、それぞれが自分の居場所にて曲を演奏していたのだが、YouTubeでの公開が意外に好評で、ウォーターズはアコーステック・ギターを中心に、時にはピアノも演じてしっとりと歌った曲群だ。

 M1.,  M3., M6.はアルバム「THE WALL」(1979)から、アルバム「THE FINAL CUT」(1983)からはM2., M4.、彼のソロ・アルバム「AMUSED TO DEATH」(1992)から M5.と、相変わらず戦争、社会不安に焦点があり反核を訴える曲が多い。(ウクライナ戦争に関しては、ウクライナ・ゼレンスキー大統領夫人及びプーチン大統領本人に公開書簡を送って話題になった)

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 今回のツアーにおける演奏曲も締めくくりに、問題曲M2." Two Suns In the Sunset"が取り上げられており、彼が一貫して訴えてきた反戦、そして反核の思想はぶれていない。ここでは、夕陽に映える2つの太陽、"風防ガラスが溶けるとともに、僕の涙も蒸発してゆく、後には炭しか残らない・・・灰とダイヤモンド、敵と友人 結局僕らはみな同じなのだ"と、歌い上げ40年間訴え続けている。
 それと関係して余談であるが、私は今回この曲を聴くに付け、彼の大々的ツアー・ライブでは披露していないピンク・フロイドとは別物であるが、映画サウンド・トラック・アルバム「WHEN THE WIND BLOOWS 風が吹くとき」(1986)にある彼の作曲し当時の彼のTHE BLEEDING HEART BANDと演奏した"THE RUSSIAN MISSILE"から"FOLDED FLAGS"までの10曲の中から、歌詞にも意味のある"TOWERS OF FAITH"そして"FOLDED FLAGS"などを、どこかで演奏してほしいと思っているのだが・・・。

 ここでは、M1."Mother"は意味の違う曲だが、これは人気曲で単純にライブのアンコールで彼がソロでよく歌う曲であって、今回も最も早期に披露した。

 いずれにしても、こうして老体にむち打って歌唱の力は落ちたとは言え、訴えを中心に演奏活動も頑張っている彼の姿を見るにつけ、このアルバムにも喝采をしたいと思うのである。

(評価)
□ 曲・演奏  88/100
□ 録音    90/100

(視聴)
"Two suns in the sunset"

*

 

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2022年12月 8日 (木)

オリアンティ Orianthi 「Rock Candy」

懐かしのハード・ロック・スタイル満載

<Rock>

Orianthi 「Rock Candy」
Frontiers Records / Import / FRCD1261 / 2022

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・Orianthi - Vocals, Guitars
・Jacob Bunton - Bass, Guitar, Keyboards, Piano, Violin, Backing Vocals
・Kyle Cunningham - Drums

Produced, Engineered, & Mixed by Jacob Bunton

 今回はちょっとここでは異色アルバムの登場。こうゆうアルバムをたっぷり聴けるのもサブスク・ストリーミング時代のありがたさですね。(笑)
  オリアンティ(Orianthi Panagsris 1985年1月22日オーストラリアに生まれる)はマイケル・ジャクソンに天才的女性ギタリストとして見いだされ、あっという間にスター・ダムに躍り出たわけだが、2020年のスタジオ・アルバム『O』は7年ぶりと久々にその名を見たところ。そして今回更にニュー・アルバムの登場となった。
 彼女はオーストラリアが誇る人気ギタリスト、わずか15歳でスティーヴ・ヴァイのサポート・アクトを務め、まさに天才の名を欲しいままにし、その後マイケル・ジャクソンのバックバンドに抜擢され、しかしマイケルが急逝してしまいコンサートでの共演実現しなかったが、その死後に公開された映画『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』によって、我々の知るところとなった。過去に18歳の時のサンタナと共演した映像などがあった。
 2009年の彼女のソロ・アルバム『Belive』は、日本でも10万枚を売り上げるヒットを記録。今年7月には私は見ていないのだが『ライヴ・フロム・ハリウッド』と題されたライヴ映像作品もリリースしたばかりという。

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(Tracklist)

1.Illuminate, Pt. 1
2.Light It Up
3.Fire Together
4.Where Did Your Heart Go
5.Red Light
6.Void7.
Burning
8.Living Is Like Dying Without You
9.Witches, the Devil
10.Getting to Me
11.Illuminate, Pt. 2

 冒頭から、"さー行くぞ"と仰々しくシンセのバックでオリアンティのギターでのインスト曲でスタート。
 M2.".Light It Up”で、うーーん懐かしのハード・ロック・サウンドでかっこよいロックが展開する。
 彼女のヴォーカルもなかなか芸達者になって聴き応え十分。
 M4."Where Did Your Heart Go" バラード・ロックでスタートして途中で懐かしのハード・ロック・スタイルに、彼女のヴォーカルも絶頂に。
 M5."Red Light" ややヘビーなリフが響くが、彼女のヴォーカルは極めてオーソドックス。M6."Void" なかなか味な展開で聞きどころ。
 M7."Burning" 典型的懐かしハード・ロック。
   M8.".Living Is Like Dying Without You" アコースティック・ギターで説得力の色気混じりのヴォーカルで聴かせるロック。 
 M9."Witches, the Devil" この曲もヘビー・サウンドが。

807de838c80df1dc286w  全曲ハード・ロックの基調で、自らのオリジナル曲により作り上げていて、かってのハード・ロック・ファンにも喜んで受け入れられそうなアルバム仕上げ。
 何といっても彼女には、基本的には、かっこよさが期待度の高いところで、そんな意味でも"Light It Up"はその部類で万歳だ。一方女流ギタリストとしての色気も必要であるが、それもバラード調も交えての曲がしっかり組み込まれて見事に演じている。
 まあどっちかというと、古き良き時代の懐かしのハード・ロック・スタイルで、むしろおじさんたちに受けるのではないかと思うところで、今の若いロック世代にはどう映るのだろうかと、ふと余計な事を考えてしまう。
 スタートと最後の締めくくりの曲"Illuminate Part1, Part2"はインスト・ギター演奏で全曲トータルにまとめ上げ、一曲一曲のストリーミング時代とは言え、トータル・アルバムの様相も作った完成アルバム。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  85/100
□ 録音      85/100

(試聴)

*

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2022年12月 3日 (土)

エンリコ・ピエラヌンツィ Enrico Pieranunzi & Jasper Somsen 「Voyage in Time」


クラシックをイメージした如何にもヨーロピアン・ジャズ世界

<Jazz>

Enrico Pieranunzi& Jasper Somsen 「Voyage in Time」
Challenge Records / IMPORT / CR73533 / 2022

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Enrico Pieranunzi - Piano
Jasper Somsen - Double bass

  近年のエンリコ・ピエラヌンツィ(1949年イタリアのローマ生まれ(下左))は、かってのピアノ・トリオやソロによる美旋律で私を喜ばせてくれた世界とちょっと異なったアプローチの為、私は若干敬遠気味であった。そしてこのアルバムもすぐに跳び付くこともなく経過していたが、最近CD以上の高音質のサブスク・ストリーミング・サービスが身近になり、私のオーディオ装置のネット環境も構築できたので、ほとんどの音源が聴ける環境も整ったため、このアルバムもしっかり聴くこととなった。

 70歳を超えても、むしろ精力的に挑戦的演奏アルバムをリリースを続けるピエラヌンツィだが、今回はオランダの「Challenge Records」から新たにリリースされたのは、2020年にリリースされここでも取り上げた『Commin View』(OCR73459)他、過去にも多数の共演を果たしてきたオランダのベーシスト、イェスパー・サムセン(1973年オランダのBennekom生まれ(下右))とのピアノ&ダブルベースだけのデュオ・アルバムで、なんとバロック音楽にインスパイアされた組曲というスタイルだ。

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(Tracklist)

1. Pavane (03:51)
2. Menuet (04:31)
3. Ballade (04:47)
4. Sicilienne (03:53)
5. Sarabande (04:50) 
6. Valse (03:51)
7. Air (04:48)     
8. Courante (03:38)
9. Finale (05:06)

  具体的には、このアルバムは、イェスパー・サムセン主導とみてよいものだ。彼が9曲作曲し、レコーディングの際にピエラヌンツィと共に一緒にアレンジした9つの楽章からなる組曲で、いやはや上のリストのようにパヴァーヌ、メヌエット、クーラント、サラバンド、シシリエンヌなど、クラシックのバロック音楽の舞曲がそれぞれのタイトルに付けられており、二人に共通するクラシック音楽への敬意と尊重が反映された美しい曲が展開する。クラシックの形式をみせても即興的アプローチが組み合わされ、どうも学問的音楽理論的においては私は弱いところだが、リズムやハーモニーの構成、アドリブ主体の演奏はジャズ世界に則ったスタイルで、現在の“ヨーロピアン・ジャズ”的な音楽となっていると評されてる。

 ドラム・レスの二人のデュオ・スタイルは、いかにもピアノの旋律と濃密なベースが全面的にフィーチャーされており、そこが二人のクラシックをイメージした目的であったようだ。確かにこの気品を感じさせる響きは、詩情性と共に懐かしさのある世界でヨーロッパの歴史をベースに典雅であって泥臭さがない。ジャズでの活躍は既に築かれているピエラヌンティであるが、クラシック音楽への深い敬愛を忘れない気品ある作品だ。これもクラシックをベースにしているサムセンとの対話によって築き上げられたのであろう。

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 M1."Pavane"は、両者のゆったりとした気品あるユニゾンでスタート。パヴァーヌは、16世紀のヨーロッパに普及した行列舞踏とか。 宮廷作法に息のあった品のある2人の競演。
 M2."Menuet"は、フランス発祥の宮廷舞曲で躍動感ある。
 M3."Ballade"はロマンティック。M4."Sicilienne"はちょっと私は消化不良 。
 M5."Sarabande"は三拍子の舞曲、ここではなかなか説得力のある心に訴える曲。ベースの響きも素晴らしい。私好み。
 M6."Valse"ワルツですね、美しく軽快。
 M7."Air"、アリア、その通りの叙情性。
 M8."Courante"クーラント、華麗な品格。
 M9."Finale" サムセンが本領発揮のアルコ奏法をも取り入れてのベース音が魅力的。ピアノもしっとりと纏める。
 
 ピエラヌンツィが曲の変化に対して百戦錬磨の技を流麗タッチな色合いで披露、そしてサムセンのクラシック色が生き生きとして本領発揮、そのパターンはピアノを盛り上げると同時に自己の世界もしっかり描く。聴いていてぐっとのめり込むというよりは、落ち着いた世界に据えてくれる。録音・ミックスも両者のバランスがとれていて良好。私にとっては最良のバック・グラウンド・ミュージックだ。

(評価)
□ 曲・演奏 :   88/100
□ 録音   :   88/100

(試聴)

 

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