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2022年12月27日 (火)

アレッサンドロ・ガラティ Alessandro Galati Trio「Portrait in Black and White」

カルロス・ジョビンをガラティ世界にて蘇えらせる

<Jazz>

Alessandro Galati Trio「Portrait in Black and White」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1109 / 2022

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Alessandro Galati (piano)
Guido Zorn (bass)
Andrea Beninati (drums)

Artesuono Recording Studios (Italy)
Recorded by Stefano Amerio

Ag5xw  アレッサンドロ・ガラティの新作は、なんとボサノヴァのアントニオ・カルロス・ジョビン集。ちょっとピンとこないのだが、果たしてガラティの手によるとどうなるのか、まさに興味津々のアルバムの登場。
 ガラティは、私の最も愛するイタリアのジャズ・ピアニスト、彼に関してはここで何回と取り上げているが、それはアルバム『TRACTION AVANT』(Via Veneto Jazz/1994)から始まっての歴史ではあるが、近年寺島レコードとの契約によって矢継ぎ早にアルバム・リリースがある。

 当初、寺島靖国はこの作品をリリースすることに前向きではなく、寺島レコードとしてジャズ作品のリリースを望んでいた。しかし、送られてきた音源を聴いてその思いは一転し、"アントニオ・カルロス・ジョビンの楽曲が、ジャズ・ピアノ・トリオ作品として成立していることに驚き、その出来栄えに感嘆したのだ"・・・と言うのがこのアルバムのリリースまでの経過らしい。
 確かに、イタリアのピアノ・ジャズ名手といえども、ユーロ・ジャズのまさに中軸にあって、ジャズとも言えないボサノヴァとは聴き手を裏切ってしまうだろうと心配するのは当然である。
 しかし、冒頭の曲から驚きはスタートするのだ。

(Tracklist)

1. O Que Tinha de Ser
2. Modinha
3. Samba de Uma Nota S
4. Inūtil Paisagem
5. STinha de Ser Com Voc
6. Fotografia
7. Dindi
8. Vivo Sonhando
9. Eu Sei Que Vou Te Amar
10. Retrato Em Branco e Preto
11. Por Toda a Minha Vida
12. Luiza

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   M1."O Que Tinha de Ser"から、完全に裏切りというか大歓迎というか・・優しくリリカルな奥ゆかしく繊細ながらしっかり描くピアノのガラティ・ムード満開で、どこにボサノヴァがあるのやら、メロディも初物感覚でジョビンもおどろきの世界ではないでしょうか。いっやーーいいムードだ。
 そして次に聴いていっても、ボサノヴァ感覚のラテン・ムードは完全に消え去られ、そこにあるのはガラティの優しく軽やかさから一方耽美なやや陰影のあるピアノの調べに、ベースがしっかり支え、ドラムスのシンバル音が響く。ああ見事なユーロ・ピアノ・トリオ作品だ。
   M4."Inutil Paisagem"ではガラティの前衛性もチラッとみせ、M9."Eu Sei Que Vou Te Amar"は、低音のベースの語りがピアノの軽さと対照的で面白い。
 M10." Retrato Em Branco e Preto"は、ドラムスのスティック・ワークが繊細の美、ベースの低音の響き、ピアノの流れる演奏が盛り上がる。
 M12."Luiza"は、ピアノの静かな旋律美で幕を閉じる。

 今回のトリオはベースはグイド・ツォルン(上左)でしっかりと低音でリズム、時にメロディーとガラティの世界を支えているし、ドラムスはアンドレア・ベニナティ(上右)が、これも私の好きなシンバル音の多様で堂々と渡り合って演じている。トリオ作品としての価値も高めている。
 とにかく、私がジョビンとして聴いたことがあるなと解ったのは、M3."Samba de Uma Nota S"だけだが、かってのセルジオ・メンディスにたたき込まれたメロディーが頭に浮かんだだけで、他は完全にガラティ・メロディとして聴き入ったことになった。

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 録音に関しては、やはり名手ステファノ・アメリオが担当し、なんとミックス、マスターはガラティというのには驚いた。とにかくベースがしっかり中央に陣取って、やはりピアノも中央だがやや左右に広がり、そしてドラムスは更に広く左右にシンバル音を響きかせ、トリオ・メンバーの音がしっかりと聴き取れる。彼の技はここまで広がっているようだ。見事な粒立ちの良さと繊細な美しさを描く好禄音盤。この年末に来て今年のベスト盤最有力候補の強力なアルバムの登場だ。

 

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏  95/100
□ 録音        95/100

(試聴)

"O Que Tinha de Ser"

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コメント

簡素なモチーフ、抑制され研ぎ澄まされた音。
無駄に跳ねず、ごまかしが無い演奏。
この演奏の土台にある音楽が素晴らしいのでしょうが、
わたしには、今年一番のピアノ演奏でした。

ベースの音程の怪しさは許すとしても、音質や伸びには気になることも。
これって、エレキベースだと許されないものなのですか、一般論として。

投稿: iwamoto | 2022年12月27日 (火) 17時01分

iwamoto様
おはようございます、コメント有り難うございます
 やっぱり御評価が良いようですね
 私は、今回も素晴らしさに痺れっぱなしです。^^
ジャズ・ピアノのすばらしさを地でいってますね。
 ベース、そうですか・・・私は結構納得していましたが、アコーステックの良さを追求しているんでしょうね。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年12月28日 (水) 08時24分

今年最後に聴く「灰とダイアモンドと・・・」はガラティのジョビン。Garota de Ipanema、Insensatezをそれぞれ単発で、ジャズとして演奏しているのは知っていましたが、アルバムとして出ましたか・・。早速聴いてみなくては ・・・。
よいお年を。

投稿: 爵士 | 2022年12月31日 (土) 22時48分

爵士様
明けましておめでとうございます
昨年最後のコメント有り難うございます
 ジャズってやっぱりガラティのこの世界だと・・・私は究極の昨年の推薦盤だと思いました。
 Terashima Recordsがガラティを掴んだのはまさに正解ですね。
 欧州ではCDは売れない時代となりましたが・・・私はまだまだ手に取って聴くということを大切にしたいと今年も思っています。勿論ビニール盤も。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2023年1月 1日 (日) 08時53分

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